昨年の夏に買って、そのままになっていた高山羽根子さんの『首里の馬』をようやく読了。
第163回芥川賞受賞作。
確かラジオの何かの番組で作家さんの対談があって面白そうと思ってすぐ買ったんでした。
買っただけでチラッと読みかけてましたがじっくり読むチャンスがなく。
半年経った今日やっとページを開き、そこからは一気に読みました。
いや〜いい本でした。
ここからはネタバレありです。
まず文体がリズミカルで描写がとても細かいのが好感が持てました。
沖縄が舞台で、私が沖縄の歴史をあまり知らないこと、具体的な地名や建物の描写なども手伝って、この物語があたかも実在の人物の話かと思えるくらいでした。
史実とファンタジーが入り混じり、まるでどこかで誰かに伝え聞いた体験談のようです。
主人公の未名子(みなこ)、そして順(より)さん、娘の途(みち)さん。そしてカンベ主任、あとはヴァンダ、ギバノ、ポーラという画面越しの人。そして台風の日に突如として現れた宮古馬のヒコーキ。
どの人にもそれぞれ歴史があり、悲しみや孤独を心に抱えながら柔らかく繋がり合っていく物語。
順さんの仕事が民俗学者でいろんな資料をただただ長い間集めているだけということや、未名子の仕事が画面越しの海外のクライアントに日本語でクイズを出すオペレーターだとか、実際にはなさそうでありそうで、どちらともわからないちょっと夢の中に迷い込んだような設定もすっごく面白いです。
沖縄の人は名前がちょっと変わっていることが多いんですが、母娘の名前を繋げると「よりみち」になるところだとか、未名子という漢字だとか、あんまりないかな〜とも思います。
名前なのに「未だ名前がない」って面白いですよね。
馬の名前が「ヒコーキ」というのも作者さんのセンスが楽しいです。
あと、余談ですがかなり面白かったのは、このくだり。
「未名子は、この世界の、あるひとつの場所をみっつの単語で紐づけて示すやり方があることを、しばらく前に知った。・・・・」(本書152ページ)
へえ〜〜、そうなんだ。
ということで早速そういうモノがあるのかなとググってみると、
こんな記事が。
「正確な位置情報が変える世界。」
ここで紹介されている、what3wordsというアプリを使うといいらしいです。
早速、
この本に出てきた「にくじゃが」「まよう」「からし」を入れてみました。
するとココが出てきました。
首里城です。
すごいですねー。
3メートル単位で場所の特定ができるそうで、これは待ち合わせの時に便利ですねー。
なるほど。
それでは、次の6/20のPeppermint Leaf のライブの会場などお知らせしちゃおうかな。
「おうて」「こげちゃ」「くれない」
です。
わかったかな?
ということでブックレビューとはかけ離れてしまいましたが、
こういう「謎解き」みたいな仕掛けのある本ってとっても楽しいですね。
本題に戻って、
私が最後にジーンときたのはこの終わりの文章。
「これから毎日全てのものは変わる。(中略)役に立つかどうかなんて今はわからない。でも、なにか突発的な、爆弾や大嵐、大きくて悲しいできごとによって、この景色が全く変わってしまって、みんなが元どおりにしたくても元の状態が全くわからなくなった時に、この情報がみんなの指針になるかもしれない。まったく全てがなくなってしまったとき、この資料がだれかの困難を救うかもしれないんだと、未名子は思った。」
最近のアニメ映画「鬼滅の刃」や「シン・エヴァンゲリオン:II」を見た時にも思ったんですが、美しく描かれた日本の原風景を見て、この田んぼや畑、桜の花や菜の花、田植え、古い田舎の駅舎、、ができるだけ無くならずにいつまでも残って欲しいなと、つくづく感じます。
それは容易いことではないかもしれませんが。
壊すのは一瞬。
でも作り上げるのは時間がかかる。
「そんなことはないほうがいい、、、」という未名子の思いはそのまま作者の高山さんの思いなのだと思います。
昨日と同じ日常が、何も心配しなくてもあたりまえに続く世界。
そういう世界を望んでもいいのではないか、と思います。
少し先の未来に今を振り返った時、2021年という時はどういう風に語られるんだろう?とたまに思います。
新型コロナという未知の「敵」(?)に振り回された時代。
明日のことがどうなるかわからない、そういう緊張状態だからこそ、何事にも動じない物静かな未名子のような淡々とした生き方に憧れを感じます。
背筋をピンと張って宮古馬に跨る未名子のように、私も「こうであって欲しい未来」を静かにイメージし続けていこうと思えた、そんな小説でした。
興味をもたれた方はぜひご一読をオススメします。
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