雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺の才能なし俳句「旅行けば‥‥」

2016-10-29 | 日記
   ◇有馬路や 尾花手招く 湯浴み客◇ (季語 尾花)

 波打つ黄金の薄を見ていると「有馬兵衛の、向陽閣へ」 そんなCMソングが聞こえてくるような‥‥

   ◇尾花茎 奥歯で噛んで 旅鴉◇ (季語 尾花)

 縞の合羽に三度笠、逸れ流れて旅鴉。そんな旅鴉になった気にさせる薄の穂。昔人間でござんす。

   ◇良夜冴え 有馬の里に 湯のけむり◇ (季語 良夜)

 旅行けば、駿河の国に、茶のかおり。 名代なるかな東海道、名所古跡の多いところ、中に知られる羽衣の,松と並んでその名を残す‥‥と、広沢虎三唸る浪花節の世界に入り込みたくなるような名調子のパクリ三句である。

 若い頃は見向きもしなかった浪曲が、歳をとると、こう言った単純な物語が好きになるようである。「一向にそんな気にならない」あなたは、まだまだ若いからだろうう。
 現在、趣味の一つとして、歌謡浪曲などを耳コピーしている。ボケ防止というか、かなりボケてしまったのを少しでもエンジン・ブレーキをかけている積りである。オートマでも、長くて急な下り坂では、エンジン・ブレーキをかけると思うが、エンジン・ブレーキはマニュアル全盛時代に使われた言葉で、今は死語であろうか。
 

猫爺の日記「アイドルと前立腺の関係」

2016-10-28 | 日記
 当世、アイドル歌手と言えば、「ナントカ46」みたいなグループ名が挙がるようだが、猫爺の青春時代で言えば、そうだなァ 「藤本美佐江」さんとか、「市丸」さんとか、「小唄勝太郎」さんあたりかな。
 市丸さんと言っても、ラガーマンでもなければ、「広島東洋カープ」の1、2、3番打者の「タノキク丸」でもない。芸者歌手である。
 小唄勝太郎さんと言っても浪曲師ではなく、男ではない。こちらも芸者歌手だ。その他、「赤坂小梅」さん、「藤本二三吉」さんとか、「神楽坂はん子」さんあたりかな。
 名前を列挙しても、お若い方はご存知ないだうと思うが、YouTubeで検索すれば、ばんばんヒットするのは、猫爺みたいな数えきれない程も歳をとったご老人が、大勢聴いておられるのだろう。

 アイドルとは言っても、コンサート会場でペンライトを振って「キャーキャー」と騒ぎ、失神した思い出もなく、追っかけまわしてサインを強請った経験もない。ただ歌を聴いて、密かに心躍らせていただけである。根暗だったのかな?

 アイドルと言えば、今日内科クリニックで、前立腺検査の結果「高感度PSA}値が、年々少しずつ上がってきていると言われた。そういえば、榎本美佐江さんの歌を聴いても、心躍らないのはその所為かな?

   「先生、PSA値を上げないために、何に気を付けたら良いのですか?」と訊ねたら、予防法なんて無いと「ゲラゲラ」笑われた。何で?

猫爺の才能なし俳句「萩の花」

2016-10-27 | 日記
   ◇吾はらから 絶えて墓石に 萩の影

   ◇晴天に 人影まばら 萩の寺

   ◇満開も わりと寂しき 萩の花

 秋の七草のひとつ、萩の花を詠んでみた。本当は、出かけて行きたいのだが、高齢でそれもままならぬ。今日も他人様のブログに不法侵入して、覗き見てきた。今秋、前科100犯近い。

  秋の七草 ◆萩 尾花、 桔梗 撫子、 女郎花、 葛 藤袴、 これぞ七草◆

 萩はマメ科の灌木。尾花とはススキのこと。「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」の尾花である。桔梗は、最近野生の桔梗は見たことがないのだが、竜胆とともに改良されたものが花屋さんに年中出回っている。
 撫子も日本古来の可憐なナデシコは少なくなって、華やかな西洋ナデシコが花屋さんの店先を陣取っている。


 萩の寺とは、大阪の有名な東光院ではなく、神戸は須磨区にある「明光寺」のことで、高取山の山裾にあり、我が家の墓があった。若い時に兄弟が出し合って建てたのだが、当時は見晴らしがよくて満足していたのだが、歳を取ってくると参れなくなった。墓なんてものは、歳を取った時のことを考えて購入しないといけないなぁと、改葬するとともに後悔もしきり。

 

猫爺の才能なし俳句「天国と地獄」

2016-10-25 | 日記
   ◇天国は かくやコスモス 乱れ咲く

 他人様のブログで、秋桜の花を拝見して、一句ひねりだした。天国とは、一面の花畑が広がっているところと聞く。恐らく、このような風景であろうと想像した。めっちゃ退屈そうではあるが‥。

   ◇塩分も 糖分もダメ 生き地獄

 「ふんっ、何を今更、猫爺は既に長生きしておるわい」 

 最近猫爺が嵌っているのは、サイゼリヤのオリーブオイルべたべたの「地中海風ピラフ 499円也」。マイオリーブ油を持参して、もっとかけたいくらいである。店の人に怒られそうだけど。

 それと鶏手羽先を、おろし玉葱と顆粒の中華だしで和えて、30分冷蔵庫で寝かしたものを、寸前に小麦粉を混ぜ込んで揚げたもの。唐揚げ粉を使うと、酒肴には良いかも知れないが、おやつに食べるには塩から過ぎてダメである。そこで塩辛さを調節できて柔らかくなる方法をとっている訳だ。スパイスは皆無だが、玉葱の風味がコーヒーに合って頗るよい。(どこがやねん)

 鶏にとっても、爺にとっても地獄だけれど‥。 無理やりだけど。 


猫爺の才能なし俳句「苅田」

2016-10-25 | 日記
   ◇収穫を 終えた田圃に なごり稲◇ 季語=収穫  

 稲を刈ったあとの株に新芽が芽吹き、苅田はまるで田植えのあとのように青々としている。これを芽吹く稲とすると。春の季語と秋の季語が入る奇妙な俳句になるので、猫爺はこれを名残り稲と名付けてみた。

 「このまま枯らしてしまうのは惜しいなぁ」と、猫爺の貧乏性が頭をもたげ、これで「青汁」をつくったらどうだろうと想像を膨らませる。
 「稲若葉の青汁」に、安価な科学合成ビタミン類を加えて、スッポンエキスと大蒜エキスとコラーゲンを加味すると、便秘予防と美容と強壮と健康が謳えるサプリが出来る。あ、そうだ、乳酸菌も百億個いれてやろう。すると、腸内フローラの改善も謳える。サプリなんて、恐らくこんな安易な発想で作られるのだろう。

 どなたか、このアイディアを100円で買ってくれませんか? やはり、あほらしいかな?

