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徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

夢幻のごとくなり

2020-10-22 19:33:06 | 伝統芸能
 筑後の大江(現福岡県みやま市瀬高町大江)に唯一残る幸若舞は、室町時代に流行した語りを伴う曲舞(くせまい)の一種で、能と並んで戦国時代の武将に好まれたそうです。とりわけ幸若舞は武に偏った芸能で、その中でも一ノ谷の戦いの平敦盛と熊谷直実を題材にした「敦盛(あつもり)」は特に好まれたといいます。
 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」でもコロナで放送中断になる直前の放送で、桶狭間の戦に向かう織田信長が「敦盛」を舞うシーンがありました。


 下記の解説を読むとわかるとおり、語りの内容は無常観に満ちていて、日々戦いの中で明日をも知れぬ身の武将たちが好んだ理由がわかるような気がします。

【解説】主要部分のみ(世界の民謡・童謡を参照)
思えばこの世は無常である。
草葉についた水滴や、水に映る月より儚いものだ。
晋で栄華を極めた金谷園(きんこくえん)も風に散り、四川・南楼の月に興じる者も変わりゆく雲に被われ姿を消した。
人間界の五十年など、下天(化天)での時の流れと比べれば夢や幻も同然。
ひとたび生まれて、滅びぬものなどあるはずがない。
これを悟りの境地と考えないのは情けないことだ。


菊の節句

2020-10-05 22:07:57 | 伝統芸能
 五節句の一つ「重陽の節句」は旧暦の九月九日。今年でいうと10月25日にあたるらしい。平安時代に中国から伝わった長寿を願う節句で、それを象徴するのが季節の花「菊」であることから、別名「菊の節句」とも呼ばれる。
 菊をテーマにした芸能は数多いが、その中から下記の二つを取り上げててみた。
 一つ目は、能ではおなじみの演目「枕慈童(菊慈童)」。人に永遠の生命を与える菊の霊力をモチーフに、喜多流能楽師・友枝雄人が舞う斬新な映像。
 二つ目は、女の一生を菊になぞらえ、少女から大人の女への成長を、はつ喜月若が踊り分ける舞踊のうち「村娘」の部分。




枕慈童(菊慈童) 友枝雄人



舞踊 長唄「菊」より「村娘」 はつ喜月若

かっぽれ の 踊り方

2020-09-26 16:20:25 | 伝統芸能
 昨夜のNHKのコント番組「LIFE!」で人気若手俳優の中川大志が「妖怪どうしてやろうかなん」に扮し、カッポレを踊ったので、弊YouTubeチャンネルの「かっぽれ」にも多くのアクセスがあった。
 昨年の夏、静岡県掛川市伊達方地区の方からご依頼があり、舞踊団花童の中村花誠先生から「かっぽれ」の映像音源をご提供いただいてお送りした。同地区の皆さんはこの音源を使って「かっぽれ」の練習を重ね、秋の祭りでは見事な群舞を披露されたそうだ。
 花童が踊る「かっぽれ」の振付は師匠の中村花誠先生がアレンジされたものだが、「かっぽれ」の踊り方は昔から基本的なものがある。江戸後期、願人坊主が門付芸として踊ったのが始まりといわれ、住吉踊り、伊勢の川崎音頭、鳥羽節などが融合したもののようだ。明治19年に河竹黙阿弥作の狂言「初霞空住吉 (はつがすみそらもすみよし) 」で九世市川団十郎が「かっぽれ」を踊ったことで全国的に知られたという。
 明治44年12月に発行された「舞踊の手ほどき(町田桜園 著)」によれば下図のように踊るのが基本のようだ。

かっぽれの踊り方


掛川市伊達方地区の皆さんによるかっぽれ

舞踊団花童のかっぽれ

平針木遣音頭(ひらばりきやりおんど)

2020-09-24 22:00:34 | 伝統芸能
 東海風流チャンネル(水野詩都子さん・本條秀五郎さん)にアップされている曲のうち、「篠島さのさ」を以前紹介した。「篠島さのさ」には慶長15年(1610)の名古屋城築城の際、天守石垣の普請を担当した加藤清正公が、知多半島の沖に浮かぶ小島篠島から、この島特産の花崗岩を切り出し、船で運んだ故事が唄い込まれている。
 一方、今回紹介する「平針木遣音頭」は陸揚げした巨石を修羅(木製の大型そり)に乗せて運ぶ時、清正公自ら石の上に乗り、木遣り音頭を唄って気勢を上げたという故事が起源だという。この石引きに参加した平針地区の人々がこの時の清正公の掛け声を真似て、景気づけに唄ったのが始まりとされる労働歌といわれる。現在では、平針木遣保存会によって伝承され、名古屋市の無形民俗文化財に指定されている。そんな歴史に思いを馳せながらこの唄を聞くとさらに味わい深いものがある。


加藤清正石引きの図(尾張名所図会)


平針木遣音頭 お木曳き

あつもり違い !?

