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徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

「よへほ節」の歌詞

2021-02-17 16:33:07 | 伝統芸能
 YouTubeのマイチャンネルに、ある方から「よへほ節」の歌詞について質問があった。
 それは「よへほ節」の一節「骨もなけれ肉もなし」と映像の字幕にあるが、音声は「骨もなけれ肉もなし」と唄っているのではないかという趣旨だった。
 山鹿市が運営している「山鹿探訪なび」に紹介されている歌詞は下図のとおりである。
 しかし、音声を聞き直してみると確かに「骨もなけれ肉もなし」と唄っているようにも聞こえる。
 そこで、山鹿灯籠踊りの地方指導もされている民謡三味線の本條秀美さんにおたずねしてみた。
 その回答を要約すると次のとおり。

 一般的に「民謡」は、口伝で人から人へと歌い継がれ、「田原坂」などでも、一部違った歌詞で歌う人もおり、歌詞は統一されていません。それぞれ歌う人の歌い方でOKと理解しております。
 「よへほ節」についても、歌詞の統一を話し合ったこともありましたが、結局、歌い手が歌いやすい歌い方で行こう、ということになり今日に至っています。民謡はその時々の歌い手によって変わることは常、と理解しております。

 ちなみに、野口雨情による改作の前の原曲は「骨もなけれ肉もなし」と唄っていたようだ。

     ▼指摘があった映像

山鹿灯籠踊り保存会による大宮神社での奉納踊り

       2013.7.6 山鹿さくら湯・池の間 俚奏楽「山鹿湯籠踊り」より
       振付:中村花誠
       立方:中村くるみ・上村文乃
       地方:(唄・三味線)本條秀美社中/(筝)小路永和奈/(囃子)花と誠の会

「翁」熊本公演

2021-02-01 22:29:40 | 伝統芸能
 昨年、計画が発表されていた「翁」熊本公演の詳細が発表されました。
 細川家ゆかりの水前寺成趣園能楽殿において、現代最高峰の能楽師である友枝昭世師(人間国宝)による喜多流「翁」が実現します。熊本において「翁」が上演されるのは、実に数十年ぶりのことだそうです。
 友枝家とともに細川家の能楽を支えた櫻間家(金春流)の当代・櫻間右陣師と、大倉流小鼓方十六世宗家・大倉源次郎師(人間国宝)による一調「屋島」。さらに、同じく細川家とゆかりの深い、狩野了一師によって、世阿弥の代表曲「高砂」が半能で舞われます。

▼日 時:2021年3月9日(火) 13:00 開場 14:00 公演
▼会 場:水前寺成趣園 能楽殿
▼チケット(2月8日より発売)
   SS席:12,000円 S席:7,500円 A席:6,000円 (℡ 0120-240-540)


友枝昭世師
喜多流能楽師。1940年肥後熊本、加藤家・細川家のお抱え能役者の本座・友枝家に友枝喜久夫の長男として、東京に生まれる。能楽シテ方喜多流十五世宗家喜多実に師事。重要無形文化財(人間国宝)認定。喜多流宗家預り。


水前寺成趣園 能楽殿

愛娘の歌舞伎出演

2021-01-30 07:01:30 | 伝統芸能
 歌舞伎の市川海老蔵さんが愛娘の市川ぼたん(麗禾)ちゃんを、永い間女人禁制とされた歌舞伎の舞台へ上げるに当たり、歌舞伎の世界での男女差別をなくそうという考えがあるのではと話題になっているようです。