   ◇秋の田や 落穂拾いは 雀がする◇ 季語=秋の田

 ミレーの「落穂拾い」という絵があるが、近代農業では機械で刈り取るので、「落穂」なんて無いのかも知れない。うえの句は想像だが、思えば稲を刈り取った後に、雀が集まっている風景を見たことがない。車に乗せて貰って、ピューッと走って見るだけなので、そのタイミングに出くわしていないだけだろうか。

   ◇牡蠣食えば 腹がなるなり 痛いなり◇ 季語=牡蠣 (盗作でしかも超駄作)

 当方、生ものに弱くなった。回転寿司へ行っても、食うのは「コーンマヨの軍艦巻」だの、「河童巻き」だの、「卵焼き」。いいなぁ、若い人たちは‥‥。
 

猫爺の才能なし俳句「黄葉(こうよう)」

2016-10-20 | 日記
   ◇天高く 洗濯物を 干す愉悦◇

 天気が良いと、洗濯がしたくなる主夫心。 空の清々しさと、洗濯を終えた満足感が重なる。

   ◇朝の窓 開けばひと葉 秋便り◇

 窓に銀杏の黄葉が引っ掛かっていたらしい。朝風とともに秋の手紙が一葉、舞い込んだ。

   ◇菊花展 我が子を誇る 育て親◇

 菊花展といっても、スーパー敷地内の狭いスペースに、それでも絢爛たる菊花が並べられている。傍らで煙草を吸いながら満足げに鑑賞に訪れる人々と、菊花を眺める親父が居る。手塩にかけて育てた我が子を誇るがごとく。

   ◇子烏の 親呼ぶ声に 秋の風◇

 日本での烏の鳴き声を文字表記すると「カァカア」だが、よく聞いてみると実に個性がある。その声のなかでも子烏は、心細そうに、甘えるように、高いトーンで鳴いている。冬が近付いているのが分かるようだ。

  ◇黄葉の 銀杏映えるや 空の蒼◇

 昔、フランク永井という歌手が歌った歌謡曲に「公園の手品師」というのがあった。黄葉した銀杏の木を見上げると、その歌を思い出して歌ってしまう。

    〇鳩が飛び立つ公園の 銀杏は手品師 老いたピエロ‥。〇

 その銀杏の黄葉を引き立てる空の蒼さよ。

猫爺のエッセイ「心霊者テスト」

2016-10-18 | エッセイ
 数日前、猫爺が興味津々になるテレビ番組を視た。録画を逃したのでうろ覚えではあるが、思い出してみよう。ご覧になった方々も多いであろう。

 ある不動産屋が担当している「事故物件」がテスト会場(?)である。ここでいう事故物件とは、この家に住んでいた人が、ここで事故や殺人、自殺などで亡くなった物件でである。

 その家に三人の「霊能者・心霊者・霊媒師」といった幽霊を扱うプロ(?)を呼んで、事故物件となった原因を当てさせるという軽率というか、罰当たりというか、めっちゃ面白いプログラムであった。
 
 当てるのは、
   ● 死んだ人が男か女か?
   ● 年齢はどのくらいか? 
   ● その場所は、この家のどこか?
   ● 死んだ原因は何か?
 この程度だったと記憶する。

 若い女と答えた人が二人。そのうちの一人の心霊者は、女の幽霊の「似顔絵」まで描いていた。場所は、それぞれ分かれて、風呂場、ベランダ、部屋のクーラーの下と答えていた。原因は、自殺と他殺。

 さて、答えは、独り暮らしの60歳なかばの男で、酒に酔って風呂に入り、溺死したのだという。当たったのは、二人で、風呂場と答えた人と、別の人が男と答えて当たったが、その他の答えは外れであった。

 若い女の似顔絵まで描いた人は、風呂で事故死した男のずっと以前に死んだ女の幽霊が見えたのだと、聞き苦しい言い訳をしていた。


 「霊能者・心霊者・霊媒師」と名乗ってそれらしい恰好をして、それらしい姓名を付けて金儲けをしているプロでも、全くの素人にあて推量をさせても、正解の確立は何ら変わらないのであろうと感じた。違うのは、プロには言葉で誤魔化す術が備わっているということ。

 幽霊はこの世に存在するか?と問われて、そんなものはないと一番よく知っているのは、「霊能者・心霊者・霊媒師」等と名乗る人々であろう。何故なら、自分の発言が出まかせであることを知っているからである。

猫爺の日記「空中に浮かぶ謎の発光物体」

2016-10-14 | 日記
 二日前だったか、ある人が河川敷の上空に出現した「謎の発光物体」を発見して、TV局に電話を掛けたようである。
 TVの画面に、その人が撮った動画が映し出されていた。なるほど、くるくると色が変化して、美しい「謎の発光物体」であった。

 (/・ω・)/おいといて

 現在、家庭における電灯は、蛍光灯からLED(light emitting diode)に移行する家庭が増え、あるクイズ番組の割合を当てるクイズでは、今やLEDが蛍光灯を抜いているようであった。我が家でさえも、物置に使っている部屋以外は、LEDに代えてしまっている。

