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映画「Uボート」〜帰港 (大公アルブレヒト行進曲)

2020-08-28 | 歴史

映画「Uボート」について細々と書いてきましたが、
1980年台に公開され、すでに40年近く経っている作品なので、
いろんなところで語られており、たとえば感想や蘊蓄を交換し合う
専用のスレッドなども百出しています。

そして、どんな評価を見ても、大勢の意見は、この映画が
過去製作された潜水艦映画で最高の部類に属するというところに
落ち着いていると思われました。

潜水艦作品の名作に「深く静かに潜航せよ」が上がることはありますが、
これは当ブログにおいて掲載するにあたり細密にアナライズしたところの
わたしに言わせていただくと、主人公である潜水艦艦長の個人的な
「復讐」を物語の核に据えてしまったあたりで、決して深く静かに共感できません。

また「U-571」は、あるスレッドの投稿者によると「超えられない壁」の
はるか下に属し、全般的にもあまり高い評価とはなっていません。

いきなり敵の潜水艦に乗り移ってあんなにスムーズに動かせるはずはない、
という誰でも気づく矛盾点以前に、わたしが最も萎えたのは
「エニグマ通信機を略奪する」という設定でした。
(作戦の目的として実に非現実的かつ非効率的すぎってことで)

そして潜水艦沈没&レスキューものである「グレイ・レディ・ダウン」は
主人公である原潜の艦長があまりにもいいところなしで、こちらも
共感できないまま終わってしまいましたし、評価の高い「眼下の敵」も
全体としてみるとハリウッド的御都合主義が所々目につきます。

というわけで、

「潜水艦映画にハズレなし」

とはいうものの、この「Das Boot 」ほど良くできた映画は
決して多くはない、というのが今のところわたしの出した結論です。

しかしながら映画のベースとなった「Das Boot」の作者
ロタール・ギュンター・ブーフハイム
この映画に対して
非常に否定的な見方をしていたことを書いておかなくてはなりません。

彼は「大変失望した」理由として、自分の反戦的なメッセージを監督は

"cheap, shallow American action flick"
(安っぽくて浅薄なアメリカンアクションもの)

"contemporary German propaganda newsreel from World War II".
(第二次世界大戦の現代版ドイツプロパガンダニュースリール)

にしてしまった、と断言しています。

そして、特に登場人物の行動が押しなべてヒステリックで過剰であり、
かつ非現実的であるとも言っています。
(これが非現実的であるとすれば、そのほかの全ての潜水艦映画は
もうSFの範疇に数えられるようなことになりそうですが)

当初この映画化についてはハリウッドのドン・シーゲルが監督を、
そしてロバート・レッドフォード(第二案ではポール・ニューマン)が
艦長を演じる、という案(どんな映画になるかお察し)
があったそうですが、もちろんブーフハイムはこれに拒否感を示し、
ペーターゼンが監督に選ばれて初めて原作の提供を許可しています。

なのに、できてみれば、というわけですね。
ブーフハイムの期待通りならどんな映画になっていたのか
大変興味はありますが、もしそうなっていたら、この作品が
ここまで評価されていたかというと限りなく謎です。

 

そしてここでお断りですが、この映画については語られ尽くされているので、
有名なラストシーン、映画のキャッチコピー風に言うならば

「衝撃のラスト3分半」

についてもネタバレ御免でご紹介することにいたします。

まさかとは思いますが、まだこの映画をご覧になっておらず、
ラストどうなるのか知らないし見るまで知りたくない、
と言う方がおられたら、この先は決して読まないでください。

といいながら本編紹介前に余談です。

「 Das Boot」で検索していてこんな画像を見つけました。
なんとロシア語の映画紹介サイトなんですが、なぜかこれが
「Das Boot」の画像として掲載されています。

ロシア語を翻訳機にかけたところ、全く勘違いして
これが「Uボート」の一シーンとして掲載されたことが明らかになりました。

「Uボート」に日本人出てこないっつの。

そこでUボート艦上の大日本帝国海軍軍人二人、これはどうみても
ドイツに技術武官として派遣されており、ドイツから技術貸与された
図面などを持ち帰る遣独潜水艦作戦でU234に乗り込んだ

友永英夫技術中佐

庄司源三技術中佐

としか考えられません。

日本で彼らのことを描いた映画やドラマがあったというのは
寡聞にして知りませんが、もしこの画像が
外国制作の映画などであったとすれば、ぜひ突き止めたいものです。

どなたかこの画像に関する情報をお持ちの方、
教えていただければ幸いに存じます。

さて、ジブラルタルの海底から蘇ったUボート、
撃沈したと相手が思い込んでくれたことから、無警戒で
不可能と思われたジブラルタル海峡を通過することに成功し、
満身創痍で出向したラ・ロレーヌに凱旋を果たすことになりました。

