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映画「緯度0大作戦」〜海底2万マイルの国

2022-04-21 | 映画


「緯度0大作戦』は、1969年に本多猪四郎が監督し、
円谷英二が特撮を担当した特撮SF映画です。

アメリカ人プロデューサー、ドン・シャープとウォーレン・ルイスの二人が、
1960年代にラジオドラマとして企画したSFドラマが原型で、
なぜそれが日米合作映画になったかというと、ラジオの企画がポシャり、
三大ネットワークの一つABCで映画化することも失敗したため、
アメリカがダメなら日本とばかり東宝映画に売り込んできたのだそうです。

確かにこの頃、日本人は戦後の進駐軍の刷り込み教育が功を奏し、
アメリカ文化に憧れを持ち、また劣等感から外人偏重の傾向がありましたが、
なんかその足元を見られているようで不愉快なのはわたしだけでしょうか。

合作映画にすれば自分達の制作会社だけでは苦しかった資金面も折半、
あとは売上でなんとかなるという皮算用もあったようです。

この日米合作にあたって、このブログで何度も名前が出てきたところの、
戦前ハリウッドで活躍したヘンリー大川こと大川平八郎が、
裏方として両国の交渉と通訳を務めています。

大川はハリウッドの文化慣習についても知悉していたため、
戦後は国際的なフィクサーとして映画界に影響を持ち続けました。


そして、撮影は日本で行うこと、費用は日米で折半すること、
米人俳優のキャスティングと出演料はシャープのプロダクションが負担、
ということで日米間の合意が取り決められられました。




さて、それではとりあえず始めましょう。

ここは太平洋、ギルバート諸島沖。
日本の誇る世界最大級の海洋観測船「富士」が海洋調査中です。

ちなみにこの模型は全長13mという超大型の鉄製で、
なんとエンジンにはクライスラー製を搭載して稼働させています。



「富士」は「潜水球」と呼ばれる調査用小型潜水艇を搭載しています。
この模型は13mの「富士」模型に合わせて作られたものです。

現在調査団ではクロムウェル海流の調査中という設定。



潜球に搭乗して調査を行なっているのは、海洋学者の田代健博士(宝田明)
同じくフランス人海洋学者ジュール・マッソン博士(岡田真澄)
ジャーナリストのペリー・ロートン(リチャード・ジャッケル)という、
ちょっとお茶目な信号トリオ。

日本側キャスティングの決め手は一にも二にも「英語が喋れること」でした。
なぜなら撮影では全て英語で収録し、後から日本語を吹き替えたからです。

そこで、先日紹介した「世界大戦争」でも流暢な発音を披露した宝田、
日本のインターナショナルスクール(セントジョセフ)出身の岡田真澄、
陸士&東大卒の平田昭彦、日系カナダ人俳優の中村哲などが選ばれました。

ちなみに宝田明は中国語も通訳なしで喋れるほど堪能だったそうです。

ところで、たった今知ったのですが、これを制作している4月1日、
宝田明が製作総指揮&主演を行った三宅伸行監督作品、
「世の中にたえて桜のなかりせば」が公開されました。

