雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺の連続小説「江戸の辰吉旅鴉」 第十九回 鷹塾の三吉先生

2015-05-30 | 長編小説
 一晩かけて三十石船は淀川を下り、大坂は淀屋橋に着いた。よく寝ていないのか、辰吉は眠い目をこすりながら下船した。
   「三太兄ぃ、元気にしているかなぁ」
   『二・三日前に別れたばかりじゃねぇか』辰吉の守護霊、新三郎である。
   「うん、まあな」
 町並みを少し外れた道を歩いていて、廃屋寸前のような荒屋に、板切れに「鷹塾」と書かれた看板を辰吉が見つけた。
   「新さん、あれ鷹塾と書かれている、三太兄ぃが通っていた塾だろ」
   『場所は違うが、同じ名だな』
 しばらくこの場に留まって様子を窺っていると、四・五歳の子供が五人集まってきた。
   「先生、おはようございます」
 子供たちはそれぞれ元気な声で挨拶をすると、荒屋の中へ入っていった。
   「お早う、みんな揃っているか?」
   「はい、五人揃っています」
   「そうか、ほんなら長座卓を並べて待っていてや、先生食事の後片付けをするから」
   「はーい」

 辰吉は鷹塾を知らないが、鷹之助には一度会っている。
   「新さん、あの先生、鷹之助先生と違うか?」
   『違う、違う、鷹之助さんは上方言葉を使わない』
 その声は二十四・五歳というところか、三太よりも少し上のようである。子供たちはガヤガヤとお喋りをしながら長座卓を並べ、算盤を置いているのが窓から見える。
   「先生、誰か窓から覗いとる」
 先生と呼ばれた男が、血相を変えて表に飛び出してきた。
   「子供たちには関係おまへん、どうか子供たちを巻き添えにしないでください」
 そう叫んだ後、辰吉を見て人間違いと気付いたらしく、「すんまへん」と、頭を下げた。
   「いえいえ、こちらこそ覗いたりして、子供たちを怖がらせてしまいました、勘弁してください」
   「何かご用でしたか?」
   「あ、いやいや、ちょっと鷹塾という名に心当たりがありましたもので、つい覗いてしまいました」
   「鷹塾に心当たりといいますと、もしや佐貫鷹之助先生のお知り合いでおますか?」
   「やはり鷹之助先生と関わりがありましたか、じつはそうなのです、それに鷹塾の塾生でした三太さんや源太さんにも関わった者です」
   「えっ、源太ですか? 源太は私の弟です、三太さんは私と机を並べて勉強した塾生同士です」
   「ついこの間、源太さんにお会いしましたが、お元気でしたよ」
   「そうですか、そうですか、心配しておりましたので、何よりのお便りでございます」
   「それと、三太さんが大坂へ戻っているのはご存知でしたか?」
   「三太が大坂に戻っているのですか、知りませんでした」
   「立派になって帰っていますので、是非会ってやってください」
   「それはもう、今直ぐにでも飛んで行きとうございます」
 三吉は、佐貫鷹之助の弟子源太の兄である。鷹之助が信濃へ戻ったあと、小さい子供たちを集めて鷹塾を継いだが、鷹塾があった古屋は取り壊されて廃塾になった。三吉は鷹之助の意志を継ぐべく古屋を探しては何度も鷹塾を開いたが、古屋はすぐに追い出され、地廻りに僅かな収入の殆どを取り上げられ、三吉一人食っていけるのがやっとであった。
   「それで俺を地回りと間違えたのですね」
   「そうです、子供たちを怖がらせてはならないという一心で、慌ててしまいました」
   「三吉さん、俺と三太兄ぃが鷹塾の後押しをしましょう、もう決して地回りに勝手なことをさせませんから安心なさい」
   「ほんとうですか、有難う御座います」

 塾は午前中で終わると言うので、辰吉は子供たちの後ろで待つことにした。子供たちは辰吉が気になるのか、勉強途中にチラチラ後ろを見ていた。この後、子供たちを送って行くと、辰吉のおごりで外食をし、三太の奉公する相模屋長兵衛のお店(たな)へ会いに行った。
   「番頭さん、お客さんだす」
 三太さんに会いたいと言うと、小僧が取り継いでくれた。三太はこのお店の番頭らしい。
   「おや、辰吉坊ちゃん、帰ってきはりましたか」
   「はい、江戸の辰吉、ただ今戻りました」
   「何が江戸の辰吉や、もう旅鴉やあらへん、福島屋辰吉と名乗りなはれ」
   「福島屋辰吉、恥ずかしながらただ今帰って参りました」
   「余計なことは言わんでもよろしい、何が恥ずかしながらやねん」
   「へい」
   「それで、亥之吉旦那に会ってきはりましたのやろな」
   「いえ、まだ」
   「何をしていますのや、真っ先にお父っぁんに顔を見せなはらんか」
   「それが…敷居が高くて」
   「旦那さんも、お絹女将さんも、心配して待っていなはるのに、何が敷居や」
 ようやく、三太は辰吉に連れが居ることに気が付いた。
   「そのお方は?」
 ちょっと三吉を見た三太は、直ぐに気が付いたようであった。
   「三吉先生やおまへんか、やっぱり三吉さんや」
 三吉は頷き、三太は懐かしそうに三吉の手を取った。
   「すっかり大人になりはったが、面影は残っています、やっぱり兄弟ですねぇ、源太さんにそっくりですわ」
 三太は、大坂に帰ってきたとき、真っ先に鷹塾の有った場所に行ってみたそうである。建物は壊されて、土地は草が生え茂り、鷹塾は跡形もなく消えていた。鷹之助の奥方、お鶴の実家に行って塾生であった子供たちのその後の消息を尋ねたが、分からないということであった。
 鷹之助の元で学ぶ源太の元気な消息を伝えようと源太の実家を訪ねてみたが、荒れ果てて人の住む様子はなかった。
   「三吉さん、今ご両親はどこにお住まいですか?」
   「両親は亡くなりました、源太の他にもう一人弟が居ますが、大工の棟梁の元で修業しております」
   「そうでしたか、源太さんに会いましたが、ご両親が亡くなったとは一言も言っておりませんでした…」
   「親父の遺言で、源太には知らせるなと固く止められていましたので…」
   「修業の邪魔になるからでしょうか」
   「そうだと思います」
   「三吉さん、あなたはどうしてここに?」
 三吉は、当時鷹之助の助手をしていたが、鷹之助が信濃へ帰ったあと、意志を受け継いで、鷹塾を再開したこと、借りていた古屋を次々と追われたこと、地廻りに金を巻き上げられていることなどを三吉に代わり辰吉が代弁した。
   「知っていれば、わいがなんとかしたものを…」
 三太は悔しがった。
   「三吉先生、わいが知ったからには、悪いようにはしまへん、鷹之助先生の鷹塾よりも、もっと立派な鷹塾にして、三吉先生に活躍してもらいます」
 そして、源太の帰りを待って、立派な鷹塾に先生として迎えましょうと、再び三吉の手を握りしめた。
   「三太兄ぃ、一人で何を意気がっているのです、辰吉も居るのですぜ」
   「あかん、辰吉坊ちゃんは、鷹之助先生の塾生ではおまへん、余所者や」
   「何だいそれは、俺にはもと鷹之助先生の守護霊だった新さんが憑いているのですよ」
   「あ、ほんまや、余所者と違うわ」

