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オーストラリア潜水艦 HMAS「ファーンコーム」

2022-12-03 | 軍艦

さて、とりあえず今回の国際観艦式参加国海軍について
一通りあらためてその概要を知る試みがほぼ終了しました。

今日は今まで紹介してこなかったKさん写真を中心にお送りします。


もし何の気なしにここを通りかかったとして、
こんなものを偶然目撃したとしたらさぞかし盛り上がることでしょう。

これは観艦式会場に向かうオーストラリア海軍の潜水艦、

HMAS「ファーンコーム」Farncomb SSG 74

の姿です。

今回の観艦式には、当初「コリンズ」級潜水艦が参加している、
ということしかわかっておらず、ここに挙げた参加予定表にも名前がなく、
どこからともなくそれは「ランキン」であるという噂が流れておりましたが、
最終的にHPに載っていたのは「ファーンコーム」でした。
潜水艦なんで最後まで確かめようがないですが。

なんで、今日は潜水艦「ファーンコーム」の説明から入ります。

「ファーンコーム」の由来は、オーストラリアで訓練を受けた将校として
初めて艦長に昇進し、1941年から1944年まで
旗艦HMAS「オーストラリア」で指揮をとった、

ハロルド・ファーンコーム少将
Harold Bruce Farncomb 1899-1971

から取られています。

ところで「コリンズ」級は全て海軍軍人の名前を由来にしているのですが、
ちょっと気がついたのでこれをご覧くださいませ。

SSG73「コリンズ」ジョン・オーガスティン・コリンズ少将

SSG74「ウォーラー」ヘクター・ウォーラー大佐
(1941年日本軍との交戦で済んだ海峡にて戦死)


SSG75「デシェニュー」エミール・デシェニュー大佐
(1944年レイテ湾における日本との交戦で艦上機の榴散弾が直撃・戦死)


SSG77「シーアン」エドワード・テディ・シーアン水兵
(1942年沈む『アーミデール』艦上で最後まで零戦を銃撃した。享年18)


SSG78「ランキン」ロバート・ランキン中佐
(1942年『ヤーラ』で船団護衛中日本軍機から艦橋に受けた直撃弾で戦死)

あの・・もしかしたら同級の命名基準って、基本、
日本軍と戦って死んだ人なんですか?

「コリンズ」「ファーンコーム」だけは違うようですが、
それでも二人とも戦歴は第二次世界大戦で日本と戦っているし。


■ HMAS「ファーンコーム」SSG74



艦バッジはクロスした剣の下に鳥(多分カワウ)。
モットーは、With Skill and Resolve「技と覚悟を持って」
モットーの上の石槍とブーメランなどのマークは、
オーストラリア海軍艦艇全てに標準装備らしいことがわかりました。


「ファーンコーム」は1993年に起工され、1995年12月に進水。
オーストラリア国内で建設された最初の潜水艦「コリンズ」級の2番艦です。
建造はオーストラリア潜水艦株式会社(ASC)です。

国内完全製産された潜水艦ですが、雛形となった艦があって、それは
少し前に開発され、スウェーデン海軍とシンガポール海軍が運用している、

「ヴェステルイエトランド」Västergötlandsklass 級潜水艦

でした。

「ヴェステルイエトランド」を建造したのはスウェーデンの
SAABグループのコックムス社であり、「コリンズ」級潜水艦は
いわば「ヴェステルイエトランド」潜水艦の拡大版とされます。
コックムスの技術がそのまま受け継がれていると言ってもいいでしょう。

ちなみに、我が海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦において、
コックムスの技術はスターリングエンジンに生かされているので、
この会社の名前を耳にしたことがある人は多いかもしれません。

また、コックムスの技術は潜水艦のシステムのみならず、FRP分野に及び、
「えのしま」型掃海艇を建造したユニバーサル造船は、
FRP艦の造船でも先進だった同社から技術支援を受けています。

「コリンズ」級潜水艦 諸元

全長77.42メートル
幅7.8メートル
喫水7メートル
浮上時3,051トン
潜航時3,353トン


「コリンズ」級は現在、通常動力型潜水艦としては世界最大の大きさであり、
ステルス仕様として、ソナーによる探知を最小化するために
艦体は高張力超合金鋼製で、さらに無響タイルで覆われています。