出航のシーンもこのときもロケはフランスのラ・ロレーヌで行われたので、
エキストラはほとんど全員がフランス人でまかなわれたそうです。

岸壁の出迎えの人々からは「ウラ!ウラ!ウラ!」という声が聞こえます。

艦内と比べれば別人レベルのちゃんとした格好で艦上に立つ乗員たち。

機関室の「幽霊」ヨハンがいます。

真ん中、掌帆長ランプレヒト。

ちなみに彼の贔屓のチームはシャルケ04です。
サッカーファンならご存知、ブンデスリーガ所属の名門で創設は1904年でした。

うしろにいるのは乗員唯一スキンヘッドの魚雷室勤務。
長い艦内生活でもまっったく髪が伸びてません。

ディーゼル機関兵のシュバレ。
艦内の宴会でドラムを披露していた人です。

艦長に渡すためのものか、チューリップの花束を(包んでない)
抱えた毛皮のご婦人や、海軍の偉い人、その副官などが見えます。

迎えの列には子供もいて、到着した潜水艦に花が投げられます。

相変わらず艦長は軍服を着ておりません。

Uボートの乗員は軍服を一切着ないでセーターで過ごすような人が多かった、
という証言がありますが、艦長だって一応出航時は
軍服に鉄十字の勲章をつけ、帽子だって(なぜか夏用ですが)
もっと白かったんだから、やればできる子だと思うんですけど・・。

一般的に海軍、特にUボート乗りはナチスに無関心もしくは嫌いな人が
多かったといい、この艦長もそうであるという表現でしょう。

艦内からは負傷した操舵長を運び出す作業が行われています。
体を袋に入れて上から引っ張ってハッチから出すのです。

作業を行うのは聴音員のヒンリッヒ。

「ダンケ」

「いいさ。太陽が眩しいぞ」

後ろの壁に描かれている、

Wir hauen fur den sieg!

は「我々は勝利を得る」と言う意味です。

操舵長が救急車に乗せられると、基地司令らしき人が
挨拶をするためにやってきました。

司令の向こうにいるのは軍楽隊の指揮者で、彼らが演奏しているのは

「アルブレヒト大公行進曲」

オーストリア=ハンガリーのテシェン公アルブレヒトのために
作曲された行進曲で、第一次・第二次世界大戦を通して
ドイツ軍が多用していた行進曲の一つです。

Erzherzog Albrecht Marsch

司令がラッタルに足をかけるとどこからかサイドパイプが聞こえます。
誰が吹いているのか謎ですが、慣例で言うとUボートの乗員のはず。

そしてスピーチを始めようとした瞬間。
不気味な空襲警報が鳴り出しました。

警報が鳴り出して同時というくらいすぐ、連合軍の飛行機が
爆撃を行います。
観衆は悲鳴を上げて避難を始めました。

腕に腕章をした女性軍人、楽器を抱えた軍楽隊員、
そしてもちろんUボートの乗員はラッタル伝いに岸に上がります。

艦橋から一人、下から二人、計三名が海に飛び込んでいます。

岸壁を走る人たちの中にヒンリッヒ、次席士官(手前)機関長がいます。

すでに地面に倒れている人もいます。

ところでDVDを持っていたら是非確かめて欲しいのですが、
このシーンで死人役のエキストラは、撮影が始まった時思わず目を開けてしまい、
慌てて目を閉じて、次に爆発の衝撃で思わずビクッとしているところが
バッチリ写っています。

監督がボツにしなかったのは、実際に爆破装置を使ったので
やり直しができなかったからではないかと思われます。



空襲シーンでは、200名のフランス軍エキストラと100万発の爆薬が使用されました。

土嚢のところで警備をしていたヘルメットの兵隊が銃撃にやられます。

空中で散開する連合軍機。

イギリス軍はこの頃本国からここまで飛んで帰れるような
爆撃機を持っていなかったらしいので、これらは空母ベースのはずです。

 

撮影では時代考証的に正しいこの頃の英軍の爆撃機は見つからなかったので、
代わりに、フランスにある民間飛行クラブ
が所有するヴィンテージ機が使われ、
フランスのパイロットが操縦を行っているということです。

ところでわたしはこのシーンを何度も見返してしまいました。
これ艦長とヒンリッヒ、どちらだと思います?
顔面に怪我をしてヴェルナー少尉らしき人に引っ張られています。

艦長だと思う人〜\( ˆoˆ )

後ろから掌帆長が駆け寄っています。

でも、艦長ならさっき艦上でジャケットを着ていたはずだし、
爆撃開始から今までぬいだりする余裕も時間もないですよね。

派手な爆撃シーンも今と違い実際に火薬を使っています。
何でもこの映画、制作費がドイツで製作された映画史上最高額だったとか。

瓦礫の中倒れ込む乗員たちの中に次席士官もいます。
後ろはヨハンでしょうか。

機関長、シュバレ、先任士官の3人は列車の下に逃げ込み爆撃を避けています。
(後でこの3人は助かったことがわかる)

ここでヴェルナー少尉、一人で駆けてきて列車の下に避難しているんですが。
あのー、
さっきまで救助していた人はどうなったんですか?

