詠里庵ぶろぐ

詠里庵

金子一朗さん

2006-01-08 14:19:28 | コンサート・CD案内
のピアノ演奏を聴きました。今日二回目のブログになりますが書きます。数学の先生を本職とする氏のリサイタル、一度聴かずばと思っていました。今回の曲目はドビュッシー前奏曲集第一巻全曲とハンマークラヴィーア。どちらも至高の音楽ですね。200席以上はあろうかと思う角筈(つのはず)区民センターはほぼ満席でした。何かテレビ局の取材のようなのも来ていました。

で演奏は・・・音楽にふさわしい演奏でした。椅子に座ったとき、え?それではピアノに近すぎるでしょう、と思いました。案の定位置を直しましたが、それでもほんのこころもち下げただけでした。慎重にすわる位置を決定したあと書道家のように背筋をピンとした姿勢でしばし精神統一。そして出て来た音の深々としていること。この曲としては思ったより大きめの音でスタートしました。でもこの姿勢ではこの先硬いドビュッシーにならないかな?

しかしそれは杞憂でした。鍵盤と手がしっかり見える席で聴きましたが、タッチの種類の多いことがわかります。有名なプロでもタッチは一種類だけだなと思う人がいるのですが。金子さんのフォルテは朗々としたフォルテから咆哮するフォルテまでいろいろあります。しかし手を見ていると派手には動いていません。もちろんバンバン叩くような弾き方は皆無。鍵盤に置いた手が蛙のように跳躍するような弾き方が理想なのですが、だいたいのフォルテはそういう弾き方。弱めのフォルテのとき数cm上の空中からストンと落とす弾き方を交えているのが面白く思いました。弱音はまっすぐ通って来る艶のある弱音から空間を包み込むようなフワッとした弱音までありました。特に後者の柔和な弱音を弾くとき、肩から指先まで-特に肘-が、インドの女性舞踊家のようにしなしなとするのが特徴的です。この辺、私が昔師事したことのある青柳いづみこさんに似ています。青柳さんも音の種類をいろいろ持っているのです。

弱音ペダルの使い方がうまいように聞こえました。ようにというのは、足の動きが見えなかったのです。右足のサステインペダルはもちろん見えましたが、ペダルを踏むとき結構足を動かさない人です。その陰にかくれて左足の弱音ペダルはいつ踏んでいるのか見えなかったのが残念です。ソステヌートペダルも見えませんでしたが、これはあまり使っていなかったようです。「沈める寺」のあの部分でも使っていませんでした。この部分は体の安定のためか、左足をペダルから完全に外していました。

部分的にもっと気分屋でカプリツィオ的に!と思うこともありましたが、私も思い入れ深いこの曲集は、総じて納得の行く名演でした。

ハンマークラヴィーアも良かった。第一楽章の主題提示部、リピートしてくれよと思っていると、期待通り繰り返してくれました。主題提示部はカッチリした上で美しい演奏だったのですが、まあ他でも聴けそうな感じの演奏だったので、こりゃあドビュッシーの方が良かったかなと思ったのですが、展開部から迫力が増して行き、再現部の直前など鬼気迫る感じになったので、身を乗り出しました。金子さんは主題提示部より展開部が得意なのか? 第二楽章はスケルツォ。これは曲全体が展開部みたいなもの。まさにスケルツォの演奏でした。後期のベートーベンは精神において古典音楽じゃなく現代音楽ですね。第三楽章は美しいロマン暖徐楽章ですが、飽きさせない演奏をするのは難しいと思います。で、飽きませんでしたが、この曲では形を変えては現れる主題提示部がすばらしい演奏でした。フーガの前のプレリュード的導入、これもトッカータ風で良かった。そしてフーガ。フーガも全体が展開部みたいな曲ですね。堂々とした、立派なフーガでした。

アンコールはショパンノクターン第16番変ホ長調。これはのびやかかつしみじみとした演奏。旋律も内声部も声楽のように歌っていました。リサイタル本体の演奏の質の高さから、あと1~2曲聴きたかった気もしました。
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今週の一曲

2006-01-08 08:29:26 | 詠里庵・新着案内
を更新しました。元ページはここ。直接聴きたい場合はこれをクリック

先週の一曲はフォーレ:ピアノ連弾組曲ドリー」より「子守歌」でした。1974年の一人二重録音。

1894-97年(フォーレ49-52歳)にかけて作曲され、それぞれの年のドリーの誕生日に捧げられた曲です。ドリーはエンマ・バルダック夫人の娘ですが、実はフォーレが父親だということです。一方エンマ・バルダックはその後ドビュッシーと結婚し、シュウシュウという娘を生んでいます。ドビュッシーはシュウシュウとドリーのどちらもかわいがったそうです。
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