 三吉は泣いていた。余程悔しいことや、辛いことがあったのだろう。あのチビ三太が、こんなにも逞しくなって、ふと知り合った辰吉と共に自分の肩を押してやろうと言う。弟の元気な消息を知ると共に、急に目の前が開けたような感動が涙になって溢れたのであった。

 その夜、地回りが脅しに来るというので、辰吉が鷹塾に泊まることになった。親父の亥之吉に会うのは後回しになった訳だ。

 三吉と共に夕餉を平らげ、話をしながら地回りが来るのを待った。
   「三吉さん、今度暇が出来たら、俺と一緒に旅に出ないか?」
   「もしや、源太に会いにいくのですか?」
   「うん、源太もいい大人だ、何時までもご両親のことを伝えないのはよくないよ」
   「そうでしょうか」
   「兄貴の元気な顔を見せてやろうじゃないか」
   「そう出来ればうれしおますのやが」
   「塾生が気がかりかい?」
   「はい」
   「ちゃんと訳を話せば分かってくれると思うよ」
   「辰吉さんは、何時でも旅に出られるのですか?」
   「三太の兄ぃが、親父との間を取り持ってくれるだろう」

 日も暮れかかった頃、三人の男が鷹塾に入ってきて、土足で上がり込んだ。
   「三吉、今日はショバ代を払って貰うで」
   「何や、ショバ代って」辰吉が問うた。
   「うちの縄張り内で商売したら、ショバ代を払うのが当たり前やろ、ところであんさん何者や、三吉の何や」
   「三吉さんの友達や」
   「そのお友達はんが、えらそうな口を叩くやないか」
   「商売言うたかて、十文、二十文という僅かな月並銭で勉強を教えているのや、何がショバ代や、奉行所に訴えて、取り締まって貰いましょか」
   「あほ抜かせ、わいらの後ろには同心が付いているのや」
   「同心が何や、わいにはお奉行が付いているのやで」
   「ハッタリもええかげんにさらせ」
   「その同心の名前を聞こうやないか」
   「そんなもん、言えるかい」
   「名前も言えん同心に、何ができるのや」
   「こいつ、ガキの癖に生意気な口を叩きよって、わい等の恐さを思い知らせてやる」
 懐から匕首を取り出して脅して見せた。
   「そんなもので脅されて黙るわいやないで」
 怒ると上方弁が出る辰吉、六尺棒を振り上げた。
   「さあ、束になってかかってきやがれ、束言うたかて、たった三本の一束やなぁ」
 辰吉は勇ましいセリフを吐いた割には、敵に背中を見せて外へ飛び出して行った。男たちは、すぐさま辰吉を追って飛び出してきた。
   「口が利けないようにしてやる」
 地回りの一人が、匕首の鞘を拔きはらって一歩辰吉に接近した。辰吉が一歩下がると、ここぞとばかり匕首を左右に振りながら、さらに接近してきた。
 辰吉は更に下がったが、さがりざまに棒を振り下ろした。「がっ」と乾いた音がして、男は右腕を抱えて悲鳴をあげた。
   「こいつ、やりやがったな」
 二人目が突っ込んで来たのを、体を交わすと男はつんのめった。その背中を「ぼこん」と棒で打つと、そのまま頭から倒れた。
 三人目は、辰吉に背を向けて逃げた。その背中に、辰吉が投げた棒の先が命中して、男は足がもつれ、二・三歩泳いで上体から前に倒れた。
   「おい、お前、腕の骨にヒビが入ったと思うぜ、早く医者に駆け込め」
 最初に飛び込んできた男に言った。その男は慌てて逃げ去ったが、他の二人は遠巻きに辰吉を睨み、「憶えとけよ」と捨てゼリフを残して立ち去った。その夜は鷹塾に泊まり、仕返しに来るかと待ったが、来なかった。

 翌日、塾は開かれ、無事に終えた。午後、辰吉は三吉と共に、昨夜有ったことを報告する為に三太に会いに行った。
   「坊っちゃん、あんさんはやくざと違いまっせ、何てことをしましたのや」
 三太は笑っていたが、これから堅気の商人になる若旦那が、地廻りと喧嘩して相手を傷つけるとは、なんたる軽はずみなことをしたのだと、辰吉を咎めていた。
   「さあ、わいが付いて行きますさかい、旦那様のところへ行きましょ」
 