 そもそも歌舞伎は、慶長8年(1603)、京の都で、国と名のる女性芸能者による「かぶき踊り」がその始まりとされています。大衆の熱狂的な支持を得た「お国かぶき」は、4年後の慶長12年(1607)の2月20日、江戸に招かれ、江戸城本丸・西の丸にある能舞台で興業を行ないます。能舞台では、その1週間前から観世・金春の勧進能が行なわれていましたが、お国は能の太夫たちと同等の待遇を受けたと伝えられています。これが江戸歌舞伎の始まりで、その後、お国の模倣者たちが続々と江戸へ下りました。お国が江戸城で踊ってから17年後の寛永元年(1624)2月15日、山城から江戸へ出た猿若勘三郎(初代中村勘三郎)が中橋に猿若座(後の中村座)を開設。江戸歌舞伎が本格的に始まりました。それからわずか5年後の寛永6年(1629年)、江戸幕府は女歌舞伎を「風紀上よろしくない」との理由で御法度にしてしまいました。以来390余年の間、女性によって始められた歌舞伎の舞台は女人禁制となったままです。

 歌舞伎よりもずっと古い歴史を持つ能の世界では、既に100年近く前から女性が舞台に上がることを許されている。もうそろそろ歌舞伎の世界も変革の時期ではないだろうか。海老蔵さんの行動を注目したい。


平成27年10月6日 山鹿八千代座での麗禾ちゃん初舞台記念植樹(山鹿温泉さくら湯池の間の庭)

八木節のはなし。

2021-01-28 19:37:18 | 伝統芸能
 この写真は2011年4月9日に熊本城本丸御殿で行われた「春の宴」で、ザ・わらべのくるみさんとあやのさんが踊っている写真だが、この演目は動画を撮っておらず、演目が何だったのか思い出せなかった。当日、地方として写真にも写っておられる本條秀美さんにおたずねしてみたところ、あやのさんのうしろに、樽を叩く人が写っており、一度だけ本丸御殿で演奏したことがある「八木節」ではないかとのこと。そう聞くと、「八木節」を踊る二人が軽やかに動き始めたような気がした。

 群馬県と栃木県の二県にわたる民謡として知られる「八木節」だが、そのルーツは越後瞽女(ごぜ)の門付(かどづけ)唄だった「新保広大寺」だという。新潟県十日町市の曹洞宗の古刹広大寺に伝わる恋物語は瞽女や遊芸人などに唄われることによって各地に広まって行ったといわれる。
 下の二つの動画は、一つ目が水野詩都子さんと本條秀五郎さんの東海風流による飛騨高山民謡「こだいじん(高山)」。瞽女によって、白川郷そして高山にも伝えられた「新保広大寺」が飛騨の風土によって変化したもの。
 二つ目は、四人の民謡演奏家が「新保広大寺」と「八木節」をメドレーで聞かせる。似ているところと違うところがよくわかる。

 実は群馬県と栃木県の間では「八木節」の発祥地についていまだに論争があるという。しかし、この曲のルーツにまで戻って考えてみれば、そんな論争は不毛なことがわかる。両毛(上毛野国と下毛野国)だけにね。オチもついたようで今日はこれまで。





「新保広大寺」が飛騨高山に伝わって「こだいじん」となった。


「新保広大寺」と「八木節」のメドレー

今年の幸若舞(こうわかまい)奉納は?

2021-01-13 18:58:15 | 伝統芸能
 毎年1月20日、福岡県みやま市瀬高町大江の大江天満神社では、この地にのみ残る中世の舞楽「幸若舞」が奉納される。しかし、今年はコロナ感染防止のため無観客で行われることになったという。今年見られないのは残念だが、次世代へと繋いでいってほしい。
 発祥の地、越前では明治維新とともに消滅した幸若舞が、奇跡的に今日までこの大江の地に残ったのは、明治時代後期、浄瑠璃の詞源として幸若舞曲を研究していた国文学者であり詩人の高野辰之が、大江に伝承されていることを知り、現地を訪ね、芸能史上特筆すべき古典芸能であることを認識して広くPRしたことが大きな要因といわれている。


大江天満神社(福岡県みやま市瀬高町大江)


大江天満神社舞堂(2015年)


