知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

審判請求書が却下された後、出願係属中にされた分割出願の帰趨

2007-08-05 22:51:20 | Weblog
事件番号 昭和51(行ウ)178
裁判年月日 昭和52年03月30日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 高林克巳 佐藤栄一 塚田渥)

『二 そこで、本件処分が違法であるかどうかについて、判断する。
1 まず、原告は、本件分割出願は原出願に対する拒絶査定の確定前にされたものであつて、特許法第四四条旧第二項の規定に違反せず、適法なものである旨主張するので、検討する

 特許法第四四条旧第二項は、「特許出願の分割は、特許出願について査定又は審決が確定した後は、することができない。」というものであつたが、同項は昭和四五年法律第九一号の特許法を改正する法律によつて削除された。しかし、右改正法附則第一条及び第二条によれば、右改正法は、昭和四六年一月一日から施行されるが、その施行の際現に特許庁に係属している特許出願については、別段の定めがある場合を除いて、その特許出願について、査定又は審決が確定するまでは、なお従前の例によるものとされている。しかして、すでに判示したところからすれば、原告の原出願が右改正法が施行された昭和四六年一月一日当時、現に特許庁に係属していたことは明らかであるから、本件分割出願については、特許法第四四条旧第二項の規定が適用されるものである

 ところで、特許出願について拒絶すべき旨の査定に対して不服がある者は、査定の謄本の送達があつた日から三〇日以内に審判を請求することができ(特許法第一二一条第一項)、さらに、審決に対して不服がある者は訴を提起することができる(同法第一七八条第一、第二項)から、右査定について法定の期間内に審判の請求がされなかつたとき又は法定の期間内に審判が請求されたが、審決がされ、法定の期間内に訴が提起されなかつたとき若しくは法定の期間内に訴が提起されたが、その審理において拒絶査定不服の審判を請求した者に不利な終局判決がされ、不服申立の方法が尽きたときは、右査定は、取り消される可能性がなくなり、確定したということができる。そして、特許出願についての拒絶査定に対して不服がある者が審判の請求をしたが、その審判請求書について、特許法第一三三条第二項により却下の決定がされたときは、たとえ右却下決定に対して取消訴訟が提起されたとしても、右却下決定を適法として維持する旨の判決が確定すれば、右拒絶査定は、遡つて、その謄本の送達があつた日から三〇日を経過したときに確定することになると解される右の理は、民事訴訟において、当事者が上訴期間内に一たん上訴したが、上訴期間経過後に上訴却下の確定判決を受ければ、原判決は上訴期間経過とともに確定したことになるのと同様である

 しかして、本件についてみるのに、すでに判示したとおり、
 原告は、原出願について、昭和四六年五月六日、拒絶査定を受け、遅くとも同年六月二八日には右査定の謄本の送達を受けたが、
 右査定に対して不服があり、同日審判の請求をしたところ、昭和四七年三月二二日付で、その審判請求書について、特許法第一三三条第二項により却下の決定がされたので、東京高等裁判所に対し、右却下決定の取消訴訟を提起し、
 同年一二月八日、原告の請求棄却の判決の言渡を受け、これに対し、最高裁判所に上告し、昭和五〇年七月四日、上告を棄却され、右判決は同日確定したが、原告はこの間、昭和四八年二月一日に本件分割出願をし、
昭和四九年六月一五日に本件処分を受けたのである


 以上の事実によれば、本件処分がされた昭和四九年六月一五日当時、原出願についての拒絶査定に対する審判請求書の却下決定の取消訴訟は最高裁判所に係属中であつたので、いまだ右拒絶査定は確定しておらず、したがつてその確定前である昭和四八年二月一日にした本件分割出願は、特許法第四四条旧第二項により許されるべきものであつたといわなければならず、これを不受理とした本件処分は、違法であるといわなければならない

 しかし、他方、前記事実によれば、その後昭和五〇年七月四日、右審判請求書却下決定の取消訴訟は原告敗訴として、上告棄却により終了したから、原出願についての拒絶査定は、前説明のとおり、遅くとも、その謄本の送達がされた昭和四六年六月二八日から三〇日を経過した同年七月二八日の経過とともに確定したものというべきところ審判請求書却下決定の取消訴訟が上告審に係属中であつて、原出願についての拒絶査定がいまだ確定していない間にされた本件処分は前説明のように違法ではあるが、その瑕疵は、前説明のように原出願についての拒絶査定が遡つて、遅くとも昭和四六年七月二八日の経過とともに確定したことによつて治癒されたものというべきであり、結局本件処分には違法の瑕疵はないものといわなければならない。』

『次に、原告は、本件分割出願を右のように分割出願として取扱うことができないとしても、これを通常の特許出願として受理すべきであると主張するが特許出願の分割を通常の新たな特許出願として取り扱わなければならないとする法律上の根拠はないから、原告の右主張は、理由がない。』


(控訴審判決)
事件番号 昭和52(行コ)20
裁判年月日 昭和52年09月14日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

『一 当裁判所は、本件特許出願不受理処分に違法な瑕疵があるとする控訴人の主張を理由がないものと判断する。その理由は、次に附加するほか、原判決の理由一および二の1(第一二丁表第一行ないし第一五丁裏第九行目)と同一であるから、これを引用する。
二1 控訴人は、本件分割出願を、その出願当時原出願に対する拒絶査定が未確定であつた以上、特許法第四四条旧第二項の規定によつても、適法というべきである旨を主張するが右拒絶査定に対する審判請求書却下決定の取消訴訟についてなされた請求棄却の判決の確定により、右拒絶査定がこれに対する不服申立期間満了とともに遡及的に確定した以上、右分割出願を適法と解すべき法律上の根拠は失われたものといわなければならない

2 次に、控訴人は、本件分割出願は通常の特許出願として受理さるべきであつたと主張する。しかし、そもそも、特許法上、法定期間後になされた特許出願の分割をもつて通常の特許出願とみなすべき旨の特別の規定はないのみならず、同法第四四条(旧第二項による。)の規定に徴すると、特許出願の分割(分割出願)は、原出願に包含された複数の発明の一または二以上を抽出して別出願とし、これを原出願の日に出願したものとみなされる反面、原出願について査定または審決が確定するまでにしなければならないという時期的制約を受ける特殊の出願形式であつて、手続上も特に同条第一項の規定による出願たる旨を表示し、かつ、原出願を表示してされるものである(同法施行規則第二三条第一項)から、これが「新たな特許出願」として通常の特許出願と共通の性質を有するというだけで、右のような時期的制約に違反する不適法な分割出願を通常の出願に転換して審理すべき余地はないものと解するが相当である。』

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