 辰吉の父親、亥之吉は福島屋本店に留まっていた。取り敢えず空き店舗を見つけて、商売を始めようと東奔西走している最中であった。
   「辰吉、お帰り」
 亥之吉は、何事も無かったように辰吉を迎えてくれた。辰吉が地回りと喧嘩をして、相手を傷つけたと三太が話したが、亥之吉は意に反して辰吉を叱ることもなく、ただ笑っていた。
   「そうか、あんな屑野郎たちと喧嘩したのか、心配せんでもええ、わいがちゃんと話を付けてやる」
   「三吉も何も恐れることはないのやで、安心して塾が開けるようにしてやるさかいにな」
 辰吉は、この親父をとてつもなく大きく感じた。三太もまた、「このスケベ親父、頼もしいな」と、我師匠を誇らしく思った。


  「第十九回 鷹塾の三吉先生」  -続く-  (原稿用紙16枚)

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猫爺の連続小説「江戸の辰吉旅鴉」 第十八回 浪速へ帰ろう

2015-05-28 | 長編小説
 木曽街道上り(京に向かう)道、才太郎の心配もなくなり足取り軽く歩いている辰吉に、守護霊の新三郎が声をかけた。声をかけたといっても幽霊のこと、辰吉の心に伝えるだけである。
   『すまねぇ、隠していたわけではないのだが…』
   「ん? 新さんどうした」
   『辰吉の罪が晴れていることを初めから知っていて言わなかった』
   「知っているよ」
   『三太郎先生に聞いたのだったな』
   「そうだよ」
   『あっしは初めから知っていた』 
   「言わなかったのは何か訳があったのだろう」
   『可愛い子には旅をさせろ…と思った』
   「ははは、俺は可愛いからな、仕方がないよ」
   『そんな意味ではないけれど』
   「いいよ、いいよ、それよりここで旅を終えてしまったら、関の弥太八さん捜しができねぇな」
   『案外、関へ戻っているかも知れない』
   「うん、戻っていなくても、何か手掛かりがあるかも知れない」
   『例えば?』
   「親しいダチ公に、何か漏らして旅に出たとか」
   『そうだな、旅を終える前に、伊勢の国へ行ってみるか』
   「それがいい、それがいい」
   『お前は、学芸会のその他村人達か』
   「この時代に、学芸会なんてねぇよ」

 暫く歩くと、今まで無風だったのに、突然一陣の向かい風が吹いた。草津方面から歩いてきた旅人が、紐を結んでいなかった所為か、三度笠が風で飛ばされ辰吉の足元で止まった。辰吉が拾い上げて走ってきた旅人に渡してやると、旅人は親しげに話しかけてきた。
   「兄さん、ありがとよ いきなりの風だから驚いてしまいやしたぜ」
   「ほんとうですね、目に砂でも入るといけない、ここらでひと休みして行きます」
   「あっしも、そうします」
 二人は道の端に腰を下ろし、話をしていて気が付いたが、男の右耳の下に豆粒ほどの黒痣があった。
   「新さん、この人耳の下に痣があります」
   『辰吉、お前目が悪いのか、あれは蝿ですぜ』
   「あっ、ほんとうだ、飛んでいった」
   『それに弥太八さんの痣は、左耳の下です』
   「あっ、そうだった」
 辰吉、赤い舌をペロリと出した。

   「新さん、ここらで一稼ぎしていきませんか」
   『いかさまですかい』
   「いきなり言われると、心臓が止まるかと思いましたよ」
   『嘘をつけ、端からその積りだろうが』
   「へい」
   『友吉が京極一家預けられていたら、幾らか置いて行きたいのだな』
   「さいです」
   『よしよし、素直でよろしい』
 無茶稼ぎをすると目立つといけないと言うので、あちらで五両、こちらで七両と、セコ稼ぎを重ねた。しかし、それが寧ろ目立ったようであった。

   「遊ばせて貰いますぜ」
   「あっ、お前さんは江戸の辰吉どん、済まねぇが、十両差し上げますので、他の賭場へ行っておくんなせぃ」

   「遊ばせて貰いますぜ」
   「あ、江戸の辰吉、今夜は親分の気が優れないので、お休みにしようかと…」
   「準備が整っているじゃねぇか」
   「いえ、今から撤収しようかと言っていたところで…」

   「遊ばせて貰いますぜ」
   「江戸の辰吉どんが賭場に居ると、客がしらけて帰ってしまうので、この十両でご勘弁を…」

 みたいな、おかしなふうに顔が売れてしまったりして、労せず手に入れた二百両を懐に、辰吉は悠々と伊勢国に入った。

   「何だ、何だ、みんな俺のことを疫病神のように嫌いやがって」
 辰吉、そう言いながらもニヤニヤ、こんなことでは浪速へ行って商いに身が入るのだろうかと心配する新三郎だったが、嫌われ過ぎてもうひとつ心配ごとが増えてしまった。殺し屋に付け狙われだしたのだ。

   『こんなヤツにウロウロされたのじゃ、賭場の信用に障ると思ったのだろう』
   「へん、ケチな貸元が居たものだ」
   『そのケチな貸元は、一人や二人じゃないらしい、恐ろしく腕の立つ浪人者を集めやがったぜ』
   「残らずやっつけてやるぜ」
   『相手は凄腕の浪人が六人だ、六尺棒では太刀打ちできねぇ』
   「何てことはない、サビ刀の二本や三本」
   『浪人とは言え相手は侍、大小入れて合計十二本だ』
   「げっ」
   『作戦を練ってかかろうぜ』
   「こうやってか?」
   『バカ、棒に付いた水飴を練るのじゃねぇ』
   「はい」
   『ここで殺されて、利根川に捨てられるかも知れねぇのだぞ、真面目に考えろ』
   「すまねぇ」
 新三郎が考えたのはいつもの手で、ヤツ等が辰吉に追いつくまでに、一人の浪人に新三郎が乗り移り、裏切り者になる。一人か二人を新三郎がやっつけて、新三郎が憑いた男が斬られそうになったら別の男に移り代える。だが、新三郎を無視して辰吉に襲いかかるものが必ずいる。それは辰吉が身を護らねばならない。
   「わかった、自分の身は自分で護る」
   『侮ってはいかん、利根川の水は冷たいぞ』
   「死んでいるのに…?」
   『それ、近付いて来たぞ、拔かるなよ』
   「へい」