国指定重要無形民俗文化財の記念碑


        <動画>





♪ 牛深ハイヤは元ハイヤ~

2021-01-11 19:16:09 | 伝統芸能
 先週8日(金)から始まった「ふるさと祭り東京2021」オンラインは今日が最終日。今日は熊本県の「牛深ハイヤ祭り」が登場するというので、配信予定時刻前からスタンバイして待つ。天草の名所を背景に12、3分にわたるなかなかのロングバージョン。久しぶりにじっくりと堪能した。
 その後、YouTubeのマイチャンネルに登録しているハイヤ節関連の映像から下の3曲を聴いた。
 
 1)本場牛深の牛深ハイヤ保存会(光彩会)による「牛深ハイヤ節」
 2)長崎県は平戸島田助港に伝わる「田助ハイヤ節」
 3)青森県に伝わる「津軽あいや節」


情趣豊かな天草各地の名所を背景に



牛深ハイヤ節


田助ハイヤ節


津軽あいや節

2021年 能・狂言公演予定

2020-12-27 20:38:55 | 伝統芸能
 今年はとうとう能・狂言の舞台を見る機会もなく終わろうとしている。来年に期待しているが、今のところ公表されている能・狂言の公演予定は次のとおり。

2021年1月5日(火)北岡神社松囃子  11:00~ 北岡神社舞殿 出演:喜多流・金春流
       (火)藤崎八旛宮松囃子 13:00~ 藤崎八旛宮能楽殿 出演:金春流・喜多流

2021年3月9日(火) 「翁 熊本公演」水前寺成趣園能楽殿 出演:友枝昭世

2021年5月22日(土) 「加藤神社150年式年奉納」 新作狂言「熊本三獣士」加藤神社

2021年5月23日(日) 「新作狂言奉納」 新作狂言「熊本三獣士」本妙寺



「翁」友枝昭世

堅田喜三久さん

2020-12-26 19:08:15 | 伝統芸能
 昨夜の「にっぽんの芸能」(Eテレ)で歌舞伎長唄囃子の人間国宝・堅田喜三久(かただきさく)さんの訃報を聞いて驚いた。先週、新聞をろくに読んでいなかったので知らず、ショックを受けた。
 「にっぽんの芸能」を見るようになって10年以上になるが、この間、出演した数多の邦楽演奏家の中で、字幕で最も多くその名前を目にしたのはおそらく堅田喜三久さんだろう。しかし、演奏されるお姿を拝見する機会は限られていた。できれば一度ナマで拝見したかった。今から15年前の平成17年に行われた「第11回くまもと全国邦楽コンクール」の時、熊本城内の旧細川刑部邸において熊本城築城400年にちなんだ曲を演奏されたらしいのだが、その絶好の機会を見逃したのが返す返すも残念でならない。ご冥福を祈る。合掌
 下の映像は今年7月に行われた無観客ライブの模様と、堅田喜三久さんが作調を担当された「本條流祝儀曲 松」。



「本條流祝儀曲 松」作詞・作曲:本條秀太郎 作調:堅田喜三久
※作調:三味線の曲に合わせる囃子(笛・小鼓・大鼓・太鼓など)の奏法を定めること。

国策映画「能 葵上」

2020-12-15 16:57:00 | 伝統芸能
 昭和10年、野上豊一郎監修による能楽映画「葵上」。鉄道省観光客局が日本の文化を海外に宣伝するための国策映画で、初めての能のトーキー映画。英語・ドイツ語・フランス語版が作られた。
 シテを務めたのは金春流・櫻間金太郎(後の弓川)。明治期の肥後能楽の名人・櫻間伴馬の子。ワキは下掛寶生流の寶生新。夏目漱石に謡の指導をしたことでも知られる。他にもアイ狂言や小鼓など、後の人間国宝が5人もいる。
 撮影した能舞台はPCL(東宝映画の前身)のスタジオに、麹町富士見町の細川家の能舞台を模して組み立てられたもの。
 野上豊一郎は大分県臼杵市出身の英文学者、能楽研究者。東京帝大時代に夏目漱石に師事した。能楽の研究や英文学の翻訳など著書は数多い。国内唯一の能楽に関する総合的な研究機関である野上記念法政大学能楽研究所の母体を作った。妻は小説家の野上弥生子。

