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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「商品及び役務の区分」と、商品又は役務の類似の範囲

2012-02-05 20:07:37 | 商標法
事件番号 平成23(ネ)10056
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) 被告各役務は,本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」と同一又は類似の役務であるといえるか(争点1-1)
 ・・・
ア 本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」の意義について
(ア) 「配布」とは,ひろくくばること(・・・),広く行き渡るように配ること(・・・)である。したがって,「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味する。
なお,「配達」とは,くばりとどけること(・・・),家々に配り届けること(甲27)である。
(イ) 「広告」とは,商品,役務(サービス),情報等をその提供者を明示して,第三者に告知し,その入手,使用等を勧誘する活動をいう(当事者間に争いがない)。

イ ・・・したがって,被告役務1の配達の対象が広告物であるときは,被告役務1は,利用者が指定した荷受人の住所又は居所に広告物を配達する,すなわち,広告物を配り届ける役務である
 これに対して,本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味するから,配達の対象が広告物であるときの被告役務1とは,「広告物を配る」という点において共通し,両役務は類似する関係にあるといえる。さらに,被告役務1の利用者が,多数の家々に広告物を配る際に被告役務1を利用すると,被告役務1は,広告物を広く家々に配り届ける役務となる。このような場合において,本件指定役務と被告役務1とは,ほぼ同一の内容となる。
 以上検討したところによれば,被告役務1の配達の対象が広告物である場合には,被告役務1と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,少なくとも類似の関係にある
といえる。
・・・
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,配布と配達は本質的に異なる概念であり,「商品及び役務の区分」でも,配布と配達は,第35類と第39類で異なる役務として扱われている旨主張する。
 しかし,そもそも配布と配達は類語の関係にあり(甲27,28,乙35),また,「商品及び役務の区分」は,商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない(法6条3項)から,被告が主張する第35類と第39類の関係が,直ちに本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布」と被告各役務が類似するか否かの判断に影響を及ぼすものではない。そして,被告各役務の具体的内容と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」の意義から両役務の類似性について検討すると,上記ウで説示したとおりとなる。
(イ) また,被告は,被告各役務は,荷物の運送役務であり,本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」とは類似しない旨主張する。
 しかし,上記イ,ウで説示したとおり,被告自身,広告物が被告各役務の対象となることを宣伝しており,被告各役務において配達の対象が広告物である場合には,被告各役務と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは少なくとも類似する関係にあるから,被告の上記主張は失当である

(3) 本件商標と被告各標章は同一又は類似の商標であるか(争点1-2)
ア 本件商標と被告標章1について
 本件商標は,標準文字の「ゆうメール」であり,被告標章1は,「ゆうメール」という標章であって,外観,称呼,観念において同一であるから,両者は,同一の商標である。
イ 本件商標と被告標章2について
 本件商標は,標準文字の「ゆうメール」であり,被告標章2は,「配達地域指定ゆうメール」という標章である。この点,被告標章2の「配達地域指定」の語は,役務の質(荷物が配達される地域が指定されること)を表示する部分であり,出所識別機能を有しないものというべきであるから,被告標章2の要部は,「ゆうメール」であると認められる。そうすると,本件商標と被告標章2の要部は,外観,称呼,観念において同一であるから,本件商標と被告標章2は,類似の商標である。

・・・,取引の実情において需要者に混同が生じることは否定されないというべきである。

外部から視認できない標章に売り上げへの寄与を認めた事例

2012-01-12 22:35:29 | 商標法
事件番号 平成22(ワ)13746
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

b 被告標章2
 被告標章2は,フィルターの名称(ミネマリンフィルター)に係るものである。
 そして,被告大倉は,逆浸透膜浄水器の説明や,これを標準装備した分譲住宅の宣伝広告において,ミネマリンフィルターの使用を謳っており(甲33の2,甲40の2),フィルターに「ミネマリン」と表記する必要があったといえるから,外部から視認できないフィルターに付されていても,被告大倉に対する販売については,被告標章2の寄与があると認められる。
もっとも,被告標章2は,浄水器全体に付された標章ではなく,浄水器内部のフィルター4本のうち,ミネマリンフィルターである1本のみに付された標章である(甲3の1~6)。

c 寄与割合
 以上のとおり,被告標章1-1,同2は,本件フィルター1に使用されているに過ぎない。しかも,被告NMT販売が販売した相手は,被告大倉1社であったことを考えると,上記フィルターを装備した浄水器の被告大倉への販売による利益全体に対する,被告標章1-1及び被告標章2の寄与した割合は,合計2%とみるのが相当である