 浪人達がバラバラっと走り寄ってきた。辰吉が六尺棒を構えて立っていると、浪人たちが一斉に手を振った。

   「江戸の辰吉さん、待ってくれー」
   「ん?」
   「辰吉さんの弟子にしてくれ」
   「何の?」
   「博打ですよ、辰吉さんみたいに強くなれたら、食いはぐれがない」
   「ズテッ」辰吉、転けた。

 これは我が家に伝わる門外不出、一子相伝の秘密だからと丁重に断り、三両を酒代だと与えてなんとか引き上げて貰った。
   「新さん、いい加減なのだから…」
   『すまん』

 伊勢の国は関に着いた。聞いていた関の小万が住む家を訪ねてみると、小万が独りでひっそりと暮らしていた。
   「それで、弥太八の消息でもわかったのかい?」
   「わかんねぇ」
   「そうだろうねぇ、弥太八は寒いのが苦手だったから、安芸か長門へでも行ってしまったのだろう」
   「そうか、寒いのが苦手か」
   「それに、賑やかなところが好きでねぇ、今頃は色街の用心棒でもして、女たちにチヤホヤされて鼻の下を伸ばしているだろうよ」
   「賑やかなところが好きで、色街の用心棒…と」
   「辰吉さん、何を書いていなさるの?」
   「いや、弥太八を探す手掛かりにしようと… それで弥太八さん腕は立つのかい?」
   「口ばかりで、喧嘩になれば一番後ろに隠れているようなヤツだ」
   「ふーん、そうかい、それじゃあ、あまり遠くには行ってねぇと思うよ」
   「どうしてだい?」
   「案外寂しがり屋で、小万さんのことを恋しく思っているだろう」
   「そうだと、嬉しいねぇ」
 小万は、弥太八の姿を思い浮かべているようだった。
   「辰吉さん、今夜はここへ泊まっていくかぇ」
   「いいのかい?」
   「弥太八がいつ帰ってきてもいいように、寝間着も布団も用意してあるのだよ」
 辰吉は考えた。「弥太八の代理なんて、まっぴら御免だ」と。
   「やっぱり止めとくよ、弥太八さんに悪いや」
   「バカだねぇ、何も弥太八の代理をしてくれと言うのではないよ」
   「それなら… 余計止めとく」
 辰吉は、懐から小判を出し、二十両を小万に渡した。
   「金には困っていねぇようだけど、弥太八さんが帰ってきたときに着る着物でも買いなよ」
   「おや、そんなにくれるのかい」
   「うん、そこらの賭場で儲けた泡銭だけどね」
   「辰吉さん、いかさまでもやったのかい」
   「まあね」
   「いい加減にしておかないと、殺されて利根川に浮かぶよ」
   「なんか、聞いたことがあるようなセリフだ」
   「冗談で言っているのではないよ」
   「うん、わかっている」
   「可愛いねぇ、その うん って言うの」
   「そうかい」
   「これから何処へ行くのだね」
   「浪速だ、大坂(今の大阪)の親父の店に戻ろうかと思っている」
   「辰吉さん、長男だろ、そのうち大店の旦那様だね」
   「それが、親父は若くてねぇ、なかなかくたばりそうもないのだ」
   「お前さん、罰があたるよ、若くて元気なら有難いことじゃないか」
   「まあな」
 
 大坂で弥太八を見つけたら、縄で引っ張ってでも連れて帰ってやると小万と約束を交わし、辰吉は大坂への帰路の旅に就いた。
 
 
   「あ、江戸の辰吉だ、味を占めて又来やがった、とっちめてやろうぜ」
   「よせよせ、ヤツは妖術を使うと言うじゃないか、気が付かない振りをしていよう」
   「何が妖術だ、どうせインチキに決っている、構わぬからやっちまえ」

   「おい、江戸の辰吉、よくもこの辺の賭場を荒らしてくれたな」
   「止めろと言うのに、辰吉を怒らせたら命がねぇぜ」
 連れの男が必死に止めている。
「荒らしちゃぁいねえ、そっち等が賭場に寄せ付けなかったのじゃねぇか」
辰吉は笑っている。
   「辰吉が笑っている間に、止めようや」
   「ふん、何が妖術だ、ただの手妻(手品)にちげぇねぇ」
 辰吉が真顔になった。
   「あ、やべえ、逃げようぜ」 
血気に逸る男の袖を引っ張ってビビっている連れの男を振り解き、辰吉の前で胡座をかいた。
  「さあ、妖術でも算術でもかけるものならかけてみやがれ」
辰吉は平然としていたが、守護霊の新三郎が頭に来たようだ。男はヒョロッと立ち上がり、近くの一本松の根っこまで来て崩れた。
  「安心しな、殺してはいねぇ」
辰吉は大きく笑った。連れのビビっている男に聞かせるためだ。


 京極一家に立ち寄った。顔見知りの若い衆が人懐っこい笑顔で迎えた。
   「おっ、辰吉また来たな」
   「うん、三太兄ぃが立ち寄っただろ」
   「へえ、確かに」
   「寛吉という若い男を連れていただろ」
   「寛吉なら、奥に居まっせ」
   「あ、やはりここへ預けていったか」
   「それが何か?」
   「そうだろうと思って、金を稼いで持ってきた」
   「稼いだ? いかさま博打でもやったのか」
   「賭場の客にいかさまは出来ないだろ」
   「そらまぁそうやな」
   「二百両稼いだが、二十三両使ってしまった、これを置いて行くわ」
   「辰吉さん、他人に頼まれて殺しをやったのではないのか?」
   「俺に人が殺せねぇ」
   「そうやなぁ」
   「では、俺はこれで失礼します、貸元さんによろしく」
   「何や、そんな直ぐに出ていかないでも、今夜は泊まっていかんかいな」
   「泊まっているときに、出入りでもあったらいけないので、このまま伏見まで行って三十石船で夜を明かします」
   「さよか、ほんなら船が出るまで時間がたっぷりおます、お茶なと飲んで行っておくれやす、その間に船上で食べる弁当をわいが作ってやります」