岩本蓮加&宝田明 W主演!映画『世の中にたえて桜のなかりせば』予告

宝田明さん、3月14日に87歳で亡くなっておられたんですね。
偶然とはいえ、当ブログではほんのたまにこれに類することが起こります。

合掌。



3人の調査活動中、海底火山が噴火し、潜水球は浮上できなくなりました。
「富士号」からも係維が切れてしまいます。



意識を失った3人を潜水球の窓から覗く潜水服の二人あり。
この目元だけでこれが平田昭彦だとわかってしまうわたしである。



田代とロートンが目覚めると、そこはベッドの上。
身体にかすり傷ひとつ負っていないのを二人が訝しんでいると、



必要以上に身体を露出した金髪のお姉ちゃんがやってきました。

身体を覆うわずかな布は金色で、どう見てもショーに出るダンサーですが、
こう見えて彼女アン・バートンは医者です。


重症のマッソン博士の診察は、聴診器を使わず半裸で枕元に座り、
その手を握ってにっこりするだけ。
一体どんな最先端医療による治療なのでしょうか。

マッソン博士役の岡田真澄はフランス人という設定ですが、
彼はフランス生まれで母親がデンマーク系ですから不自然ではありません。

マッソンは夢現の境を朦朧としながら
しっかり枕元で微笑む半裸のお姉さんに一目惚れするのでした。


着替えを用意された二人が潜水艦というには広すぎる内部を探検していると、
60インチくらいのモニターで海底爆発の映像を眺めている男性がいました。



男性は自らを、海底火山の観測をしていた潜水艦アルファ号艦長の
クレイグ・マッケンジー(ジョセフ・コットン)と名乗ります。

制作にあたって東宝がアメリカ側に依頼したのは、
主役は日本人が誰でも知っている俳優であることでした。

そこでオーソン・ウェルズの名作「第3の男」に出演し、
知名度も高かった彼に白羽の矢が立てられ、
主役の敵役には「80日間世界一周」などで知られていた俳優、
シーザー・ロメロもキャスティングされました。

ここまでは良かったのですが、彼らが来日してから事件が起こります。
撮影に入った途端、シャープの制作会社が倒産してしまい、
彼らの受け取った小切手が不渡りになっていたことがわかったのです。

元々、なんだって日本くんだりで撮影を行うのか、
と彼ら俳優陣はかなり不思議に思いながら来日したようですが、つまり
シャープは日本と組むしかないほど経済的に逼迫していたのでした。
それが証拠に、撮影も始まらないのに会社を倒産させてしまったのです。

このような事態になると、通常ハリウッド俳優は撮影に入るのを拒否します。
本人が良くても組合、エージェント、マネージャーが許しませんからね。

東宝はギャラをこちらで持つから、と彼を必死でコットンを引き留めましたが、
撮影終了半年後まで待ってくれというのが精一杯。

当時の円(1ドル360円)では大手映画会社が一俳優のギャラすら
すぐに用意できなかったということになりますが、
実際予算のほとんどが俳優へのギャラで消え、その制作費はあの戦争大作
「日本海大作戦」のそれをはるかに超えるほどでした。

前払いのギャラをあてにして、女優の妻も出演させるため同伴し、
日本の滞在費を自費で賄っていたコットンは、撮影前にして
持参したトラベラーズチェックも底を突きかけていました。

その時、ちょうど来日したシーザー・ロメロが、コットンに言ったのです。

「向こうは日本的な信念と価値観でこちらを判断する。
僕たちは残って全てのアメリカ人が卑怯でないことを見せてやろう」

それで彼は帰国を中止して撮影を行うことを決めたのでした。

映画製作直前、確信犯的or故意犯的に会社を倒産させたシャープに対し、
東宝側は「日本的価値観」からカンカンに怒っていたと思われますが、
ハリウッド&アメリカ的ビジネスの常識からいうと、
俳優がたとえ俺らには関係ないと知らん顔して帰ったとしても、
同義的にはともかく、非難には当たらないとされます。

しかしロメロは、この件でアメリカ人俳優、ひいてはアメリカ人が、
日本からいい加減な連中と見られることを潔しとしなかったのです。
(参考;映画研究家岸川靖氏のライナーノーツ)



さて、映画に戻ります。

二人は自分たちのいる潜水艦の様子がどうもおかしいのに気づきました。
アメリカの原潜でも、どこの国のものでもないどころか、
壁に張られた銅版には、「進水1805年」となっているのです。



ロートンが艦長にそんな馬鹿なと食い下がっているところに、
バートン医師が、マッソン博士の容体が一刻を争う状態だと報告しに来ました。

すぐさま艦長はは帰港命令を下します。

アン・バートン役のリンダ・ヘインズは、この映画かデビュー作でした。
9本の映画出演後、引退して、こんな本に書かれています。

ブロンドシャドウ:女優リンダ・ヘインズのキャリアとミステリアスな失踪

「映画監督のクエンティン・タランティーノと著者ら筋金入りのファンが、
何年もかけて彼女の行方を探し続けた。
タランティーノは私費を投じて執拗な追跡を続け、
ついに彼女の居場所を突き止めたが、フロリダの自宅には
彼らのうち一人しか入れてもらえなかった。