 中村修二工学博士と、研究グループの方々が「青色LED」を発明されてからというもの、赤と緑と黄色の三色表示だったオーロラビジョンが、猫爺の若い頃の表現を使えば、「総天然色」になった他、白色高輝度LEDが開発されて、照明に使われるようになった。

 このLED、赤、青、緑の、光の三原色が揃ったために、それぞれの光の量を調節することにより、「総天然色表示」が出来るようになったのである。

 (/・ω・)/おいといて

 「謎の発光物体」に戻ろう。このLEDを凧に取り付けて、どの色か一つを自動的に順次消すだけでも「赤、青、緑、黄、マゼンタ(赤紫)、シアン(水色)」の6色にくるくると変えることが出来るる。

 夢を壊すことになるかも知れないが、現代人であれば、何でも「謎」にしてしまわないで、もうすこし分析する心を持ちたいものだ。と、爺のくせに、生意気なことを言いたくなるようなTV番組が増えつつある昨今だ。どこかの国のピエロではないが、人々をただ恐怖や不安に陥れるだけの行為は「悪戯」では済まない。

 

 

猫爺の短編小説「続・赤城の勘太郎」第四部 江戸の十三夜 (原稿用紙16枚)

2016-10-14 | 短編小説
 三国街道から中山道・高崎の宿に入った。勘太郎は、何やら不安に捉われている。朝倉辰之進の考えが甘い。江戸の叔父を訪ねたところで、果たして匿って貰えるのだろうか。叔父は南町奉行所の与力だと辰之進は言っていた。与力であれば、国元で罪を犯した甥を匿うであろうか。寧ろ捕えて国元へ送り返すかも知れない。妹のお鈴には咎はないとはいえ、咎人の妹である。匿えば咎人の辰之進が訪れたことを国元に知られることになる。叔父は恐らく二人を追い返したであろう。それが血を分けた肉親へのせめてもの温情というものである。

 しかし、二人の消息を知るために勘太郎は辰之進の叔父を訪ねねばならない。わが身の形(なり)と言えばしがない旅鴉さながらである。これでは、自分さえも玄関払いを食うだろう。勘太郎は、僧侶寛延に戻ろうと考えた。まんざら成り済ましとも言えないであろう。
 江戸へ入る手前の宿、板橋の古着屋で網代笠(あじろがさ)、墨染の直綴(じきとつ)などを買い求め、いが栗頭の坊主になった。

 江戸に着いた。南町奉行所の門前で合掌して経を読んでいると、門番が気付き声をかけてきた。
   「御坊、奉行所に何かご用がおありか?」
   「はい、与力の朝倉様にお会いしとう御座います」
   「御坊のお名前は?」
   「上野(こうずけ)の国は昌明寺の僧、寛延と申します」
   「その寛延どのが、朝倉さまへのご用向きとは?」
   「旅先でお会いしました甥御さまの行方をお尋ねしたくて参りました」
   「さようか、暫くお待ちを」
 わりと丁重な扱いに、勘太郎は坊主として訪れたことは成功だったとほくそ笑んだ。暫く待たされて、門番が肩衣と袴姿の初老の武士と共に姿を現した。
   「こちらの御坊が、朝倉辰之進様にお会いしたいとのことです」
   「上野の国、昌明寺の僧で寛延と申します」
 勘太郎は丁寧に頭を下げた。
   「拙者が朝倉ですが、甥の辰之進とは縁を切っており申す」
   「では、妹御のお鈴さんはどうされました?」
   「辰之進ともども追い返した」
 勘太郎は、惨い男だとこの与力の目を見たが、意外と優しそうであった。やはり、事情が事情だけに、追い返さざるを得なかったのであろう。
   「お二人は、どこへ行かれるかはお告げになりませんでしたか」
   「言わなかったが、行く当てはあるように思えた」
   「そうですか、拙僧にも心当たりが御座います。そちらに行ってみましょう」

 丁重に礼を述べて、南町奉行所の門から離れた。しばらく行って振り返ると、与力の朝倉は門前に立って勘太郎を見送っていた。冷たくあしらったが、やはり甥と姪のことが気掛かりなのであろう。兄妹に会って、事が一段落したらこっそりと伝えてやろうと思う勘太郎であった。

 北町奉行所には、親友だと言っていた若き与力北城一之進が居る。兄妹も恐らくそちらに行ったに違いない。だが、若造の頃に道場へ通った仲とは言え、兄妹が頼って行ったところで、迷惑に違いない。こちらも追い払われて、どこかで長屋暮らしでもしているのだろうと勘太郎は特に妹のお鈴を気遣った。

   「北城一之進様にお会いしたいのですが‥」
 門番は訝しげに勘太郎を舐めるように観察した。
   「与力の北城一之進様か?」
 他に与力でない北城一之進がいるのかと言葉を返したかったが、勘太郎は慎んだ。
   「はい、左様に御座います」
   「そなたは?」
   「上野の国は、昌明寺という寺の僧侶に御座います」
   「どのような用であるか」
   「ちと、お尋ねしたい向きが御座いまして…」
   「どのような?」
 この門番、役目とは言え執拗に下問を繰り返すので、勘太郎は少々焦れて来た。
   「それは、北城一之進様に会って、直にお尋ねします」
 門番も腹を立てたのか、ムスッとして奥に入った。勘太郎を追い返したかったが、そうすると上司である北城に叱られるかも知れないと思ったのであろう。

   「お待たせした、それがしが北城一之進でござる」
   「初めてお目にかかります、拙僧は上野の国にある昌明寺の僧侶、寛延で御座います」
   「で、拙者への用向きとは?」
   「朝倉辰之進様が、あなた様を訪ねて参りませんでしたか?」
   「朝倉辰之進だと? そんな男は知らぬ」
   「子供の頃、剣道の道場で共に修行したご朋友ではありませんでしたか?」
   「確かにその頃に朝倉辰之進と申す友が居たが、上司を斬って遁走するような男ではなかった。人違いであろう」
 この人も、辰之進の叔父と同じく、辰之進の所行を知っていて、立場上辰之進を受け入れることが出来ないのであろうと、勘太郎は一之進の心中を察した。
   「よく分かりました、ご公務中にお訪ねしまして、申し訳ありませんでした」
 勘太郎は丁重に頭を下げて、北町奉行所をあとにした。

