雑文の旅

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猫爺の連続小説「チビ三太、ふざけ旅」 第十九回 神と仏とスケベ三太

2014-07-09 | 長編小説
 三太と新平は、岡崎の宿に入った。ここに矢作川(やはぎがわ)という大川が横たわり、日本一の長い矢作橋が架かっている。
   「わあ、長い橋や、ここ渡ったら只やろか?」
 三太と新平は駆け出してしまった。その時、三太は自分を呼んでいるような声を感じた。
   「新さん、何?」
   「何も呼びかけていないぜ」 
 また、感じた
   「三太、わしじゃよ」
   「守護霊が二柱になった」
   「守護霊じゃない、わしを忘れたのか」
   「お父っちゃんは未だ生きているし、おっ母ちゃんはわしとは言わないし…」
   「こいつ、とぼけよって」
   「誰も、とぼけとらん」
   「神じゃよ、天上界から海に落ちた…」
   「はいはい、あの覗きの武佐やんか」
   「誰が覗きの武佐やんだ、たこ焼屋のおっさんみたいにいうな」
   「それで、天女はどこに居るのや」
   「天上界にも混浴の岩風呂が出来て、誰も下界に降りて水浴びする者が居なくなったのじゃ」
   「ああそうか、ほんなら用はない、武佐やんもう帰り」
   「わしは客引きかっ」
   「何しに来たん?」
   「新三郎に逢いに来たのじゃ、礼も言いたいし」
   「教えたのは新さんやと知っていたのか」
   「それはそうじゃ、わしは神であるぞ」
   「全然らしくないけど…」
 武佐能海尊(むさのわだつみのみこと)は三太に移り、新三郎に話しかけた。
   「なんやいな、わいを井戸端と間違えとるのか」
 三太の憤懣を無視して、会談が始まった。
   「これ新三郎、天上界へ来て神にならぬか?」
   「あっしが神ですかい」
   「偶々、殖活の神の席が空いてのう」
   「何です? 殖活とは」 
   「生殖活動の神じゃよ」
   「生殖とは?」
   「子作りじゃ」
   「やらしー」三太の口出し。
   「これ、三太は黙っていなさい」
   「そやかて、新さんは幽霊やで、子供を作る道具も無いし、種もない」
   「新三郎に子作りを手伝えといっているのではない、子作り神社に納まって祈願を聞いてやるのだ」
   「新さんは独り身のときに死んで、子作りの経験なんかないのやで」
   「三太は黙っておれというに」
   「あっしには、三太と新平を護るという使命が残っておりますし、守護霊と呼ばれるのが気に入っております」
   「こんな煩いボーズ放っときなさい、天上界に昇る好機であるぞ」
   「こら、おっさん、誰が煩いボーズや、しまいにどつくで」
   「神をどついたりしたら、天罰が下るぞ」
   「天罰が何や、そんなもん酢醤油で食ってやるわい」
   「お前は、天罰とトコロテンの区別もつかないのか」
 新三郎が神妙に断った。
   「この度は、縁がなかったといことで、このお話、他を当たって戴きますように」
   「縁談では無いわ」
   「わーい、断られた、天女連れて出直して来い」
   「煩い三太め、そんなに天女の舞が見たいのか?」
   「舞なんかどうでもええのだす、空中で舞っているところを下から見たいだけだす」
   「やらしー」


 暫く行くと、三体のお地蔵さんが並んで立っている。その向かいには茶店があって、小さな茶店のわりには客が多かった。折よくみんな引き上げて行ったので、二人は床机に腰をかけて、足をぶらぶらさせながら待っていると、お茶を二杯お盆に載せておやじが出てきた。
   「おっちゃん、大福二つ」
   「へい、ただいまお持ちします」
 すぐに大福を持って出てきた。
   「向かいのお地蔵さん、何かいわくがあるのですか?」
   「へい、一番左のお地蔵さんは、夜泣き地蔵さんです」
   「子供の夜泣きを鎮めてくれるのか?」
   「いいえ、ここでヨチヨチ歩きの子供が、お侍さんの乗った馬に跳ねられて死んだのです、その子が夜中になると母親を求めて泣くのか、地蔵さんが夜中に涙を流してヒューヒューと…」
   「恐わっ、けど可哀想やなあ」
   「真ん中は?」
   「あれは、ちんちん地蔵で、お賽銭は二文入れます」
   「三つめは?」
   「あれは、助兵衛地蔵と申します、お賽銭は幾らでも構いません」
   「へー、行きがけにお参りして行こ」
 大福を食べ終えると、夜泣き地蔵の賽銭箱に一文供えて手を合わせた。
   「おっ母ちゃんが恋しいのやろなあ、泣かんと成仏しいや」
 三太が手を合わせていると、新平がお地蔵さんの横で首を傾げている。
   「親分、この地蔵さん、横腹に穴が開いていますよ」
   「あ、ほんまや、こっち側にも開いている」
   「頭のてっぺんがお皿になって、ここにも小さな穴が開いています」
   「なんのこっちゃ、これはからくりや、中に笛が仕込んであって、風が通り抜けるとヒューヒューと音がするのや」
   「頭の皿は?」
   「水を入れる穴や」
 頭から水を入れておくと、風が押し上げ、目の隙間から水が滲み出る仕掛けになっているのだ。
   