2020-09-23 19:56:35 | 伝統芸能
 近頃、随分前にYouTubeに投稿した「幸若舞 敦盛」に妙にアクセスが多いので不思議に思っていた。普段はよっぽどコアな古典芸能ファンしかアクセスしないし、コメントも意味不明のものがいくつかあったので調べてみたら、ニンテンドーのゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」の略称を「あつ森」というらしい。どうやら「あつもり」という言葉で検索する人が多かったようで、たまたま僕のYouTubeチャンネルが網にかかったらしい。
 まぁ、動機はどうあれ、一人でも多くの方の目に触れるのであればそれは喜ばしいことだ。

 敦盛というのは、一ノ谷の戦で源氏の武将熊谷次郎直実に討たれた若武者・平敦盛のこと。僕が子どもの頃は「討たれし平家の公達あわれ」なんていう歌を婆さんがよく歌っていたものだ。古典芸能としては能「敦盛」と幸若舞「敦盛」がよく知られている。織田信長が出陣前に「人間五十年げてんのうちを比ぶれば・・・」と謡い舞ったというのは幸若舞の方だ。


能「敦盛」


幸若舞「敦盛」

吉田高校神楽部と神楽の伝承

2020-09-16 13:44:34 | 伝統芸能
 先日放送された「鶴瓶の家族に乾杯 2020特別編 ~中村勘九郎と広島スペシャル~」(NHK-G)では2011年の放送で勘九郎(当時は勘太郎)さんが「地域で伝統芸能に携わる人に出会いたい」と安芸高田市を訪問した当時の吉田高校の神楽部だった皆さんと中継で再会した。2011年の本放送も見たが、その時、勘九郎さんが流した感動の涙を今回はより強く共感できた。おそらく9年の間に、僕自身も能や神楽などの伝統芸能をたくさん見たからだろうと思う。この放送が影響したのか、吉田高校神楽部の部員はかなり増えたらしい。喜ばしいことだ。
 全国でも有数の神楽どころといわれる広島県。中でも安芸高田市は特に盛んなところで、市内に22の神楽団があるという。毎年7月、この安芸高田市で開催されるのが「高校生の神楽甲子園」。全国各地から神楽に青春をかける高校生たちが集うのだという。ちょうど放送のあった2011年から始まり、今年は10回目を迎えるはずだったが、残念ながらコロナの影響で中止された。来年以降も必ず開催されると思うが、伝統芸能を担う高校生たちにとても心強い思いがする。


吉田高校神楽部


高校生の神楽甲子園における吉田高校の演技

おきなの夜

2020-08-31 19:00:49 | 伝統芸能
 昨夜の「古典芸能への招待」(NHK-Eテレ)は、2017年1月に国立能楽堂で行われた「萬(よろず)狂言特別公演」から。最初の演目「翁」の「三番叟(さんばそう)」の部分は六世野村万之丞の襲名披露ということで、2017年2月に同番組で紹介された。その時はシテ方喜多流の人間国宝・友枝昭世師が「翁」を演じた部分は放送されなかったので、いつかぜひ見たいと思っていたが、3年越しにやっと実現した。
 「とうとうたらりたらりら」という謎の呪文で始まる「翁」は「能にして能にあらず」といわれ、能の中で別格の存在だ。友枝昭世師は「どうどうたらり・・・」と発音していたようなので喜多流のしきたりなのだろう。露払役の千歳は当時まだ14歳の野村眞之介が演じていたが、下掛りの喜多流では狂言方が務めるらしい。白色尉の面を着けた瞬間から翁は「神さび」に入る。天下泰平、国土安穏を祈って荘厳にゆったりと舞い、三番叟に「後はよしなに」とばかり後を託して退場する。五穀豊穣を祈る三番叟は、野村萬斎がよくゾーンに入ると言うように、狂言方冥利に尽きる華やかな舞が繰り広げられる。当時まだ20歳の野村万之丞は若さにあふれたキレを見せる。古より人々は三番叟に夢中になり、三番叟は様々な芸能へスピンオフして行った歴史をあらためて思い起こさせた。


「翁」を演じたシテ方喜多流の人間国宝・友枝昭世


「翁」白色尉の面を着けた友枝昭世


「三番叟」揉ノ段で軽快な烏跳びを見せる野村万之丞


「三番叟」鈴ノ段で黒式尉の面を着けた野村万之丞

伝統芸能紹介(WEB SOUBUNより)