ミステリーであり、伝記であり、有名でない才能の総合評価である
『ブロンド・シャドウ』は、リンダ・ヘインズという
謎の真相に迫ろうとするものである。」



アルファ号は艦長の命によって「緯度ゼロに帰航」することになりました。
緯度0とは、赤道と日付変更線の交差する点であり、そこに陸地はありません。



そのときアルファ号の動きを虎視眈々と見張っている怪しい二人がいました。

悪の組織ブラッドロックのボスであるマリク(シーザー・ロメロ)と、
彼の愛人、ルクレチア(コットンの妻、パトリシア・メディナ)です。

彼女は、コットンとまとめて出演をオファーされ、日本に同行していました。



マリクは部下の黒い蛾(ブラック・モスでいいのに)が艦長を務める
「黒鮫号」(ブラックシャークでいいのに)に、
アルファ号の待ち伏せと撃沈命令を下しました。

黒い蛾さんを演じるのは元タカラジェンヌの黒木ひかるという女優です。
この名前は聞いたことがありませんでしたが、
この人の夫の曾我廼家明蝶という俳優の名前には見覚えがあるような。

マリクの愛人ルクレツィアは、露骨に黒い蛾に敵意を見せます。
マリクは二人の女性を張り合わせ、うまく繰って利用しているというところか。


黒鮫号の襲撃は今日に始まったことではないようです。



魚雷に続き「追跡ミサイル」を撃ってきます。
ホーミング誘導によるもののことでしょう。(適当)

巧みな操艦とミサイルをヒットする仕組みによって、
次々と攻撃をかわしていくアルファ号のマッケンジー艦長。

アルファ号の操縦は、タコ坊主のような乗員と艦長二人だけで足りるようです。
きっとAI搭載に違いありません。



投影によるダミー合成法、電子防御網と、会うたびに
いろんな装備が増えていくアルファ号にマリク、興奮して大喜び。
相手が強いと俄然やる気が出てくるタイプのようです。

しかし、またしても失敗した黒い蛾には怒り心頭の模様。
お仕置きくるか?



アルファ号が逃げ込んだのは電磁シールドで守られた緯度0基地。
海底2万メートルにある地上そっくりの世界です。

地上の人間たちはあずかり知らぬこの海底世界では
1世紀前からマリクの支配するブラッドロックと緯度0基地か
善と悪(マッケンジー曰く)の抗争を続けていました。

マッケンジーは204歳、マリクは一つ下で203歳。
1世紀以上前の元同級生がそれぞれの道を選んだ結果敵味方になったのです。



緯度ゼロ基地の中央にフーバータワーに似た塔があります。
二人はアンダースタンフォード大学出身に違いありません。(誰うま)


アルファ号のポートは、艦体をサポートするアームが出る先進仕様です。


岸壁に待っていた電動式救急車に、まずマッソン博士が乗せられました。

今気づいたのですが、マッソン博士のファーストネーム、Julesって、
「海底2万マイル」のジュール・ベルヌから取ってますね。


ハープシコードのバロック風音楽をBGMに、ここからは
緯度0基地の世界が映し出されていきます。



模型みたい、と思ったらこれは模型で作った緯度ゼロの全景だそうです。
ここには支配者もなければ国家も存在しません。

19世紀から存在し、老いも死もなく、欲望や政治的分裂など
表世界の常識とは全く無縁でありながら、
人類の技術的・文化的進歩を海の底から実は密かに援助しています。

人口太陽は朝6時に昇り、夜8時に沈むようセットされていて、
全ての科学的な発明は、地上で死んだとされる学者が
こっそり亡命してきて、ここで永遠の生命を得て行っているのです。



自然にあふれた(ように見える)緯度0の海底の世界。



金色の水着でうろつけるくらいなのできっと気温調節も完璧なのでしょう。



スパの外では水着の女性がくるくるとトランポリンで飛んでいます。
金色の水着は海水から採取する豊富な金からできています。


「マッソン博士はどこにいますか」

「ここだよ、回復病棟だ」


この世界の病院は、目覚めると自分のレントゲン写真等身大が横にあり、
医者に隅から隅まで体の細部を見られるというとても恥ずかしいものです。



緯度ゼロ病院の院長、姿博士はおなじみ平田昭彦。
黒縁七三分けでまるでマッサージ師のような衣装を着せられ、
歴代の出演映画中間違いなく最もカッコ悪い役です。

ここの最新の医療は重症のマッソンも一日で回復させました。



緯度ゼロ基地の世界は来たばかりの二人には不思議なことばかりです。

植木鉢の敷石に使われているのは本物のダイヤモンドと聞いたロートンが
目の色を変え、持って帰っていいかマッケンジーに尋ねると、
彼はニヤニヤして、どうぞと言いながら

