
六巻で小松原こと小野寺数馬へ断りを入れる予感がしてましたが本人へ直接申し入れると、澪のせいではなく小野寺家の事情で武家修行を中止する段取りを組んでくれることに。そして意に添わない縁組を受け入れることで、料理人に戻る澪を守ったのでした。ひょんなことから客の話を聞きかじったことで、夜間の輿入れ行列を見てしまい、おそらくそれが原因で匂いと味が分からなくなります。そのため、二か月間翁屋の又次に来てもらって急場を凌いだのですが、契約終了で帰ると今度は吉原遊里から火の手が上がったのでした。太夫は助け出したものの、又次は背中に大火傷を負ってしまい亡くなります。
皮肉なことに、太夫の髪の焦げる匂いをかいだことで、嗅覚と味覚は戻りました。現代でも精神的なショックで髪の毛が抜けたり、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に影響を及ぼすことがありますが、それに相応する体験をすることで戻ることがあるそうです。精神と体のバランスは微妙な関係にあるんですね。またおりょうの夫伊佐三の親方が卒中で療養してるんですが、人間は自力で治癒する力を持ってるんだから手を貸しすぎてはダメ、というのはいかにも医師らしい源斉の言葉です。
噛む力があるのに、擂り潰したり細かく砕くという、余計なおせっかいはバリアフリーにも同じことが言えます。まだ歩ける段階からそういう環境に身をおくと、足が上がらなくなり(自宅以外の)少しの段差でも躓くようになります。世には(違った論点での)シルバーシート不要論もありますが、何でもかんでも手を差しのべるんではなく、高齢者を甘やかさないという視点も少しは考慮してもらいたいものです。
【語彙】
くさめ=くしゃみ
矢庭(やにわ)に…いきなり。突然。だしぬけに。この字を当てるとは知りませんでした。
簓(ささら)…竹や細い木などを束ねて作られた洗浄道具。
一陽来復(いちようらいふく)…悪いことが続いた後で幸運に向かうこと。