 その夜、辰吉は三十石船の甲板で、京極一家の若い衆が作ってくれた弁当を食いながら、親父のところへどんな面を下げて帰ろうかと考えていた。
   「新さんと、もっと旅を続けたいなぁ」
   『辰吉は跡継ぎだよ、そろそろ腰を落ち着けて、商人修行をしないといけねぇよ』
   「親父の跡は、弟の己之吉に継がせたらいい、あいつの方が向いているよ」
   『それで長男は嫁も貰わずに風来坊か』
   「風の向くまま西東、気の向くままに北南」
   『病で熱を出しても、看病するものも居ない』
   「何もしないで賭場に顔を出せば金は入る」
   『騙し討に合えば、山犬かカラスの餌になり』
   「もう、新さん、嫌なことばかり言う」
   『本当の事だ』
   「止めた、止めた、明日親父のところへ帰ろう」
   『それがいい、それがいい』
   「学芸会のその他大勢か」

  「第十八回 浪速へ帰ろう」  -続く-  (原稿用紙17枚)

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猫爺のエッセイ「六甲山系のウグイス」

2015-05-27 | エッセイ
 私が住んでいるところは六甲山系の裏側、神戸市街側を瀬戸内海側とすれば、ここは日本海側にあたるところ。山を拓いた造成地なので、山からホトトギスやウグイスが飛んできて「里へ来たよ」と歌う。
 今も、すぐ近くの木でウグイスが盛んに鳴いている。ウグイスの鳴き声と言えば、だれでも思い浮かべるのは「ホーホケキョ」または谷渡り「ピピピピ…ケキョケキョケキョケキョ…」と鳴く縄張り宣言鳴き。
 だが、今鳴いているウグイスは、滅茶苦茶鳴きとでも言うか、文字で表せないような崩れた鳴き方である。
 強いて文字で表すと「プーププププ…ビーホペチョウ」でもないか。あんなのはとても文字で表せない。
 何昔か前から、六甲山系のウグイスは、鳴き方が下手だと言われていて、うろ覚えだが正しい鳴き方を録音して、スピーカーで聞かせたことがあったと記憶する。親から子が間違った鳴き方を憶え、それが何世代かして当たり前になってしまうのだと、つい現代の若者が使う言葉を思い浮かべてしまった。
 
 先ほど、YouTubeでウグイスの鳴き声を聞いてきた。やはり他所のウグイスも、私のところで聞かれる鳴き声ほどもないが崩れていた。その中で、本当に昔ながらの囀りを聞かせてくれた動画があった。
 このウグイスは、昔ながらの綺麗な鳴き声で、聞いていて感動さえ覚えた。

   「ウグイス元来の鳴き方」

 その点、ホトトギスは崩れていない。それは何故だろう。

猫爺の連続小説「江戸の辰吉旅鴉」 第十七回 越中屋鹿衛門

2015-05-24 | 長編小説
 辰吉は才太郎を背負って歩き始めたが、走り回り大げさな立ち回りをしたので疲れがでて来た。
   「新さん」
 守護霊の新三郎に何とかして貰おうと心の中で呼びかけてみた。
   「新さん、新さん」
 応えがない。
   「あれっ、新さん居ないのかい?」
 まさか、幽霊が居眠りをしている訳でもなかろう。辰吉に断らずどこかに出かけたようだ。出かけると言えば、逃げていった十一人のうちの一人に憑いて行ったのだろう。
   「辰吉さん、どうかされましたか?」
   「疲れてしまいました、少し休ませてください」
   「背中の才太郎さんが重いのでしょう、私が代わって背負いましょう」
 若い友吉でなく、初老の鹿衛門が言ってくれた。
   「大丈夫ですよ、歳はとっても若い者には負けません」
 折角の言葉なので、少しの間だけでも代わって貰うことにした。ところがどうして、若い辰吉よりも力があって、とうとう上田城下の緒方養生所まで背負って行ってくれた。

   「緒方三太郎先生はお出でになりますか?」
 奥から、三太郎の奥方が出てきた。
   「あ、これは辰吉さん、この前は卯之吉さんに会いに行くと言って出かけたままお帰りになりませんので、先生心配なさっていたのですよ」
   「すみません」
   「先生、ただ今新しい患者さんを診ていますので、ちょっとお待ちください」
 若先生の佐助が、四人を招き入れて足盥を用意し、部屋に案内して女中にお茶を入れさせた。

 やがて診察部屋から緒方三太郎先生が出てきて、才太郎の診察をしてくれた。
   「おや、橘右近先生に診てもらったのですか、それなら安心です、あの先生は名医ですからね」
 才太郎の折れた足首の晒を取り、両手で優しく包むようにして診ていたが、才太郎の顔を見てにっこりした。医者のにっこりは、患者にとって千両の値がするものだ。
   「辰吉さんの手当も良かったようです、これなら直ぐに骨は元通り、いや元よりも丈夫になりますよ」
 才太郎は嬉しそうに、辰吉と会ってから初めてにっこりと笑った。


