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映画「Uボート」〜"It's a long way to Tipperari"(ティペラリ・ソング)再び

2020-08-26 | 歴史

映画「Uボート」、五日目になります。

航空機の爆撃によって機関を破損し、沈み続けたUボート。
深度が計器のリミットを超えて祈りを唱える者が現れたころ、
艦体に大きな衝撃が走りました。

そして死のような静けさが・・・。

「海底だ」

海峡なので深度が浅かったことが幸いし、艦は着底しました。
艦体は深海280mの圧力にも耐えたということになります。

さっそく機関室のチェックを始めたヨハン、浸水箇所を発見しました。

下士官バンクにも浸水が始まっています。

圧力に耐えられなくなったビスが次々と飛び始めました。
魚雷発射管、制御盤、聴音室からも次々と浸水してきます。

総員一丸となってのダメコンの始まりです。
とにかく充填材を破損箇所に入れて浸水を食い止めること。

しかし次々と機関が破損していきます。

「祈っとらんと仕事せんかーい!」

こんな時にもお祈りを唱えていた「聖書屋」は、例によって
フレンセンに殴られております。

機関長は艦長に破損箇所を逐一報告しますが、
それはいずれも絶望的な情報でしかありません。

バッテリーも24個が破損しているので、機関長が下に潜って
つなげる機関を導線で繋ぐという措置が取られることになりました。

お客様として乗っていたヴェルナー少尉ももちろん参加です。

このとき、ヨハンが水没した箇所を修復するために水に潜り、
ヴェルナーに一緒に潜って懐中電灯で手元を照らすことを要求しますが、
この箇所を見て、わたしは映画「U571」を思い出しました。

あの映画では水没箇所を修理するために潜って作業した乗員が犠牲になりましたが、
明らかにこちらの場面から着想を得ていると思われます。

この映画は、のちの潜水艦映画、ことにUボートが登場する映画に
多大な影響を与えたといわれていますが、同時に何をやっても
二番煎じになるという意味での「足かせ」
になったということは否定できません。

バッテリーを点検していた機関長。

「繋ぐための針金が必要だ」

すると艦長、焦って、

「高い魚雷はいくらでもあるのにタダ同然の針金が一本もない!」

しかしながらその直後、部下がワイヤをきっちり探し出してくるのでした。
あまり性急に結論を出してうかつなことを言わないないほうがいいですね。

この映画はとにかく艦長を英雄やスーパーマンとして描いていないのがリアルです。

「水圧装置破損、手動でも動きません」

そこに幽霊のように虚脱した風のヨハンがやってきました。

「浸水停止です」

「・・・・・・・でかした」

考えようによってはこの人、早めに?キレておいてよかったかもしれません。
この非常時に覚醒し、こうやって見事役目を果たしたのですから。

「・・・よくやった」

そしてヨハンの肩を叩き、

「服を着替えろ」

このときヨハンと一緒に機関室の兵(助手?)がいるのですが、
彼は一切声をかけてもらえません。

浸水が止まったので次は床に溜まった水をバケツで集めて排水することになりました。
ヴェルナー少尉もバケツリレーに加わります。

導線を持ってバッテリー室に潜っていた機関長から朗報です。
バッテリーは3個修復できたので稼働が可能とのこと。

艦長は報告をパンをかじりながら聞いています。

しかしその一方、先任士官が各所の被害報告を行います。

「コンパス破損。速度計と探深計、無線機も」

「ふっ・・・被害甚大だな」

先任「浮上の・・・可能性は?」

「注気したときの空気をありったけ集めて使う」

細部細部ではいろんなことを言いますが、決定的なところでは
けっして絶望するようなことを言わないのが艦長です。

そうと決まったら浮上のためには艦体を少しでも軽くしなくてはいけません。

機関長の考えたプランによると、手作業で水を中央に集め、
まだ使える動力ポンプで排出し、その勢いでついでに浮上するというもの。
チャンスは一回だけです。

それに失敗したらその時は・・・。

作業を終えるには8時間かかりますが、すでに酸素が減っており
呼吸が困難になる傾向があるため、

手の開いた乗員はマスクを着用して寝ることになりました。
ノーカット版でヴェルナー少尉が乗艦した時、次席士官がマスクを渡しながら

「形だけだよ」

というようなことを言うらしいのですが、これは伏線で、
マスクは実際に彼らの命を救うことになります。

多くの乗員がマスクをして熟睡している中、ヨハンフラフラ歩いてきて、
真っ黒に汚れた手でオレンジを一つ手にして貪りだしました。

彼が事故発生以来何も口にしていなかったことを物語ります。

聴音員のヒンリッヒは負傷した操舵長の看護にかかりきりです。

全てが絶望的な中、かといって艦長に今できることは何もありません。
修理は機関長が全てを請け負っています。

することがないので、懐中電灯を持って艦内を回る艦長、
ウルマンの外れた酸素マスクを直してやったり。

こちら水の中に潜ってライトを照らしていたはずのヴェルナー少尉ですが、
セーターが全く濡れていません。

交換したのかな?

座ったまま寝ている機関長に飲み物がいるかどうか聞くと
いらない、といったのに、瓶を渡すと奪い取るようにしてこの通り。

「艦長は海峡突破の命令を受けたときから生還は無理だとわかってたんだ」

だからこそこの二人を降ろそうとした、というのです。
そして、一か八か潮流に乗って地中海に出るという賭けにでたものの、
それには失敗したと絶望的に語るのでした。

そしてついに艦長の口からももう15時間になるから修理は無理かも、
という
言葉を聞いたヴェルナー少尉、思わず詩を口ずさみます。

「わたしは望んだ 一度極限状態に身をおこう
母親が我らを探し回らず 女が我らの前に現れず
現実のみが残酷に支配するところに」

「これが現実です」

このシーンは英語版だと、

They made us all train for this day.
To be fearless and proud and alone.
To need no one, just sacrifice.
All for the Fatherland.

