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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

法律に違反しなくても公序良俗を害するとした事例

2011-05-22 23:10:17 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10003
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年05月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告が主張するところによっても,原告は教育施設を擁するものではないから,「大学」という名称を用いても直ちに学校教育法135条1項の規定に違反するとはいえないかもしれない
 しかしそうだとしても,学校教育法に基づいて設置された大学を表示するものと誤認されるおそれのある本願商標をその指定役務に含まれる「技芸・スポーツ又は知識の教授」の役務に使用することになれば,これに接した需要者に対し,役務の提供主体があたかも学校教育法に基づいて設置された大学であるかのように誤認を生じさせることになり,教育施設である「学校」の設置基準を法定した上で,この基準を満たした教育施設にのみその基本的性格を表示する学校の名称を使用させることによって,学校教育制度についての信頼を維持しようとする学校教育法135条1項の趣旨ないし公的要請に反し,学校教育制度に対する社会的信頼を害することになるというべきである

 したがって,本願商標は公の秩序を害するおそれがある商標というべきであり,本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。

商標法4条1項11号該当性の判断事例

2011-05-05 17:14:29 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10332
事件名 審決取消
裁判年月日 平成23年04月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 商標法4条1項11号該当性の有無
 審決は,本願商標「天下米」と引用商標「天下」は類似し,また本願商標の指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と引用商標の指定商品の一部「籾米」も類似するから,本願は商標法4条1項11号に該当し商標登録を受けることができないと判断するところ,原告は上記類似該当性をいずれも争うので,以下検討する。
・・・
(2) 本願商標「天下米」と引用商標「天下」とは類似するか
・・・
(ウ) 以上によれば,本願商標と引用商標とは,外観は,その受ける印象が相当程度異なるものの,「天下」が共通であるから,一定程度の共通性が認められ,観念は,本願商標が「米」に関するものであるとしても,「この上なくすばらしい」「世に類がない」という意味を含む「天下」を共通にしているから,相当程度共通しており,称呼も「テンカマイ」と「テンカ」であって相当程度共通しているといえるから,前述した取引の実情を考慮すると,商標法4条1項11号にいう「類似する商標」であると認めるのが相当である。

(3) 本願商標の指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と引用商標の指定商品「籾米」とは類似するか
ア 指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,商標法4条1項11号にいう類似の商品にあたると解するのが相当である(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決民集15巻6号1730頁参照)。
 以上を前提として,本件における本願商標と引用商標の各指定商品の類否を検討する。

イ 本願商標の指定商品である「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と,引用商標の指定商品の「籾米」とが,商品として同じでないことは明らかであるが,・・・,その基本的な特徴部分はいずれも「米」であり,単にその状態が異なるにすぎない。
 そして,両指定商品に関して,一般的に,稲作農家が籾米を生産して販売し,米屋が精白米を販売するという細かな違いが存在するとしても,「米」は食用に供されるもので,その需要者は一般消費者であるなど,その基本的な性質は同じであることに加え,本願商標は,単に「天下米」と記載するのみであって,それ以上に,米の状態,すなわち「精白米」であって「籾米」でないことは記載していないのであるから,それぞれの指定商品に本願商標及び引用商標が付された場合,同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる。

 このように,本願商標をその指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」に使用した場合,引用商標をその指定商品中「籾米」に使用した場合とで誤認混同が生じるおそれがあるということができるから,本願商標と引用商標の各指定商品は類似するというべきである。

立体商標の商標法3条1項3号に該当性の判断事例

2011-05-05 08:48:26 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10386
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定するが(同法2条1項,5条2項),同法4条1項18号において,「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を規定していることに照らすと,商品及び商品の包装の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないものとしたものと解される。

イ 商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない
 このように,
 商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,
 商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。

 そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。
 また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない
 
 よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。

・・・
 そうすると,本願商標の立体的形状は,本件審決時を基準として客観的に見れば,香水の容器について,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ,また,香水の容器の形状として,需要者において,機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべきである。

注)法3条2項該当性は否定

自主規格の適合マークの一部をなす商標の使用

2011-04-03 20:54:12 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10359
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年03月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第2 事案の概要
・・・
1 本件商標
 本件商標(登録第868916号)は,「JIL」の欧文字をゴシック体で横書きしてなり・・・,商標権存続期間の更新登録がされてきたものである(甲88)

