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リフレ政策の限界・・・日銀のショボイ追加緩和

2015-12-22 04:06:00 | 時事/金融危機
 
三橋貴明氏の記事にいただいたコメントの反論が長くなったので、こちらに転載します。

現在の日銀の異次元緩和の表向きの目標は2%のインフ
レ目標の達成ですが、日銀はテクニカル的にはマネタリ
ーベースを毎年80兆円積み上げる事を目標値としてい
ます。

マネタリーベースは簡単に言えば現金預金の合計です
が、この中には銀行の日銀当座預金が含まれます。異次
元緩和前は銀行はゼロ金利の資金を日本国債で運用して
利ザヤを稼いでいましたが、異次元緩和後は、日銀に国
債を売却した資金を日銀当座預金に預け0.1%の金利
をノーリスクで稼いでいます。日銀は当座預金に積み上
がった資金で国債を購入しているので市中の資金は増え
ず、極端なインフレは起こり難い状況です。

日銀が本気でインフレを起こそうとするならば、ECBの
様に中央銀行の当座預金金利をマイナスにしてその資金
が市中に出て行く様に誘導すれば良い訳で、この点は日
銀が本気でインフレを達成する気があるのかが疑われも
します。

確かに、銀行は超過準備をベースに信用創造によって貸
出を拡大する事が可能ですが、現在の日本においてはマ
ネーストックはほとんど増えていません。(貸出が拡大
していない)

結果的に異次元緩和後の日本でインフレを生み出してお
いるのは、円安による輸入価格の上昇だけとなっていま
すが、これは原油価格の下落によって相殺され、インフ
レ目標の達成には至っていません。

異次元緩和後に物価の上昇は限定的ですが、不動産や株
式など資産市場ではミニバブルが発生しています。これ
は、日本経済の成長率が低下している中で、ゼロ金利で
ばら撒かれる資金で手軽に金利を稼ごうとした場合、資
産市場で運用する事が合理的な事から、市場に緩和マネ
ーが流入した結果です。

さらに日銀は不動債RIETや日本株ETFを直接購入すると
いう世界の中央銀行でも類を見ない積極的な資産価格上
昇(下支え)政策を実行しています。結果的に日本株は
2万円まで回復し、東京を中心に不動産市場はミニバブ
ルとなりました。

金融緩和政策の大敵は「バブルの形成」ですから、日銀
は危険な橋を渡っている様にも思えます。タワーマンシ
ョンを始めとする東京のプチ不動産バブルは2007年
当時同様に崩壊の兆しが見え始め、株式市場もFRBの利
上げによって世界的に下落圧力が高まっています。

日銀の政策は一見矛盾している様に思われますが、サマ
ーズ元財務長官やクルーグマンは最近、「成熟して成長
力が低下した先進国において経済成長やイノベーション
を達成する為にはバブルが必要だ」的な発言をしてお
り、私はリフレ派は80年代以降、敢えてバブルを作り
出す事によって先進国で経済成長を強引に達成していた
と考えています。その結果、アメリカでは10年周期で
バブル崩壊を繰り返して来ました。

現在の金融緩和バブルは、先進国の国内では無く、金融
市場を通じて新興国で拡大しました。その結果、新興国
のインフラが整備され、生産性が拡大し、新興国の国民
の所得が拡大して大きな需要を作り出しています。

但し、先進国が緩和的金融政策を縮小する過程で、新王
国バブルは崩壊し、アジア通貨危機の様に進行国経済は
グローバルな金融資本家達に安値で買い叩かれる事にな
ります。これはかつて日本のバブル崩壊で起きた事
で、同時にBISがバーセルの基準を厳しくした事で、日
本の銀行は自己資金を厚くする為に持ち合い株を売らざ
るを得ず、それを外資が格安の価格で購入して、日本の
企業は株式によって海外の資本家に支配される結果とな
ります。

この様に中央銀行がリフレ的政策を実行する理由は、低
成長経済を強引にバブル化させ、世界に資金を供給する
事にあると思われますが、バブル崩壊の引き金は中央銀
行の利上げが握っています。