 江戸は広い。勘太郎一人で師・朝倉辰之進と妹のお鈴を探すのは難しいだろう。今は諦めて、自分の生きるすべを模索しなくではならない。さりとて浮浪者同然の自分に、おいそれと仕事が見つかるとは思えない。勘太郎は「やはり坊主に戻ろう」と思った。

 江戸市中(市街地)の寺々を見つけてはあたってみたが、住職は勘太郎の頭から足先までジロジロと観察するばかりで、勘太郎の願いを聞く耳は持っていなかった。どうせ偽坊主で、「碌に経も読めないのだろう」と疑ってかかるだけである。

 勘太郎はがっかりであったが、心が折れることなく町外れの寺も当たってみた。黄昏が迫る頃、草木に隠れてしまいそうな小さな寺を見付けて、せめて一夜の寝泊まりなとも願ってみようと立ち寄ってみた。
 扁額(へんがく)に大徳寺と記された寺の門前に立って声をかけてみたが応答がない。そうかと言って、無人の寺でもなさそうでる。一応掃除がされていて、けっして荒れ放題というものではない。まだ日が暮れたわけではないので燈明は灯ってはいないが、わずかに生活の匂いがしている。勘太郎は本堂の裏へ回り、「御頼み申す」と、声高に言ってみた。

 本堂の裏戸を叩いていたら、後ろの藪から不意に声が聞こえた。
   「どなたじゃな?」
 意外なところから出て来たので、勘太郎は振り向いて飛び上がらんばかりに驚いた。その動揺が少々照れくさかったので、出て来た僧の顔も見ずにただお辞儀をして、動揺が治まるのを待った。
   「わしはこの寺の住職じゃが、どなたで、どちらからみえられた?」
   「はい、わたしは上野の国は赤城山の麓、昌明寺の僧、寛延と申します」
   「え? 何と申したのじゃ?」
   「上野の国、昌明寺の僧寛延と申します」
   「上野の‥?」
 勘太郎は、この年老いた僧は耳が遠いのだと察し、失礼のない程度に近くに寄り、大きな声を張り上げた。
   「はい、上野の国、昌明寺の僧、寛延で御座います」
   「おゝ、それは遠くから来られたのじゃな」
   「人を探しに江戸へ参りました」
   「それは、ご家族の人か?」
   「いえ、我が剣術の師に御座います」
   「僧侶の身で、剣術の修行をしておるのか」
   「はい、剣術を修行して、ゆくゆくは庶民の子供相手の文武私塾を開きたいと思っています」
   「庶民には、文はともかく武は不要であろう」
   「武は攻める武ではなく、身を護り躰を鍛える武であります」
 住職は、納得が行かないようであったが、それ以上の問いかけは止めた。
   「この寺へ来る人は、近村の婆さんが野菜や米を持ってきてくれるぐらいで、旅人は幾久しく来てはおらぬ」
   「此処へ参ったのは、その儀では御座いません。今夜一夜だけでも、宿を賜りたくて参りました」
   「年寄りの独り暮らしなので碌なお構いは出来ないが、どうぞご遠慮されずともよろしい」
   「有難う御座います」
   「食事は、大根の粥。それに寝具は死人を寝かせるための布団しかないが、それで良ければ歓迎申す」
   「もったいない、それで充分で御座います」

 お礼に、今夜の食事は勘太郎が引き受けた。割った薪がきれていたので、勘太郎は薪割りから始めて、葉の付いた大根と米を一握り使って、大根粥と大根葉の煮浸しを作った。湯を沸かせて、住職の躰と自分の躰を拭き、本堂にお燈明を灯した。
   「本堂にお燈明を灯したのは久しぶりである。仏さまもさぞお喜びであろう」
   「和尚は灯さなかったのですか?」
   「手元が心許なくて、蝋燭に火を点せなくてなぁ」
 今まで気付かなかったが、住職の手を見ると少し震えていた。歳の所為で、血の流れが悪くなっているのだろうと勘太郎は思った。
   「和尚様、もし宜しければ、明朝のお勤めから、食事のご用意、お掃除も私にやらせて頂けませんか?」
 和尚は、勘太郎のその言葉を喜んだ。心許ないどころか、大きな不安さえ抱えていたのだ。その日から、勘太郎は昌明寺や辰巳一家で働いてきた腕を活かして、バリバリと働いた。朝のお勤めを果たすと食事の用意、昼間は近隣の村に出向き、「今度、大徳寺に参りました寛延と申す僧です」と挨拶をして、修行僧のように経を読んで回った。

 法事があれば、勘太郎が独りで進んで出かけて行った。最初は、「寺を乗っ取りにきたのでは」と噂されて敬遠されたが、勘太郎の人柄の良さが伝わり、やがて近隣の村でも受け容れられるようになった。
 寺で葬儀が行われると勘太郎は僧になり、葬儀が終われば寺男に早変わり、夜は住職の按摩を終えると、提灯を下げて墓守に変わる。骨身を惜しまず、勘太郎は徳大寺のために働くのであった。

 この寺に来て、一年の歳月が過ぎた。しばらく床に就いていた住職が、勘太郎を枕元へ呼んだ。
   「寛延、わしはもう長くはない。どうかわしの願いを聞いておくれ」
 痩せた白い手で、勘太郎の手を探した。勘太郎が住職の手を握ると、このまま、この寺に居て、住職を継いでほしいと言う。
   「昨夜、阿弥陀様がわしの枕元にお立ちになられた」
 そして、「長い間ご苦労であった」と、お労いになられたと言うのだ。それは取りも直さず、近々お迎えがくると言うことであると、住職は語った。