2020-08-20 22:08:21 | 伝統芸能
 「2020こうち総文(第44回全国高等学校総合文化祭)」の参加校の中から、僕が気に入った演技をいくつかご紹介したいと思います。
 今日は「郷土芸能部門」から

 岩手県立北上翔南高等学校鬼剣舞部の「鬼剣舞」と
 富山県立南砺平高等学校郷土芸能部の「越中五箇山民謡」

 各地で伝統芸能の継承が難しくなっている話を聞きますが、高校の部活で終わることなく、ずっと続けていただき、地方伝統文化の継承と振興に貢献していただきたいと願っています。


岩手県立北上翔南高等学校鬼剣舞部「鬼剣舞」



富山県立南砺平高等学校郷土芸能部「越中五箇山民謡」

2020こうち総文(第44回全国高等学校総合文化祭)

2020-08-16 18:57:12 | 伝統芸能
 コロナ禍のため、今年度の熊本県高等学校総合文化祭は中止となりましたが、現在、高知県を会場として全国高等学校総合文化祭が開催されています。といっても当初予定していた全国からの参加者や観客が集う通常開催ではなく、史上初のWebでの開催、「WEB SOUBUN」として行われています。Web開催となったことで、いつでも、誰でも、全国の演奏や発表、作品、メッセージなどを見ることができます。ぜひ多くの皆様に全国高校生の文化の祭典を味わっていただきたいと思います。

 郷土芸能部門には熊本から熊本県立鹿本農業高校郷土芸能伝承部が参加しており、「肥後民謡」を披露しています。


鹿本農業高校郷土芸能伝承部


肥後民謡(田原坂/おてもやん/よへほ節)

「翁プロジェクト」と細川家

2020-07-26 21:02:29 | 伝統芸能
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを機に、文化庁が日本の文化芸術の振興を図り、その魅力を発信するため、日本全国を舞台に展開している「日本博」事業の一つに「翁プロジェクト」がある。
 今を去ること650年の昔、観阿弥・世阿弥によって大成され今日まで受け継がれてきた能。さらにその600年以上も前に成立していたといわれ、能の上演の最初に必ず演じられていたのが「翁(おきな)」(式三番)である。「翁」は能楽の源流とされるが、「翁」の成立やその意味は謎に包まれている。「翁プロジェクト」は、いま一度「翁」を見つめ直し、世界に発信しようというもの。
 その「翁プロジェクト」の一環として現在、永青文庫(東京都文京区目白台)において「翁 ―大名細川家の能の世界―」展が開かれている。細川家では初代・細川幽斎(藤孝)を始め、歴代の藩主が能の文化に心を寄せ、藩主たちも自ら舞台に上がった。特に、文武両道に秀でた初代幽斎は七世観世元忠について稽古し、八世観世元尚に師事、謡、仕舞、囃子に通じ、中でも太鼓は名手と呼ばれる程の腕前だったという。以来、二代忠興(三斎)から昭和に至るまで、歴代当主は能を愛好した。一方、初代熊本藩主の細川家三代忠利の頃からは、金春流、喜多流の能楽師たちを庇護した。細川家の拠点となった熊本や東京には、各時代に愛用された多くの能面・能装束・楽器や小道具など約900点の能楽コレクションが今も残されている。
 今から5年前に熊本県立美術館で行われた展覧会「細川コレクション 能の世界」では今回の永青文庫での展覧会と同じような能楽コレクションが展示された。今後、日本各地で「翁」の特別公演が行われる予定だという。
※右の能面は「翁(白色尉)」(永青文庫蔵)


細川家立田別邸(熊本市中央区黒髪)


今年は 能に無縁の年?

2020-07-02 17:42:24 | 伝統芸能
 水前寺成趣園の夏の風物詩となっていた「出水神社薪能」は、8月1日(土)に予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため中止となりました。


2019.8.3 水前寺成趣園能楽殿 出水神社薪能 金春流「替ノ型 羽衣」シテ・本田光洋

 毎年、4~5回は能の鑑賞に行きますが、今年はまだ一度も観ていません。1月に「第4回喜多流 久留米座能」を見に行く予定でしたが、直前に母が入院したためキャンセルしました。例年、熊本市で行われていたいくつかの演能もすべて中止となるようで、どうやら今年は能には無縁の残念な年になりそうです。
【過去7年間の出水神社薪能番組(能のみ)】
 2019 羽衣(替ノ型)
 2018 紅葉狩
 2017 嵐山
 2016 田村
 2015 羽衣
 2014 土蛛(つちぐも)※カバー写真
 2013 藤戸