正式な潜水可能深度はもちろんわかりませんが、情報源によると
180メートル (590 ft) 以上とされているということです。

武装
魚雷発射管6基、魚雷33本を標準搭載

推進
18気筒ディーゼルエンジン3基搭載

速度
浮上時:10.5 ノット (19.4 km/h; 12.1 mph)
水中:1.5ノット

航続距離
浮上時:時速19kmで20,000km
シュノーケル深度:時速19kmで17,000km

最大速度:60.4 km


ところで、「コリンズ」と「ファーンコム」だけ、
どちらも名前が(戦死しなかった)少将から取られていますが、
この2隻は同時に企画されたという理由によるものだと思います。

「コリンズ」を進水の予定日に間に合わせるために、
「ファーンコーム」は建造日程を遅らせて調節させられています。

ちなみに2番艦「ファーンコーム」が初の純オーストラリア産になったのは、
ネームシップ「コリンズ」の一部はスウェーデンで組み立てられたからです。

純国産潜水艦の誕生はオーストラリアにとってよほど名誉なことだったのか、
当初「ファーンコーム」のフィンには、大きく、

MADE IN AUSTRALIA

というロゴが掲げられていたということです。

「コリンズ」の建造がが少しだけ先んじて行われたことで、
「ファーンコーム」の計画にはその試験結果がフィードバックされ、
訓練資料も改善したものが反映されることになりました。

よく長男長女より次男次女の方が要領の良い子になるといいますが、
後発ならではのメリットを享受できた艦と言えるかもしれません。

「ファーンコーム」は 1998年1月31日に正式にRANに就役しました。


■ 「ファーンコーム」運用の歴史

オーストラリア海軍では、潜水艦における
「男女混合乗組員の実現可能性を検証」するための、
つまり潜水艦に女性隊員を乗せるための実験が1997年に行われました。

これは、6名の女性水兵からなる2つのグループを、お試しに
「コリンズ」と「ファーンコーム」に配属して経過を見るというものでした。

この試験は良好な結果を産んだため、その成功を受けて、
翌年1998年から、11名の女性水兵と1名の女性士官が、
潜水艦勤務に向けて訓練を開始するという運びになりました。

そしてほぼ現在の2020年「ファーンコーム」の映像をご覧ください。
「艦隊評価期間」から帰航した時の映像です。

HMAS Farncomb returns to Fleet Base West from Fleet Certification Period 2020

着岸の作業を行う方にも女性隊員がいるのが目立ちますが、
(カメラもわりと女性を狙ってます)
「ファーンコーム」艦上で接岸作業を行っている女性隊員もいますね。
彼女の肩の階級章から、彼女がNATOコードOR-3の水兵であるとわかります。


同艦のアクシデントや演習の成績などにも触れておきます。

●1998年、ティモールから帰還中、ディーゼル発電機3台すべてが故障。
「ファーンコーム」は何とかダーウィンまで辿り着いて、
そこで交換部品の整理と輸送を数週間待った。


発電機が全部故障してどうやってダーウィンまで行けたんだろう。


●1999年、戦闘システム試験で、「ファーンコーム」は
HMAS「トーレンス」にマーク48モッド4魚雷を実射し沈没させた。


それって単なる退役艦の始末任務・・・いやなんでもない。

●2007年3月19日、アジア海域での5ヶ月間の情報収集任務中に、
釣り糸が「ファンコーム」のプロペラに絡まった。
そこで、穏やかな夜間、国際海域で浮上し、
5人の乗員がプロペラを解放するためケーシングに出ていたが、
天候が突然悪化し、乗員が海に流される事態となった。

すぐさま元水泳選手を含む3人の志願者からなる救助隊が結成され、
90分の努力の末に、5人全員の回収に成功した。


この事件は、海外の海域における潜水艦事故ということで、
およそ2年半もの間、機密扱いになっていましたが、
RANが泳いで同僚を救出した3人の乗員に勲章を推薦したことで、
初めて世間に明らかになりました。

RANのそれまでの大きな潜水艦事故は、1981年、
HMAS 「オンズロー」Onslowでのケースでした。


ノーズのドームが目を引くデザイン「オンズロー」

演習中、「オンズロー」が哨戒機を発見し潜航を行おうとした時のことです。

シュノーピング(艦の二つのディーゼル発電機を動かすために空気を取り入れ、
生じた排気をシュノーケルを通して排出する作業)を停止させたところ、
潜水してすぐに右舷のディーゼルが起動していた(スイッチを切らなかったか、
あるいは再起動した)ことが判明し、排気シュノーケルを密閉した結果、
艦内に一酸化炭素の排気がに充満してしまいました。

「オンズロー」はすぐさま再浮上し、空気の入れ替えが行われましたが、
当時潜水艦の下甲板にいた上級士官が窒息と一酸化炭素中毒で死亡し、
他の18名は中毒症状で意識不明、あるいは痙攣を起こしていました。

また生存者の3分の1の血液中に、致死量の2倍の一酸化炭素が見られました。

この時に救出に当たった二人の潜水士は
その勇敢な行動に対して叙勲されたのですが、
「ファーンコーム」の3人は、その事故以来の叙勲者となったのです。


■ 「コリンズ」級潜水艦大ピンチ?

