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その蜩の塒

徒然なるままに日暮し、されど物欲は捨てられず、そのホコタテと闘う遊行日記。ある意味めんどくさいブログ。

夏天の虹

2014年12月03日 | 本・雑誌
 この巻は、災難続きでした。唯一いいことと言ったら、鯛の福探しが当たり、牡蠣の宝船が完成したことぐらいでしょうか。ふきが健坊に折って持たせた紙の宝船、芳から聞いた奉書焼、種市が炙ってた出汁昆布など色んな人からのヒントを得て作った牡蠣の宝船が、ついに人気料理に。でもそれ以前には大関位から陥落したばかりか、番付表から「つる家」の店名が消えてしまうという事態も。

 六巻で小松原こと小野寺数馬へ断りを入れる予感がしてましたが本人へ直接申し入れると、澪のせいではなく小野寺家の事情で武家修行を中止する段取りを組んでくれることに。そして意に添わない縁組を受け入れることで、料理人に戻る澪を守ったのでした。ひょんなことから客の話を聞きかじったことで、夜間の輿入れ行列を見てしまい、おそらくそれが原因で匂いと味が分からなくなります。そのため、二か月間翁屋の又次に来てもらって急場を凌いだのですが、契約終了で帰ると今度は吉原遊里から火の手が上がったのでした。太夫は助け出したものの、又次は背中に大火傷を負ってしまい亡くなります。

 皮肉なことに、太夫の髪の焦げる匂いをかいだことで、嗅覚と味覚は戻りました。現代でも精神的なショックで髪の毛が抜けたり、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に影響を及ぼすことがありますが、それに相応する体験をすることで戻ることがあるそうです。精神と体のバランスは微妙な関係にあるんですね。またおりょうの夫伊佐三の親方が卒中で療養してるんですが、人間は自力で治癒する力を持ってるんだから手を貸しすぎてはダメ、というのはいかにも医師らしい源斉の言葉です。

 噛む力があるのに、擂り潰したり細かく砕くという、余計なおせっかいはバリアフリーにも同じことが言えます。まだ歩ける段階からそういう環境に身をおくと、足が上がらなくなり(自宅以外の)少しの段差でも躓くようになります。世には(違った論点での)シルバーシート不要論もありますが、何でもかんでも手を差しのべるんではなく、高齢者を甘やかさないという視点も少しは考慮してもらいたいものです。

【語彙】
くさめ=くしゃみ
矢庭(やにわ)に…いきなり。突然。だしぬけに。この字を当てるとは知りませんでした。
簓(ささら)…竹や細い木などを束ねて作られた洗浄道具。
一陽来復(いちようらいふく)…悪いことが続いた後で幸運に向かうこと。

心星ひとつ

2014年11月14日 | 本・雑誌
 今回も沢山のエピソードが盛り込まれ、一緒に悩み抜き問題解決の糸口を探るような仕掛け満載でした。そして季節の行事や料理を取り入れることで、時の移ろいが巧みに表現されているのですよね。何気に物知りな「りう」の口を借りて、解決の突破口になるような人生指南を説かせてるのも心憎い技法です。また、今回は生麩作りで大失敗してしまいますが、失敗談から学んでいつの間にか成長しているのも、シリーズを通しての展開でしょう。

 坂村堂が一柳の柳吾の息子だというのは、とうに分かってたものと思っていましたが、やはり順序立てて読まないとダメですね。現代で言うところのストーカーですが、芳目当てに連日つる家へ通う「よし房」の店主には辟易でした。後々出てこないでほしいものです。

 続いて翁屋の伝右衛門から申し出のあった天満一兆庵の再建と、登龍楼から神田須田町店売却話が同時に舞い込むも、両方の話を断ってしまいます。もしもその話を受けてたらどうなるのか、といったその後の展開を考えてみるのも面白いと思います。

 元飯田町はボヤが多いため、飲食店は火の扱いを朝五つから四つ(八時~十時)に限定され、苦肉の策として出した弁当が当たった、という話のもっていき方も上手かったですね。いよいよ最終談で、小松原のプロポーズを受けるのかどうか、という核心に迫ります。小松原は実名を小野寺数馬といい、駒澤家へ嫁いだ早帆は実の妹という事実も判明。一旦は受けるものの、心星(北極星)に照らし合わせて次巻で断るような予感が。。

