知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

看過された補正指令書

2007-08-10 06:47:02 | Weblog
事件番号 平成14(行コ)145
裁判年月日 平成09年07月10
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官
(裁判所ホームページに掲載がないようである。)

『三 控訴人は、特許法十八条一項の規定による無効処分は裁量行為であって、手続きの迅速確保の要請と同時に特許法の目的である発明の保護・奨励の要請に応えるように運用されなければならないから、無効処分の効力発生(謄本送達)後であっても同所分が確定するまでは無効処分の理由とされた自由の補正が許されると解すべきである旨主張する
 しかしながら、行政処分の効力は当該処分がなされた時点における事実関係を前提として判断すべきことは原判決が説示するとおりであって、このことは当該行政処分が覇束行為であるか裁量行為であるかに関わりがない
 この点について、控訴人は、本件審判請求のように拒絶査定の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときは審判請求書に記載する「審判請求の理由」は形式的に記載されていれば足りるとする弾力的な運用がなされているし、委任状の不提出が形式的瑕疵であることは言うまでもないが、このように形式的な瑕疵についてまで無効処分確定前の補正が許されないとするのは特許出願人にとって酷にすぎると主張する
 しかしながら、審判手続きにおいては、職権によって当事者が申し立てない理由について審理されることがある(特許法百五十三条一項参照)としても、審判手続きの審理範囲は請求人が主張する審判請求の理由によって第一義的に確定されるものであるから(同法百三十一条一項三号参照)、審判請求の理由は実質的かつ明確に主張されることを要すると解すべきであって、拒絶査定不服の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときのみを例外的に扱うべき合理的な理由は存しない。もとより、控訴人が主張するように、極めて軽微な形式的瑕疵について手続補正を命ずることをせず、また、指定期間経過後であっても無効処分の効力発生以前になされた手続補正を有効なものとして取り扱うことが妥当な場合はあり得るが、審判請求における「請求の理由」の記載及び委任状の提出は、審判手続きにおいて請求人がなすべき重要な手続行為であって、その欠陥を持って極めて軽微な形式的瑕疵とすることは出来ないし、まして、本件無効処分の効力発生後になされた手続補正を有効なものと認めなかった本件不受理処分が裁量権の逸脱・濫用という余地はないから、控訴人の前記主張は採用できない。』

『四 控訴人は、そもそも本件審判請求の理由は十一月七日付け補正書と同時に提出された同日付「上申書」に実質的に記載されているから、本件補正指令書を待つまでもなく、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵は補正されていたと主張している。
 しかしながら、手続きの補正は法令に規定された洋式に則って行うのが審判手続きの適性を確保する所以であるから、これを法令に基づく文書でない「上申書」のような形で行うことは相当といえない。』

『五 また、控訴人は、特許庁は平成八年法律第六十八号による改正法施行後の特許法十八条の規定による手続きの却下についても「処分前の通知」を行う運用をしているが、これは特許庁が何らの通知もせず同条の規定による手続きの却下を行うことが手続きをしたものにとって酷であることを認めているからに他ならず、このような事情は無効処分が確定するまでの間に向こう処分の理由とされた自由の補正が許されるか田舎の判断に当たって考慮されなければならない旨主張する
 しかしながら、成立に争いがない乙第二十二号証の一ないし三によれば、特許庁が改正法施行後の特許法十八条の規定による手続きの却下について行っている「処分前の通知」が法令に基づくものでなく、いわゆる行政サービスとして行うものであることが明らかにされていると認められる。したがって、この手続を経由せずに行われた手続の却下処分が直ちに違法となる理由はないし、そもそも、改正法の施行に伴って新たに開始した実務の趣旨が、法改正前の規定に基づく処分の効力の判断において考慮されるべき理由はないから、控訴人の前記主張も当たらない。』

行政不服審査法による不服申立ての対象とならないもの

2007-08-10 06:09:13 | Weblog
事件番号 平成15(行ウ)33
裁判年月日 平成15年08月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『第5 当裁判所の判断
1 「前提となる事実」欄(前記第3)に記載したとおり,本件裁決は,本件補正命令を対象とする本件審査請求を不適法として却下したものである。
2(1) 行政不服審査法は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に対して不服申立てを認めているが(同法1条),それは,この種行為が直接国民の権利義務を形成し,又はその権利義務の範囲を確定するものであるという理由に基づくものであるから,行政庁の行為であっても,その性質上このような法的効果を有しないものは同法による不服申立ての対象とならないというべきである(最高裁昭和42年(行ツ)第47号同43年4月18日第一小法廷判決・民集22巻4号936頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁,最高裁昭和28年(オ)第296号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁参照)。

(2) 原告が本件審査請求において不服申立ての対象としている本件補正命令は,特許法133条2項の規定に基づいてされたものであるところ,同項の補正命令は,審判事件に関する手続の方式に関して瑕疵があった場合,これを審判長が指摘し,審判当事者に対してその補正の機会を与え,その補正を促すにとどまるものであって,手続の補正を命ぜられた審判当事者の権利義務を直接形成し,あるいはその権利義務の範囲を確定するものではない
  したがって,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものとはいえない

 手続の補正を命ぜられた審判当事者が補正命令に応じなければ,結果的に特許法133条3項により当該手続が却下されることになるが,当該手続が却下されることになるのは,あくまでも同項の規定に基づく却下決定という処分により発生する効果であり,本件補正命令そのものによる効果ではない。
 審判当事者とすれば,補正命令に不服であるとしても,これに続いてされる手続の却下決定を待って,当該却下処分の取消しを求める手続の中で補正命令の誤りを主張すれば足りるものであって,補正命令につき独立してその取消しを求める利益があるものではない

 なお,行政不服審査法2条1項は,同法にいう「処分」には公権力の行使に当たる事実上の行為で,人の収容,物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれるものと規定しているが,同項にいう事実行為とは,「公権力の行使に当たる事実上の行為」,すなわち,意思表示による行政庁の処分に類似する法的効果を招来する権力的な事実上の行為を指すものであるから(前掲昭和43年4月18日第一小法廷判決参照),本件補正命令がこれに当たらないことは上述した点に照らし,明らかである
 上記のとおり,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものではないから,これと同旨の判断により本件審査請求を不適法なものとして却下した本件裁決に,原告主張のような違法はない。』

『 原告は,本件第2特許出願については,本件第1特許出願時である昭和62年当時の特許法が適用されるため,本件補正書に方式違反はないなどと主張する
 しかし,分割に係る新たな特許出願は,発明の新規性,進歩性(特許法29条),先願(同法39条)の要件については,もとの特許出願の時を基準として判断される(同法44条2項)ものではあるが,あくまでも,もとの特許出願とは別個の独立した特許出願であるから,別段の定めのない限り,その手続については分割に係る新たな特許出願がされた時点における法令の定める方式によるべきものである。したがって,平成9年にされた本件第2特許出願に関する本件補正書に特許法施行規則様式第13に違反する方式上の不備があるとした本件補正命令は,法令を正当に適用したものというべきであり,また,本件補正書に対して特許法133条2項に基づき本件補正命令を発した点も正当である。』