「ここでは研磨にしか使わないんだが」



マリクがまたしても悪巧みを始めました。

彼が今考えているのは、マッケンジーと同盟を結んでいる日本人物理学者、
岡田博士を誘拐し、岡田の研究である放射能免疫の技術を盗むついでに
彼らを囮にしてアルファ号を誘き寄せるという作戦です。



岡田博士役には、最初に配役されていた佐々木孝丸が
(『戦艦大和』の有賀艦長、『日本敗れず』のNHK理事など)
病気で降板したため、日系カナダ人で英語が喋れる中村が配役されました。

中山麻里は、中山エミリの叔母さんにあたり、
祖父がイギリス人ということでもちろん英語が堪能です。



マッケンジーは彼らに惜しみなくここの技術を見せびらかします。
共産圏から亡命したとされる学者など、世界の最高頭脳が
ここで開発を行っていますか、岡田博士もここに呼ぶべき資格を備えた学者です。


「岡田博士はどんな発明をしたんですか」

「放射能に対して人間に免疫をつける血清の開発だ」

ちなみに海底で行った研究をどうやって地上に生かすかというと、
これが笑ってしまうんですが、地上に送り込んだスパイ?が、
世界の実験室の資料にこっそりここの研究結果を忍ばせたりするんですって。



さりげなくファイルを取り替えて挟んでます。
ちゃんと気づいてもらえるといいですね。


その岡田博士親子が乗った船を、マリクの手下黒い蛾の黒鮫号が襲い、
彼らを拉致してしまいました。


マリクは血清の方程式を渡すように岡田博士に迫りますが、



もちろん岡田博士は跳ね除け、二人は監禁される身に。



ルクレチアがいなくなると、早速黒い蛾がマリクに縋って、
二人を連れてきた「ご褒美」が欲しいのーとねだります。

「何が欲しいんだ」

「二人っきりになりたいのお」

なんだこの女。ただの純愛か。



ところがマリクは彼女を鳥籠のような檻に閉じ込めてしまいます。



そして別室の趣味の悪い虎皮を敷いた椅子にふんぞりかえり、
スイッチ一つで室内の装飾棚をするすると開くと、そこには・・



マリク博士が作り替えたという得体の知れない生物が・・・。



「お父さんに血清を渡すようにいうんだ。
君もあんなふうになりたいかね」

「いやああああああ」

そりゃ特に若い女性ならこんなキモいの嫌だよね。
全然可愛くないんですもの。

ってそういう問題じゃないか。

続く!




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2 Comments

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1ドル=360円 (Unknown)
2022-04-22 06:47:26
待ってました!「緯度0大作戦」これ面白いですよね。「海底軍艦」に気合を入れた感じです。

>確かにこの頃、日本人は戦後の進駐軍の刷り込み教育が功を奏し、アメリカ文化に憧れを持ち、また劣等感から外人偏重の傾向がありましたが、なんかその足元を見られているようで不愉快なのはわたしだけでしょうか。

これは、本文にも出て来ますが、やっぱり「1ドル=360円」の為替レートが大きいと思います。この時代も、今も、アメリカ国内での肌感覚だと「1ドル=100円」だと思うのですが、日本に来るといきなり360円!これは大きいですよ。

最近は、自衛隊のファンが増えて、昭和の時代と比べると見違えるようにきれいになった横須賀どぶ板通りですが、昔は為替レートが変動すると、飲み屋が「日本人お断り」(1ドル=250円)になったり「アメリカ人お断り」(1ドル=100円)面白かったです。

続編に期待してます!
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ものがたり:納谷悟郎 (ウェップス)
2022-04-22 11:58:30
この作品は小中学校の頃テレビで見ただけで、あまり記憶がないのですが、手元に30年前に買った「廃盤復刻・思い出のブラウン管のスター・ヒーローたち」というカセットテープがあり、この中に納谷悟郎が語る本作品の音楽と解説の音声(おそらくソノシート版)があります。幸いテープも伸びてなく久しぶりに聞きながら拝見します。
「人間たちは、その一人一人は強く平和を愛しながら、絶え間なく醜い争いを繰り広げている。」なんてくだりは、ウクライナの今心に刺さります('ω')
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