goo blog サービス終了のお知らせ 

その蜩の塒

徒然なるままに日暮し、されど物欲は捨てられず、そのホコタテと闘う遊行日記。ある意味めんどくさいブログ。

仇討ちの客

2015年02月09日 | 本・雑誌
 高瀬川女船歌第六弾。物語は、十二歳にして父の仇討ちに旅立った上沼大炊助と母の加奈、下僕の安五郎が旅籠「柏屋」に泊まるところから始まります。三人もとなると路銀がかかりますので、積荷問屋で日銭を稼ぎますが、そのうち昔取った杵柄よろしく安五郎は賭場に出入りするようになります。結局最後は賭場荒しで逆恨みをかい落命します。最初こそ親類縁者からの仕送りもあったようですが、月日が経つにつれ親戚筋にとっても疫病神以外の何ものでもなくなってくるんでしょうね。

 元武士で居酒屋「尾張屋」の店主宗因はじめ、柏屋、角倉会所の面々など周りの援助により、着々と仇討ちの準備が整いつつあったのに、立花師の釣雪と知り合ったことで大炊助のまさかの方向転換。人はどういう出会い方をするか分からないものですね。

 「親のなさけ」の段では、石女(うまづめ)として離縁された「おみつ」が、再婚して懐妊したことには溜飲を下げました。しかし、相手の不幸を願う「足引き寺」というのが本当に存在するんですかねー。店先に小さい黒い石を毎朝置くっていうのも執念深いですね。

 まっとうな生き方を貫き通す鯉売りの末松、引き売り屋の民蔵の飼ってた元捨て犬の黒の話、盗賊の太市が悔い改める「悔悟の藺行李」、大炊助が助けた千松の父親の冤罪が晴れた話など、それぞれに苦悩する登場人物を救ってくれる部分があってホッとさせられました。十両盗んだら打ち首ということで、九両三分二朱にしたことから「どうして呉両(九両)三分二朱」の川柳ができたことも勉強になりました。

乾山晩秋

2015年01月13日 | 本・雑誌
 アマゾンの中古本で買ったんですが、かなり状態が悪かったです。こんな本を中古に出す人の気がしれないですね。本書は江戸時代の絵師を題材とした短編集です。
『乾山晩秋』尾形光琳の弟は深省といい、陶工で号を乾山と称してました。光琳が絵付けし、深省が筆で讚(さん)を書く乾山焼きが大いに評価されました。光琳は女遊びがたたって、死後も「ちえと与市」が訪ねてくることに。遊ぶ金に困らなかったというのは、当然スポンサーがいたわけで、それが材木商の冬木屋(弥平次)。元禄時代には他にも材木商にして豪商がいました。紀伊國屋文左衛門(紀文)、奈良屋茂左衛門(奈良茂ならも)、柏木屋伝右衛門など。※紀文は紀文食品とは無関係です。

 また京都銀座(貨幣鋳造所)の役人、中村内蔵助も光琳のパトロンの一人だったようですが、貨幣改鋳で得た富を光琳を介して赤穂浪士へ流してた、という説はなかなか鋭い推論です。しかしながらその赤穂浪士が、禁裏の命により高家旗本の吉良上野介義央を討ったというのは、疑問を持たざるをえません。いわゆる忠臣蔵なんですが、二年前に吉良上野介への刃傷沙汰を起こし切腹した、赤穂藩主浅野内匠頭への忠義と解釈した方がスムーズです。

『永徳翔天』後に永徳と名乗る狩野源四郎は、水墨画と大和絵の融合を目指しました。源四郎の父松栄は豊後の大友宗麟の元へ行ったように、絵師とて誰につくかで自身の運命も左右される時代でした。源四郎は誰につくのかという視点で読み進むと面白いと思います。結局信長、秀吉に仕えることになりますが。作品は戦乱で焼失して、真筆は十数点しか残ってないそうです。子どもは、「ヘタ右京」と呼ばれた嫡男光信と次男孝信。才能は必ずしも遺伝するものではありませんが、孝信の子探幽が台頭してきます。芸術的才能は、どうも隔世遺伝が強いのではないかという気がしてます。

『等伯慕影』武田信玄の肖像を描いた礼に、勝頼からもらった碁石金を巡っての攻防は、とても面白かったです。崖から転落して漁師の五郎兵衛に助けられ、その娘「なつ」と逃亡を図りますが、山伏に襲われ見捨てます。その後、京都奉行前田玄以の別宅で会った六条遊女屋の女主人が「なつ」でした。この辺のストーリーは、おそらくそう来るだろうと私でも読めました。華美に走りすぎた狩野派の絵を嫌った「詫び茶」をめざす利休が、等伯を起用したことにより長谷川派の隆盛を極めることになります。

『雪信花匂』狩野探幽の姪の娘「清原雪信」について書いたもの。狩野探幽は諱(いみな)を守信といい、よって雪だった娘は探幽から一字もらって「雪信」に。若くから探幽に可愛がられましたが、三十九歳という若さで早世しました。雪信の娘「春」も後に「春信」と名乗ってます。狩野家は、惣領家の中橋、木挽町、鍛冶橋と三つに分かれ、その他に浜町とか京狩野があり一族の中での争いもありました。探幽ですら狩野の名に縛られていた、とは驚きです。話は変わりますが、芸人の「狩野英孝」、よくそんな畏れ多い芸名を付けたもんです。