Oh God, all just empty words.
It's not the way they said it was, is it?
I just want someone to be with.
The only thing I feel is afraid.

彼らは私たち全員をこの日のために訓練させました
恐れず、誇りをもち、孤高であること。
誰をも求めず、ただ我が身を犠牲にすること。
すべては祖国のためであると。

ああ、神様、すべての言葉は空虚です。
これは彼らが言ったところのやりかた
ではありませんね?
私は誰かと共にいたい。
私が今感じるたった一つのことは恐れだけ。

となっています。
日本版はドイツ語バージョンに忠実に訳されています。

そのときです。

機関長が懐中電灯を手によろめきながらやってきて、
これ以上何の悪い知らせだ、とばかりに振り向く艦長に向かい
息を整えてから

「報告します」

「機関修理、完了」

「排水管も」

「排水し終わりました」

「コンパス類、探深計修理完了」

驚きに思わず目を見張る艦長に向かって機関長は微かに微笑み、
艦長は

「よくやった」

と一言・・。

意識朦朧としている様子の機関長に向かって艦長は

「休んでくれ」

といいますが、よろめきながらも機関長は

「まだやることがあります」

機関長をビゴで降ろさなくてほんとうによかったですね。

安堵と感嘆に思わず輝くヴェルナー少尉の顔でした。

何度も苦しげに呼吸を繰り返してから、
やっとのことで絞り出すように艦長は呟くのでした。

「・・・優秀な部下だ」

「俺は幸せ者だ」

そしていよいよ浮上を試みる瞬間がきました。
皆酸素の薄さに肩で息をしています。

「帰港するぞ。成功したらビールをふるまってやる」

全員に笑いが戻りました。
昨夜海峡を突破しようとした時以来の笑いです。

敵はUボートを撃沈したと思っているのでおそらく無警戒だろうから、
その隙に全速力で逃げる、と艦長は言い切ります。

「ナー、メナー、アレス・クラー?」(皆、いいか)

「ヤボール・ヘアカーロイ!」(はい、艦長どの)

出航の時と全く同じやりとりであることにご注意ください。

ちなみにわたしはこのドイツ語がなんといっているのか分からずに、
あちこち調べたのですが手がかりを得られず、最後の手段で
その手のことに詳しそうなウェップスさんに聞いたところ、
2時間くらいで正解を教えていただきました。

この場をお借りしてお礼を申し上げます。

赤色灯に切り替え、操舵手二人が席に着くと、機関長は
いつもの配置に立ちました。

「注気だ」「注気!」

祈るように皆が探深計の針を見つめます。
艦体が海底から離れる振動に続いて、ピクッと針が震え、

「浮いた!」

「ヤーーーー!」

10メートルずつ上がっていく深度をカウントする機関長の声が
喜びに震え、ついに浮上を果たしたUボート。

艦長がハッチを開けた瞬間入り込んできた空気を、
乗員たちはハッチの下に集まって思いっきり吸い込もうとします。

ここからが正念場です。
機関がちゃんと動くかどうか。

「動かせ」

「機関長どの、動きました」

「地獄から脱出だ!ヒャハハッハ〜!」

「いえええい!」

思わず機関にうっとりとほおずりするヨハン(笑)

そして「Uボートのテーマ」アップバージョンに乗って軽快に波を切るUボート。
開いたままのハッチの下では空気を求めて
乗員たちがいつまでも集まって立ちすくんでいます。

時折潮水が入ってくるも嬉しそうに

「しょっぺえな!」

ダメコンで穴を塞いだ角材に持たれながら可愛い機関に

「がんばれよな!頼むぞ!」

と声をかけるヨハンでした。

「敵は撃沈したと思って祝杯をあげているだろう」

おかげでノーマークのままジブラルタル海峡を突破できるというわけです。

いつも髭を剃り完璧すぎる身仕舞いをしていた先任士官、
さすがにすこし髭が伸びています。

ちなみにこのとき、大波が来るたびに先任は波を避けてかがみますが、
艦長はしぶきを避けもせずむしろ大喜びで潮を浴び続けています。

そして・・・・

「♫ティペラリへの道は遠い〜」

調子良く波を切って進むUボートの中では、再び
「ティペラリソング」の大合唱が行われていました。

ちなみにこの映画で使用される「ティペラリソング」の録音はなぜか
ロシア陸軍合唱隊による演奏で、「Uボート」サウンドトラックにも挿入されています。

「故郷に乾杯!」

手前の掌帆長は相変わらずにこりともせず、怖い顔で
『ティペラリソング』をちゃんと歌い(笑)
あいかわらず苦虫を噛みつぶしたような顔で乾杯にも唱和しています。

そういう顔の人なんですねきっと。

大音響にも関わらず、機関にもたれて死んだように熟睡している機関長に
フレンセンが「MARINE」と書いたドイツ版海軍毛布をかけてやるのでした。

艦が海底から生還できた功労賞があれば、それを与えられるのは
文句なしにこの機関長でしょう。(次点はヨハン)

聴音員のヒンリッヒは艦長のためにいつもの
「J’attenderai(待ちましょう)」をかけてあげています。

穏やかな時間。

「まだ陸は遠い・・・・・・」

甘い女性ヴォーカルが流れる中、艦長はベッドに身を横たえ、
独り言のように呟くのでした。

「なんとかなるさ・・・いままでのように」

果たしてなんとかなるんでしょうか。


続く。