第4 当裁判所の判断
・・・
(2) 本件使用商標の構成中の「JIL」部分について
ア 上記(1)のとおり,本件使用商標1は原告の規格である JIL5501 に適合している旨の評定を受けた非常用照明器具等に,本件使用商標2ないし4は原告の規格である JIL5002 に適合している製品登録を受けた埋込み形照明器具に,それぞれ貼付されるものである。
イ そして,本件使用商標1についてみると,上部から順に,二重円間に「(社)日本照明器具工業会」と,二重円の一番内側に「適合」と,二重円間に「JIL5501」との記載をするものである。

 ・・・,これらの上,中,下段の各記載は明瞭に分けられており,かつ,それぞれが関連性を有するものと解することもできないから,それぞれが独立したものとしてもみることができる。
 その上で,下段の「JIL5501」について改めてみると,何らかの記号であると推測されるとしても,上記のとおりの原告の規格である JIL5501 に係る記載であると一見して認識されるものではなく,必ずしも特定の観念を生ずるものではないところ,これは,欧文字の「JIL」と算用数字である「5501」とからなるものであるから,これを一体のものとしてみるほかに,「JIL」と「5501」とを区切ってみることが可能であって,「JIL」との独立した表示も抽出して認識されるものということができる.
・・・
エ そして,以上のように本件使用商標の構成中から独立した表示として抽出される「JIL」の欧文字についてみると,それは,本件商標の指定商品である「・・・」との関係で何らかの性状等を示すものと認めることもできないから,同部分は,本件商標との関係において,自他商品識別標識としての機能を果たし得るものということができ,当該部分のみが独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るとはいい難いとした本件審決の判断は首肯することができない
 また,仮に,取引者・需要者において,「JIL5501」や「JIL5002」が照明器具の認証に係る標章であることを知っていたとしても,「JIL」部分が照明器具の認証の部類に係るものであることを,これに続く算用数字部分が具体的な認証の種類を表すものと理解し得るものであって,「JIL」部分も,独立して自他商品識別標識としての機能をも有しているものということができる。


(3) 本件商標の使用について
ア 前記(1)によると,本件使用商標は,原告による評定又は認証がされた原告の規格に適合する照明器具であることを証する標章であって,その上段に原告の名称が記載されていることが示すように,本件使用商標によってその旨を証している者は原告ということができる。
 もっとも,前記(1)のとおり,実際に本件使用商標を作成し,当該器具に同商標を貼付するのは各登録事業者であるが,これは,原告の了承の下,原告に使用料を支払った上で,原告の名称で行っているものであるから,原告が,各登録事業者を介して,照明器具に本件使用商標を貼付して使用しているというべきものであって,本件使用商標の構成中に存在する本件商標についても,原告が,各登録事業者を介して,照明器具に本件商標を貼付して使用しているものであるということができる。
・・・
イ また,前記(1)によると,原告は,製造事業者からの申請に基づき,原告の規格である JIL5501 又は JIL5002 に基づいて審議し,評定可又は登録可となった場合に,製造事業者から使用料の支払を受けた上で,本件使用商標を照明器具に貼付して使用することを認めることにより,本件使用商標の構成中に存在する原告が商標権を有する本件商標についても,照明器具に貼付して使用させているものであって,このようにして使用許可を得た製造事業者は,本件商標の使用についての通常使用権者ということができる

商標法53条1項の解釈

2011-03-14 20:21:57 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10157
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

商標法53条1項本文は,「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定する。
 同規定には,その要件として,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされること,及び役務の質の誤認を生ずるものをしたことが挙げられている。したがって,同項の要件に該当するというためには一般的抽象的に,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在するのみでは足りず,質の誤認を生じさせると主張されている具体的な役務との関連において,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在することが必要といえる

