知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

外国の団体の我が国の民事訴訟における当事者能力

2007-12-22 20:43:05 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)6062
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年12月14日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
裁判長裁判官 阿部正幸

『1 争点(1)(原告輸出入社の当事者能力の有無)について
(1) 前記第2の1(1)に記載したとおり,原告輸出入社は,北朝鮮の行政機関である。このような外国の団体が我が国の民事訴訟において当事者能力を有するか否かは,国際民事訴訟法上の問題であるから,どの国の法が適用されるかを決定する必要がある

 当事者能力とは,民事訴訟において訴訟関係の主体である当事者となることのできる一般的な資格をいい,訴訟法(手続法)上の概念である。そして,手続については法廷地法によるべきであるから,手続法上の概念である当事者能力については,法廷地である我が国の民事訴訟法が適用されると解するのが相当である。
 そして,民事訴訟法28条によれば,当事者能力は民法その他の法令に従うとされているので,当事者能力の有無は,権利能力に関する民法その他の実体法の規定に基づいて判断される。

 もっとも,前記のとおり,原告輸出入社は,北朝鮮の行政機関であり,本件における権利能力の問題は,その主体が外国の行政機関であるという点で渉外的要素を持つため,準拠法を決定する必要がある。
 この点,行政機関の権利能力の準拠法に関しては,法の適用に関する通則法(以下「法適用通則法」という。)等に直接の定めがないから,条理に基づいて,当該行政機関と最も密接な関係がある国である当該行政機関が設立された国の法律(本国法)によると解すべきである
 国内のいかなる範囲の団体に権利能力を付与するかは,当該国の法政策上の問題であり,また,団体が享有し得る権利能力も当該国の法律の定める範囲に限定される以上,当該団体と最も密接な関係があるのは,当該団体が設立された国と解されるからである

 したがって,行政機関の権利能力の準拠法は,原告輸出入社が設立された北朝鮮の法律であると解すべきである。

 そこで,本件について検討すると,上記争いのない事実等及び証拠(甲1の1)によれば,北朝鮮の国内において施行,適用されている北朝鮮民法12条2項は,「機関,企業所,団体は,当該機関に登録されたときから民事上の権利を有し,又は義務を負うことができる民事権利能力とそれ自身が直接実現することができる民事行為能力を有する。」と規定していること,ここにいう「機関」とは,国家行政機関を意味すること,原告輸出入社は,北朝鮮の国家行政機関である文化省によって登録された同省傘下の行政機関であること,がそれぞれ認められる。

 上に認定した事実によれば,原告輸出入社は,北朝鮮民法12条2項の登録がされた北朝鮮文化省傘下の行政機関に当たるから,同条項により権利能力を有していると認められる。

 以上によれば,原告輸出入社は,準拠法である北朝鮮の法律によって権利能力を付与されているから,民事訴訟法28条により当事者能力を有するというべきである。

(2) 被告は,当事者能力が認められるのは,本国法上権利能力を有しているだけでは足りず,我が国でも権利能力が認められることが必要であり,我が国では行政機関に権利能力が認められていないから,北朝鮮の行政機関である原告輸出入社には権利能力が認められず,当事者能力も認められないと主張する。

 しかしながら,民事訴訟法28条は,本国法上権利能力を有する者に当事者能力を認めることとしていると解すべきことは前記のとおりであり,同条の解釈として,当事者能力が認められるためには更に我が国の法令上も権利能力が認められることを必要とすると解することはできない。

 被告は,本国法で訴訟能力が付与された者であっても,我が国の訴訟手続の規制等に服し得る実態を有しているとは限らないため,訴訟手続に混乱をきたすことになりかねないと主張する。
 しかしながら,上記のような問題点は,民事訴訟法28条の解釈としてではなく,個別の事案において,法適用通則法42条の公序良俗違反の解釈の問題として解決されるべきものであると考えられる。
 そして,我が国においても,平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法11条1項は,処分等取消しの訴えについて行政庁が被告適格を有するとして,その限度で当事者能力を認めていたのであり,また,個別の法律においても同様に行政庁の被告適格を認めている場合がある(特許法178条1項,179条等)。加えて,証拠(甲1の2,3)によれば,原告輸出入社は,「映画輸出及び輸入,映画合作及び注文製作,技術協力」に関する権限を有し,北朝鮮映画の著作権等を行使する国家映画会社であるとされていることが認められるのであり行政機関とはされているものの,その実質は,むしろ,我が国における私法人に近いということができる。

 そうであれば,原告輸出入社が,行政機関であることをもって,我が国の訴訟手続の規制等に服し得る実態を有していないとはいえず,訴訟手続に混乱をきたすともいえないから,原告輸出入社に当事者能力を認めたとしても,公序良俗に反するということはできない。被告の上記主張は採用することができない。

(3) 以上のとおり,原告輸出入社は,その本国法である北朝鮮の法律によって権利能力が付与されているから,民事訴訟法28条により,当事者能力を有する。』

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