商標法50条1項の判断おける画像処理技術名とファクシミリ製品名

2011-12-11 21:37:14 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10096
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 上記認定した事実,すなわち,
「GENESIS」の表示は,原告の製造,販売に係る「ファクシミリ」に関する説明用のカタログやウエブサイト等に記載されていること,
「GENESIS」の表示の態様は,文章の各文字よりも,大きく,太く,まとまりのある,特徴的な字体により,独立して,目立つように記載されていること,すべて同一の字体が使用されていること,
ウエブサイトの「GENESIS」の項目には,「対応機種:キヤノフアクスL380S,L230,JX6000,L2800」と表記されて,ファクシミリとの関連性が明確に示されていること等
に照らすならば,カタログやウエブサイト等の「GENESIS」の表記に接した需要者,取引者は,「GENESIS」の表記を,原告の製造,販売に係る「ファクシミリ」に関する標章であると認識,理解する
ものといえる。

確かに,前記商品カタログ等の説明文には,「GENESIS」について,原告の独自に開発した画像処理技術を指す旨の記載がある
 しかし,原告の製造,販売に係るファクシミリに用いられている「原告の独自に開発した画像処理技術」が,どのような技術を指すかについての詳細の説明は格別されていないこと,前記商品カタログ等は,画像処理技術の販売等に係る配布物等ではなく,ファクシミリの販売等に係る配布物等であることに照らすならば,そのような説明は,原告の製造,販売に係る「ファクシミリ」が,いかに性能が高く,品質等が優位性を有しているかを強調するために用いられた,ごく一般的な広告手法であるといえる。したがって,そのような説明がされているからといって,取引者,需要者が,「GENESIS」の標章について,原告の開発した画像処理技術について使用されていると理解,認識すると解することは困難であり,むしろ,原告の製造,販売する「ファクシミリ」の広告などに,同商品の出所を示す趣旨で使用されているものと理解,認識すると解するのが自然であり,合理的である

商標法51条1項の「故意」

2011-11-13 22:43:10 | 商標法
事件番号  平成23(行ケ)10005
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 「故意」の有無の判断の誤り(取消事由2)について
(1) 商標法51条1項の「故意」とは,商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用するに当たり,これを使用した結果,他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していることと解するのが相当である。
・・・
以上によると,被告が被告使用商標の使用を開始した時点では,原告が日本国内で原告製造製品を販売するに当たりどのような商標を使用するかは,必ずしも明確ではなかったのであるから,被告が,被告商標の使用により,原告の業務に係る原告製造製品と混同を生じさせることを認識していたとは認められない

(3) なお,原告は,原告製造製品と同様に被告製造製品にHIH社の頭文字でる「HIH」の文字や原告の有する米国特許の番号を付していることをもって,被告は,原告製造製品との混同が生じることを認容していたと主張する。
 しかし,商標法51条1項における「故意」は,登録商標又はこれに類似する商標を使用した結果,他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していることに限られ,上記商標の使用以外の事由により混同を生じさせることを認識していたとしても,同項の「故意」には該当しない

無効審決された商標の指定商品を異ならせた再出願

2011-11-13 21:51:31 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10188
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 被告は,先願商標について商標登録を受けたが,・・・,その商標登録を無効にすべき旨の審決を受け,・・・,これに対し,・・・被告が本件商標について登録出願をしたのは,この審決を受けてから確定するまでの間・・・である。