 「お待たせしましたね」と、緒方三太郎は越中屋鹿衛門に微笑みかけて「お話を聞きましょう」と、話しかけた。鹿衛門は、辰吉に話したことを三太郎にも聞いて貰った。

   「そうでしたか、それは大変な事態ですね」と、言ったわりには、三太郎は平然としていた。
   「それでは、直ちに藩侯に会えるように手配しましょう」
 三太郎には、何やら公算があるらしい。
   「早速、城へ向かいましょう、ただ…」
 三太郎は申し訳なさそうに付け加えた。
   「このままノコノコ出掛けて行って、すぐに藩侯にお目通りが叶う筈がありません」
 三太郎は、お目通りを叶える策だとして、咎人を装って鹿衛門に縄を打って城中に入り、時を待って藩侯にお合わせすることにしようと提案した。
   「越中屋の信用を落す訳にはいかないので、顔を隠して参ろう」
 鹿衛門は、藩侯にお会いできるなら、と三太郎の提案に従うことにした。
   「鹿衛門さんを賊の牙からなんとしても護らねばならない、辰吉さんの腕も借りますよ」
   「へい、ガッテンです」

 才太郎と友吉は養生所に預けて出発しようとしたが、鹿衛門はどうしても友吉も連れて行くのだと言い張った。
   「わかった、そうしよう」
 三太郎が折れた。辰吉は三太郎の弟子という名目で、友吉は鹿衛門の身の回りの世話をする手代だとして、一緒に行くことにした。

 四人はまず奉行所へ行った。そこで鹿衛門と友吉に縄を打ち、奉行所の役人を五人伴って城へ向かった。大手門は避け、北裏がわの櫓門を開けて貰って入城した。城内に入ると、鹿衛門は縄を解かれたものの、取り敢えずとお牢に入れられた。どうしたことか、友吉は縄を解かれ、辰吉と共に部屋に案内された。そこで、友吉は息せき切ったように辰吉に事の次第を告げた。

   「三太郎先生、お殿様にはまだお会いすることが出来ませんか?」鹿衛門が焦れた。
   「今、ご家老と交渉中だ、どうした、もう待てないか?」
   「早く次第を告げて、ここから出して戴きとうございます」
   「もう、直ぐでしょう」

 その時、藩侯が入ってきたかと思われたが、違っていた。藩侯兼良の弟君、兼伸であった。
   「越中屋鹿衛門とやら、ご苦労であった」
   「ははぁ」牢の中で鹿衛門が畏まっている。
   「これ牢番、この者を牢から出してやれ」
   「ははぁ」牢番は柱に掛けてあった鍵を外し、お牢を開けようとした。
   「どうした、早くしないか」牢番は、懸命に鍵を開けようとしているが開かない。
   「申し訳ありません」
   「鍵を貸してみろ」
 兼伸は焦れて、牢番から鍵を取り上げた。三太郎は、その様子を垣間見ながら、見ないふりをしている。兼伸が鍵を開けようとしたが、やはり開かない。その時、兼伸は懐から布に包んだものを牢内にそっと入れた。それを見届け、それまで黙っていた三太郎が口を開いた。
   「兼伸さま、鍵が違うのです」
   「三太郎、お前は鍵の行方を知っているのか」
   「はい、知っております、わたくしの懐に入っております」
   「貴様、この儂を愚弄しているのか、早くその鍵を持って参れ」
 三太郎は、懐から鍵を出し、兼伸のもとへ持って行こうとして、再び鍵を懐に戻した。
   「その前に、何故にお牢を開けようとなさるのですか?」
   「決まっておるだろう、兄上の御前にコヤツを連れて行くためだ」
   「そうはさせません」
   「貴様、誰に向かってその口を叩いているのだ」
   「はい、藩侯の弟君、兼伸さまでございます」
 兼伸は顔を真赤にして怒った。
   「この無礼者メが、そこへ直れ、手打ちに致す」
 三太郎は落ち着き払って兼伸の前に進み出、跪いて言った。
   「それではお尋ね申します、お牢の中の男を、兼伸さまは誰だと思っておられる」
   「聞いておるわ、越中屋鹿衛門であろう」
   「わたくしは藩士であると共に、町医者です、米問屋の越中屋鹿衛門は、わたくしの患者で、よく存じております」
   「この男ではないのか?」
   「真っ赤な偽者で御座います」
   「では何故に城へ参ったのだ」
   「それは、兼伸さまがよくご存知でございましょう」
   「米の相場が跳ね上がり、庶民の暮らし向きを案じて訴えるためであろうが」
   「米の値段が高騰したのなら、庶民の中で養生所を営む医者が知らないわけがありません」
   「貴様、それを嘘だと申すのか」
   「はい、嘘も嘘、真っ赤な大嘘でございます」
   「では、この男が城に来た目的は何なのだ」
   「それをお答えするまえに、先ほど兼伸様がお牢に忍び込ませた布に包んだものは何だったのでしょうか」
   「そんなことはしていないわ」
 兼伸は立ち上がって、脇差しを抜いた。三太郎の眼前に見せつけるようにすると、両手で太刀を振り被った。
   「三太郎、死ぬがよい」
 兼伸は大刀を振り下ろしたが、その途中でポロリと太刀を落とした。
   「三太郎、儂に何をした」
   「いいえ、何もしておりません、こうしておとなしく大刀を受ける覚悟でおります」
   「そうか、よい覚悟だ」
 兼伸は、またも大刀を振り下ろしたが、やはり手から外れてポロリと落とした。兼伸は焦って何とか三太郎を討とうとするが、大刀を落としてしまう。兼伸は諦めて、三太郎を足蹴にしようとしたが、三太郎の掌で受け止められてしまった。

 その時、牢への廊下で声がした。
   「兼伸、悪足掻きはもう止しなさい」
 藩侯の兼良であった。
   「兄上、何故にこのような場所へお出でなされた」
   「余は、何も言うまい、言えばそなたの命を取らねばならない」
   「お答えください、何故に私は兄上に死を給わねばならないのですか?」
   「諄いぞ、兼伸」
 兼良は弟の兼伸に「立ち去れ」と命じた。実の兄としての温情なのだ。


