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加計学園獣医学部の建設コストは妥当か?・・・常識的に検討する

2017-09-14 06:24:00 | 時事/金融危機
 

加計学園の建築費水増疑惑の検証をするとお約束していましたが、話題がホットな時にこの問題を取り上げると、コメント欄が荒れそうで面倒なので、話題性が無くなったのを見計らってアップします。



■ 加計学園が今治市で建設費水増し疑惑に抗弁した内容 ■

毎日新聞のネットの記事の内容を抜粋します。

https://mainichi.jp/sunday/articles/20170911/org/00m/030/002000d より

9月6日、今治市議会国家戦略特区特別委員会に加計学園の関係者が出席し、工事費水増し疑惑に対して次の様に説明しています。

1)建屋単体の坪単価は80万円
2)設備を含めた坪単価は126万円
3)5年前(見積時?)に比べて労務単価の上昇もあり、建設費は4割近く高騰している
4)工事内訳書などを確認した結果、坪単価に異常はない


さらに市側は、補助金を出すにあたり工事に入札が必要だが、なじみの深い岡山の2業者が施工している件に関して次の様に返答しています。

1)1期工事の入札関係資料の届け出は受けている
2)設計図と同じく資料の開示には応じなかった
3)2期工事は「増築」にあたり、入札は必要無い



下の表は「いよごん地域経済研究センター」がネットに公開している「大学獣医学部の誘致による経済波及効果 」と題する資料の、加計学園獣医学部の事業費計画の抜粋です。




http://www.city.imabari.ehime.jp/kikaku/kokkasenryaku_tokku/siryo01.pdf より

1) 建設予算は150億円、但しグラウンドや建物周辺の整備費を含む
2) 加計学園の示した126万円/坪は、建物のみの建築坪単価

■ 建築費、建築工事費とは設備費を含むのか、含まないのか ■ 

加計学園の設計図が公開され、建築費水増疑惑が報道された後、ネトウヨを中心に、「建築費は妥当である」という様々な検証がネットでなされています。その殆どが「素人の妄想」に過ぎず、「不正は無い」という結論ありきのこじつけです。

1) 建築費の中には設備費は含まれない。
2) 獣医学部は病院建築同様に設備コストが割高
3) MRIなどの高額な設備が必要なので一般の大学より建設費は高くなる
4) 建築費が高いと指摘した森山高至は建築費が何か分かっていない


加計学園の工事費疑惑を検証したのは今治市の市民団体から依頼を受けた森山高至氏ですが、彼は豊洲市場問題で「豊洲市場には建築的な欠陥がある」と指摘し、結果的に構造的問題は無いと論破されて信用を落とした人物です。

しかし、彼は一級建築士免許を持ち、建築設計事務所を開設して社員を抱える建築にはある程度精通した専門家で、地方自治体のアドバイザーの様な仕事もしています。若干、権力に批判的な所はありますが、彼が建設費が何かという基本的な事を理解していない訳がありません。


■ 建築費、建築工事費とは 設備費も含めた建築に掛かる費用の総額 ■

建築費、或いは建築工事費とは何か・・・これは公共事業の入札資料を観れば一目瞭然です。

http://www.pref.aichi.jp/kensetsu-kikaku/gijyutsu/kenchikusekisankijun2604.pdf



上は愛媛県の「公共建築工事費積算基準 」です。詳細はアクセスして確認して下さい。

1) 建築工事費には、建築物本体の「直接工事」と、建築に必要な足場などの「仮設工事」
   が含まれる

2) 「直接工事」は建築物本体のみならず、空調、電気、給排水など建物に付随する設備
   の工事や、内蔵や建具などの建材の費用、トイレなどの衛生器材のなども含まれる

3) 建築工事費の中には「現場管理費」や「宿舎代」などの建築に関わる様々なコストが
   含まれる

要は「建築工事費」と言うのは、「建築が完成するのに必要な全ての工事や細かなコストの合計」なのです。



ちなみに上のネットで見つけた、ある庁舎の建築費の割合ですが、本体工事が約7割、設備工費が3割となっています。

加計学園の説明では次の様になっています

1)本体工事80万円/坪
2)設備工事46万円/坪

設備工事の比率が36%と若干割高ではありますが、理工系の大学は薬品や微生物を扱うので、排気や排水設備が若干コスト高になる事が想定されるので、この比率自体には問題ありません。