(2) 原告は,以上の経緯を前提に,先願商標に対する無効審決の効力が本件商標には及ばないとした本件審決の判断は,商標法56条1項において準用する特許法167条に違反する旨主張するが,そもそも,特許法167条は,・・・,特許無効審判等について無効審判の確定の登録があったときは,同一の事実等に基づいて審判の請求をすることを禁止したものにとどまるものであって,無効と判断された登録商標と構成を同じくする商標について,指定商品を異なるものとした上で再度出願することそれ自体を禁止するものではない

 もっとも,原告が本件において特許法167条違反をいうのは,併せて,信義則違反と権利の濫用とに言及していることに鑑みると,本件商標の登録出願は,先願商標を無効にすべき旨の審決を受けた後であることから,本件商標の出願は無効と判断された先願商標の再生と無効審決を潜脱する不正な目的でされたものであって,そのような商標の登録は認められるべきでないという趣旨に解されなくもない

 しかしながら,先願商標の商標登録を無効と判断した審決の理由(甲1)は,普通名称であるという「堤人形」の文字を含む先願商標をその指定商品中,「堤人形」以外の「土人形」及び「陶器製の人形」について使用するときは,これに接する需要者は,該商品があたかも堤人形であるかのように,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるとして,商標法4条1項16号に該当するというのである。
 その出願人である原告において,先願商標の指定商品を「堤人形」に限定した上で,先願商標と同じ構成に係る本件商標の登録出願をすることそれ自体は,止むを得ない措置であったというべきであって,それが当該商標登録の無効理由に当たる場合は格別,そうでない以上,本件商標の登録出願を直ちに不正な行為であるということはできないし,原告に対する関係でみても,これを信義則違反や権利の濫用に当たるものということもできない

「電子出版物の提供」とホームページやブログの開設

2011-11-13 17:41:57 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10128
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第2 事案の概要
 本件は,原告が,下記1の原告の本件商標に係る登録商標の指定役務中,第41類「電子出版物の提供,図書及び記録の供覧」(以下「本件役務」という。)に対する不使用を理由とする当該登録の取消しを求める被告の下記2の本件審判請求について,特許庁が当該商標登録を取り消すとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
・・・
第4 当裁判所の判断
1 「電子出版物の提供」について
(1) 原告は,ホームページやブログの開設は,本件役務中の「電子出版物の提供」に該当すると主張する。

(2) しかしながら,ホームページやブログが「電子出版物」の範疇に含まれるとしても,商標法上の役務とは,他人のためにする労務又は便益であって,独立して商取引の目的たり得るものをいうから,ホームページやブログを開設することが,その開設者にとって直ちに商標法上の役務である「電子出版物の提供」に該当するということはできないし,原告が開設したとするブログ(甲1の1~甲5)がそのような商標法上の役務の提供に該当すると認めるに足りる証拠もない。

書体と配列のまとまりが商標の称呼に与える影響

2011-11-10 22:29:19 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10174
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 本願商標は漢字である「炭都饅頭」の4文字を江戸文字の書体で縦1行にまとまりよく記して成る外観を有する一方,引用商標は大文字の欧文字である「TANTO」の5文字と片仮名である「タント」の3文字とを,ゴシック体ないしこれに類する書体で,横2段書きして成る外観を有するから,両商標の外観は大きく異なる。
・・・
 被告は本願商標に使用されている文字の書体はありふれたものであり,取引者や需要者は筆書き風の書体で記したものと認識するに止まる旨を主張するが,江戸文字は,骨太で威勢のいい江戸歌舞伎の感性を意匠化すべく考案され,・・・,内へと入る運筆で枠一杯に隙間なく書かれることを特徴とするもので・・・,書体自体が見る者に強い印象を与えるためにデザインされたものである。そうすると,さほど注意力が高くない需要者や取引者にとっても,本願商標が通常の筆書きによって記すよりも強い印象を与えるということができ,被告の上記主張を採用して,両商標の外観の相違を小さく評価することはできない。なお,パーソナルコンピュータの普及に伴って江戸文字のフォントが広く使用されるようになってきているとしても,本願商標自体の外観における書体の特徴に照らせば,上記判断は左右されるものではない

