こだわり米専門店スズノブ 西島 豊造(五ツ星お米マイスター)の豊かに造ろう

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自分の首を絞める縁故米

2008年10月23日 04時55分08秒 | Weblog
 縁故米という言葉を辞書で調べると『親戚や友人の農家から無料で、あるいは廉価で融通してもらう米。無料の場合は贈答米ともいう。 三省堂「大辞林 第二版」より』となっています。
 自分としては、縁故米とは無料でもらうお米だけであって、廉価で融通してもらうお米については、価格に関係なくお金が動くので産地直売:産直(産地直送。産地直売。産地直結の略。三省堂「大辞林 第二版」より)に該当すると思っていますので、無料でもらうお米を縁故米、廉価でもお金が動くものについては産直と位置づけて話していきたいと思います。

 消費者にとって、産地から直接無料でもらえる縁故米は「家計を助けてくれる心強い見方」として嬉しいものでもあるし、「生産者の顔が見える信用できるお米」として、安心して食べられる、最高の贈り物なのかもしれません。
しかし現実問題として、消費地からすれば心底ありがた迷惑な贈り物であって、そのしわ寄せは消費地・生産地だけに留まらず、お米を送った生産者本人にも直接跳ね返ってしまっているという、思いも寄らない現実があるということを知ってください。

 実際に縁故米を送り続けている生産者も、自分の首を絞めているという現実に気付いていない人が多いので、どうして跳ね返ってしまうのかを、順を追って説明してみましょう。

1.産地からお米が消費者に届くので、消費者がお米を購入しなくなります。
ひどい実例では、届く日が分かっているので、4~5日の間お米がなくなってしまったとしても、麺類などでつないでしまい、絶対にお米を購入しないというのもあります。

2.消費者が縁故米を当てにしているために、たとえ有名産地のお米でさえも、思うように売れませんので、米屋は、米卸や産地などからお米を仕入れることが出来なくなってしまいます。
 さらに、マイナーと位置づけられている産地や知名度が無い品種については、ほとんど販売計画が立たないために、取扱そのものを止めてしまう傾向になっているので、消費地の売場から次々と姿を消してしまっているのです。

3.米屋が売れなければ、当然、米卸などもお米が売れない分けですので、入札があっても売れ残ることを嫌い、必要最低量しか落札しない傾向になっています。
 さらに、米店が欲しがらない産地や品種などについては、最初から落札しないという傾向にもなっていますので、マイナーと位置づけられている産地や品種については、消費地から売場から姿を消してしまうだけではなく、消費地にも来なくなってしまっているのです。

4.その結果、マイナーと位置づけられている産地が上場したお米は、出来不出来には関係なく不落(売れ残る)となってしまったりします。
 これが続いてしまうと、新米の時期になっても、産地の倉庫には1年前のお米がまだ残ってしまっていて新米を入れる倉庫が足りなくなってしまったりする可能性もありますし、最悪の場合は、1年前のお米と新米を同時に売らなければならなければならなくなる可能性も出てきます。

5.不落を無くしたり、最悪の事態を無くすためには、お米の出来不出来には関係なく、次回の入札時には価格を下げざるおえなくなってしまいます。(完売させるためは現状やむ終えない方法)
 これによって、逆に人気の品種は、早い時期に完売してしまう事も出来たりすると思いますが、マイナーと位置づけられている産地や品種、人気が出無い銘柄などについては、最後まで残ってしまう可能性も出てきます。

6.1~5が繰り返されることによって、生産者からの買入価格や産地側の販売価格は、どんどん下がり続けてしまって、その結果、お米を作るために必要な最低価格をも下回ってしまっているという現実も出始めてしまっています。

7.当然のように生産者から不満の声が出始めてしまい、全農・経済連や農協などに頼らず、生産者が独自に動き出してしまうようになります。
 そして、これが縁故米や産直の始まりとなることが多いと思っています。

8.しかし、いざ販売をすることになったとしても、生産者がお米を販売していることを消費者は知りませんので、当然購入することはありません。
 そのため、「当初考えていた予想よりも売れない」という厳しい現実に生産者は直面してしまい、その解決策として、美味しいお米を作っていることや、お米を販売していることを1人でも多くの人に知ってもらうために、知り合いに対してお米を送り始めてしまうことが多いのではないでしょうか。
 それで購入してもらえるようになれば良い方で、実際には、「ただで貰えて嬉しい」という言葉だけで、お米は販売できず終いという場合がほとんどのようです。
 その結果、余ったお米の処分として、機会があるごとに貰ってくれる消費者に対して、お米を送ってしまっているということも良く聞きます。

 1~8が繰り返されてしまえば、誰が考えても完全に悪循環だということが分かると思います。
実際にはこれが10年近く、当たり前のように繰り返され、年を負うごとに縁故米の量は増え続けてしまっています。
 そして今、お米の価格は各産地の限界最低価格にまで落ち込んでしまっているのです。

 確かに、以前から縁故米は存在していましたが、送られてくる量と回数(白米10キログラム程度で、年1~2回程度)が少なかったので、全てに於いてあまり問題はならなかったのです。
 ところが最近では、1回に送られてくる量と内容が変わってきていて、玄米で30キログラム。
それも年に1~2回程度ではなく、年間を通して何度も送られてくるようになってしまったために、あちらこちらに障害が出てしまっているのです。
 ちなみに縁故米が大量に出回る時期は、3月下旬~4月始め(春休み)、5月連休、夏休み、お中元、収穫直前(去年のお米)、収穫直後(新米)、お歳暮、正月で、特に新米時期ともなると、消費地の宅配業者の荷台の中は、日本全国からの縁故米ばかりというのが現実なのです。

 こういう話を生産者にすると、「自分の知り合いに送っているだけだから、たかが知れている」という人が多いのですが、消費地の1人1年当たりのお米の消費量は、長期的に一貫して減り続けて、現在では約60キログラムにまで減少してしまっていますので、この数字を1ヶ月に直すと5キログラム程度。
 既に自分の周りでは4人家族で、1ヶ月に5キログラム程度も食べきることが出来ないのです。

 そういう家庭に、10キログラム送ってしまえば2ヶ月以上。30キログラム送ってしまえば6ヶ月以上、そのお米を消費するのにかかります。
それなのに、まだ食べきってもいないうちに産地からは次のお米が送られてきてしまい、最後には部屋に入りきらずに、玄関にお米が置いてあるという消費地の現実を見つめようとしていません。
 また、貰ったほうも遠慮してしまって、食べきれないという現実を、生産者に対して知らせてはいないのです。

 家庭で、もはや置ききれないし食べきれないとなれば、当たり前のように「縁故米のお裾分け」が始まってしまい、それが、ご近所と仲の良い家庭であればあるほど、最終的にはその地域が、丸ごとお米を買わない地域となってしまうのです。
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