グリーンスパンはアメリカの住宅バブルが指摘される中
で敢えて利上げを先延ばししてリーマンショックの原因
を作りましたが、その結果の世界的な金融緩和によって
新興国経済は大きく発展しました。


この様にリフレ政策の「本音と建て前」は大きく乖離し
ていますが、日銀の世界に例を見ない「異次元緩和」と
いう実験がインフレ率上昇にあまり寄与出来なかった結
果を受け、クルーグマンなどリフレ派の重鎮も、リフレ
政策が無条件にインフレ率を上昇させるとは言わなくな
りました。成長力の落ちた経済では効果は限定的という
認識を示す様になっています。要は、ゼロ金利の制約を
受けるのです。

リフレ派の主張は「ゼロ金利に陥った経済では、リフレ
政策によって実質金利をマイナスに下げる事で資金供給
を拡大し、将来的なインフレ期待を高める必要が有
る」というものですが、これは異次元緩和では初期の期
待の醸生には成功したものの、その後の期待インフレ率
は低調です。

一方、日銀の国債買い入れによって中短期の国債金利が
マイナスになっています。リフレ派的にはマイナス金利
は好感されるものだと思うのですが、日銀は先日の「シ
ョボイ追加緩和」で、購入国債の残存年限を長期化する
事で、中短期国債の購入割合を減らしマイナス金利の発
生を避けています。これはマイナス金利では日銀に損失
が発生するからで、ここら辺がリフレ政策の限界とも言
えます。

一方、マイナス金利の発生の要因は、マイナス金利でも
外国人投資家は為替差益を利用して利益を上げる事が出
来る事で、これが日銀を「ショボイ追加緩和」に追い込
みました。

この様に異次元緩和はテクニカル的には限界に達しつつ
有り、日銀の手詰まり感が顕著になったのが先日の「シ
ョボイ緩和」だと言えます。市場は敏感に反応して円
高・株安が進行します。円高になったのは、これ以上の
規模の追加緩和が短期的には望めない為の調整で、長期
的には日銀の信用失墜は円安要因となって行きます。
この様に通貨政策は「単に通貨を増やせばインフレが達
成され経済が成長する」といった簡単なものでは有りま
せん。

各中央銀行は市場動向を確認しながら、様々な言葉を弄
して市場をコントロールし、通貨政策の変更が過剰は反
応を引き起こす事を抑制しています。これが「市場との
対話」と呼ばれるものです。

FRBは利上げに成功しましたが、これは今年に入ってか
ら各中央銀行総裁が「世界経済は新興国や一部の株式市
場でバブル化しつつある」などと発言して、過剰リスク
を整理させてきた事に勝因が有ります。

但し、ECBと日銀はFRBの政策変更に際して量的緩和を拡
大し、世界的な資金量が減らない様に援護射撃を行って
来ました。ただ、これも今年12月のECBの追加緩和
も、先日の日銀の「ショボイ追加緩和」も規模的には十
分では無く、市場は「失意」を示して株価が下落してい
ます。

FRBの利上げによってジャンク債市場など、ほぼゼロ金
利の資金の支えられた高リスク市場で崩壊が既に始まっ
ています。アメリカの企業などはジャンク債市場で安く
調達した資金で自社株買いを行い、株価を吊り上げると
同時に財務状態を改善していましたから、利上げによっ
てこの好循環の環境が変化しました。ダウ平均など世界
の株価が下落傾向にあるのはこの影響も少なくありませ
ん。

今後は原油などの商品市場、新興国市場、ジャンク市場
から崩壊が始まり、これが株式市場に波及してリーマン
ショック以降の量的緩和バブルが崩壊して行きます。

ここで、FRBが金利を再び下げると、中央銀行の信用問
題から米国債金利などがぴょんと跳ね上がる可能性が有
り、2016年夏以降、世界経済がヤバイ事になりそう
だと予想するアナリストが増えています。

・・・・大変長くなりましたが、多分リフレ派の重鎮達
自身が信じていないリフレ政策が世界に何をもたらすの
か、来年以降、私達は身を持って経験する事になるので
しょう。