2 本願商標の構成のうち「饅頭」の部分は,和菓子の一種を示す普通名称であって,「饅頭」の文字だけでは自他商品識別力が希薄であることは否定できないが,前記1のとおり,本願商標は縦1行にまとまりよく記して成る外観を有し,本願商標を構成する文字の書体も,文字の大きさも相互にほぼ同一であって,例えば「炭都」の部分が特に強調された体裁を有するものではない
 そうすると,本願商標からはまず「タントマンジュウ」との称呼が生じるというべきである。

指定商品名に含まれる略語の識別力

2011-10-16 11:15:46 | 商標法
平成23年09月20日 平成23年(行ケ)10085号
審決取消請求事件
商標権、行政訴訟
裁判長 塩月秀平
(別観点から再掲)

(2) 被告の主張に対する判断
・・・
イ 被告は,本願商標の観念及び称呼について,本願商標中「TV」部分は,指定商品「電気通信機械器具」に含まれる「テレビジョン受信機」を意味する略語であるから,当該指定商品に使用する場合には出所識別機能を有しないが,「プロテクタ」部分については,商品の品質等を直ちに表示するものではなく,出所識別機能を有するから,本願商標中「プロテクタ」部分が要部として認識され,この部分からも観念及び称呼が生じると主張する。

 確かに,本願商標中「TV」部分は,指定商品「電気通信機械器具」に含まれる「テレビジョン受信機」を意味する略語であるから,これを指定商品「テレビジョン受信機」に使用する場合には出所識別機能を有しないといい得る。しかしながら,テレビジョン受信機は「電気通信機械器具」の一部にすぎないし,他方において,本願商標中「プロテクタ」部分についても,当該部分は「保護する装置」との意味を有する英単語の片仮名表記と解されるところ,指定商品「電気通信機械器具」に含まれる「電気通信機械器具の部品及び附属品」には,その性質上,電気通信機械器具を静電気,電波,磁気,衝撃等から保護するための装置が包含されると解される(特に,「電気通信機械器具の部品及び附属品」に含まれる「保安器」は,雷から電気通信機械器具を「保護する装置」である。)から,「プロテクタ」部分を指定商品「電気通信機械器具」に使用するか,少なくともこれに含まれる「保安器」に使用する場合には,出所識別機能は極めて低いものといえる。

 そもそも「TV」も「プロテクタ」も普通名詞として一般に通用している語であることも踏まえ,上記の検討にかんがみると,本願商標中「TV」部分と「プロテクタ」部分は,それぞれ異なる指定商品との関係において出所識別標識としての機能がないか,極めて低いものであって,出所識別標識としての機能に差異があるとはいえない。したがって,本願商標においては,「TVプロテクタ」全体が一体のものとして把握されると理解するのが自然であり,本願商標中「プロテクタ」部分のみを要部として抽出することは不相当というべきであり,この部分からも称呼及び観念が生じるとする被告の上記主張は採用することができない。

意味的な結び付きが強いとはいえず、識別力も大差ない結合商標の観念と称呼

2011-09-25 20:49:07 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10085
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 本願商標は,「TV」の欧文字と「プロテクタ」の片仮名文字を結合した商標であって,標準文字からなる「TVプロテクタ」の文字を一連の横書きで表記したものである。

 本願商標は,「TV」と「プロテクタ」を組み合わせた造語と解されるところ,「TV」部分は,英単語である「television」の略語と一般に理解されるから,テレビジョン受信機の観念が生じる(乙4「コンサイスカタカナ語辞典第4版」参照)。また,「プロテクタ」部分は,英単語である「protector」の片仮名表記と一般に理解され,一般人にとって,保護するもの,保護する装置,防御物,防護用具,保護者,後援者等の観念が生じる(甲8「英辞郎 on the Web」,乙12「ベーシックジーニアス英和辞典」等参照)。