   「兄上、着物の仕立て賃を頂戴しましたので、今日はお酒を買ってまいりました」
   「ほう、これは有難い。お鈴には苦労ばかり掛けて申し訳ない」
   「何を仰います。こればかりの事では苦労とは申しませんよ」
 朝倉辰之進は、長屋で「剣道指南」の看板を揚げたが、子供に剣道を習わせる親など長屋には居なかった。今は、お鈴の着物の仕立てでその日暮らしをしているが、辰之進はやくざの用心棒でもしようかと思っている。それを必死に留まらせているのはお鈴である。
   「お前も、やくざの世話になっていたではないか」
   「だから言っているではないですか。やくざが縄張り争いや博打に明け暮れて、人を殺すのをこの目で見て来たからです」
   「国定忠治親分は、お前を護ってくれた」
   「忠治親分だって、他の親分衆とどこに違いがありましょう。いつかお縄になって島送りか、三尺高い杉板の上に晒されるでしょう」
 お鈴は身形を正し、兄辰之進の前に正座をした。
   「兄上、今日こんな話を聞いて参りました」
 辰之進は、お鈴が何を言い出すのかと、不安げに耳を傾けた。
   「若い女は、岡場所に高く売れるのだそうです」
 辰之進の不安が当たった。
   「だから?」
   「わたくしを売ってはくださいませんか」
   「何を言い出すかと思えば、お鈴、お前はこの兄が妹を売ると思うのか」
   「思いません。だからお願いしているのです。このままだと、共倒れになってしまいます」
   「共倒れになるくらいなら、俺は用心棒になる。お鈴は高望みをせずに、手に職をもった町人の妻になれ」
   「お願いです。わたくしを売って、小さいなりとも町に道場を持ってくださいませ」
   「嫌だ、お前を犠牲にしてまで、道場を持ちたくはない」
 勘太郎は、今頃何処で何をしているのだろう。今夜は十三夜である。この月を勘太郎も見ているのかなぁと呟いて、辰之進は久しぶりの酒を「ぐい」と飲みほした。  -最終回に続く-

 猫爺の短編小説「赤城の勘太郎」
   第一部 板割の浅太郎
   第二部 小坊主の妙珍
   第三部 信州浪人との出会い
   第四部 新免流ハッタリ
   第五部 国定忠治(終)
 猫爺の短編小説「続・赤城の勘太郎」
   第一部 再会
   第二部 辰巳一家崩壊
   第三部 懐かしき師僧
   第四部 江戸の十三夜
   第五部 朝倉兄妹との再会(最終回)

猫爺の日記「写っちゃった・UFO その2」

2016-10-09 | 日記
 猫爺の日記「虫しぐれ」の、ついでに書いた「UFO」の続きである。その番組の中に、マイアミ空港から見た夜空に、変なUFOが現れたとスタジオで大騒ぎをしていた。記憶が正しければ、猫爺が以前にも目にしたれっきとした流星である。途中で消えたのは、大気圏内突入して燃え尽きたからだ。

 猫爺が子供の頃にも見たことがある。当時は「箒星(ほうきぼし)」と呼んでいた。流星であれば、もはやUFOとは呼べない。

 番組では、出演者(?)に、勝手に感想を喋らせていただけで、分析をするでもなく、「これはUFOに違いない」と、視聴者に押し付けてはいなかった。サプリの広告で、消費者風の人に散々「効能」まがいのことを喋らせておいて、「個人の感想です」と注釈を付けるがごとく、「個人の感想であり、地球外から飛来したUFOだと肯定するものではありません」と、注釈をつけるようなものである。

 この番組、UFOのあと、「妖怪」、「亡霊」と続くのであるが、たしか最後の方で、「亡霊(幽霊)を肯定するものではありません」みたいな注釈が付いていたようだ。

 猫爺の恰好の餌なので、また続きを書くだろう。
 

猫爺のいちびり俳句「虫しぐれ」

2016-10-07 | 日記
   ◇初嵐 去りてすだくや 虫の声◇  (季語:初嵐)

 嵐が去って、雨も止んだ夜更ともなると、雨水口や石積の隙間で「リーリーリーリー」と傍目蟋蟀が鳴き始め、ラベルのボレロの演奏の如く、やがて大合奏になる。「秋はこれでなくちゃ」

   ◇星空に 届くや秋の 虫しぐれ◇  (季語:秋の虫)

 と、これは大袈裟過ぎるけど‥。

   ◇蟋蟀や 岩の穴にて 高笑い◇ (季語:蟋蟀)

 ここに詠んだ「蟋蟀」は、その音を文字で書くと「コロコロコロ」と鳴く閻魔蟋蟀である。この音、猫爺には「ヒョロヒョロヒョロリー」と、虫の嗤い声に聞こえる。面白いので立ち止まって聞こうとすると、ピタッと止んでしまう。
   「こら、なに黙っとるねん、鳴かんかい」
   「うるせー、爺なんかに聞かせてやるもんか」
 諦めてその場から立ち去ろうとすると、また「ヒョロヒョロヒョロリー」。後戻りするとまたピタッ。
   「このヤロー舐めとるのか、鳴くのはお前の仕事やろ。聞いてやるから鳴け」
   「ごにょごにょ言うとらんと、早よう立ちされ。この死にぞこないの糞爺」
   「むかつくヤツやなぁ、しまいにどつくぞ」 岩をパンパンと叩いて驚かし、立ち去ろうとすると、「ヒョロヒョロヒョロリー」。
   「バーカ、悔しかったら穴に入って来い」

    (/・ω・)/

 外付けHDD(3Tbt)が1万円ちょっと。安くなったものである。テレビに付加すると、270時間以上も録画ができる。

 今日も先週土曜日に録画しておいた番組「写っちゃった~」というふざけた番組を視た。最初はUFO。少年や青年が無邪気に「UFOや、あれは絶対UFOや}と、騒いでいる画像があったが、夢があって好感が持てた。

 UFO=地球外知的生命が乗った未確認飛行物体だと騒いでいるのだが、夢を壊して悪いが爺が見るにはあれはどう見てもLEDを搭載した凧である。ひし形であり、複数が連動して子供たちが言っていたように「ふわ~ん、ふわ~ん」と左右に揺らいでいたので「連凧」であろう。やがて色が変化したり、急に「パッ」とその場で消えてしまった。
 これを凧とすると、猫爺にも作ることが出来る。面で光るLEDも有れば、薄いリチウム電池もある。LSIも通販で手に入るからだ。