シ  テ(六條御息所)櫻間金太郎(金 春 流)
ワ  キ(横河の小聖)寶生  新(下掛寶生流)
シテヅレ(巫   女)櫻間 龍馬(金 春 流)
ワキヅレ(大   臣)光本 彌一(下掛寶生流)
ア  ヒ(下   人)山本東次郎(大 蔵 流)
笛          一噌又六郎(一 噌 流)
小  鼓       幸  伍朗(幸   流)
大  鼓       川崎 利吉(葛 野 流)
太  鼓       金春惣右衛門( 金 春 流)
地  頭       金春栄治郎(金 春 流)


【あらすじ】
 光源氏の正妻である葵上は、執拗な物怪(もののけ)に悩まされ、病の床にふせっていました。そこで、朱雀院(すざくいん)に仕える臣下が、照日の巫女を左大臣邸に招き、物怪の正体を占わせます。巫女が弾く梓弓(あずさゆみ)[霊魂を呼び出すのに用いる弓]の音に引かれて、六条御息所の生霊が現れ、皇太子妃だった花やかな昔に比べ、源氏との仲が遠ざかり、顧みる人もいなくなった今の境遇を嘆きます。そして、賀茂の祭に先立つ斎院御禊(さいいんごけい)の日の「車争い」で、葵上一行に辱めを受けて以来、抑えることのできなくなった、尽きせぬ恨みや嫉妬を告白します。ついには、高ぶる感情を抑えきれず葵上を激しく打ち据え、破れ車(やれぐるま)[車争いで壊された車]に乗せてあの世へ連れ去ろうといって姿を消します。葵上の容態の急変に比叡山(ひえいざん)横川の行者が呼ばれ、祈祷(きとう)を始めると、嫉妬と恨みのあまり鬼相となった六条御息所の生霊が再び姿を現します。生霊は行者の法力と激しく戦いますが、御仏の声に祈り伏せられ、ついには悪心を捨て、成仏する身となります。(文化デジタルライブラリーより)
※右の絵は六条御息所の生霊を描いた上村松園の「焔」


※2016年12月22日の記事を再編集し、再掲したものです。

弱まる肥後能楽の灯…

2020-12-10 13:43:31 | 伝統芸能
 今年も残すところ3週間。今年は結局、能を舞台で見ることはなかった。正確に言うと、正月5日、藤崎八旛宮への初詣の際、能舞台で見た松囃子が唯一の舞台。例年、4、5回は足を運んでいたので寂しい限りだ。実は、コロナ騒動が始まる前の1月25日、久留米座(福岡県久留米市)での「第四回喜多流・久留米座 能」を見に行く予定だった。チケットも入手していたが、開催日の3日ほど前、母が国立病院に入院する事態が発生し、断念せざるを得なかった。その後はコロナコロナでイベントは軒並み中止。熊本市で能が行われることはなかった。来年もしばらくは同じ状況が続くと思われる。ただでさえ、能を見る機会が減ってきており、伝統の肥後能楽の灯が徐々に弱まる傾向に拍車がかかるのではと危惧している。
※右の絵は久留米座能で見る予定だった能「箙」より

2016.8.6 水前寺成趣園能楽殿 第57回出水神社薪能・金春流「田村」

紅葉狩りのはなし。

2020-12-06 19:46:30 | 伝統芸能
 紅葉もピークを過ぎつつあるようだ。細川刑部邸の紅葉ライトアップも今日が最終日。とうとう夜の紅葉は見に行かなかった。もともと紅葉にしろ、春の桜にしろ、ライトアップで見るのが好きではない。一見美しく見えるのだが、同じ場所を昼見た時の幻滅感。夜の歓楽街を昼見た時の幻滅感にも似ている。

