The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『カササギ殺人事件』 アンソニー・ホロヴィッツ著

2019-02-20 |  ∟カササギ殺人事件 /ヨルガオ殺人事件
”Magpie Murders”

『カササギ殺人事件』上&下 創元推理文庫 2018/9/28
アンソニー・ホロヴィッツ(著)、山田 蘭(翻訳)

『内容紹介』より 
現代ミステリの最高峰が贈る、すべてのミステリファンへの最高のプレゼント!

1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段
の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は小
さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。燃やされた肖像画、消えた毒薬、謎の訪問者、そ
して第二の死。病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理は――。現代ミステリのトップ・
ランナーによる、巨匠クリスティへの愛に満ちた完璧なオマージュ作品!

この作品は、≪年末ミステリランキング、史上初!の全制覇第1位≫
となっており、「#このミステリがすごい!」、「#週刊文春ミステリーベスト10」、「#2019
本格ミステリベスト10」、「#このミステリが読みたい!」での制覇だそうです。

へそ曲りなワタクシとしては、このキャッチに釣られた訳ではなく、あくまでも”アンソニー・
ホロヴィッツ”だからという事で手に取りました。

アンソニー・ホロヴィッツは、過去に”コナン・ドイル財団公認”として「絹の家」と「モリアー
ティー」の両作品を出版していましたし、又TVドラマ「名探偵ポアロ」や「刑事フォイル」の脚
本でお馴染みです。 そんなアンソニホロヴィッツによるアガサ・クリスティーへのオマージュ
作品です。

この作品は、2層構造になっていて、1つは女性編集者のスーザン・ライランドが探偵役となる物
語り、もう1つは作家アラン・コンウェイの作中の名探偵アティカス・ピュントが手掛ける殺人事件。
この二つが絡みあうところが作品の要になっています。

上巻ではスーザンが世界的なベストセラーとなったアラン・コンウェイの”アティカス・ピュント
シリーズ”の9作目である最新作「カササギ殺人事件」を読み始める場面から始まります。
「カササギ殺人事件」は1950年代の英国を舞台に ある小さな村で起こった家政婦の不審な死を
巡って 余命3ケ月という名探偵アティカス・ピュントが捜査に乗り出す事件を扱っています。
この部分は冒頭からアガサ・クリスティーの世界そのままで、個人的には「殺人は容易だ」を思い
起こしました。
アガサ・クリスティーが度々題材に取り入れていたマザー・グースの”カササギ”が取り入れられて
いる事からも良く分かります。
正に黄金期の古典的ミステリ感に満ちた描き方になっていて アガサ・クリスティーへのオマー
ジュ満載です。
上巻はピュントが「犯人は分った」という部分で終わっています。

ところが、この作品の原稿を送って来たアラン・コンウェイ自身が謎の死を遂げ、原稿の最終部分
が失われていたのです。

そんな経緯で、下巻ではスーザンが素人探偵役となって「カササギ殺人事件」の内容を追いながら、
作品中で明かされなかった謎とアラン・コンウェイの死の謎を追っていく現代パートになります。

アランが抱えていた複雑な葛藤を追って行くうちに、「カササギ殺人事件」との絡み合い、アラン
が仕組んだ言葉遊びやアナグラムを解き進める事になります。

「カササギ殺人事件」の中で、登場人物の名前が全て鳥の名前であったり、地名等もあちこちか
らの寄せ集めであったり、言葉遊びやアナグラムを使った名前であったり安易な手法をとってい
る点にスーザンは「登場人物の名前付けは作品にとって重要」と否定的な感想を持っています。
最も有名な例として
”コナン・ドイルが考え直さず シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンでなくシェリン
フォード・ホームズとオーモンド・サッカーの名前のままであったら はたしてこの2人は世界
中でこんなにも成功を収める事ができただろうか” と。 (ここ嬉しいいところ)

又、アティカス・ピュントの相棒の名前ジェイムズ・フレイザー。 最初にこの名前を見た時に
私はTVドラマの「名探偵ポアロ」でヘイスティングス大尉を演じていたヒュー・フレイザーから
拝借したのでは?いや、余りに深読みしすぎかしら?と思っていたら 案の定(笑)下巻でこの
点も判明。アランが住んでいる屋敷の名前が”アビー荘園”(これはそのまま正典のタイトルから)
そんなこんなで、あちらこちらにアガサ・クリスティー作品やらシャーロック・ホームズ正典か
らの引用が散りばめられているのも楽しいところ。

そして最終的にスーザンが解明したアランが仕掛けたアナグラム。
これは原文がどうなっていたのか非常に気になるところで、日本語訳にしてアナグラムを作るの
は訳者が大変だったろうなぁ。と感心しています。 全体の翻訳もすっきりしていて読みやすい
と感じます。 アナグラムの部分が気になり原文で読んでみたいと思いつつ、近頃の脳の弱り具
合ではなかなか難しかろうと(泣)。

又、ストーリー自体以外にも、実在の作家名(イアン・マキューアン、カズオ・イシグロ その他)
が何度も登場し、アガサ・クリスティーの孫であるマシュー・プリチャード迄登場してスーザンと
対話する場面もあります。

そして、英国ドラマ好きには応えられないのですが、放送されていた新旧英国ドラマのタイトルが
数多く出てきますね。 アンソニー・ホロヴィッツが手掛けた「バーナビー警部」をはじめ、これ
でもかという程書かれていたり、・・・。 もう嬉しいのです。
それにしても 「刑事ナントカ」とか「ナントカ警部」というタイトルの多い事か。 この点は以
前拙記事にも書いた事があるのですが、ですが、そのほとんどを観た事がある 或は現在も観てい
る私も相当なモンで(冷汗)
特に「バーナビー警部」に関しては、スーザンの上司であるチャールズ・クローバーの言葉の中で
「カササギ殺人事件」”Mugpie Murders” というタイトルが「バーナビー警部」”Midsomer Murders"
に似すぎている・・・いう下りがありますが、両方”M”で始まるだけじゃ?なんて余計な事を感じ
たりもしますが。

後書きにもある様に、ダブルフーダニットを楽しみながら、古典的ミステリと現代的な探偵物語を
楽しめる”1粒で2度美味しい”どころか3度、4度位美味しい。各方面からの称賛の声も真実であった
事を感じさせられます。

兎に角、期待通り面白い作品でありました。
流石、アンソニー・ホロヴィッツです。

因みに、アンソニー・ホロヴィッツの作品については過去に拙記事書きましたので、よろしかったら
ご覧下さい。

 シャロック・ホームズ 「絹の家」 感想
 アンソニー・ホロヴィッツ著 『モリアーティー』 読みました