雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「汚名返上」

2014-07-20 | ミリ・フィクション
 山から兎が下りてきて、亀の棲む池のほとりに立った。
   「もしもし、亀さん」
   「何や、揚げおかきでも売りに来たのか?」
   「それ、何です」
   「いえ、スーパーで売っているそんな名前のおかきがありますねん」
   「もしもし、亀さんと言うのですか?」
   「教えてあげましょうか、あのおかきの袋に浦島太郎の絵が描いてあるけど、浦島太郎の物語にはそんなセリフはない」
   「そんなこと、どうでも良いのです」
 この兎の先祖、亀の先祖と駆けっこをして兎が敗れたので汚名返上のために再挑戦にきたのである。
   「そんな面倒くさいこと、嫌や」
   「そうは言わずに、もう一度挑戦させてください」
   「ほんなら、鼈(すっぽん)に頼みなはれ、兎と鼈やなんて、男性用の強壮ドリンクみたいやないか、夜行性で夜はピンピン」
   「私は、ピョンピョンです」
   「ちょっとの違いぐらい、負けとけ」
 兎は土下座をして亀に頼み込んだ。
   「お願いします、この通りです」
   「しゃあないなあ、どうするのや?」
   「向こうの山の麓まで、どちらが先に駆け着くか、駆けっこです」
   「ほんなら、やってやる、スタート位置まで行こう」

 よーい、どん(太鼓の音)で走者スタートする。兎リード、兎どんどん引き離し、あっと言う間にゴールに到達する。
   「どうせ亀が来るのは晩だろう、ゴールに達しているから抜かれることもない」
 兎は寝てしまう。一眠りして目が覚めたが、亀は未だ来ない。
   「ちっ、こんな遅い亀に、私の先祖は負けたのか」
 あきれて、兎は眠り込んでしまう。

 
 一方亀はと言うと、えっちら、おっちら、歩いていたが、「こんなことをしていては、干からびてしまう」と気付き池へ戻ってしまう。
   「面倒臭いし」


 二度寝した兎は、日暮れになって目が覚めた。周りを見ると、狼の子供達に囲まれ、自分を覗き込んでいる。

   「父ちゃん、この兎生きとる」
   「そうか、ほんなら食べなさい、落ちていた兎は、よう確かめて食べないと病気になるからな」