 この観点から,本件における結合標章2の使用態様について検討すると,甲14の1,2,甲53の1ないし4によれば,補助参加人Bのウェブページには,パッケージソフトやインターネットを通じたソフトウェアの提供に関する説明,紹介等が記載されていたこと,結合標章2は,同ウェブページの上端に表示されたことが認められるが,同ウェブページは,補助参加人Bの製品,サービス等を公衆に向けて一般的に紹介したものであり,原告が補助参加人Bに委託した具体的なコンピュータシステムの開発,作成業務に関連するものではない
 そうすると,補助参加人Bのウェブページにおいて結合標章2が表示された態様は,補助参加人Bが原告に提供した具体的な役務(原告が質が低いと主張する役務)との関連において結合標章2が使用されたものということはできないから,商標法53条1項本文の要件に該当しない。その他,補助参加人Bが,原告に対して提供した役務と具体的な関連性を有する態様で結合標章2を商標として使用していたことを認めるに足りる証拠はない。

<関連>
事件番号 平成22(行ケ)1012
裁判年月日 平成23年02月28日

商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」

2010-12-26 16:59:34 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10013
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 商標法2条3項1号に基づく本件商標の使用の有無について
(1) 商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」とは,同号に並列して掲げられている「商品に標章を付する行為」と同視できる態様のもの,すなわち,指定商品を現実に包装したものに標章を付し又は標章を付した包装用紙等で指定商品を現実に包装するなどの行為をいい,指定商品を包装していない単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は,商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」に当たらないものと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告は,本件請求登録日以前から,本件容器に本件商標を付して販売するための準備を進めていたところ,被告が平成21年4月10日に外部会社から受領したものは,本件容器のパッケージデザインの電子データであるにすぎない。したがって,被告が上記電子データを受領し,これを保持することになったからといって,これをもって商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」ということはできない。

「具体的な取引状況」として審決後の不使用取消審判の結果を参照した事例

2010-12-26 16:17:45 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10171
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


1 請求の原因
イ 取消事由2(手続の違法)
・・・
b なお,本願の指定商品/役務の補正は,譲受交渉の後半段階において,引用商標権者が引用商標について第35類に係る指定役務については使用しているが,第43類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」に対しては使用していないことが判明したことに基づくもので,本願から第35類の指定役務を削除訂正し,第43類の上記指定役務に対する不使用取消審判請求を前記時期に予定していた。原告は,前記取消審判の審決確定により,本願商標は登録されると確信していた。
・・・

3 被告の反論
・・・
 なお,審理終結通知後に,原告代理人から,電話にて審理の再開の打診があったが,その理由は,引用商標に対して不使用取消審判を請求するとのことであったため,かかる対応は,審理を再開するための合理的な理由に該当するものではなく,時機に後れた対応であることから,審理の再開は行わずに審決をすることにしたものである。
 ・・・
オ 不使用取消審判につき
 商標法4条1項11号にいう「先願の登録商標」は,後願の商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続していれば足りると解すべきところ,本件の場合,審決時(平成22年4月19日)において,不使用取消審判の請求がされている事実は認められないから,引用商標が本件の審決時に有効に存続していた事実は何ら影響を受けることがない
 ・・・そして,審決が維持され,本願商標の拒絶が確定した場合であっても,原告は,事後指定による再出願を行うことができるものであり,原告に多大なる不利益が生ずるものとはいえない



第4 当裁判所の判断
1 ( 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯), ( (2) 商標の内容),(3) 審(決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
 また,証拠(甲2,14)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件審決後である平成22年5月10日付けで,引用商標である商標登録第4558717号の指定役務のうち第42類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,権利者・・・を被請求人として,商標法50条1項に基づく不使用取消審判を請求し,同年5月21日(処分日)にその旨の予告登録がなされ,同年8月31日に認容審決(甲14)がなされ,同年11月2日(処分日)に確定登録がなされたことが認められる。
 上記事実によれば,上記予告登録がなされた平成22年5月21日の3年前である平成19年5月21日から,引用商標の商標権者である株式会社ほるぷ出版ないし株式会社ブッキングは,指定役務第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,引用商標を使用していなかったことになる

2 本願商標と引用商標の類否について(取消事由1)
 商標の類否は,・・・,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照 。)

 一方,甲33(引用商標に係る公報)及び甲15(本願商標に係る出願・登録情報の検索結果)の各指定役務欄を比較すると,本願商標(35類は取り除かれ,39類及び43類はそれぞれ変更された後のもの)と引用商標(上記不使用取消審判事件の審決により,第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」が除かれた後のもの)では,その指定役務の抵触関係はないものと認められる。
 そこで,以上の観点に立って,本願商標と引用商標の類否につき検討する。

