知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の記載の解釈-文言解釈の限界を超える解釈を否定した事例

2011-10-10 22:06:23 | 特許法70条
事件番号 平成22(ワ)38409
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年09月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 阿部正幸

d(a) また,原告らは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明の実施例には,レールが建物2の外壁に設置されており,目地プレートが建物2の床面に支持されているわけではないものも記載されているから(図20,23),被告製品のように,目地プレートが建物2の床面に支持されているわけではなく,建物2の外壁に設置されたレールによって支持されている構成も,目地プレートの「他端部が前記渡り通路用開口部の床面に左右方向にスライド移動可能に取付けられ」ているものに当たると主張する。

(b) しかしながら,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項),「床面」とは,「壁面・天井などに対して,床。床の表面」を意味するものであり(広辞苑第6版2864頁),「取り付ける」とは,「機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置したりする。」ことを意味するものである(同2048頁)。また,「設置」とは「設けて置くこと。」(特許技術用語集第3版105頁)を,「装置」とは「取り付けて置くこと。備えつけること。」(同113頁)を,それぞれ意味するものである。
 したがって,構成要件Cの「床面に…取付けられ」という用語を普通の意味で解釈すると,被告製品のように目地プレートを建物の外壁に設置する場合は,これに当たらないものと解される

(c) また,特許請求の範囲に記載された用語は,願書に添付した明細書の記載すなわち発明の詳細な説明等の記載や図面を考慮して解釈するものとされているところ(特許法70条2項),本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載が存在する。
・・・

(d) 上記発明の詳細な説明の記載等によれば,本件発明において,目地プレートの一端部を渡り通路の目地部側端部の床面上に前後方向にスライド移動可能に支持し,他端部を渡り通路用開口部の床面に左右方向にスライド移動可能に取り付けること(構成要件C),及び,一対のスライド側壁の一端部を渡り通路の目地部側の側壁に前後方向にスライド移動可能に取り付け,他端部を渡り通路用開口部が形成された外壁に左右方向にスライド移動可能に取り付けること(構成要件D)の技術的意義は,従来の渡り通路の目地装置では,地震等での左右の建物の大きな前後左右方向の揺れ動きを吸収することができず,床用目地装置と壁面用目地装置との接続が難しいなどの欠点があったのに対し,上記構成を採ることにより
① 左右の建物が地震等で前後左右方向に揺れ動いた場合に,目地プレート及び一対のスライド側壁がその動きに追従して移動し吸収することができるため,目地プレートや一対のスライド側壁が損傷するのを防止することができ,安全に長期間使用することができること,
② 構造が簡単で,大きな前後方向の揺れ動きに追従することができること,
③ 構造が簡単なため,容易に設置することができ,安価に製造することができること,などの効果を得ること
にあるものと認められる


 そして,構成要件Cの「床面に…取付けられ」の意義を上記(b)の通常の意味どおりに解し,目地プレートの他端部を,建物の外壁ではなく通路用開口部の床面に取り付けることによっても,上記本発明の第1の実施の形態(段落【0008】~【0016】,図1~9)のように,従来技術の上記欠点を解消し,上記効果を実現することができるといえる

 そうすると,本件明細書において,「特許請求の範囲」における目地プレートの他端部の取付けに関する記載内容と,本件発明の実施の形態を示す図面とが整合しない点があるとしても,「床面に…取付けられ」という記載について,これを「外壁に…取付けられ」という場合を含む意味に解釈することは,文言解釈の限界を超えるものとして,許されないというべきである
また,本件明細書の他の記載を見ても,構成要件Cの「床面に…取付けられ」に関して,上記(b)の通常の意味と異なり,床面だけでなく外壁に取り付けられることを含む意味で使用する旨を定義する記載は存在しない。

 原告らの主張は,採用することができない。

*所感 自由競争の原則の例外を特許法は規定している。競業者に過度の監視負担を課したり、予測可能性を下げて萎縮効果を生じさせるように70条を解釈すべきではない。この観点から特許請求の範囲の「文言解釈」を明細書の発明の詳細な説明の些細な分析により書き換えることは許されないと考える。筆者はこの観点からこの判決を支持したい。

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