知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

70条2項立法の経緯、特許付与の態度

2007-08-26 12:17:17 | Weblog
牧野利秋監修、本間崇編集、「座談会 特許クレームの解釈の論点をめぐって」、2003年3月3日(社)発明協会発行より引用。

「○塩月 七〇条二項が立法されたきっかけとなったのは、その前に出された平成三年三月八日のリパーゼ判決であったのでしょう。ところが、これは審決取消訴訟に関する上告審判決であって、そこにおける事実認定に際しての発明の要旨認定の手法についての判断であったわけです。これが、侵害訴訟の技術的範囲におけるクレームの解釈にそのまま当てはまるかのような議論が蔓延したという経緯にあります。すなわち、特許請求の範囲に記載された限度でしか権利行使はできないというような考え方が出てきたものですから、それではいけないということになり、七〇条二項で、クレームというものはもうちょっと柔軟に解釈しなければいけませんよという趣旨での立法が必要だ、と特許庁が考えての動きになったと理解しています
 リパーゼ判決は特許庁の上告によって原判決破棄の結果になったのに、特許庁の別の部門では七〇条二項の立法に向けて動いたと言うことで、特許庁は矛盾していたとは思うのですけれども、少なくとも平成三年三月八日の判決との対比での七〇条二項の立法の動きというのは、そのような経緯にあったと理解しております。」(133頁上段第12行目~同頁下段10行目参照。)

「○牧野 ・・・(中略)・・・リパーゼ事件が、二九条一項、二項の判断をする前提として、「特許出願に係る発明の要旨を認定する場合には」と、そういう文言で明示されたにもかかわらず、これがあたかも七〇条の技術的範囲確定の基準だというふうに誤解をした、そこにそもそも問題があった。あの審議会の答申をみてもそうですよね。それで二項をつくらないといけないということになったので、二項自体ができたから、侵害訴訟における技術的範囲の解釈で解釈が変わったとか、そんなことでは全然ないわけだと私は思っております。」(133頁下段11行目~134頁上段6行目。)

「○塩月  あえて説明するまでもないのですけれども、侵害裁判所で実施例限定説を取って、侵害はRaリパーゼにしか及ばないのだという見込みのもとに、いずれRaリパーゼと解されることになるから、権利生成のときに特許を与えることにしようという対応。すなわちリパーゼという特詐請求の範囲の記載のままで特許を与えるという対応というのは、許されないのだろうと思うのですね。それは見込みにすぎませんからね。侵害の訴訟においては実施例限定説を取るかもしれないだけど、実施例限定説というのは法律に明示されているわけではありませんし、解釈上も非常に疑義がありますから。Raリパーゼも実施態様にしか侵害が及ばないという解釈を取りうるとしても、それはあくまでも侵害裁判所が判断するかもしれないという見込みにすぎませんので、その見込みがあるからといって、権利生成の際、すなわち特許を付与するときにリパーゼのままというのはとてもできないと思います。」(136頁上段4行目~18行目。)

牧野利秋・・・弁護士(元裁判官)
塩月秀平・・・裁判官(現在 大阪高裁部総括判事)

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