・・・
(5) 以上の(1)ないし(4)からすれば,本願商標と引用商標とは,外観は相当異なり,観念は「予約」との部分で一部共通し,称呼は原則として「ブッキング」との共通部分があり,これらの諸要素に,前述した取引の実情,とりわけ不使用取消審判により認められた平成19年5月21日からの引用商標不使用の実情を総合考慮すると,本件審決時(平成22年4月19日)において本願商標と引用商標とが類似するとはいえないと認めるのが相当であり,本願商標は商標法4条1項11号には該当しないというべきである。


*事後指定による再出願は、商標法68条の三十二に基づく出願か

商標の「使用」とは

2010-11-28 22:02:35 | 商標法
事件番号 平成20(ワ)34852
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年11月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

1 争点1(本件商標権の侵害行為の有無)について
 商標の本質は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項)として機能すること,すなわち,商品又は役務の出所を表示し,識別する標識として機能することにあると解されるから,商標がこのような出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているといえない場合には,形式的には同法2条3項各号に掲げる行為に該当するとしても,当該行為は,商標の「使用」に当たらないと解するのが相当である。

 ・・・

(イ) 前記(ア)の認定事実と前記(1)及び(2)イの認定事実を総合すれば,被告チラシ5に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては,被告標章5の「塾なのに家庭教師」の語は,別紙5のウェブページにおける「TKGの特色」の標章及びその下の「塾なのに家庭教師,それがTKG」の標章,集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って,学習塾であるにもかかわらず,自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなど,集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し,他方で,その役務の出所については,画面左上部に表示された「TKG」の標章(前記(ア)a)から想起し,「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 ・・・

 そうすると,被告標章5が被告ウェブサイトにおいて役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,被告ウェブサイトにおける被告標章5の使用は,本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。

類似品や模倣品の存在によっても立体的形状自体の自他商品識別力は失われないとした事例

2010-11-28 20:45:55 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(ウ) 被告は,上記イ(キ) に関し,取引の実情において,他社の類似する形状の包装用容器が多数存在すること,それにもかかわらず,原告が他社の類似容器の存在に対し適切な処置を講じてこなかったことを問題視する。

 しかし,市場に類似の立体的形状の商品が出回る理由として,通常は,先行する商品の立体的形状が優れている結果,先行商品の販売の直後からその模倣品が数多く市場に出回ることが多いと認められるところ,取引者及び需要者がそれらの商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し,市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り,先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはないというべきである。

 そして,本件においては,前記認定のとおり,原告商品「ヤクルト」は,乳酸菌飲料の市場における先駆的商品であり,著名なデザイナーにデザインを依頼し,最初に本件容器の立体的形状を乳酸菌飲料に使用したものであり,現在市場に出回っている容器の立体的形状が類似する商品はその後に登場したものであると認められること,数多くの類似品の存在にもかかわらず,本件容器の立体的形状に接した需要者のほとんどはその形状から「ヤクルト」を想起する,という調査結果が存するのであるから,本件においては,市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである。

類似品や模倣品の存在によっても立体的形状自体の自他商品識別力は失われないとした事例

2010-11-28 20:45:55 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(ウ) 被告は,上記イ(キ) に関し,取引の実情において,他社の類似する形状の包装用容器が多数存在すること,それにもかかわらず,原告が他社の類似容器の存在に対し適切な処置を講じてこなかったことを問題視する。

 しかし,市場に類似の立体的形状の商品が出回る理由として,通常は,先行する商品の立体的形状が優れている結果,先行商品の販売の直後からその模倣品が数多く市場に出回ることが多いと認められるところ,取引者及び需要者がそれらの商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し,市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り,先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはないというべきである。

 そして,本件においては,前記認定のとおり,原告商品「ヤクルト」は,乳酸菌飲料の市場における先駆的商品であり,著名なデザイナーにデザインを依頼し,最初に本件容器の立体的形状を乳酸菌飲料に使用したものであり,現在市場に出回っている容器の立体的形状が類似する商品はその後に登場したものであると認められること,数多くの類似品の存在にもかかわらず,本件容器の立体的形状に接した需要者のほとんどはその形状から「ヤクルト」を想起する,という調査結果が存するのであるから本件においては,市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである。

