The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ著

2020-03-20 | ブックレヴュー&情報
”The Word is Murder”

『メインテーマは殺人』創元社文庫ー2019/9/28
アンソニー・ホロヴィッツ(著)、山田蘭(翻訳)

『 内容紹介』
史上初めて7冠を制覇した『カササギ殺人事件』に並ぶ傑作登場!
謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ

自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は自分が殺されると知って
いたのか? 作家のわたし、アンソニー・ホロヴィッツは、ドラマ『インジャスティス』の脚本執筆で
知りあったホーソーンという元刑事から連絡を受ける。この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないか
というのだ。
かくしてわたしは、きわめて有能だが偏屈な男と行動をともにすることに……。ワトスン役は著者自身、
謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ! 7冠制覇『カササギ殺人事件』に並ぶ圧倒的な傑作登場。
解説=杉江松恋

快挙! 2年連続ミステリランキング全制覇!

*第1位『このミステリーがすごい! 2020年版』海外編
*第1位〈週刊文春〉2019ミステリーベスト10 海外部門
*第1位『2020本格ミステリ・ベスト10』海外篇
*第1位〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 海外篇

7冠制覇・30万部突破『カササギ殺人事件』に並ぶ傑作登場!
謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ
探偵は切れ者の元刑事、ワトスン役は著者自身、そして不可解な殺人

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この作品は、発売情報が出た直後図書館に予約を入れたのですが、余りの予約数の多さに何と半年近く
経ってようやく順番が回って来ました。(それなら自分で買え!って話ですよね)
私の場合は、先ず図書館で借りて読んでから 永久保存版にしたい作品の場合購入するという方式なの
で・・・。

そんな訳で、満を持して読みました。
以前の「カササギ殺人事件」はアガサ・クリスティーへのオマージュたっぷりでしたが、今作は一言
で言えばホームズのパスティーシュ感に満ちています。

この作品の特徴は、”わたし” アンソニー・ホロヴィッツ自身が登場人物でもあり、語り手でもある
点で、ホームズ作品の体裁をとりワトソン役を務めているという凝ったミステリーになっています。
冒頭は、丁度「絹の家」を書き終えたホロヴィッツ。 「刑事フォイル」も22話を書き終え、この
先どの様に進めようか悩んでいる時期。

以前ドラマの相談役の様な形で付き合いのあった元刑事ホーソーンから突然呼び出され、自分を主人
公にしたミステリを書いて欲しいと依頼されるが、元々彼の事が苦手で嫌っていた為断ろうとするが、
彼が扱う事になった老婦人の事件に興味を持ち、散々迷った挙句 しぶしぶこの依頼を受ける事にな
るホロヴィッツ。
再会した途端、行っていた場所、子犬はどうした?等、まるで見ていたかのようにホロヴィッツの生
活を言い当てるホーソーンは全くホームズそのもの。

そして、ホーソーンがホームズ、ホロヴィッツがワトソンとなり捜査を開始する。
ホーソーンは謎の多い、型破りで傲慢、天才肌の変人で鋭い観察眼を持ち、又首になったロンドン
警視庁にも何故かパイプを持って居り、手腕を買われてコンサルタントの様な立場にもなっている。

捜査を進めるうち、絞殺されたダイアナ・クーパーは(約)10年前双子の少年を轢き逃げ(1人はそ
の場で亡くなり、もう1人は助かったものの重大な身体損傷)過去が判明し、その父親から強迫文を
受け取っていた事が分かる。

ハリウッドで売り出し中の俳優である息子ダミアン・クーパーは、パートナーと娘と共に葬儀の為
帰国するが、母の棺から流れ出た子供の歌声に衝撃を受け一人帰宅してしまう。
不審に思ったホーソーンと”わたし”は彼の後を追って自宅を訪れた時には 既にダミアンは無残に
も惨殺されていた。

交通事故に遭った双子の関係者、ダイアナの裁判に係わった判事等に事情聴取する2人だが、”わたし”
の推理は一進一退。一方ホーソーンの観察眼は切れ味を増し本領発揮。
過去の因縁を考察し、思いもよらぬ犯人へと導く過程は見事です。

冒頭から伏線は散りばめられており、”わたし”もそれらを目にして居り、なおかつ全て記録していた
にも拘らずホーソーンが辿り着いた結論に後れをとっていたのは、まさにホームズがワトソンに言っ
た言葉、
”You see but you do not observe”(君は見ているが、観察していないのだ) を思い起こさせる。

”トニー” と呼ばれる事から既に気に入らなかった”わたし”は、自分自身の事は全く語らないホー
ソーンの私生活に興味を持ち、こそこそ調べだす過程が面白く、そして次第に、そして少しずつ分
かるホーソーンのキャラに興味が湧いてきます。
(以外な趣味を持って居たり、結構憎めない可愛い面もあり・・・)
そして、彼に対する悪感情も次第に薄れ、バディーと感じ始める点も今後を期待させられます。

そして、同時に、アンソニー・ホロヴィッツとして、係わったドラマや映画に関する裏話、メディア、
出版業界の裏話も興味深く、「刑事フォイル」、「ポアロ」、「バーナビー警部」等に関する記述は
それらのドラマ好きにとっては嬉しいところ。
特に、スピルバーグやピーター・ジャクソンとの会合に心躍らせる様子は微笑ましく、遊び心満載
にもなっていると感じます。

又、この作品でキーになるのが、”RADA”(Royal Academy of Dramatic Arts)
数多くの名優、名女優を輩出した伝統を誇る演劇学校で、過去何度か拙記事にも書いた事があるの
ですが、このRADAの内部事情等にも触れられている点が個人的にも嬉しい。
因みに、RADA出身の俳優で現在活躍中の若手には、トム・ヒドルストンを筆頭に、ベン・ウィショー、
タロン・エジャートン、ジェームズ・ノートン、そしてローレンス・フォックス等々 その他大勢。

「カササギ殺人事件」とは趣が異なる作品ですが、ミステリとして、ダニエル・ホーソーンと言うキャ
ラクターに対する興味も含め、個人的には今回の作品の方が好みかも・・・・。

ホロヴィッツはホーソーン作品のシリーズ化、後10作品を予定していると言われ、既に2作目の ”The
Sentence is Death”も刊行されています。 なるべく早く翻訳される事を期待している所です。


又、「カササギ殺人事件」に登場した アティカス・ピュントの続編も予定されているとか。
楽しみが増えました。

尚、ホロヴィッツの作品に関して書いた拙記事は下記に
※ シャロック・ホームズ 「絹の家」 感想
※ アンソニー・ホロヴィッツ著 『モリアーティー』 読みました
※ 『カササギ殺人事件』 アンソニー・ホロヴィッツ著