 宇宙には地球外知的生命体は100%存在すると猫爺も断言する。だが、それが地球に到来しているかと言われたら、100% 「No」と答えるだろう。到来しているとすれば、何億光年の彼方から飛んで来なくてはならない。限られた広さの飛行物体の中で、生物が何兆年も生き継いでくるだろうか。猫爺の悪い頭で考えても難しいと思う。

 地球外知的生命体でなく、ウィルスのような物は、すでに到来しているかも知れないが‥。

 
  

猫爺のいちびり俳句「花梨の実」

2016-10-06 | 日記
   ◇花梨の実 拾う者なし 街並木◇  (季語:花梨の実)

 花梨(かりん)は、梨と同じくバラ科の高木である。実は渋くてそのままで食べることは出来ないが、渋みを抜いてジャムにしたり、花梨酒を造ることができる。

   ◇花梨並木 靴音涼し 星月夜◇  (季語:星月夜)

 「秋ですね」と書きたいのはやまやまだが、昼間はまだ夏日どころか、真夏日が続く。だが夜ともなれば風が涼しく、散歩にもってこいである。誰が並木に花梨の木を選んだのかしらないが、歩道に花梨の実がごろごろと転がっている。車道に転がり出て、危なくないのだろうか。とか、言いながら、つい蹴転がしたくなる気持ちを抑えて、実を眺めながら歩く。「若くないのだから、そんなことをすると自分が転がるよ」と、死んだ女房の声が聞こえるような‥。

   ◇果林の実 拾い帰れば 横領犯◇  (季語:花梨の実)

 「だめだめ、酒も飲めないくせに花梨を拾って帰り、花梨酒を造ろうなどと考えては‥」「拾ってカ帰らないよ、公共物窃盗罪か、拾得物横領罪で罰金刑か懲役刑になるではないか」  「‥まさかと思うけど」 

  

猫爺の日記「ご飯を炊くとき‥‥」

2016-10-02 | 日記
 ご飯を炊くとき、安物の米でも「にがり」を一滴入れると、高級米で炊いたご飯に負けないくらいに旨くなるとTV番組で紹介していた。当方は5キロ千四百円以下の「安物」を食べているので、さっそく「にがり(塩化マグネシウム)」を買ってきてご飯を炊いてみた。
   「美味しくなった?」
   「なーんも」

 塩化マグネシウムを摂り続けると、体に悪影響だとする世の説もある。 仮に副作用など大したことはなくとも、自分は先が知れているので構わないが、お子さんや若い方々がこれから毎日続けて摂ると何らかの「害」が出て来るかも知れない。 放送は、それを踏まえた上で番組を放映しているのだろうか。

 猫爺の味覚なんて、安物に馴染んでいるので分からないのかも知れない。TVでは街で高級米しか食べないセレブな夫人に試食してもらい、「にがり入りの安物米」を炊いたご飯と、「高級米」を炊いたご飯を並べて「どちらが美味いか」と、尋ねていた。
 ほとんどのセレブが、「にがり入り米」の方を指していたが、TVのことだから編集でどうにもでもなることだ。例え100人のうち十人が「にがり入り米」のご飯を指したとしても、その人たちだけを放送すれば良いことである。

 スタジオの出演者も然り、大袈裟に「美味い」「凄い」と驚いてみせると仕事になるのだから。ギャラの手前スタッフの意図どおりに演じるだろう。正直な出演者がいて、「かわらへん」と応えても、編集でカットすれば済むことである。

 とは、へそ曲がりの猫爺の想像的意見である。

   (/・ω・)/

 肉を柔らかくする方法も、紹介していた。安いアメリカ産の牛肉を、重曹を入れた水に30分ほど浸してから調理すると柔らかくなるのだそうなのでやってみた。
 「うん」確かに柔らかくなっているような気がする。味は「かわらへん」けれど。

 年寄というもの、昔の記憶は忘れずに残っているもので、本物の国産牛肉で、一度も冷凍していない肉の味と香りを知っている。たとえ並み肉と称された一番安い牛肉でも、もっと安いホルモンと言われた内臓でも、今スーパーで売られている国産牛肉よりも、数倍も数十倍も美味かったことを憶えている。
 

猫爺のミリ・フィクション(掌編小説)「書き出し集」

2016-10-01 | 掌編小説
太字のタイトルをクリックすると、小説に飛びます。
ミリ・フィクションとは、400字詰め原稿用紙30枚以下の掌編(しょうへん)小説です。

猫爺のミリ・フィクション「運命」2013.01.23
真夜中に浩太は目が覚めた。起き上がって水を飲んでこようと思うのだが、体を動かすことが出来ない。
「これが金縛りってやつかな?」

猫爺のミリ・フィクション「因幡の白兎」2013.01.24
隠岐の島から本州に渡りたいが、その術がわからない。 白兎のぴょん吉は考えた。思い付いたのは、ワニザメを騙して隠岐から本州まで並ばせて‥‥
猫爺のミリ・フィクション「オレオレ強盗」2013.01.25
「ピンポーン」と、インタホンのチャイムがなった。
「お婆ちゃん、ボクです」どうやら老人の一人暮らしを狙った強盗のようだ。

猫爺のミリ・フィクション「托卵王子」2013.01.25
閑静な住宅街を、学校帰りの少年が近道を通るために緑地公園に入り込んだ。その時、突然4人の男が近付いてきたので、少年は「カツアゲか?」と身構えたが、男たちは恭(うやうやし)く、跪(ひざま)づいた。
猫爺のミリ・フィクション「修行僧と女の亡霊」2013.01.26
  「もしもし、お坊様」
民家が途絶えて久しい野路を旅ゆく若い僧侶を、女の声が呼び止めた。振り返った僧の目に‥‥