   「親分、何だかいやらしい手つきで地蔵さんの前を擦って、どうかしたのですか?」
   「うん、このちんちん地蔵やが、二文入れるとその重みでこの辺から何か飛び出す仕掛けになっているのやないかと…」
   「飛び出しそうなところはありませんね」
   「うん、試しに二文入れてみるか」
 三太が二文入れると、「チンチーン」と、音が鳴った。
   「あほらし、ちんちんは、かねの音かいな」
 さて、三番目は、助兵衛地蔵である。この助兵衛地蔵に限って、着物を着ている。
   「ははーん、わかった、銭を入れると、この着物がパラリと脱げる仕掛けなんや」
 どうせつまらない仕掛けだと思っても、「助兵衛」という名が気になる。
   「よっしゃ、騙され序(ついで)や、一文、二文ときたのやから、三文入れてやる」
 三文供えて待ったが、何も起らない。
   「何や、この仕掛け壊れているのや、茶店のおっさんに訊いてみよ」
 三太と新平はパタパタっと茶店に戻って来た。
   「おっさん、あの助兵衛地蔵、壊れているみたいや」
   「あれは、仕掛けでも何でもありません、参った人のすけべの度合いが分かる地蔵さんです」
   「どう分かるのや?」
   「子供さん、あんたお賽銭を幾ら供えました?」
   「三文だす」
   「あんたは、三文すけべです、しかし、三文言うたら、そうとうのすけべですよ」   
   「ほっといてくれ、辻占以来、また騙された」


 また進むと、今度は道端に「狸塚」と刻まれた木の塚があった。近くの村人らしい男が通ったので、謂れを尋ねてみた。
   「この塚はなあ…」
 男が丁寧に語ってくれた。
   「昔、この場所に…」
   「昔って、どの位昔や?」
   「お前がまだ生まれてない程昔だ」
   「めちゃくちゃ昔だすなあ」
   「この獣道を通って、雌の狸が餌を求めて里へくるようになったのだ」
   「その狸、何か悪さをしたのですか?」
   「いいや、何もせん、ただ田圃で蛙や、ミミズを捕まえて食べるだけだ」
 その狸を罠で掴まえ、狸鍋にして食ってしまった村人が居た。その夜から、五匹の仔狸が山から下りてきて、母親の臭いがするのか、この場所で「クウーン、クウーンと鳴いて親を探すのだった。
 其処へ、村人の権兵衛さんが飼っていた雌の柴犬が通りかかり、五匹の仔狸を権兵衛さんの家に連れて帰った。この柴犬は丁度子育てを終えて、仔犬たちは夫々の家に貰われて行った後で、乳も出なくなっていた。それがどうだろう、仔狸がきてから、また乳がでるようになって、五匹の仔狸を育て上げ、仔狸と共に姿を消してしまった。

 それから、半年ほどして、ひょっこりと柴犬が権兵衛さんの家に帰って来た。どうやら、柴犬は仔狸たちに餌の捕り方を教えていたのだろうと、村中の明るい噂になった。

 仔狸たちの親を狸鍋にして食った男は、「犬でさえもこんなに情があるのに、親狸を食ったヤツの気が知れないと村八分にされ、熱に魘されながら死んでしまった。これは、狸の祟りに違いないと噂が広まって、村人達が少しずつ金を出し合って狸塚を立てたのだった。
   「それから、どうなったのですか?」
   「これで、おしまいです」
   「何か、ほろりとさせるようで、しょうもない話だすな」
   「しょうもないって、それならどうなれば良いというのだ?」
   「その後、月に一度は五匹の仔狸が、権兵衛さんの柴犬のもとへ、木の実や鳥や蛙を銜えてお礼にやってくるようになる」
 三太は話を作る。柴犬も、権兵衛さんも、そんな木の実や蛙に興味がないので放っておくと、仔狸たちはそれを悟ったのか、ある日小判を一枚ずつ銜えてやって来た。次の月も、また次の月も。そこで村人達は考えた。これは、山の何処かに埋蔵金が眠っているに相違ない。今度仔狸が来たら、後を付けて行ってみよう。

 その日から、村人は田畑のことなど忘れて、埋蔵金探しに没頭した。やがて田畑は荒れ放題になり、村人達は、埋蔵金は村の誰かが見つけて、独り占めをしているのではないかと疑心暗鬼に囚われることになった。  
 
 ところが、意外な事実が露見した。村の長者の金蔵の下に穴を掘って、仔狸たちが小判を盗みだしていたのだった。
   「そんな話、ただの村の恥じゃないか」
   「面白いけどあきまへんか?」

  第十九回 神と仏とスケベ三太(終) -続く- (原稿用紙13枚)

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