 そうすると,「TV」部分と「プロテクタ」部分の意味的な結び付きが強いとはいえないから,これらの単語を組み合わせた本願商標「TVプロテクタ」の全体からは特定の観念が生じないというべきであり,生じるとしても,テレビジョン受信機を保護する何らかの装置との観念を生じさせるにとどまり,指定商品の機械器具,部品の分野でみても,「TV」と「プロテクタ」のいずれかの部分に強い識別力が伴うものとすべき事情を認める証拠はない。そして,双方の部分ともに冗長ではなく一連に発音しても違和感のないものであるから,本願商標からは,全体として「ティーヴィープロテクタ」の称呼が生じるものと認めることができる。


「総合小売等役務商標」と他の「特定小売等役務商標」の独占権の範囲の重複

2011-09-19 22:55:07 | 商標法
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110915085437.pdf
事件番号 平成23(行ケ)10086
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 取消事由1(商標法4条1項15号該当性についての判断の誤り)について
ア はじめに――本件商標の効力について
 本件商標に係る指定役務は,
①「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件総合小売等役務」),及び
②「『菓子及びパンの小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』など取扱商品の種類を特定した上で,それらに属する商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件特定小売等役務」
からなるものである。

 ・・・,「小売等役務商標の査定ないし商標登録」行為は,独占権を付与する行政行為等であるから,独占権の範囲に属するものとして指定される「役務」は,例えば,「金融」,「教育」,「スポーツ」,「文化活動」に属する個別的・具体的な役務のように,少なくとも,役務を示す用語それ自体から,役務の内容,態様等が特定されることが必要不可欠であるといえる。

 ところで,「小売役務商標」は,上記の,独占権の範囲を明確にさせるとの要請からは大きく離れ,「小売の業務過程で行われる」という経時的な限定等は存在するものの,「便益の提供」と規定するのみであって,提供する便益の内容,行為態様,目的等からの明確な限定はされていない「便益の提供」とは「役務」とおおむね同義であるので,仮に何らの合理的な解釈をしない場合には,「便益の提供」で示される「役務」の内容,行為態様等は,際限なく拡大して理解,認識される余地があり,そのため,商標登録によって付与された独占権の範囲が,際限なく拡大した範囲に及ぶものと解される疑念が生じ,商標権者と第三者との衡平を図り,円滑な取引を促進する観点からも,望ましくない事態を生じかねない。例えば,譲渡し,引渡をする「物」等(小売の対象たる商品,販売促進品,景品,ソフトウエア,コンテンツ等を含む。)に登録商標と同一又は類似の標章を付するような行為態様について,これを,小売等役務商標に係る独占権の範囲から,当然に除外されると解すべきか否かについても,明確な基準はなく,円滑な取引の遂行を妨げる要因となり得るといえる。

上記の観点から,本件について検討する。
 まず,「特定小売等役務」においては,取扱商品の種類が特定されていることから,特定された商品の小売等の業務において行われる便益提供たる役務は,その特定された取扱商品の小売等という業務目的(販売促進目的,効率化目的など)によって,特定(明確化)がされているといえる。そうすると,本件においても,本件商標権者が本件特定小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,特定された取扱商品に係る小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当である(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。
 次に,「総合小売等役務」においては,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」などとされており,取扱商品の種類からは,何ら特定がされていないが,他方,「各種商品を一括して取り扱う小売」との特定がされていることから,一括的に扱われなければならないという「小売等の類型,態様」からの制約が付されている。したがって,商標権者が総合小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当であり(侵害行為については類似の役務態様を含む。),本件においても,本件商標権者が本件総合小売等役務について有する専有権ないし独占権の範囲は上記のように解すべきである。

 ・・・「総合小売等役務商標」の独占権の範囲を,このように解することによって,はじめて,他の「特定小売等役務商標」の独占権の範囲との重複を避けることができる。

商標法37条1号の規定する指定商品に類似する商品の判定基準

2011-07-31 10:03:34 | 商標法
事件番号 平成21(ワ)16490
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年07月21日
裁判所名 大阪地方裁判所
裁判長裁判官 山田陽三

(1)法37条1号の規定する指定商品に類似する商品に当たるかどうかは,それらの商品自体に取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく,通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるかどうかにより判定すべきものである。