立体商標に商標法3条2項の適用を肯定した事例

2010-11-28 20:22:30 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2)ア ところで,商標法3条2項は,「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨規定している。したがって,本願商標のように,「その形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であって同法3条1項3号に該当する場合であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったときは,商標登録が許されることになる。

 そして,本願商標のような立体的形状を有する商標(立体商標)につき商標法3条2項の適用が肯定されるためには,使用された立体的形状がその形状自体及び使用された商品の分野において出願商標の立体的形状及び指定商品とでいずれも共通であるほか,出願人による相当長期間にわたる使用の結果,使用された立体的形状が同種の商品の形状から区別し得る程度に周知となり,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていることが必要と解される。
 この場合,立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても,そのことのみで上記立体的形状について同法3条2項の適用を否定すべきではなく,上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきである。

・・・

ウ 以上によれば,本件容器を使用した原告商品は,本願商標と同一の乳酸菌飲料であり,また同商品は,・・・,特に,本件容器の立体的形状を需要者に強く印象付ける広告方法が採られ,発売開始以来40年以上も容器の形状を変更することなく販売が継続され,その間,本件容器と類似の形状を有する数多くの乳酸菌飲料が市場に出回っているにもかかわらず,最近のアンケート調査においても,98%以上の需要者が本件容器を見て「ヤクルト」を想起すると回答している点等を総合勘案すれば,平成20年9月3日に出願された本願商標については,審決がなされた平成22年4月12日の時点では,本件容器の立体的形状は,需要者によって原告商品を他社商品との間で識別する指標として認識されていたというべきである。

 そして,原告商品に使用されている本件容器には,・・・原告の著名な商標である「ヤクルト」の文字商標が大きく記載されているが,上記のとおり,平成20年及び同21年の各アンケート調査によれば,本件容器の立体的形状のみを提示された回答者のほとんどが原告商品「ヤクルト」を想起すると回答していること,容器に記載された商品名が明らかに異なるにもかかわらず,本件容器の立体的形状と酷似する商品を「ヤクルトのそっくりさん」と認識している需要者が存在していること等からすれば,本件容器の立体的形状は,本件容器に付された平面商標や図柄と同等あるいはそれ以上に需要者の目に付きやすく,需要者に強い印象を与えるものと認められるから,本件容器の立体的形状はそれ自体独立して自他商品識別力を獲得していると認めるのが相当である。

商標法4条1項7号と同項15号,19号の各規定の関係

2010-11-17 22:30:57 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10040
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

4 商標法4条1項7号の登録障害事由の有無について
(1) 商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」の該当の有無を判断するに際し,当該商標の構成に,非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形等を含まない場合においては,同項15号,19号の各規定が置かれている趣旨に照らすと,単に,他人の業務に係る商品や役務と混同を生ずるおそれがあるか,あるいは,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするものであるかが問われるときには,15号,19号に規定された各要件を充足するか否かによって,4条1項所定の障害事由の成否を検討すべきであって,そのような事実関係が存在することのみをもって7号の障害事由に該当すると解するのは相当とはいえない

(2) 7号に関する原告の主張は,要するに,本件各商標は,日本国内又は海外で著名であったラルフ・ローレンの「POLO」の著名性に便乗し,日本の消費者を誤認させ,不当な利益を上げることを目的として登録・保持されているものであるから,公序良俗違反に該当するというものである。不正競争防止法違反など原告が他に挙げる観点も,要するにこのような主張に帰するものである(・・・)。

 このような原告の主張は,まさに上記15号又は19号が規律する商標登録障害事由であって,これらの要件の充足の有無により15号又は19号の障害事由の成否を判断すべきであるから,原告主張の事実関係をもって,7号の障害事由に該当すると解するのは相当ではない

 後記5及び6で説示する内容に照らすと,本件各商標が15号又は19号の要件を充足しているとはいえず,登録時においても現在においても,公序良俗に反するような事情の存在を認めることはできず,7号の障害事由該当を根拠とする商標法46条1項1号又は5号の無効理由があるということはできない。