様々な要因が重なり、「ファーンコーム」は、2009年半ばには
「コリンズ」級潜水艦の中で唯一運用可能な状態となっていました。

その原因は乗員不足。

2008年くらいから配備可能な「コリンズ」級潜水艦の数は3隻に減り、
メンテナンススケジュールといくつかの艦のバッテリーの不具合が重なり、
2009年半ばには「ファーンコーム」の1隻だけになってしまっていました。

2009年、シドニー湾で行われたオーストラリア建国200周年以来、
最大のRAN艦の集合である艦隊入港と艦隊閲兵式で、
「ファーンコーム」は唯一の潜水艦として参加しています。


観艦式の際の「ファーンコーム」。(回遊式観艦だった模様)
乗員同士私語をしているらしい瞬間がバッチリ写っております。

しかも・・・・

●2010年1月、「ファーンコーム」は発電機の故障により緊急帰港。
これにより、姉妹艦「ウォーラー」が唯一の完全運用潜水艦となる。
「コリンズ」は制限任務、他の3隻は修理や整備中であった。

●2011年8月、「ファーンコーム」は潜望鏡深度でシュノーケルを使用中、
突然推進力を失った。
再始動が機能せず、船は後方に倒れ始めた。
緊急バラストのフルブローで潜水艦は浮上し、エンジンは再始動された。


いやこれ、艦体の絶対的不調だったんぢゃないんでしょうか。
直したのか?

しかしながら、世間に敷衍する噂とは全く対照的な、
「コリンズ級優秀」説も実在するらしいことがわかりました。

その一つの実証がこれ。

●「ファーンコーム」は2012年の環太平洋合同演習(リムパック)で
旧弾薬艦USNS「キラウエア」に向けてマーク48魚雷を発射し、
同艦を真っ二つにして沈没させた。


これって普通にすごくないか?
なのに、なのに、

 ●数日後、充電中に潜水艦の重量補償システム?のホースが裂けて浸水した。

充電中に浸水させてんじゃねーし。

つまりこれって、間のスペックというか練度は高いのに、
艦体そのものに問題あり、といことだったんでしょうか。


リムパックのためハワイに着いてレイをかけられた「ファーンコーム」
色々あったのは全てこの後のお話

この時「ファーンコーム」は潜望鏡深度から大きな事故なく浮上し、
パールハーバーまで航行して修理を行なっています。

「ファーンコーム」艦歴の最後にはこう書かれています。

2022年10月、「ファーンコーム」は、
日本の海上自衛隊の70周年を記念して開催された
国際観艦式に参加するために横須賀を訪れた。


日本にわざわざ来てくれてありがとう、「ファーンコーム」。
なんか、個人的にものすごく応援したくなる潜水艦です。


続く。




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3 Comments

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「コリンズ」級潜水艦 (お節介船屋)
2022-12-03 11:13:23
スゥェーデンのコックムス社設計の471型です。

スウェーデンは潜水艦設計建造については有力な国です。
現在A26型2隻建造中。
「ヴェステルイェトランド」級はA17型で4隻建造され、1,2番艦がシンガポールに売却、AIP機関を搭載等、2011、2013年近代化し、同国で「アーチャー」「ソーズマン」として就役しています。
シンガポールはスウェーデンのショーオルメン級A14型4隻も購入し、使用していましたが2隻は退役しました。この後継なのかドイツに「218SG」型4隻を発注、1番艦が竣工していると思います。ただドイツのAIPは燃料電池でスウェーデンのスターリング機関と2種類となってしまいます。

「コリンズ」級は就役後、水中放射雑音が大きく、戦闘システムが性能不足で、改造、戦闘システムはアメリカ製品に換装されました。
前コメントのとおり、原潜取得まで大きなハードルがあり、近代化工事等で延命、当分継続使用されます。
故障ですが主機デイーゼル・エレクトリック推進ですので、発電機全部故障でも電池で電気供給できますので、電池が十分充電されていれば行動できます。発電機3台は?、2台が多いのですが。

