知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

PCT出願の却下処分取消訴訟の争点につき、内閣の権限に属するとして内閣の見解に基づき判示した事例

2011-10-09 17:38:51 | Weblog
事件番号 平成21(行ウ)417
事件名 手続却下処分取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月15日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

第2 事案の概要
 本件は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)に居住する北朝鮮国籍を有する者が,1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「PCT」という。)に基づいて行った国際特許出願について,上記出願人から上記発明に係る日本における一切の権利を譲り受けた原告が,日本の特許庁長官に対して国内書面等を提出したところ,特許庁長官から,上記国際出願は日本がPCTの締約国と認めていない北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされたものであることを理由に,上記国内書面等に係る手続(以下「本件手続」という。)の却下処分を受けたことから,被告に対し,同処分の取消しを求める事案である。
・・・

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件国際出願は,特許法184条の3第1項所定の「国際出願」として,同項により,日本において「その国際出願日」にされた特許出願とみなすことができるか)について

(1) 我が国が北朝鮮を国家として承認しているかについて
 ア 国家の承認とは,新たに成立した国家に国際法上の主体性を認める一方的行為を意味するものであるところ(乙9),証拠(乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の政府は,我が国がこれまで北朝鮮を国家承認しておらず,したがって,我が国と北朝鮮との間には国際法上の主体である国家の間の関係は存在しない,との見解をとっていることが認められる。また,本件全証拠によっても,我が国がこれまでに北朝鮮を明示又は黙示に国家承認したことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,我が国は北朝鮮を国家として承認していないものと認められる。

 イ これに対し,原告は,1991年9月17日に開催された第46回国連総会は,北朝鮮の国連加盟を承認する決議を全会一致で採択しており,同決議には日本も参加して賛成票を投じているのであるから,これによって,日本が黙示に北朝鮮に国家承認を与えたものとみなされる,と主張する。
 しかしながら,証拠(乙7の1,2)によれば,北朝鮮の国連加盟は無投票で承認されたものであり,我が国は積極的に賛成票を投じたものではないことが認められるから,原告の主張はその前提を欠くものである。また,証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,国連の加盟を容認することと当該国を国家として承認することとは別個のものであり,当該国の国連加盟を容認することをもって当該国を国家として承認したことにはならないものと一般に解されていることが認められる・・・。

 ・・・原告は,日本国政府が昭和37年にモンゴルの国連加盟承認決議に日本が賛成したことがモンゴルの国家承認に当たる旨の国会答弁を出していることから,北朝鮮についても国連加盟承認決議に賛成したことが国家承認に当たると解すべきである旨主張する。しかしながら,ある行為が国家承認に当たるかどうかは承認国側の現実の意思によるものであるから,我が国がモンゴルを国家として承認する意思の下に,同国の国連加盟承認決議に賛成したことをもって国家承認に当たるとの判断を表明したとしても,そのことによって他の国についても,国連加盟承認決議に賛成したことによって直ちにその国を国家承認したことになるとの見解を表明したものということはできない

(2) 未承認国である北朝鮮と我が国との間で,多数国間条約であるPCT上の権利義務関係が生じるかについて
 ア PCTは,我が国,北朝鮮その他の多数の国家が加盟する多数国間条約であり,各国が所定の手続を踏むことにより当該条約に加入することが可能な開放条約である(PCT62条,パリ条約21条)。
 本件では,我が国と北朝鮮との間でPCT上の権利義務関係が生じるか否かが問題となっているところ,ある国から国家承認を受けていない国(未承認国)と上記承認を与えていない国との間において,その両国がいずれも当事国である多数国間条約上の権利義務関係が生じるかという問題については,これを定める条約及び確立した国際法規が存在するとは認められない
 一方,証拠(乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の政府は,国家承認の意義について,ある主体を国際法上の国家として認めることをいうものと理解し,国際法上の主体とは,一般に国際法上の権利又は義務の直接の帰属者をいい,その典型は国家であると理解していること,また,我が国の政府は北朝鮮を国家承認していないから,我が国と北朝鮮との間には国際法上の主体である国家間の関係は存在せず,したがって,未承認国(北朝鮮)が国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,同国を国家として承認していない国家(我が国)との関係では,原則として当該多数国間条約に基づく権利義務は発生しないとの見解をとっていること,が認められる。
 そして,当裁判所は,日本国憲法上,外交関係の処理及び条約を締結することが内閣の権限に属するものとされ(憲法73条2号,3号),我が国及び未承認国を当事国とする多数国間条約上の権利義務関係を我が国と未承認国との間で生じさせるかということも,外交関係の処理に含まれるものといえることに鑑み,上記の政府見解を尊重し,未承認国である北朝鮮と我が国との間に両国を当事国とする多数国間条約に基づく権利義務関係は原則として生じないと解するべきであり,PCTについても,原則どおり我が国と北朝鮮との間に同条約に基づく権利義務関係は生じないものと考える(知的財産高等裁判所平成20年12月24日判決参照(これこれ))。

関連事件:

平成19年12月14日 平成18(ワ)6062 未承認国の著作物の我が国の著作権法による保護の可否
平成19年12月14日 平成18(ワ)6062 外国の団体の我が国の民事訴訟における当事者能力

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