『天の梯』

2014年11月03日 | 本・雑誌
 まだ3巻読んでないんですが、待ちきれずに最終巻を読んでしまいました。つる家から独立し、一人暮らししてひとつ百六十文の鼈甲珠を毎日三十個ずつ翁屋に卸し、その仕込んだあとの床で粕漬けを二十文で売ってるものの、四千両にはほど遠く埒が明かない状態。そんな中、ふきのミスで菊花と蕪の酢の物が盛られた絵皿から毒が滲みて、源斉の母かず枝が一時重体になったり、政吉の自然薯料理でつる家が張出大関になるも、話が一向に核心に入りません。残りページ数を勘定しながら読み進むと、今度は酪(バター)製造疑惑で一柳が危機に。結局その事が原因で登龍楼は廃業することになりますが、店主の采女宗馬が逃げのびてしまったのは、何とも解せません。

 それからの話の展開は、摂津屋を巻き込んだ四千両の算段、源斉との夫婦の契り、野江の身請けまで息もつかせぬラッシュで一気に読んでしまいました。別れ話が多く目頭を熱くしながらでしたが、未来に希望が持てる素晴らしいエンディングでした。巻末の瓦版によりますと、特別巻の刊行があるそうなので大いに期待したいと思います。

『小夜しぐれ』

2014年10月31日 | 本・雑誌
 シリーズ第五弾を読みました。藪入りにふきの弟健坊と一緒につる家で過ごしてもらうなど、時に粋な計らいをしたり極めて温厚な店主の種市ですが、こと「おつる」に関してはこれまでも激高することがありました。今回は、別れた女房のお連登場で、おつるの死の真相が明らかになります。おつるを死に追いやった錦吾は、谷町の湯屋で吾平という偽名で働いていたのです。それを知った種市は包丁を持って敵討ちに出掛けますが、目の前で小さな幸せを見せられそれを壊すことができませんでした。いい話じゃないですかー。

 もうひとつのトピックスは、花見の宴に出す翁屋の料理を作ることになったのもありますが、なんと言っても両替商伊勢屋の美緒が源斉をあきらめ、中番頭の爽助を婿にする決意を固めたことじゃないでしょうか。その饗膳を澪が作ることになります。料理人としては腕の振るいどころですね。

 そして皆で浅草寺へ出掛けた際、芳が筏に乗った息子佐兵衛を見かけてしまいます。生きているのが分かっただけでもと納得しようとすればするほど、会いたくなるものです。それにしても不注意でケガした澪の指はなかなか治りませんねー。もしかしたら、色んなものを引きずるのが小説の手法かもしれません。

 ※今シリーズ最終巻「天の梯」を読んでるんですが、最終ページの五巻が「小夜しぐれ」じゃなく「小夜しぐし」になってました。誤植ってあるもんですね。

『今朝の春』

2014年09月11日 | 本・雑誌
 みをつくし料理帖第四弾「今朝の春」を読みました。日本橋両替商伊勢屋の一人娘美緒が、大奥入りするための包丁修行として、つる家の澪から習うことに。その身辺を探ってたのは小松原の母だったようで、身分違いからいつの間にか話も絶ち切れ美緒の包丁修行も終了。「ははきぎ」とは「とんぶり」のことですが、それほどまでに実を剥くのが大変だとは。浮腫みに効く薬種なんですね。

 話は一転して、清右衛門が新戯作で吉原のあさひ太夫を書くことに。当然ながら、澪は旨い蕪料理の褒美として、書くのを取り止めてほしいと懇願。「戯作者の筋立てよりも、澪の身の上話の方が上を行くのが癪にさわる」とは、いかにも清右衛門らしい台詞。同時に清右衛門から、澪があさひ太夫を身請けするようにとのアドバイスをもらうも、四千両という額に途方にくれてしまいます。また女衒(ぜげん)の卯吉が野江を吉原へ売り飛ばしたことも発覚し、又次がつる家で大暴れし、清右衛門も負傷したことも多少は響いてますかね。

 場面が変わり今度は、太一の声が出ないことに気を揉む「おりょう」と伊佐三夫婦。すったもんだした挙句、伊佐三の柴又帝釈天への百日詣の願掛けがあと僅かで台無しに。師走に入り、登龍楼との寒鰆対決に昆布締めで挑むも唐墨には勝てず。そういえば、釣り好きな人が黒鯛を釣り上げると昆布締めにすると言ってましたな。

 相思相愛の小松原との恋は、身分差もあり成就しそうもありませんが、しばらくはこの距離で付き合っていくことになるのでしょう。