知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する場合

2011-10-02 22:30:27 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)9966
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年09月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
裁判長裁判官 森崎英二

ウ 販売することができないとする事情(意匠法39条1項ただし書)
 被告らは,被告大創による被告商品の譲渡数量は,① 被告商品の価格,② 販売ルートの違い,③ 競合品の存在,④ 本件意匠の寄与度など,被告商品固有の事情により販売された部分があるとし,これが意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する旨主張するので,以下,そのような事情の存否について個別に検討する。

(ア) 被告商品の価格について
 被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。・・・,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。
 そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。

(イ) 販売ルートについて
被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。
 もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。
したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。

(ウ) 競合品について
 資生堂の商品(乙4)は,・・・,本件意匠の要部と構成を共通にしている。
 したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1~3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。

(エ) 本件意匠の寄与度について
 原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。
 ところが,被告商品は,・・・,結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はない
・・・。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。
 さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。
 ・・・
 したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。

(オ) 結論
 これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。

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