商標の「使用」には当たらない場合

2011-07-18 22:19:52 | 商標法
事件番号 平成22(ワ)18759
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年06月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

1 被告各標章は,被告商品につき商標として使用されているか(争点(1)ア)について
 商標は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項),すなわち自他商品識別機能及び出所表示機能を有するものとして登録されるのであるから,ある標章が,当該登録商標の指定商品又は指定役務につき自他商品識別機能及び出所表示機能を果たしていない態様で使用されている場合には,形式的には同法2条3項各号に掲げる行為に該当するとしても,商標の「使用」には当たらず,商標権者の登録商標を使用する権利(同法25条)の侵害行為又は侵害とみなされる行為(同法36条1項,37条)には該当しないと解するのが相当である。そこで,本件の事案にかんがみ,被告各標章が被告商品の自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で用いられているか,すなわち,被告商品につき商標としての使用がされているかについて検討する。

 ・・・
(エ) そうすると,被告は,「HP QuickLook」又は「HPQuickLook2」,「HP QuickLook3」との表示を,上記ソフトウェア又は機能の名称として使用しているものであって,・・・,被告各標章(ただし被告標章3については被告標章3-2)につき,被告製のノート型コンピュータの電源が切られているなど,直ちにメールやスケジュールを開くことができない状態であっても,専用ボタンを押すことにより,すばやくメール等の内容をコンピュータの画面に表示させることができるという,被告製のノート型コンピュータが一般的に有する一つの機能又は上記機能を実現させるために当該コンピュータに搭載されたソフトウェアの名称を表示又は意味すると認識するにとどまるものと認められ,被告各標章から,特定のコンピュータ商品としての被告商品の出所を識別するものとしてその出所を想起するものではないと認められる。

 (オ) したがって,被告各標章が甲9及び10のウェブページにおいて被告商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,甲9及び10のウェブページにおける被告各標章の使用は,被告商品に関して,商標としての使用(商標的使用)に当たらない。

<類似の判示> 東京地方裁判所 大鷹一郎 裁判長
 事件番号 平成20(ワ)34852 ブログ
 事件名 商標権侵害差止等請求事件
 裁判年月日 平成22年11月25日

 事件番号 平成21(ワ)25783 ブログ
 事件名 販売差止等請求事件
 裁判年月日 平成22年10月21日

立体商標の商標法3条2項該当性の判断事例

2011-07-18 10:51:52 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10253
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年06月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
立体商標の商標法3条1項3号該当性の判断事例

 そこで,本願商標が,商標法3条2項に該当するか否かについて,検討する。
 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である。

 そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するというべきである。
 もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,技術の進歩や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することが通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,ごく僅かに形状変更がされたことや,材質ないし色彩に変化があったことによって,直ちに,使用に係る商標ないし商品等が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等にごく僅かな形状の相違,材質ないし色彩の変化が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

・・・

 上記に挙げた事実及び前記1(2)アの事実に照らすと,
① 原告製品は,背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,座面が細い紐類で編み込まれていること,上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴的な形状を有していること,
② 1950年(日本国内では昭和37年)に販売が開始されて以来,ほぼ同一の形状を維持しており,長期間にわたって,雑誌等の記事で紹介され,広告宣伝等が行われ,多数の商品が販売されたこと,
③ その結果,需要者において,本願商標ないし原告製品の形状の特徴の故に,何人の業務に係る商品であるかを,認識,理解することができる状態となったものと認めるのが相当である。

(イ) これに対し,被告は,原告が販売する原告製品は,本願商標と形状がほぼ同一であっても,様々な色彩のものが販売されており,これにより商品に対する印象,認識が大きく異なるから,本願商標と原告使用に係る商標とが,同一のものであるということはできない,と主張する。
 しかし,上記のとおり,本願商標は,形状における特徴の故に,自他商品の出所識別力があると解するのが相当であるから,原告製品に使用された木材の材質や色彩,座面(ペーパーコード)の色彩にバリエーションがあったとしても,商品の出所に対する需要者の認識が大きく異なるとはいえず,本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認定することの障害になると解することはできない