 それはさておき、「紅葉狩り」と言えば、2年前の8月、水前寺成趣園能楽殿で行われた出水神社薪能では「紅葉狩」が演じられた。平安時代の武将、平維茂(たいらのこれもち)が戸隠山の鬼女を退治するお話だが、前場の途中から雨が降り出し、雨具も持参していなかったので野天の客席で雨に打たれながら見ていたが、次第に雨脚は強くなり、とうとう後場を見ることなく退散する羽目になった。前場で紅葉狩りをしていた高貴な女性の集団が、後場でどんな恐ろしい鬼女に変身するのかずっと気になっている。

 さて、江戸っ子の秋の最大の楽しみは紅葉狩り。なかでも品川の海晏寺(かいあんじ)と浅草の正燈寺(しょうとうじ)は江戸で一二を争う紅葉の名所として人気があった。人気があったそのわけは。なんのこたぁない、海晏寺の近くには品川遊郭があり、正燈寺の近くには吉原遊郭があったからである。つまり紅葉狩りを口実にやって来る男たちが絶えなかったというわけだ。いつの時代も男って奴はまったく。
 この品川遊郭でとても人気のあった妓芸の一つが「品川甚句」。意味不明の歌詞とアップテンポのリズムがここちよい。


歌川広重 筆「 品川海晏寺紅葉見」


鼓の音

2020-11-27 20:27:19 | 伝統芸能
 先日、叔父の四十九日に参列しての帰り、河内川沿いに山越えの道を通った。この道を通るのは久しぶりだったので、野出の鼓ヶ滝で車を停めてしばし眺めた。この滝は歌枕として知られ、詠み人はよくわからないようだが

 音に聞く鼓の滝を打ち見れば山川の鳴るにありける

という歌が知られており、落語の「西行鼓ヶ滝」などにも引用されている。滝の音に聴き入っていると確かに鼓の音に聞こえなくもない。家に帰りついてからホンモノの鼓の音が聞きたくなり、YouTubeに登録したなかから次の2曲を選んだ。
1曲目が長唄「晒女」で「晒し芸」の音楽としてよく知られている。
2曲目は長唄「勧進帳」で終盤に盛り上がる「滝流し」の部分。


鼓ヶ滝(熊本市西区河内町野出)


2016.12.25 熊本市国際交流会館 長唄 晒女


2016.1.10 熊本市国際交流会館 長唄 勧進帳 ~滝流し~

木遣り歌のはなし。

2020-11-20 20:24:36 | 伝統芸能
 本條秀美さんによると、3日前にこのブログに書いたばかりの「熊本県邦楽協会演奏会」の開催があやしくなってきたそうだ。現下のコロナ情勢を考えると無理をして開催しない方がいいと思う。
 本條さんは「邦楽協会演奏会」の有無にかかわらず、来年の「俚奏楽」の課題は「伊勢木遣り」系の歌に取り組むことだそうだ。
 ところで「木遣り歌」っていったい何?という話だが、今日では消防団の出初式とか結婚式の祝木遣りなどでしか触れることはない。日本民俗学の巨人、折口信夫の講演をまとめた「日本芸能史六講」(昭和19年出版)によれば、「木遣り歌」について次のように述べている。

--近代の初め、戦国時代が済んで太平の世の中が来るという時代に、一番目につくのは、「木遣り歌」であります。山から伐り出した木を、地べたを引きずりながら引き出す時に謡う歌であります。この木遣り歌が変化して、職人の街であった江戸に非常に発達して来ますが、それがどういう道筋を通って発達したかということはよくわかりません。しかし、ともかくこれは同種類の動作ならば他のものへも融通せられた歌のようです。たとえば「石曳き歌」なども名古屋城を築く時に謡ったものだなどと言われますが、やはり木遣りと同じことであります。ただこれがどちらが早いかというと、われわれにはわかりません。いずれにしても、木遣りとか石曳きとか、そういう労働する時に謡われるということは、労働の動作が連続的でないということです。つまり、その歌を謡う時は労働する人は、囃すくらいで動作を止めて黙って聞いているというわけで、非常に緩慢な動作なのです。そしてわからぬことは名古屋城石曳き歌には、「わしが殿御はなごやにござる」という風に謡っていることです。
これは私の殿御が名古屋にいるというのか、あるいはなごやという人ですというのか、わからぬのです。それが人の名であるとすれば、名古屋山三郎という出雲の阿国の踊りを助勢した人物のことではないでしょうか、ともかく名古屋山三郎のいる時分に謡われているのです。だから何か引っかかりがあるかもわからないのです。--