猫爺のミリ・フィクション「どっちも、どっち」2013.02.01
霊界での八五郎とご隠居の会話。 
「おや?八つぁん、今年の盆は家に帰らなかったのかい」

猫爺のミリ・フィクション「蟠り(わだかまり)]2013.02.02
先生は、「ロボトミー手術」をご存知でしょうか。 これは、脳やその他の臓器の一塊を切除することを意味し、癌に冒された胃を切除することを指す場合もあります。 今、ここでお話しさせていただきますのは‥‥
猫爺のミリ・フィクション「浦 島子伝」2013.02.05
今回は、「浦島太郎」の基になった「浦 嶋子伝」を想像してみよう。想像と書いたのは、原作の「浦嶋子伝」を読んでいないからだ。浦嶋子は、浜辺でウミガメを見つける。
猫爺のミリ・フィクション「まだ生きている」2013.04020
自分の生涯に、このような恐ろしい世界が待ち受けていようとは想像さえしなかった。いや、これは生涯ではな
く、死後の世界かも知れない。亡骸から離脱した魂が、宇宙の闇を漂っているのだろうか。

猫爺のミリ・フィクション「大きな桃」2013.04.21
「この島の平和はどこへ行ってしまったのでしょう」
荒らされた田畑を眺めて、女の鬼が呟いた。 彼女の視線は、空(くう)を彷徨っている。

猫爺のミリ・フィクション「骨釣り」2013.04.27
長屋暮らしの独身もの八兵衛が、昼近くになって釣竿を持ってぶらり大川の堤へやってきます。今夜の酒肴(しゅこう)に、鰻でも釣るつもりでしょう。(落語・骨釣りから)
猫爺のミリ・フィクション「転生」2013.04.27
「俺は死んだのか?」
真っ暗な部屋の中で、泰智は目を覚ました。

猫爺のミリ・フィクション「剃毛」2013.05.04
「これっ定吉、ちょっとおいなはれ」
お家はんの呼ぶ声に、蔵の荷物整理を手伝っていた丁稚定吉は、ピクンと反応して飛び出してきた。

猫爺のミリ・フィクション「山姥(やまんば)」2013.05.04
「で、出ましたっ!」 日もとっぷり暮れて、里の家々から油灯の灯りが漏れ始める頃、村の庄屋の表戸が叩かれた。 何事かと庄屋が自ら戸を開けてみると、新田(しんでん)の爺の倅の瓢助であった。
猫爺のミリ・フィクション「葛の葉」2013.05.04
ときは村上天皇の時代、安倍保名(あべのやすな)が信太の森(しのだのもり)に出かけた折に、狐の生き肝(いきぎも)をとるために来ていた武士に追い詰められて逃げてきた白狐を、身を挺して助ける。
猫爺のミリ・フィクション「誤算」2014.02.25
佐伯叶作(きょうさく)は、若き宇宙工学博士(はくし)である。宇宙工学の大学院で研究に没頭していたが、大富豪の父親が巨万の富を遺して死んだことから、大学院を終了後、私財をなげうって研究所を設立した。
猫爺のミリ・フィクション「疑惑」2014.02.26
大川の土手沿いの道をふらふらと歩いているのは、裏山で伐採した竹を使って笊を作り、町で売って生計を立て
ている孫助である。今朝は十枚の笊を持ってきたが、全部売りさばいてほくほく顔で戻りしな‥‥

猫爺のミリ・フィクション「幽霊粒子」2014.02.27
質量ゼロである素粒子が、質量を持つ矛盾を解き明かすために、ヒッグス博士がそれまでに発見・分類された
16の素粒子の他に、もう一つそれらの素粒子に質量をもたせる素粒子がある筈だと仮説を立てた。

猫爺のミリ・フィクション「心霊写真」2014.02.28
彼は心霊写真家である。 ただし、商売上、心霊写真家と名乗る訳にいかないらしく、彼の名刺には「写真家」と印刷してある。
猫爺のミリ・フィクション「ミミズの予言」2014.06.16
真冬の河川敷に張られたテントに、初老の親父がカップ酒とカップヤキソバを持って帰って来た。
「うーっ、寒い、寒い」 なにはともあれ石油ストーブに火を入れ、水の入った薬缶を乗せた。

猫爺のミリ・フィクション「謙太の神様」2014.06.17
一人っ子の謙太は5才のお婆ちゃんっ子。 二階のお婆ちゃんの部屋に入り浸っては、本を読んでもらったり、字を教えてもらったり、時には、お婆ちゃんが祀る神棚に「なむあみだぶつ」と手を合わせたりしている。
猫爺のミリ・フィクション「汚名返上」2014.07.20
山から兎が下りてきて、亀の棲む池のほとりに立った。
「もしもし、亀さん」

猫爺のミリ・フィクション「義理堅い蛸」2014.07.22
茂九兵衛は、神戸(こうべ)は須磨の松原に掘っ立て小屋を建てて住む独身の猟師。働き者で今朝も暗いうちから漁に出かけてきた。 「今日は不漁や、雑魚ばかりしか網にかかっておらん」
猫爺のミリ・フィクション「不時着」2014.09.12
田野慶進(けいしん)は米農家である。早朝、この家へ近所の土肥暁良(あきら)が息を切らして飛び込んできた。 「大変だ、田野の田圃が大変な事になっている」
猫爺のミリ・フィクション「お化け屋敷でアルバイト」2015.03.09
村の共同墓地を見守っている墓守の達三、今朝は少し早く目が覚めた。今は盆なので入念に墓地の見回りをして、後は檀那寺へ畑で採れた野菜を届けるつもりである。
猫爺のミリ・フィクション「成仏」2015.03.10
えーっ、これから千畳谷へ下りて行きなさるのか? 悪いことは言わない、およしなさい」  峠の茶屋の婆さんが、顔の前で掌を振りながらいった。 
猫爺のミリ・フィクション「感情を持つロボット」2015.03.12
大学の若きロボット博士が死んだ。彼はまだ大学院生であったが、同輩や後輩たちは「土橋さん」と名を呼ばず、尊敬と親しみを込めて、この天才大学院生を「ロボ博士」と呼んでいた。
猫爺のミリ・フィクション「美的感覚」2015.03.14
身長165センチだった男が、三十六歳にもなっているのに短い期間に185センチと、ぐんと伸びていた。 「桑田君、君身長が伸びたねぇ、何をやってそんなに伸びたのだ」
猫爺のミリ・フィクション「葬儀屋の宣伝企画」2015.03.15
会社帰りの若いサラリーマン二人が、立ち飲み屋のおでんをつつきながら、仕事の愚痴を溢し合って居た。
そろそろ酔がまわってきたのか、取り留めの無い話になってきた。 「柳瀬君、君は幽霊と親しいのだってね?」 