 兼良は、兼伸に同情こそすれ、けっして叱りつけようとはしなかった。祖父を切腹に追い遣られ、母を出家させられた過去があるのだ。長く恨み続けた挙句の計画だったのであろう。

 その後、兼伸もまた出家させられ、越中屋鹿衛門を名乗った刺客は、打首となった。また、友吉は越中屋の手代であることは間違いなく、刺客の人質にされて利用されていたことが判明して、お構いなしとされた。

 三太郎は、過ぎし昔を思い出していた。父佐貫慶次郎とともに当時の上田藩主、松平兼重候をお護りして奮闘したこと、父上の懐に抱かれて、馬にのって旅をしたこと、また三太郎の懐には、ひよこのサスケを抱いていたことなどが、次々と走馬灯のように駆け巡っていた。

   「辰吉、そなたに伝えたいことがあります」
 三太郎は、辰吉を大坂へ帰したいと思っている。
   「何でしょうか?」
   「辰吉は、もう旅を続ける必要はないのだよ」
   「俺は、凶状持ちです」
   「凶状持ちとは、凶悪な犯罪で逃げている者のことで、辰吉は殺されようとしたのを防いだために起きた事故だから凶状持ちではないのだよ」
   「それでも、人を死に追い遣りました」
   「その罪は、とっくに許されているので、江戸でも大坂でも大手を振って歩けるのです」
   「そうだったのですか」
   「そうですよ、亥之吉さんは、江戸のお店を一番番頭に与えて、大坂へ戻りました、辰吉さんも大坂へ戻り、商いの勉強をなさい」
   「はい」
   「それから、チビ三太さんも、大坂にお店を構える準備をしているそうです」
   「わぁ、ほんとうですか、三太の兄ぃに会いたい」
   「三太さんも、辰吉さんに会いたがっています」
   「でも、まだ大坂へは行けません、才太郎のこともあるし、他にも頼まれごとがあるのです」
   「才太郎のことは、わたしに任せなさい、きっと悪いようにはしません、わたしも小さい時に捨てられて辛い思いをしていますので、きっと才太郎と気が合うでしょう」
   「わかりました、大坂へ行きます」
   「そうだったねぇ、辰吉さんは大坂へ帰るのではなくて、行くのでしたね」
   「はい」
   「では、その頼まれごとを果たしたら、大坂へ行きなさい、ご両親やご兄弟が辰吉さんのことを、首を長くして待っていますよ」
   「ははは、三太兄ぃがここに居たら、ろくろ首を思い出して震え上がっていますよ」
   「辰吉さんは知らないでしょうが、亥之吉さんもお化けが怖いのです」
   「俺よりも、三太兄ぃの方が親父の息子みたいですね」

 それから十日ばかり才太郎の元に居て、その間に卯之吉の店と、小諸の斗真を訪ね、三太郎養生所の皆と別れ、辰吉は守護霊新三郎と共に大坂へ向かった。


  「第十七回 越中屋鹿衛門」  -続く-  (原稿用紙15枚) 

   「第十八回 浪速へ帰ろう」へ

猫爺の連続小説「江戸の辰吉旅鴉」 第十六回 辰吉の妖術 

2015-05-23 | 長編小説
 辰吉と、才太郎を背負ったどこの誰か分かもらないおっさんは、鵜沼の宿に差し掛かった。辰吉が山を見て感慨に浸っている。
   「どうした辰吉、何を考え込んでいる」
 喋る声は、おっさん。言っているのは新三郎である。
   「うん、新さんはここで死んだのだろ」
   「忘れていたが、そうだ」
   「ちょっと寄って、花を手向けていきたい」
   「よせよせ、あっしはここに居るし、墓は江戸の経念寺にあるのだから」
   「でも、新さんの最期を思い、手を合わせたい」
   「あっしがここに居るのに?」
   「新さん、粋でいなせで、強かったのだろうなと」
   「あのね、死ぬ時というのは、哀れなものですぜ」
   「ばったり倒れて、コトンと死ぬ…」
   「いや、とどめを刺されないと、苦しんでのたうち回り、時間をかけて死んでいくのだ」
   「そうなの?」
   「そうだよ、さ、先を急ごう」
   「うん」

 好天続きで、木曽路の難所太田の渡しは快適に渡り、伏見の宿あたりで背中の才太郎を辰吉に引き継いだ。
   「もしもし、おじさん、こんなところで寝ていると風邪を引きますぜ」
 道の橋で倒れていたおっさんの意識が回復した。
   「えっ、わしはこんなところで寝ていましたか?」
   「はい、まだ日が落ちるには間がありますが、山犬にでも噛まれたらいけませんのでお起ししました」
   「ありがとう御座います、わし狐につまれたのか、行き先を通り越しております」
   「どこへ行かれるところでしたか?」
   「はい、鵜沼です」
   「この辺りは、悪い狐が出そうですね」
   「わし何にも悪いことをしていませんのに、ほんとうに悪い狐です」
   「どうぞ、お気をつけてお戻りください」
   「へい、有難う御座います」

戻って行くおっさんを見送って、辰吉は木曽路を急いだ。
   「新さん、あの人に悪いことをしましたね」
   『その分、辰吉が楽をしたのだから、あっしを責めるのは止してくだせぇよ』
   「新さんを責めてはいませんけど…」


 それから幾日か後、上田藩のご城下に着いた。とにかく才太郎の面倒を緒方三太郎先生にお願いして、その費用を稼がねばならない。

   「新さん、忘れていたが、又八は親分から預かった二百両をどうしただろう」
   『又八のことだ、正直に役人に届けたことでしょう』
   「そうだろうね」
   『惜しくなったのか?』
   「まあね」