 出雲阿国のかぶき踊りとの関係はともかく、「木遣り歌」が江戸の「粋でいなせな」美意識と結びついて大いに発達したことは間違いないようだ。そしてそれは江戸端唄にも取り入れられ、お座敷でも歌われるようになった。その一例が下の「木遣りくずし」である。


水前寺成趣園に翁(おきな)が舞う!

2020-11-06 18:01:49 | 伝統芸能
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを機に、文化庁が日本の文化芸術の振興を図り、その魅力を発信するため、日本全国を舞台に展開している「日本博」事業の一つが「翁プロジェクト」。
 この「翁プロジェクト」の一環として、来年3月、楽しみな公演が熊本で行われる。
 
▼「翁」熊本公演
  • 公演日:2021年3月9日(火)
  • 場 所:水前寺成趣園 能楽殿
  • 出 演:喜多流宗家預り 友枝昭世(人間国宝)
 およそ650年にわたって今日まで受け継がれてきた能。古来、能の正式な上演の場合、最初に必ず演じられていたのが「翁」。「翁」は能楽の源流とされる極めて儀式的な演目で、世界の未来の平和と安泰を言祝ぐ舞である。
 「翁」の成立やその意味は謎に包まれている。異なった宗教を包含し、自然と共生する姿として立ち現れる翁は、日本のみならず、人類社会全体に示唆を与えてくれる存在ではないだろうか。(翁プロジェクトHPより)

 承平四年(934)に京より祇園社(八坂神社)が肥後国に勧請されるのに伴い、六人の楽人が供奉して肥後に定住し、やがてその子孫が祇園社(北岡神社)専従の能楽師となった。その系譜に連なる家の一つが友枝家。
 江戸時代において、肥後の能楽は、祇園社(北岡神社)の猿楽座である本座と、藤崎八旛宮の猿楽座ながら祇園社の祭礼にも勤仕していた新座とによって営まれており、本座の能大夫が喜多流の友枝家、狂言大夫が小早川家、新座の能大夫が金春流の桜間家、狂言大夫が野間家だった。彼らは神事能にとどまらず、細川氏のお抱え役者として藩主主催の演能などにも勤仕し、肥後能楽の隆盛を支えた。


2017年1月、国立能楽堂での「萬狂言特別公演」で「翁」を演じる人間国宝・友枝昭世師


白色尉の面を着けた翁は「神さび」へ。天下泰平、国土安穏を祈って荘厳にゆったりと舞う。


水前寺成趣園能楽殿

地謡(じうたい)に覆面

2020-10-28 17:31:49 | 伝統芸能
 先週日曜日に放送された「古典芸能への招待」(NHK-Eテレ)は、今夏、能楽界のトップスターが一堂に会した「能楽公演2020~新型コロナウイルス終息祈願~」の中から、狂言「茸」と能「道成寺」が放送された。
 宝生流による能「道成寺」では、地謡の面々が覆面をつけるなど感染防止に最大限の注意が払われた。最初は異様な風体に違和感を感じたが、よくよく考えると古典芸能では覆面が使われることもあり、特に珍しいことではない。謡の声がこもるのではとも思ったが、聞いていて気になるようなことはなかった。しばらくはこのスタイルが当り前になるのかもしれない。


黒覆面をつけた地謡の皆さん


奈良春日大社の春日若宮御祭で行われる細男(せいのお)の舞


能「望月」のシテは覆面をつけた獅子の姿で舞う


阿国歌舞伎絵図の覆面をつけたかぶき者に扮した阿国


森田曠平が描く出雲阿国の「かぶき踊り」では覆面をつけた囃子方