『一蝶幻景』朝湖こと英一蝶(はなぶさいっちょう)の短編。島流しが出てきますが、流刑地は主に佐渡島と伊豆七島。でも七島全部ではなく、三宅島、八丈島、新島の三島。西の方は壱岐、隠岐、天草、薩摩五島列島、まれに沖縄。レアなところでは加賀藩の五箇山。庄川の対岸にありますが、渡ってこられないように橋がかけられませんでした。芭蕉も登場します。「生きてることはすべて苦行」って言われたら返す言葉がみつかりません。

【漢字】
軽忽(きょうこつ)…軽々しいこと。軽はずみなこと。

讚(さん)…絵に添える詩文。

総髪(そうはつ)…月代(さかやき)を剃らない髪型。現代でいうオールバック。

客死(かくし)…旅先または「よその土地」で死ぬこと。

『実朝の首』

2014年12月25日 | 本・雑誌
 本作はいつもの架空の藩が舞台ではなく、史実を忠実にトレースしてるため、系譜が難しくやや面白味に欠ける点は否めません。源実朝の首を巡って攻防戦が繰り広げられ、首はあちこちへ移動することになります。それにしても首桶に入れて持ち歩くなんて、鎌倉時代は随分物騒な世の中でしたね。亡くなってから70日以上も経過したらしいことも書かれてありましたが、腐敗が進んで匂いがきつかったと思われます。腐敗防止については一切語られてませんが、当時は酒漬や塩漬けだったようです。鎌倉の名の由来は、竈に似た地形で竈谷の地名から鎌倉になったと解説してありますが、諸説ある中の有力な説にすぎません。

 摂津源氏(清和源氏)と河内源氏の覇権争いもありますが、時の執権北条家が頼朝に繋がる源家の血筋を根絶やしにしようとする動きは、凄まじいものがあります。実朝の夢は、将軍の座を巡っての争乱をなくすため、京から皇族将軍を迎え続けることにありましたが、後鳥羽上皇が「親王を鎌倉へ下さない」のは実朝の夢とは相反するものです。上皇は鎌倉が自ら壊れることを望んでたわけで、それは将軍の座を巡っての争乱が増えてほしいと願ってたからでしょう。

 尼将軍の異名をとった政子といい、三寅の正室になった鞠子、後鳥羽上皇の愛妾伊賀局(亀菊)など女性の活躍も見逃せません。政子は十九万騎で京へ攻め上り勝利しますし、鞠子は箱根の峠道に馬で駆けつけ、実朝の遺言を語ることにより、義秀、朝盛に三寅を奪う計画を断念させます。物語の最後では、実朝暗殺の実行犯公暁を唆したのは源頼茂ということになってましたが、大どんでん返しが。。クリスマスに相応しい読み物ではないことは確かですw

夢のなか~慶次郎縁側日記

2014年12月07日 | 本・雑誌
 八編の短編で構成されてます。
師走…道を尋ねたことでお梅に騙された「おつぎ」は、五郎蔵と暮らす築地のアジトへ連れていかれます。そこへ五、六歳の女の子を連れた五郎蔵が現れます。拐(かどわ)かしではないと思われますが、もう少し大きくなったら吉原へ売り飛ばす算段かも。吉次に五郎蔵だけ捕まえてほしい、というのは虫が良すぎるのではなかろうか。

 水光る…腰をさされ土手から落ちた「おけい」は、身篭ってた子どもを流産してしまいます。犯人は、おけいの夫・喜八郎が付き合ってた平右衛門町の料理屋笹ノ井で働いている「おくみ」の仕業だと思われましたが、どうやら付木売りの利助におくみが殺人依頼したようです。ですが当のおけいが刺された覚えはないとは、とんだ茶番ですよ。

 夢のなか…伊八の父は実は祖父であったというのは衝撃的ではありましたが、小説のタイトルでもある小編のわりにはどうでもいい話かなと。。

 棚から盗人…空巣で貸本屋の金五郎に騙されかけた安次が、煙管に彫ってあった小吉という名前から、一転して犯行をあばいたのは天晴。しゃべり過ぎはよくないという戒めですよ。

 入婿…値段のことで番頭がいちいち八右衛門に相談してるのをみられている、あるいは相談にくるから値引きをしなければならなくなる、しかし値引きしないと商いの話がつぶれることもある。これは営業のイロハですね。普通は役職のランクによって決済権限の金額を設けてますが、ヒラではそれができませんものね。

 可愛い女…いつの世でもダメ男に惹かれる女はいるものです。

『残月』

2014年12月04日 | 本・雑誌
 みをつくし第八巻。亡くなった又次の面影膳のように、亡き人を偲んで影膳を上げたりすることも日々の生活に追われてしなくなった、というより出来ない世の中になってしまいましたね。昔は精進料理も食べてた記憶がありますが、それも今は昔。食えてる有難さに感謝する機会も逸してしまってる、と改めて感じました。

 シリーズを通して、おりょう、ふき、時々りうが緩衝材的役割を果たしてたんですが、その一人おりょうが伊佐三の親方の元へ引っ越してしまって、澪の向かいは空き家に。環境や人間関係を含めて、ベストな状態を維持するのは難しいですね。病気になったり亡くなったり、予期せぬことが起こるのが世の常ですから。

 後半は、澪には関わりたくない登龍楼から引き抜きの話が舞い込むも断りますが、結局鼈甲珠はマネされることになります。采女宗馬はホント憎たらしいヤツです。またこの巻のトピックスとして、旅籠「よし房」の店主房八が後添いを貰い、澪はその内祝いの仕出しを受け絶賛されますが、他方その席で柳吾と息子坂村堂との諍いがあり激高が原因で柳吾は倒れてしまいます。その看病を芳が引き受けたことで、柳吾からプロポーズを受けます。この辺の話の展開はスムーズで上手いですね。