途中で自分の身が危なくなったのでどこかに置いてきてしまったんでしょうか。

怪我した人を二人がかりで運んでいます。
どの人も一瞬しか映らない上皆髭が伸びているので誰だか見分けがつきません。

ていうかこんな人いたっけ?

炎の中負傷した戦友を肩に担いで走るのはおそらくアーリオ。
ある分析サイトによると、ヴェルナー少尉にウェスを投げたのはこいつだとか。

彼が担いでいるのは間違いなくヒンリッヒです。
そのまま後ろに向かって転倒しますが、ヒンリッヒ役の俳優は
地面に叩きつけられます。

大声で叫んでますが、マジで激痛だった可能性あり。

容赦無く繰り返される爆撃。

潜水艦基地の中に何とか逃げ込むことができたヴェルナー少尉。

なぜか逃げ込んできた乗員全員が、壁でなく
鎖にもたれ掛かっているというこの不自然な構図。

バックに潜水艦を入れるためと思われます。

怪我の激痛で叫び声を上げているのはフレンセン。
コンビのピルグリムが彼を支えて抱いてやっています。

怪我をしないものも虚脱状態で肩で息をしています。

一番奥、重傷者を抱えてやっているのはシュバレ、その後ろは
シュバレと一緒に避難していたヒトラーユーゲント出身の先任士官です。
先任士官は重傷者のためにメディックを呼び、力づけています。

わたしはしつこいですが先任士官贔屓なので発見した時嬉しかったです。

ということは・・・・。
先任士官と一緒に逃げた機関長もご無事だったんですね。

最後に落としていった爆弾がドックの天井一部を崩落させました。
ヴェルナー少尉は外に飛び出します。

フレンセンの苦痛はひどく、彼は獣のようにうめき続けます。
トリアージ的に彼がメディックのケアを受けられるのは
しかしかなり先のことになると思われます。

そこここに炎が燃え盛る中、走り出たヴェルナー少尉は見ました。

機関兵曹ヨハン。

陽気だった次席士官。

恋人に手紙を預かってやれないままになってしまった
少尉候補生ウルマン。

ベンジャミン、潜水オペレーター担当。

決して親しくはなかったけれど、共に生還してきた乗員、
数分前まで生きていた男たちが骸と化しているのを。

ちなみにこの最後のシーンで誰を「殺すか」決めたのは、
ペーターゼン監督のだったそうです。

そしてさらに。先ほど帰還したばかりのUボートが係留している埠頭で
彼が見たものは・・

わたしの特定が間違っていなければですが、ヴェルナー少尉が先ほど
途中で救助を放棄した艦長が、埠頭でボートを凝視していました。

艦長の額には傷が見えますが、先ほどヴェルナーが引っ張っていたときには
全く血が付いているところが違います(だからさっきのは艦長ではないという説も)

沈んでいくU-96。

この沈没は、一度実際に壊れて沈んだモックアップを引き上げて修理し、
水中ケーブルを引っ張ると沈んでいくように改装して撮影しています。

ボートが海面から姿を消すと同時に艦長の目から光が失われ、
同時に彼の命の火も消えていきました。

倒れ込む艦長のセーターに銃痕が数カ所見えます。

革のジャケットを着ていたらこの効果を出すのが難しいので、
ジャケットをいつの間にか脱いでいることにしたのかも、
などということを考えるのはおそらくこの世でわたしくらいでしょう。

これが映画のエンディングシーンです。

 

決して英雄として描かれない艦長、このひたすら虚しい結末。

映画のラストのわずか3分間で、あなたはそうでなかった場合とは
おそらく
正反対の感情、観賞後の感想を植え付けられることでしょう。

そしてこの衝撃の3分あればこそ、我々は戦争というものの報われない現実を
片鱗とはいえ、垣間見ることになるのです。

 

原作者は映画がアメリカの戦争アクションに堕したと非難したそうですが、
彼の原作のテーマである「反戦」の意図は、少なくとも
このエンディングがある限り全く損なわれるものではないでしょう。

少なくともわたしを含めたほとんどの鑑賞者がそう感じているからこそ、
この映画は制作後40年の時代(とき)を経ていまだ高く評価されているのです。

映画「Uボート」は、プロデューサーでありライターである
スティーブン・シュナイダーが編集している
「死ぬまでに見たい1001の映画」に最初から改訂版(2015年)を通して
常にランク入りしています。

 

終わり