立体商標の商標法3条1項3号該当性の判断事例

2011-07-18 10:44:20 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10253
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年06月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 ・・・,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美観を追求する目的により選択される形状であっても,商品,役務の出所を表示し,自他商品,役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格な基準を満たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。

 そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されたと認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。

(ア) ・・・。

(イ) ・・・,同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。・・・。

(ウ) さらに,商品等に,需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。
 その理由として,・・・,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美観の観点からは意匠として,・・・独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限当たり公益に反することが挙げられる。

・・・
本願商標の上記形状について考察すると,・・・ような形状からなること等,特徴のある形状を有している。同特徴によって,本願商標は,看者に対し,シンプルで素朴な印象,及び斬新で洗練されたとの印象を与えているといえる。
 他方,本願商標の形状における特徴は,いずれも,すわり心地等の肘掛椅子としての機能を高め,美感を惹起させることを目的としたものであり,本願商標の上記形状は,これを見た需要者に対して,肘掛椅子としての機能性及び美観を兼ね備えた,優れた製品であるとの印象を与えるであろうが,それを超えて,上記形状の特徴をもって,当然に,商品の出所を識別する標識と認識させるものとまではいえない

ウ 小括
以上によれば,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。

標章が商標として使用されているか否かの判断事例-「Quick Look」事件

2011-06-05 14:06:43 | 商標法
事件番号 平成22(ワ)18759
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年05月16日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大須賀滋

1 被告各標章が商標として使用されているか否か(争点(1)ア)について
 商標は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項),すなわち自他商品識別機能及び出所表示機能を有するものとして登録されるのであるから,ある標章の使用が,商標権者の登録商標を使用する権利(同法25条)の侵害行為又は侵害とみなされる行為(同法36条1項,37条)といえるためは,当該使用される標章が自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で使用されていることが必要である。
 ・・・

 このような甲47のウェブページに接したコンピュータ商品およびOS商品の需要者は,「Quick Look」が,ファイルを開かずにフ ァイルの内容をすばやくプレビュー表示するという機能を有する,被告のOSソフトウェア商品である「Mac OS X」の主なアプリケーションの一つであると認識し,被告標章1も,当該機能を有するする,被告のOSソフトウェア商品の主なアプリケーションの一つを表示するものと認識すると認められる。
 そして,被告は,・・・プログラム(プラグイン)を作成するために必要な技術仕様を公開,提供していることが認められる。

 しかしながら,前記アのとおり,被告は,ファイルを開かずにファイルの内容をすばやくプレビュー表示するという,被告OSソフトウェア商品が有する機能を「Quick Look」(クイックルック)と表示していることが認められるところ,後記エのとおり,被告は,当該機能を使えるようにするためのプログラム(プラグイン)を作成するために必要な技術仕様の公開,提供をしていることは認められるものの,当該プラグインを自ら作成したり,これを配布したりするなどの行為を行っていると認めることはできないから,結局,被告が被告のOSソフトウェア商品の主なアプリケーションの一つとして表示する「Quick Look」(クイックルック)は,被告のOSソフトウェア商品の有する当該機能を,被告のOSソフトウェア商品の「アプリケーション」と称して表示したものにすぎないというべきである。

 そうすると,・・・「Quick Look」との表示は,・・・機能の一つを表示したものであり,・・・需要者は,「Quick Look」が,・・・機能を表示するものであると認識するものと認められるが,他方で,被告のOSソフトウェア商品の出所については,甲47のウェブページの「Quick Look」の表示がその左上部に記載された,「Mac OS X」の一機能として記載されていることからすると,被告のOSソフトウェア商品の出所については,その左上部に記載された「Mac OS X」の標章から想起し,「Quick Look」の語から想起するものではないものと認められる。

 したがって,被告標章1が甲47のウェブページにおいて被告OSソフトウェア商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,甲47のウェブページにおける被告標章1の使用は,商標としての使用(商標的使用)に当たらない。