詠里庵ぶろぐ

詠里庵

さて、ゴジラ

2006-09-12 06:49:22 | 日々のこと(音楽)
の続きですが、その前に、「宇宙戦争」という映画を知っているでしょうか? 最新のスピルバーグ+トム・クルーズのものでなく、ジョージ・パル+ジーン・ケリーの1953年のものです。最新のリメイクものも筋は同じということですが、あまり見る気がしません。H.G.ウェルズ原作の「宇宙戦争」、アメリカのラジオでニュースのような迫真の放送でパニックを引き起こしたことで有名です。さて1953年制作になる映画「宇宙戦争」、私は若い頃テレビで見て感激しました。何に感激したかというと、内容もそうですが、戦後10年も経たないうちにこんなSF映画が作られたということにです。襲ってくる火星人の宇宙船は今見てもモダンな感じですし、きれいなカラーで迫力満点の特撮。さすが国力に余裕のあるアメリカ、SF映画はやはりアメリカ、という思いを強くしました。(火星人の「目」には笑っちゃいますが。映画人らしい発想です。)

ところが和製映画「ゴジラ」もそのたった1年後だったんですね。こちらはまだモノクロですが、今回飛行機内で見て、実は宇宙戦争以上に感銘を受けました。まず音楽から言うと、伊福部昭はやはりすごい。場面場面の音楽がやっつけ仕事ではない音楽。どこもいいと思ったのですが特に良かったのは、恐ろしい威力を持つ自分の研究を封印することを決めた芹沢博士を対ゴジラ対決へと心変わりさせた子供達の大合唱の場面。この転調しないモード和声の祈りの音楽はアルヴォ・ペルトを先取りするものではないか。

第五福竜丸的発端も、水爆実験で太古の眠りから醒め放射能を帯びたゴジラという社会問題的設定も、演技・撮影技術も、全く宇宙戦争にひけをとらないと思いつつ見ました。いやもっと言うと、宇宙戦争は設定が「外部から突然出現した敵」の多少ご都合主義の閾を出ていませんが、ゴジラは「人類の身から出たさび」的掘り下げがあります。また最後の結末も、いろいろな映画が既にある現代から見ればありがちといえばありがちかもしれませんが、宇宙戦争の結末よりはずっとヒューマニズムに溢れています。ただ見ても感銘を受けるのに、これが敗戦をまだ引きずっていた1954年の作品ということには驚きを隠せません。日本映画に限らず文化というのは、戦後急に変わったのではなくその前から脈々と伝統が形成されていたということなのでしょう。

ふんだんに金を使った最新映画を大画面大音響で楽しむのも映画なら、ヒューマニズムやしっとり感も根底に流れるこの作品のようなものも映画です。
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