能舞台いろいろ

2020-06-10 20:39:54 | 伝統芸能
 来月には再建された北岡神社の舞殿が完成する。これは正式な能舞台ではないが、能狂言を始め、様々な芸能に使用されることを想定して設計されているという。オープンが楽しみだ。
 熊本の能楽関係者にとって公立の能楽堂建設が悲願だと聞く。現在、熊本市内の常設能舞台はすべて神社の所有。しかも客席は野天。たしかに使いづらい演能もあるだろう。おそらく一番下の写真の大濠公園能楽堂のような施設を期待されているのだと思う。県内に公立の能楽堂があれば能楽振興の拠点にもなるし、天候も心配しないで開催できるので喜ばしいことだとは思う。
 能を観るようになって10年が過ぎた。ずっと屋根付きの能楽堂がほしいなとは思っていた。ところが最近、それは本当の能なのだろうかと疑問を抱くようになってきた。神仏をお迎えする影向の松。赤々と燃える薪の灯り。月や星の煌めき。虫の鳴声等々。それらが混然一体となって初めて能という芸能は成立するのではないかと思うようになった。一昨年の水前寺成趣園能楽殿での薪能では途中から豪雨に見舞われて散々な目に遭った。しかし、それも含めて能なのではないかと思う。


完成間近な北岡神社舞殿


水前寺成趣園の土壇の能舞台


水前寺成趣園の土壇の能舞台で行われていた薪能


水前寺成趣園能楽殿


藤崎八旛宮段山御旅所能舞台


熊本城薪能特設能舞台


松山城特設能舞台(山形県酒田市)


大濠公園能楽堂(福岡県福岡市)


古今亭志ん生の「幾代餅」

2020-06-07 22:50:45 | 伝統芸能
 今日、Eテレの「日本の話芸」で古今亭志ん輔の廓話「幾代餅」をやっていた。聴きながら、彼の師匠の三代目古今亭志ん朝やそのまた師匠の五代目古今亭志ん生の「幾代餅」とは随分味わいが異なるものだと思う。聴き終わった後、志ん生の「幾代餅」が聴きたくなって、YouTubeで聴いてみた。志ん生の噺は、花魁の高尾太夫や小紫や薄雲太夫のエピソードを語るマクラが面白い。訥々とした語り口がなんともホンワカとしていてここちよい。ついでに志ん朝のも聴いてみた。流暢で隙がない。たしかに上手いなぁとは思うのだが。同じ噺でも噺家によって味わいがこうも違うのかとあらためて思った。


「超入門!落語THE MOVIE」の「幾代餅」における幾代太夫(南沢奈央)

古今亭志ん生(五代目)の「幾代餅」

白洲正子 & 狩野琇鵬

2020-05-06 22:37:26 | 伝統芸能
 喜多流能楽師の大島衣恵さんがご自分のFacebookで図書「白洲正子著 明恵上人」と、明恵上人が登場する能「春日龍神」を合わせて紹介しておられた。
 白洲正子の著書は僕の愛読書で、これまで「近江山河抄」「かくれ里」「老木の花」「お能の見方」などを読んだ。「明恵上人」は未読なのでぜひ読んでみたい。
 一方、能「春日龍神」は、2016年4月6日に健軍神社で行われた「花の薪能」で観たが、この8日後に熊本地震が発生、また生前の狩野琇鵬先生のお姿を拝見した最後の演能でもあり、忘れられない思い出となった。
 能「春日龍神」は、明恵上人(みようえしようにん)が仏跡を訪ねて天竺に渡ろうと、春日神社にいとまごいのために参詣すると、龍神が現れて奇瑞を見せ思いとどまらせる、というシンプルなストーリー。


2016.4.6 健軍神社「花の薪能」より喜多流能「春日龍神」前場(シテ 狩野了一さん)

テイカカズラか 離れがたやの・・・

2020-05-03 20:46:58 | 伝統芸能
 今年もわが家近くの新坂の法面に、テイカカズラが可憐な白い花びらの上に朝方の雨露を残し、甘い香りを辺りに漂わせている。思わず「〽 テイカカズラか 離れがたやの 離れがたやの…」と、狂言小謡「七つ子」の一節が口をついて出る。
 今日も不気味なほど車も人の姿も少ない。いったいいつまで続くのやら。



   ▼人間国宝の狂言師・山本東次郎さんの狂言小舞「七つになる子」


   ▼長唄舞踊「歌舞伎踊(七つになる子)」