■ 本体工事80万円は鉄骨造としては高すぎる ■

加計学園自らが本体工事80万円と表明しているので、この金額が妥当か調べてみましょう。



上の表はネットで見つけたビルの「建築費の坪単価」です。ここで注意が必要なのは、この価格が本体工事のみの費用では無く、上で説明した設備工事など諸々含む金額であること言う点です。

加計学園の校舎は「鉄骨造(S造)」の中層建築です。

1) 通常のテナントビルと同等とすると70万円/坪が建築費
2) 設備費を30%とすると、本体工事費は50万円/坪程度

加計学園は堂々と鉄骨造の本体工事費を80万円/坪と表明していますが、これは相場の6割高の数字です。当然、設備費用も同等に相場よりも高くなっているはずです。

■ 他の獣医学部と比べてみる ■

ネトウヨ達は、比較的建設コストの高い病院建築との比較で、加計学園の建築費の妥当性を主張していますが、これは全くのナンセンスでしょう。学校建築は講義室や体育館などはむしろ設備や内装が簡素で、坪単価は高くありません。様々な設備が必要で、入院病棟などは各部屋にトイレや様々な医療装置の配線や、医療ガスの配管が必要な病院設備と学校建築を同等に扱う事はナンセンスの極みです。

やはり、同じ獣医学部の建築コストと比較すべきです。




上の写真は2014年8月に竣工した北里大学の十和田にある獣医学部の新校舎です。

前述の森山高志氏のツイッターを引用すると


「鉄筋コンクリート造り”で、7階建A棟と3階建B棟。講義室を始め、実験実習室、動物の病気の治療、予防を行う臨床室、獣医学部として必要な施設はひと通り揃っている。オシャレで凝った造りになっているのですが、建設費は当時で坪82万円」


1) 鉄筋コンクリート造で坪単価82万円/坪
2) 施工は天下のスーパーゼネコンの鹿島建設

加計学園が鉄骨造(s造)を選択した理由は次の2点でしょう。

1)開学を2018年4月に間に合わせる為に後期が短い鉄骨造を選択
2)鉄筋コンクリート造(RC造)に比べ施工コストが安く出来る

鉄筋コンクリートは現場で鉄筋を組んで型枠を嵌め、コンクリートを流し込んで建物を作ります。最近では鉄筋を組む配筋工が不足してコストが高くなりがち。

ただ、壁や床の遮音性が高いので、住宅やホテルなどは一般的にはRC造で建設され学校の多くもRC造が多い。(昨今の高層の大学はR造が多い?)

いずれにしても、加計学園の本体工事費の80万円/坪は高すぎます。


■ 5年前より建設コストが4割も値上がりしたのか? ■


加計学園は「5年前より建築費が4割値上がりした」と主張しています。

現状126万円/坪ですが、5年前の見積時には75万円/つぼだった・・・となります。

国土交通省は各市町村の建築費の統計を発表していますが、今治市の学校施設の建設は加計学園しか無い事は市民団体が市に確認しています。その上で、国土交通省の統計では今治市の学校建設の坪単価は80万円/坪となっています。

この数字は国土交通省のアンケートに建築会社が回答したもので、建築費とは当然設備工事などを含む費用です。

1)国土交通省のアンケート時点では建築費は80万円/坪だった(建設会社回答)
2)見積もり時点から5年経過し、実際の建築コストは4割増しの126万円/坪になった

加計学園の説明は、こう解釈する事が出来ます。

ところで、建築費は5年前から4割も高騰したのでしょうか?



