大正ロマンの世界である。
『ゴンドラの唄』 作詞:吉井勇 作曲:中山晋平 大正四年発表
◇いのち短し 恋せよ乙女
あかき唇 あせぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを
老婆が、若き孫娘に語っているような詩である。
「人生は短いものなのよ、その艶々とした真紅の唇もやがては褪せて、熱き血潮も冷める老いがくるの」
老婆は目を閉じ、自身が乙女であった時代を思い浮かべているようだった。
「いつ明日という日が無くなるかも知れないのだから、今の自分を大切に生きなさい」
そして、恋の甘さ、素晴らしさを孫に語って聞かせるのであった。
◇いのち短し 恋せよ乙女
いざ手をとりて かの舟に
いざ燃ゆる頬を 君が頬に
ここには誰れも 来ぬものを
おっと、猫爺の解釈は、間違っていたようだ。若い男が、乙女を舟に乗せようとしている。大正ナンパだ。
「ささ、手を出しなさい、手を取って舟に乗せてあげよう」
「恐いわ」
「僕が付いているから、大丈夫だよ」
「舟じゃなくて、あなたが…」
どうやらこの舟、ベネチアのゴンドラとは違う、二人乗りのボートらしい。ベネチアのゴンドラであれば、ゴンドリエーレと呼ばれる船頭さんが乗って、オールで舟を操っているはず。「ここには誰れも 来ぬものを」と歌っているではないか。
二人乗りのボートであれば、「いざ燃ゆる頬を 君が頬に」をするのが難しい。ボートを漕ぐものと、その向かいに乙女が乗るのであるから。
「須磨子さん、ボクの方ににじり寄って来なさい」
「嫌よそんなこと、だってボートが揺れて恐いもの」
「では、ボクが行くから、じっとしていなさい」
「揺らさないでね」
男は細心の注意をしながら、乙女に近付く。
「いざ燃ゆる頬を 君が頬に」
「届かないわ」
「顔を前に突き出すのです」
「何だか、キリンの喧嘩みたいですわね」
それでも、何とか頬と頬を寄せることが出来た。
◇いのち短し 恋せよ乙女
波にただよう 舟のよに
君が柔わ手を 我が肩に
ここには人目も 無いものを
「今度は、君が柔わ手を 我が肩に置いてください」
「届かないわ」
「では、ボクが前屈みになりましょう」
「こんな変な恰好をして、恥ずかしいですわ」
「大丈夫、ここには人目も 無いものを…」
◇いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを
「わたくし、疲れて心のほのおが消えそうです」
そのとき、陸からメガホンで呼びかけて来る。
「3号のボート、時間ですからお戻りください」
「早っ、3号といえばこのボートじゃないか、もう三十分たったのか」
「ふーっ、よかった、この後、何をさせられるのかと不安だったのよ」
「須磨子さん、また明日も乗りましょうね」
今日みたく日は、ふたたび来ぬようにと願う須磨子であった。
このロマンチックな『ゴンドラの唄』をYouYubeで聴く
『ゴンドラの唄』 作詞:吉井勇 作曲:中山晋平 大正四年発表
◇いのち短し 恋せよ乙女
あかき唇 あせぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを
老婆が、若き孫娘に語っているような詩である。
「人生は短いものなのよ、その艶々とした真紅の唇もやがては褪せて、熱き血潮も冷める老いがくるの」
老婆は目を閉じ、自身が乙女であった時代を思い浮かべているようだった。
「いつ明日という日が無くなるかも知れないのだから、今の自分を大切に生きなさい」
そして、恋の甘さ、素晴らしさを孫に語って聞かせるのであった。
◇いのち短し 恋せよ乙女
いざ手をとりて かの舟に
いざ燃ゆる頬を 君が頬に
ここには誰れも 来ぬものを
おっと、猫爺の解釈は、間違っていたようだ。若い男が、乙女を舟に乗せようとしている。大正ナンパだ。
「ささ、手を出しなさい、手を取って舟に乗せてあげよう」
「恐いわ」
「僕が付いているから、大丈夫だよ」
「舟じゃなくて、あなたが…」
どうやらこの舟、ベネチアのゴンドラとは違う、二人乗りのボートらしい。ベネチアのゴンドラであれば、ゴンドリエーレと呼ばれる船頭さんが乗って、オールで舟を操っているはず。「ここには誰れも 来ぬものを」と歌っているではないか。
二人乗りのボートであれば、「いざ燃ゆる頬を 君が頬に」をするのが難しい。ボートを漕ぐものと、その向かいに乙女が乗るのであるから。
「須磨子さん、ボクの方ににじり寄って来なさい」
「嫌よそんなこと、だってボートが揺れて恐いもの」
「では、ボクが行くから、じっとしていなさい」
「揺らさないでね」
男は細心の注意をしながら、乙女に近付く。
「いざ燃ゆる頬を 君が頬に」
「届かないわ」
「顔を前に突き出すのです」
「何だか、キリンの喧嘩みたいですわね」
それでも、何とか頬と頬を寄せることが出来た。
◇いのち短し 恋せよ乙女
波にただよう 舟のよに
君が柔わ手を 我が肩に
ここには人目も 無いものを
「今度は、君が柔わ手を 我が肩に置いてください」
「届かないわ」
「では、ボクが前屈みになりましょう」
「こんな変な恰好をして、恥ずかしいですわ」
「大丈夫、ここには人目も 無いものを…」
◇いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを
「わたくし、疲れて心のほのおが消えそうです」
そのとき、陸からメガホンで呼びかけて来る。
「3号のボート、時間ですからお戻りください」
「早っ、3号といえばこのボートじゃないか、もう三十分たったのか」
「ふーっ、よかった、この後、何をさせられるのかと不安だったのよ」
「須磨子さん、また明日も乗りましょうね」
今日みたく日は、ふたたび来ぬようにと願う須磨子であった。
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