雑文の旅

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猫爺の連続小説「チビ三太、ふざけ旅」 第七回 髑髏占い

2014-06-08 | 長編小説
 三太と新平の二人連れが石部の宿場町を歩いていると、占い師が台を置いてその上に髑髏を一つ置いて客待ちをしていた。二人は興味津々で暫く立ち止まって見ていたが、道行く人は気にも留めずに素通りして行くばかりであった。
   「おっさん、辻占い言うたら、提灯の看板出して、夜に商売するのやないのか?」
   「ここらはなあ、物騒やさかい夜は出歩かれないのや」
   「おっさん、上方の人やなあ」
 三太は、ちょっとだけ親近感を覚えた。
   「そや、お前もか」
 三太は頷いた。
   「わいの運勢見てもろたら、なんぼ払うのや」
   「うむ、大人なら百文やが、子供料金で五十文にしとくわ」
   「高かい、五十文あったら、二人でうどん一杯ずつと、梅干のおにぎり一個ずつ食えるやないか」
 あほらしいから、見てもらうのを止めようかと思ったが、髑髏(どくろ)が気にかかる。
   「その髑髏、占いに使うのか?」
   「そや、髑髏占いや」
   「けったいな占いやなあ」
   「こら、何を言うか、この髑髏はなあ、あの有名な陰陽師安倍晴明(あべのせいめい)さまの髑髏じゃ」
   「ふーん、それにしたら、えらい小さいな」
   「安倍晴明さま、五歳の砌(みぎり)の髑髏じゃ」
   「ああそうか、それで小さいのか… と、言うと思っているのか」
   「なんか、不満か?」
   「五歳で死んで髑髏になった者が、何で大人に成って陰陽師になったのや」
   「さ、そこが陰陽師阿倍晴明さまの神秘なのじゃ」
 三太は首を傾げた。
   「どこが?」
   「阿倍晴明さまは、一年ごとに骸骨を脱ぎ捨てなされたのじゃ」
   「何や、逆ヤドカリ見たいやな」   
   「文句言わずに、五十文払って、その髑髏の上に手を翳(かざ)しなはれ」
 おっさんの占いが始まる。
   「お前は男やな」
   「そんなもん、見たらわかるやろ」
   「お前には、父と母が居る」
   「そんなもん、誰でもや」
   「お前には、兄弟がおるな」
   「わあ、当たった、定吉という兄ちゃんが居ました」
   「兄ちゃんは、亡くなってしまったな」
   「わあ、また当たった… と、言いたいとこやが、わいが 居ました と言うたからやろ」
   「占いに出ておるのじゃ」
   「ほんまかいな」
 そんなことを当ててもらっても仕方がない。この先、無事に江戸へ到着して、立派な商人になれるのかを三太は知りたいのだ。
   「ほんで、わいの運勢は?」
   「ある」
   「そら、あるけど」
   「立派な渡世人になる」
   「新門辰五郎みたいな侠客か?」
   「そやそや」
   「嘘つけ、外れとるわい」

 三太が払った五十文を持って、占い師は腹が減ったので、うどんを食いに行くと言う。三太と新平も付いて行くことにした。
   「あのなァ、おっさん、髑髏占いなんか止めとき、女が嫌がって近寄らへんわ」
   「そうか、どうしたらええ?」
   「恋と相性を客の顔を見て占う、なんてどうですか?」
   「おまはん子供の癖に、男と女のことがよく分かっているみたいやなあ」
   「へい、見た目は子供、魂はおとなです」
   「お前は化け物か?」
   「あほか、わいは人間の子供、三太や」
 
 試しにと、三太が客引きをしてくることになった。連れてくる間に、新三郎が情報を集めた。
   「この綺麗なお姉さんに、悩みがあるのやて、占ってあげてか」
 と、紹介しつつ、占い師に紙切れを渡した。

   なまえ、おその とし、十八さい すきなおとこ、さかなうりのたすけ とし、二十さい

 鷹之助に習った綺麗な字で書いてある。

   「黙って座れば、ぴたりと当たる、恋と相性占いである」
 おそのは、恐る恐る占い師の前に座った。
   「これ娘御、何も言わなくとも良い、そなたは恋をしておるであろう」
 女は恥ずかしげに頷(うなづ)いた。
   「男は、魚売りである、名は佐助…、いや違う、太助であろうが」
 女は、行き成り当てられたので驚いて声も出ない。
   「そなたの名前は、お園さんじゃな」
 これまた、驚きである。
   「さて、この先は、二人の将来を占うのじゃが、占い料は百文戴くが、何とされますかな?」
   「はい、お払いします、お続けください」
   「そうか、では占って進ぜよう」
   「太助は、親孝行で働き者のようじゃ」
   「はい、その通りで御座います」
   「太助も、美しくて気立ての良いそなたに、心を寄せておるぞ」
 三太につられて、多少の世辞が入った。女は有頂天である。
   「太助は純情な男なので、仕事を終えて帰る途中に、そなたから声をかけてあげなさい」
   「恥ずかしくて、出来ません」
   「何も、出会茶屋(今のラブホ)に誘いなさいとは言っていない、一言、お疲れ様と、それだけで良いのじゃ」
 女は、赤面した。
   「その後は、きっと太助から声がかかると思う、決して焦らずに、太助の心を離さないように、おりにつけ一言声を掛けてやりなさい、そうすれば自から道が開けて、そなたの念願が成就する」
   「ありがとうございました、仰せの通りにいたします」
 娘は、晴れやかな顔をして百文払い戻って行った。その後、娘と太助がどうなったかは、知る由も無い。
   「ご苦労、百文儲かったので、お前達に半分やろう」
   「うん」
 