「送達」が適法にされたか否かの判断は厳格になされるべきとした事例

2010-10-03 10:01:19 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10078
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 審判請求書副本送達の瑕疵(取消事由1)について
 ・・・
 「送達」とは,特定の名宛人に対して,書類の内容を了知する機会を付与するために,法の定める特定の方式に従って行われる通知行為である。法が,特定の書類を通知するに当たり,法の定める送達によらなければならないとしたのは,
① 送達を受けるべき者に対して,当該書類の内容を確実に知らしめて,その者の手続上及び実体上の利益を確保し,
② 法に従った通知行為がされた以上,送達を受けるべき者が,現実に書類の内容を了知したか否かにかかわらず,通知が有効に行われたものとして,法所定の法的効果を付与し,手続を進行させることによって,迅速かつ円滑な手続を確保し,
③ 通知が所定の方式によって行われ,かつ,その事実を公証することによって,所定の手続上及び実体上の効果が争われることを防止して手続等の安定を確保する等の趣旨・目的が存在するからである。

 「送達」が適法に行われると,上記のような趣旨目的に即した効力が付与され,手続を進行させることができるが,他方,当事者の実体上及び手続上の権利・利益に重大な影響を及ぼすおそれがあるため,「送達」が適法にされたか否かの判断は,上記の観点に照らして,厳格にされる必要がある

 本件について,この観点から検討する。

 ・・・
審判長は,平成21年6月22日,原告に対して,航空扱いとした書留郵便に付して,本件取消審判請求書の副本を発送したこと,同副本は,「ABC」に宛ててされたこと,原告は,そのころ既に住所を変更しており,上記住所から,現在の住所である「DEF」に移転していたこと・・・が認められる。
 ・・・

(2) 判断
 上記認定した事実に基づいて,本件における送達が適法であるか否かを検討する。

 本件取消審判請求の副本の送達は,原告が,日本国内に営業所を持たない法人であり,上記登録手続から審決までの間,日本において,いわゆる商標管理人を置いていなかったことを理由として,審判長により,航空扱いとした書留郵便に付して,国際登録に記載された原告の住所地に宛てて発送されているので,法の要求する要件を,一応備えているといえる。
 しかし,前記のとおり,「送達」は,送達を受けるべき者が,現実に書類の内容を了知したか否かにかかわらず,手続を進行させることを可能とさせるものであり,当事者の実体上及び手続上の権利・利益に重大な影響を及ぼすおそれがある手続であることに照らすならば,送達が適法であるか否かについては,送達を受けるべき者にとって,防御の機会が十分に確保されていたか否かを基準として判断すべきであるそのような観点に照らすならば,航空扱いとした書留郵便に付してされた送達が,適法なものとして扱われるためには,特段の事情の存在しない限り,送達を受けるべき当事者の真の住所に宛ててされた場合であることを要すると解するのが相当である。

商標法29条の「使用」

2010-09-20 12:14:14 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10093等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 取消事由1-2(商標法29条についての判断の誤り)について
(1) 原告は,引用商標と原告が取得した著作権とが抵触することを前提として,商標法29条により被告が引用商標に基づき本件商標の無効審判を請求することができない旨を主張する。

(2) しかしながら,商標法29条にいう「使用」は,同法2条3項に列挙されているものに限定されると解されるところ,ここには,無効審判の請求は挙げられていない

 したがって,原告の前記主張は,それ自体失当といわざるを得ない。

登録商標に係る図柄等が第三者の有する著作物に係る支分権の範囲内に含まれる場合

2010-09-20 11:39:46 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10300
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


2 商標法4条1項7号に係る判断の誤りについて
(1) 原告は,本件商標を構成する図柄が,第三者(故H)の有する著作権の範囲に含まれることを理由に,本件商標は,商標法4条1項7号に該当する商標である旨主張する。

 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

 すなわち,登録商標に係る図柄等について,第三者の有する著作物に係る支分権(複製権,翻案権等)の範囲内に含まれることがあったとしても,商標法及び著作権法の趣旨に照らすならば,そのことのみを理由として当然に当該商標が商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものということはできない
 そうすると,仮に,本件において,原告が主張するとおり,1963年に故Hが引用図形(別紙「商標目録」記載(2)引用図形参照)を著作,創作したものであり,本件商標がその著作権の範囲内に含まれるとしても,そのことのみをもって本件商標が,商標法4条1項7号に該当するとはいえない。

平成21(行ケ)10263 平成22年09月14日 知的財産高等裁判所も同趣旨。