またシュノーケル航走は発電機起動して充電とともに発電した電気供給での航行であり、発電機停止で電池切替えで電気供給出来るはずですが突然の停止で沈降すればシュノーケルも潜没しますので再起動は出来ないのではと思います。
ブローで浮上は可能であり、慌てず、電池切替えすれば緊急浮上も必要なかったのではと思います。

重量補償システム?のホースが裂けて浸水は分かりません。充電中が水上なのか、シュノーケル中なのかも分かりませんし、ホース使用?です。
潜水艦では一人の一瞬での錯誤操作でも沈没等となりますので、適格者が必要であり、十分な能力取得が欠かせません。
また整備に関しても水上艦以上の期間が掛かりますし、頻繁なオーバーホールともなります。

長期に就役させることが多くなっていますが潜水艦は耐圧穀の調査で腐食があれば、安全潜航深度を制限する等もあります。なお「コリンズ」級の潜航深度は参照本では250mとなっています。
潜航深度は秘とすることが多いですが輸出潜水艦はカタログデーターとして結構発表されることもあります。輸出最大のドイツ潜水艦の潜航深度は300mとも記述があります。一時ロシアのチタン製の潜水艦が潜航深度700mを超える記述もありました。アメリカ、シーウルフ級でも594mの記述です。

乗員の確保は各国とも色々問題があるようで少子化や軍人へのなりて減少や適格者の問題で、魅力化や手当、適格基準の緩和等で対処していますが、潜水艦はやはり特殊であり、長期の閉鎖空間での生活やスマホ使用不可等現代の若者が忌避するのではと思われます。

今後は無人船のUUV等が発展しますので、有人潜水艦をどうするのか大きな問題が出ています。
中国等は早くも完成したのものがあり、UUVの探知の難しさ、高価な魚雷使用に見合わない、魚雷が起爆するのか等攻撃手段も再考しなければなりません。

参照海人社「世界の艦船」No921、970
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実艦的への攻撃 (お節介船屋)
2022-12-03 11:41:36
2018年リムパックでの実写がYouTubeにに米軍が発表していますので下に添付します。
https://www.youtube.com/watch?v=CLIf9jnO5Mg

ミサイルや砲弾では船体上部が破損しますが、魚雷では炸薬量も多く水線下での爆発で強度部材も損傷しますし、海水侵入もあり、沈没に至ります。
実標的での訓練ではこのように砲弾、ミサイル攻撃後、最後に魚雷とします。魚雷を初めに使用すれば標的が沈没して、貴重な訓練が出来ないこととなります。

この映像を見ても、船体が持ち上がり、座屈しています。魚雷の当たり所で水圧により全長に渡り強度部材が損傷し、船体がさほど痛んでないようでもその後切断沈没に至るケースがあります。
反対に船首部分にあたり、船首が切断沈没で主船体等が大きな被害がないと言う場合もあります。

参照海人社岡田幸和著「艦艇工学入門」
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オーストラリアに何を期待するのか (Unknown)
2022-12-04 05:44:27
コリンズ級は、船体(機関)には問題があるものの、戦闘管理システムはアメリカの原子力潜水艦のものを、そのまま供与されているので、探知識別能力は高いと想像されます。

ソーナー単体の能力では、日本もアメリカにそれ程劣ってはいないのですが、音響解析に関しては、積み上げて来たデータの蓄積がものを言う世界なので、残念ながら、アメリカにはなかなか追い付けません。アメリカ製をそのまま積んでいるのなら、コリンズ級の探知識別能力は高いと思われます。

コリンズ級の後継艦は、日本の「そうりゅう」型とフランスで競争となり、一旦はフランスに決まったものの、その後、アメリカが原子力潜水艦を供与するということで白紙になりましたが、コリンズ級の退役までに間に合うのか等と、まだまだ問題がありそうです。

アメリカが、原子力潜水艦を供与してまで、オーストラリアに何を期待するのか、今一つわかりません。冷戦当時、日本にP-3C対潜哨戒機が供与(ライセンス国産)されたのは、日本にソ連海軍の潜水艦の封じ込めを期待してという事情でしたが、オーストラリアに中国の潜水艦の封じ込めを期待するとすれば、荷が重過ぎます。

アメリカから見ると、東シナ海は第一列島線があり、出口はすべて日本が抑えているので安心ですが、南シナ海はがら空きの上、中国は人工島を多数、基地化していて、中国海軍の動きを抑えるのは難しくなって来ています。ここに期待しているのかなぁと思いますが、人口2,400万人の小国で海軍も小さいので、常続的に潜水艦を展開し続けるのは難しいでしょう。有事の際にはお願いということでしょうか。
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