The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『窓辺の愛書家』エリー・グリフィス著

2023-05-03 | ブックレヴュー&情報
『窓辺の愛書家』

創元推理文庫 2022/8/19
エリー・グリフィス(著)、上条ひろみ(翻訳)
”The Postscript Murders”

【内容概略】
≪ 本好きの老婦人ペギーが死んだ。彼女は「殺人コンサルタント」を名乗り、数多くの推理作家の
執筆に協力していた。死因は心臓発作だが、介護士のナタルカは不審に思い、刑事ハービンダーに
相談しつつ友人二人と真相を探りはじめる。だがペギーの部屋を調べていると、覆面の人物が銃を
手に入ってきて、ある推理小説を奪って消えた。謎の人物は誰で、なぜそんな行動を? 『見知ら
ぬ人』の著者が本や出版をテーマに描く傑作謎解きミステリ。 ≫

本好きの老婦人の死。
謎を暴く鍵は一冊の推理小説に?
伏線の妙、驚嘆の真相。これぞミステリ!
〈週刊文春ミステリーベスト10〉第3位
『見知らぬ人』の著者が贈る謎解き長編

作者であるエリー・グリフィス女史はイギリスのベテラン作家で、前作『見知らぬ人』では2020年
のアメリカ探偵作家クラブで最優秀長編賞を受賞しており、その続編にあたる作品が本書『窓辺の
愛書家』です。
こちらも、英国推理作家協会で最優秀長編賞の最終候補作として選ばれました。
ただ、続編とは言え、物語の繋がりはありませんが、前作にも登場したハービンダ―・カー刑事と
数人の登場人物は共通しているものの、物語としての連続性はありません。

高齢者向きの集合住宅に一人暮らしていた老婦人ペギーが急死した事から始まりますが、このペ
ギーがミステリ大好き、又何人かの著名なミステリ―作家達の執筆に協力していたらしい事、「殺
人コンサルタント」を名乗り、毎日窓から眺めた状況をメモに残していたという。
未だ元気であったペギーが突然亡くなったことから、介護をしていたウクライナ出身のナタルカ
が不審に思い警察のハービンダ―刑事に相談する。

このハービンダ―刑事は前作にも登場していましたが、インド出身、30代半ばになるのに両親と
同居、同性愛者・・と色々と思いを抱えています。

主な登場人物は、素人探偵として前述のナタルカ(モデルの様な美人、数学が得意、英国で大学、
居住権を得る為に一度結婚の経験あり)、カフェを営んでいる元修道士という珍しい経歴を持つ
ベネディクト(ミステリおたく)、ペギーと同じマンションに住んでいるBBCで元コメンテイター
をしていたという老紳士エドウェイン(実はゲイ)と、それぞれかなりユニークなキャラクター。
特に親しい仲間では無かったがペギーを囲んでベネディクトのカフェで知り合った3人組。 

ペギーの死に疑問を持った3人組が 時にハービンダ―刑事の協力を得ながら、その真相を探る
謎解きになるのですが、ペギーが特別にミステリ―に造詣が深く、何人ものミステリ―作家の執
筆に協力していたらしいところから、作中には実際の推理小説、又出版社、出版業界、ミステリ―
ドラマに関してのネタが多く登場します。
作中エドウィンの愛読書が”ジーヴス”だそうで、何となく納得。良いですねぇ。

ドラマに関しては、「主任警部モース」、「バーナビー警部」、「ヴェラ」、「ジェシカおばさん」、
「ブラウン神父」等のタイトルがアチコチに登場するので、そんな点も魅力で嬉しいところです。

前作はかなりシリアスな内容でしたが、今作は趣が異なり、スピーディー、ユーモアもあり、主人
公3人組+ハービンダ―刑事のそれぞれの視点から交代に章が代わり、3人の勢いに任せた行き当た
りばったりの行動にハラハラしつつも、不器用な捜査に引き込まれます。
時にユーモアも交えた会話を楽しみながらも、それぞれ重荷を抱え、悩みながらも精一杯生きてい
る様子が描かれています。

犯人捜しの為3人だけで無謀にも南部サセックスからスコットランドのアバディーン迄の車での長旅
等英国の風景も楽しみながら ハラハラしながらも素人探偵の行動に目を離せなくなります。

ハービンダ―刑事の相棒ニールも憎めない良い味を出しているし、ハービンダ―自身の家族と 愛犬
スタスキー(”スタスキーとハッチ”?←凄く懐かしい名前なんですが)の様子も描かれ、ハービンダ―
という人物のキャラクターも徐々に深まって来ます。

読み始めるまでそれ程の期待感はなかったのですが、今作は登場人物の魅力、スピーディーな内容、
ユーモアもありながらそれぞれの人生もしっかり描かれている、その上前述の英国ドラマ好き、ミス
テリ好きには嬉しい内容等々で予想以上に楽しめ、個人的には前作より読みやすくとても気に入った
作品になりました。
ジェンダー、人種問題、世界情勢等も含まれていて、色々考えさせられる内容になっていると言う
感じもありました。

加えて、翻訳も自然でスムーズである事も読みやすい要因になっていたと感じます。

この作品は以前『これから読むミステリ:その(6)』の記事中でご紹介した事があります。
前作も勿論読みましたが、手が回らず感想を書けていませんでした。
何と言っても、今回の作品の方が個人的には好きでしたので、大雑把ではありますがご紹介して置き
ます。

そうだ、久し振りに”ジーヴス”読んでみようかな。 と・・・・。






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