猫爺のミリ・フィクション「Youは何しに天国へ」2015.03.26
若い天使たちが集まって、テレビ番組の企画を練った。
「パクリのようだが、Youは何しに天国へ というのはどうだろう」

猫爺のミリ・フィクション「たま」2015.03.28
幽霊とお化けは別のものである。 幽霊とは人間の霊魂であり、人の目には見えない。「私は見た!」と主張する人が居るかも知れないが、それは実態を見たのではなく、幻覚、錯覚の類で心に感じたものである。
猫爺のミリ・フィクション「竹取の翁」2015.03.28
月の世界から迎えが来て、かぐや姫は帰っていった。竹取の翁(おきな)は、大きなため息をつきながら言った。 「姫はとうとう帰ってしまいましたなァ」
猫爺のミリ・フィクション「幽霊峠」2015.03.29
まだ明け遣らぬタクシー会社の待機室で、真っ青な顔の三人の男がヒソヒソ話し合っていた。  男Aの話・・・   隣の県まで客をのせて行った帰りに、髪の毛が長い女が手を上げた。
猫爺のミリ・フィクション「道祖神」2015.03.29
明治もまだ浅い時代に生まれた浅吉は、既に17才になっていた。彼は熱心に道祖神(どうそしん)を信仰しており、村の外れにある道祖神の塔に、ことある毎にお参りをしていた。
猫爺のミリ・フィクション「龍神川」2015.03.30
与助の倅小吉は、五才である。嫁の滋乃は、小吉を産んで所帯窶れするどころか、相変わらず美しかった。ある日、滋乃は昨年亡くなった父親の一周忌で、小吉を連れて実家に帰って行った。
猫爺のミリ・フィクション「死神と権爺」2015.03.31
昔々、信濃の国の山奥に桑畑村という小さな集落があった。その名のごとく、桑畑が一面に広がり養蚕で栄えた富裕な村であった。 その村の外れに、死神を祀(まつ)った小さな祠(ほこら)があり‥‥
猫爺のミリ・フィクション「金の斧」2015.03.31
ある男が息子をおんぶして、川に架かる丸木橋に差し掛かった。背中の子供が恐がって暴れたために子供を川の中に落としてしまった。男は為(な)す術もなく、ただ嘆き悲しんでいると、川の水面に龍神様が現れて男に尋ねた。
猫爺のミリ・フィクション「ランナウェイ」2015.04.01
ダイアナは、生後2ヶ月、胸の毛がふさふさとした雄猫である。知り合いの家から仔猫を貰って来た飼い主は、何を血迷ったのか女の子の名前を付けてしまった。
猫爺のミリ・フィクション「太郎と蓑吉」2015.04.02
漆間太郎(うるしまたろう)は、女房に命令されて里山で茸採りをしていると、何やら五人の子供たちが寄って騒いでいた。 「君たち、何をしているのだね」 「ミノムシを捉まえたので、蓑を開いて裸にしているのだ」
猫爺のミリ・フィクション「歌を忘れたカナリア」2015.04.02
昨日までは美しい声でさえずっていた籠の中のカナリアが、今朝は全く鳴かずにぎくしゃくしている。
ここは山の手の豪邸街、このお屋敷のお嬢様が心配そうに見守っている。見かねた家政婦の三田が声をかけた。

猫爺のミリ・フィクション「父は長柄の人柱」2015.04.14
これは大阪の淀川に橋を渡す工事にまつわる物語であるが、工事が思うように捗(はかど)らない。橋杭を打ち込んでも、すぐに流されてしまうのだ。近隣の村の長が集まって対策を相談した。
猫爺の掌編小説「わが娘を恋した幽霊」2015.04.24
江戸北町奉行所同心、榊枝織之助の娘沙織は、夢枕に立った少年の幽霊を見たと言う。その幽霊熊吉は、沙織にしか意思が通じないのだ。沙織に「母を助けて欲しい」と懇願する。
猫爺の掌編小説「魔窟の亡骸」2015.10.02
「お侍様、お待ちくだせぇ」  三人の百姓衆に声をかけられた、まだ十代であろう侍、
平手徹祥(ひらて てっしょう)は、武士とは言え生まれながらの浪人である。

猫爺の掌編小説「子鬼の阿羅斯」2015.10.06
天の岩窓から、節分の人間社会を覗いていた子鬼の阿羅斯(あらし)は呟いた。 
「なんだい、なんだい、鬼を追い出すなんて!」
 
猫爺の掌編小説「リセット」2015.10.06
「人間とは何か」という学術論文の著者である人類学者、通称タコゾウ先生こと海老倉硝三(しょうぞう)博士は、その論文の中でこう仮設を立てている。 「地球上の生物のなかで人間の脳だけが高度に進化したのは‥‥
猫爺の掌編小説「孤独死」2016.02.26
与助は夢を見ていた。若い頃の夢が、いつか見た絵巻のように次から次からと現れる。外は雪が深々と降りつもっているだろう。その冷たい隙間風が、与作が寝ている煎餅布団を突き抜けて、容赦なく五臓六腑を責めている。
猫爺のミリ・フィクション「ゴンドラの唄」2016.07.15
「人生は短いものなのよ、その艶々とした真紅の唇もやがては褪せて、熱き血潮も冷める老いがくるの」老婆は目を閉じ、自身が乙女であった時代を思い浮かべているようだった。