2013年から2016年の資料ですが、2012年から2017年で比較しても、工事費は2割も上昇していないでしょう。311地震直後とアベノミクスの後に建築コストはポンと上昇してました。特に鉄骨などの値上がりと、配筋工などの人手不足が民間工事を圧迫しました。しかし、現在はコスト上昇は一段落しています。

建築関係でお仕事をされている方なら当然「オカシイだろう!!」と突っ込みを入れます。

■ MIRなど高額な設備は建築費に含まれない ■

ネトウヨの主張する「MRIなどの高額な設備が建築費を引き上げている」という主張も間違っています。

MRIなどの設備は建築工事には含まれません。確かに分厚い鉄筋コンクリートの壁で構築されるMRI室は建築工事のコストを若干引き上げますが、全体の工事費からは微々たるものです。

同様にバイオセーフテーレベル2や3の実験設備もそれ程全体のコストには影響しません。基準が求めているのはウィルスや細菌の封じ込めと漏洩防止で、機密性の高い部屋で、空調を室内側に負圧にし、排気には高性能のフィルターを設置するだけとも言えます。後、廃液の処理も必要ですが、これは多分薬剤処理で済むはずです。(強酸環境にするとか)

むしろバイオセーフティーレベルの基準が求めているのは「運用上」の問題で「WHOはBS3の実験設備の廊下を一般立ち入り禁止にすべし」としています。仮に細菌やウィルスの漏洩があったとしても、廊下を封鎖すれば感染拡大を防止出来るからです。多くの研究施設ではBS3の研究室を別棟建てとするなど、封じ込めに万全を期しています。

一方、加計学園のBS3の実験室は不特定多数の学生が滞留するスペースの一画に設けられています。学園側は「資料は試験管の中に封入されている」と主張しますが・・・仮に搬送時に試験管から資料が漏洩した場合は、フロアー閉鎖という対策が取られるのかも知れません。

■ 大型動物の飼育施設が無い??・・・ビックリだ ■

加計学園の獣医学部の建設コストの増加に、もしかしたら大型動物の排泄物の浄化用の高度な汚水処理施設がありのかな・・・などと私は妄想していました。

しかし、何と、加計学園の獣医学部には大型動物の飼育施設が無い事が判明しました。

1) 馬に関しては今治市で保存されている日本在来種の農耕馬の野間馬を
   実習に使いたいと加計学園が要請
2) 牛や豚に関しては近隣の農家で実習を行う

世界的な研究を行い、四国に産業動物獣医を供給するはずの加計学園獣医学部に大型動物の飼育施設が無いとは驚愕です。これでは一般的な獣医学部の基準すら満たしていません。

大型動物の飼育にはコストが掛かります。それを外注しよう・・・そんなケチケチ獣医学部が、何故ホテル並みの建築コストを掛けるのか・・・理解出来ません。


■ 建築関係者の酒の肴にしかならない建築費水増し ■

加計学園獣医学部の建築費は、建築業界に居る人間からすれば笑ってしまうほど割高です。

しかし、これを声高に指摘する建築関係者は前述の森山氏位でしょう。

多くの建築関係者が少なからず公共建築に携わっていますから、ゼネコンも大手設計事務所も、いえいえ中小の建築業者も設計事務所も、国や自治体や政治家の機嫌を損ねる事はしません。叩けば埃の出る身ですから、下手に指摘すればブーメランになって自分に返って来ます。

だから、建築業界の中から表立って「加計の施工費はどうなってるの?」なんて声は聞こえてきません。ただし・・・酒の肴にはもってこいお話題です。

「やり方が露骨過ぎるんだよ。もっと上手く誤魔化さないと・・・」なんて言われているのでしょう。私は大人ですから、仲間内で政治的な話はしませんよ。だからブログでガス抜き。



まあ、建築関係と言えども設備関係の末席ですから、建築費の積算の仕方なんて知らないんですけどね。ただ、同じ妄想でも、ネトウヨの妄想よりは現実に即していると思うのですが・・・。


<追記>

この問題、一番問題なのは今治市が図面と見積内訳を最後まで検証しなかった事。「これだけ掛かります」と言われて「ハイ、そうですか」と言たならば、これは「背任」に当たる。

今治市の担当者にマスコミが取材したら「この件は普通じゃないんです!!」と逆切れされたとか、しないとか・・・。まあ、可愛そうなのは担当者ですけどね。