 この調子で、三太は旅のことも忘れて、次々と客を案内してきた。金は儲かるが、占い師には心配事がある。三太と別れた後のことである。一人で客に対処する自信が無いのだ。評判だけが一人歩きをして、占いの実力は、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」になってしまうだろう。
   「なあ三太、この先わしと組んで、この商売をしながら上方へ行かへんか?」
   「わいは、江戸へ向っているのや、後はおっさんの腕次第やで」

 十人客引きをして、三太は五百文(二朱)貰った。今夜の二人の旅籠賃には十分であるが、石部の宿泊まりになってしまった。
   「わいら、いっこうに進んでないな」
 まあ、明日があるわいと、石部で旅籠を選んだ。

 
 明朝、旅籠を後にすると、なんとしても五里歩いて、水口の宿を通過して甲賀・土山まで行くぞと、三太は心に決めて旅立った。

 三太は今頃気付いたのだが、新三郎も新平もどちらも新の字が付く。時々声を出して「新さん」と呼びかけて新平を戸惑わせてしまう。ここはどうでも新三郎を新平に紹介しておかねばならないだろうと思った。
   「新平、お前幽霊って居るとおもうか?」
   「いるいる」
   「そうか、その幽霊がわいに憑いているのやが、それは信じるか」
   「信じる、だって親分は時々滅茶苦茶強くなる」
   「おとなの人は、わいみたいな者を神憑りと言うのや」
 新平は、気にも留めていないようである。 
   「だから何?」
   「うん、わいに憑いている神さんは、新三郎って言うのや」
   「へー、人間みたいな名前だ」
   「そうや、もとは人間や」
   「それで?」
   「わいが独りで旅に出られたのも、新さんのおかげや」
 新平は、同い年の三太が、あまりにもしっかりしているので、本当は大人かも知れないと思っていた矢先だ。
   「それで、親分は強いのか」
   「そやねん、そやから新さんを新平にも知って貰おうと思うのや」
   「知りたい、知りたい」
   「怖くないか?」
   「神さんでしょ、お化けじゃないのでしょ」
   「お化けちがう、わいの胸に手を当ててみ」
   「懐に手を入れて、直にか?」
   「そうや、あっ、こちょば、撫でたらあかん」

 新三郎の声が、新平に伝わった。
   「新平、あっしが新三郎でござんす」
 新平は驚いて、思わず手を引っ込めた。
   「ござんす、言うた」
   「そうや、新さんは生きていた時は、侠客やったのや」
   「侠客って、やくざでしょ」
   「そのへん、よく分からんけどな」
   「おいらが、新さんに話しかけるときはどうするの?」
   「普通に喋ったら、新さんに伝わるし、新さんが新平に憑いたときは、頭に思い浮かべるだけで通じる」
   「へー、面白い、新さん、おいらにも憑いてほしい」

 行く先に、旅の男が道端の岩に凭れてぐったりしていた。
   「おっちゃん、どうしたのや?」
   「水、水を飲ませてくれ…」
 新平の腰に、竹筒をぶら下げているが、飲んでしまって空だった。
   「わいが、どこかで貰ってくるわ」
 三太が竹筒を持って、駆け出していった。この時、新三郎は三太から新平に移っていた。


 三太は農家を見つけて、声をかけた。
   「すんまへん、どなたかおいでですか?」
 暫く呼んでいると、裏から腰が曲がった老婆がまわってきた。
   「そこで、旅人が倒れて水を欲しがっています」
   「おや、それで坊が水を貰いに来たのかい」  
   「はい、お願いします」
 老婆は井戸端へ行き、釣瓶で水を汲んでくれた。
   「竹筒一本じゃ、足りないかも知れんのう」
 老婆は、納戸から竹筒を取り出してきて、もう一本足してくれた。
   「おばさん、おおきに」
   「何が大きいのかい?」
   「上方ことばで、ありがとうってことや」

 戻ってみると、ぐったりしていた男は、完全に気を失っていた。
   「死んでしもうたのか?」
 新平が、なにやら憤慨していた。
   「こいつ、追剥ぎや」
 三太が居なくなると、男はいきなり新平を羽交い絞めにして、身包みを剥いで目ぼしいものを探したらしい。何も持っていないとわかると、新平を縛って岩の陰に隠し、三太の帰りを待って襲う積りらしかった。新平を縛ろうとしたところで、男は気を失った。
   「新さんがやっつけてくれた」
   「なんや、こいつ人に水を汲ませに行かせやがって」
 三太は、倒れている男に、小便を引っ掛けて、その場を立ち去った。

 三太と新平は、まだ石部の宿あたりでうろちょろしている。 

  第七回 髑髏占い(終) -次回に続く- (原稿用紙14枚)

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