 旅姿の商人らしい初老の男と、使用人らしい若い男の二人連れが、走って辰吉に追いついた。前へまわり辰吉の顔を見て拝むような仕草をすると、大慌てで笹藪の中に身を隠した。暫くして、三人の浪人風体の男が辰吉に近寄り横柄な態度で声を掛けてきた。
   「おい、今、男が二人逃げてきただろう」
   「へい、来ました、藪の中に隠れましたぜ」
   「そうか、この奥だな」
   「へい、そいつらは何をしたのです」
   「余計なことを訊くな」
  浪人たちが笹藪に踏み込もうとしたのを辰吉が遮った。辰吉は背中の才太郎をそっと下ろすと、笹薮に隠れた二人に声をかけた。
   「お二人さん、隠れていねぇで出てきなさい」
 「ガサッ」と音を立てて、初老の男が藪の中で立ち上がり、恨めしそうに辰吉を睨んだ。もう一人の若い男は、立ち上がることも出来ない程、恐怖に襲われているようであった。観念した商人風の男に促されて、漸く立ち上がったが、手足が震えて動けない。その顔は真っ青で、涙が溢れていた。

   「兄さん安心しな、この江戸の辰吉が、滅多なことでは手出しはさせねぇ」
 若い男は、辰吉のその言葉に気を取り戻したのか、辰吉の方へ一歩だけ踏み出した。
   「訳を言いなせぇ、どちらに非が有るのか分からねぇでは、俺はうっかり手出しができない」
 辰吉の言葉を聞いて、「しゃらくさい」と、三人は刀を抜いて辰吉に切っ先を向けた。
   「兄さん、何も言わねぇでも分かりやした、この浪人共が悪そうだ」
 辰吉は六尺棒を構えた。
   「話は後で訊くぜ、藪に戻って動かずに待っていなせぇ」
 商人と連れの若い男が隠れると、直ぐに浪人の一人が叫んだ。
   「おい、貴様気でも狂ったか、それとも目が見えなくなったのか」
 浪人の一人が、切っ先を仲間の浪人に向けたのだ。
   「止めろ、止めんか」
 だが、次の瞬間、一人の浪人が浪人の一人を刀の峰で倒していた。後の一人は、驚きながらも構わずに辰吉に斬りかかってきた。
   「おっと」
 辰吉はその切っ先を避けると、力任せに男の肩を叩いた。「ドスッ」と鈍い音がして、男の顔面は苦痛に歪んだ。
   「新さん、いざ勝負!」
   『遊んでいる暇はない、早くあっしを打ちのめさねぇか』
 仲間を討った浪人が笑いながら言った。
   「そんな、無防備でニタニタ笑っている男を、討てないよ」
   『そうか、ではこれではどうだ』
 男は、いきなり辰吉に斬りかかった。辰吉は、反射的に、敵を倒していた。

 辰吉が藪に向かって声をかけた。
   「お二人さん、もう大丈夫ですぜ、出てきなせぇ」
 ガサガサッと、笹を分ける音がして、若い男が初老の男に支えられてでて来た。
   「お前さん、若いのにだらしがねぇぜ、しっかりしなせぇ」辰吉は若い男に言った。
 若い男は、倒れている三人の浪人を見て、漸く安堵したのか、顔に血色を取り戻した。
   「こいつ等は皆、骨折しているようだから、もう後は追ってきません、安心して訳を聞かせて戴きやしょう」

 この二人は、信州上田の城下で米問屋をしている越中屋鹿衛門と、そのお店の手代、友吉と名乗った。昨年、天候不良が続いた影響だとして、信濃国一帯で米の値段が上がり続けた。米問屋の主が集まり「仕方がない」と、更に米の値段引き上げを申し合わせたのだが、天候不良で不作は嘘で、各問屋が備蓄米を隠し、故意に値段を引き上げているのであった。鹿衛門はこれに断固反対し、仕入れた米を安く売続けた。
 当然、問屋仲間の陰湿な妨害が続き、鹿衛門は意を決して、庶民に温情あると名高い上田藩主松平兼良に訴え出て調べて貰い、周りの藩主にも調査を促して欲しいと入牢覚悟で上田城に向かったのだが、問屋仲間の知るところとなり、刺客を差し向けられたのであった。

   「よく分かりました、俺も上田藩のご城下へ行くところです、無事に上田のお城までお護りしましょう」
 鹿衛門が、はじめて辰吉に心を許した。
   「有難う御座います」
 三人の浪人に追われている時は生きた心地がしなかった友吉が、嬉しそうである。歳を訊くと、辰吉よりも三つ年下で、忠義者だが気が弱い、未だ幼さの残る少年であった。
   「旅人さんは上田のご城下へ、どのようなご用で行かれるのですか?」
 友吉も、辰吉に話しかける余裕が出てきた。
   「うん、この才太郎を知り合いのお医者先生に預けるためだ」
   「足首の骨を折られたようですね」
   「そうなのだ、長い間痛い思いをさせたのに、痛いとも、辛いとも言わないのだ」
   「強いのですね」
 才太郎は、辰吉に気兼ねをしているのだ。「強い」と言われて、ますます「痛い」とは言えなくなった才太郎であった。
   「才太郎、随分遠回りをして悪かったが、もう少しの辛抱だ」
   「うん」
   「佐貫三太郎先生…、違った緒方三太郎先生だ、優しいぞ」
   「早く逢いたい」
 辰吉は才太郎のその言葉を聞いて、「辛い」のを我慢しているのがよく分かった。その時、鹿衛門が何かに気付いたようだ。
   「もしや、佐貫三太郎さんとは、佐貫慶次郎さまのご子息ではありませんか?」
   「おや、ご存知でしたか、その通りですよ」
   「上田藩の佐貫慶次郎さまと言えば、お殿様への忠義心の篤いことで、知らないものは居ません」
   「そうなのですか」
   「貴方様は、三太郎さまのお知り合いですか?」
   「俺の父が、三太郎先生の友達です」
   「三太郎さまも、お医者様ながらお父上の跡をしっかり引き継いで、剣と医で藩侯に忠義を尽くされておられるそうです」
   「佐貫さまのことをよくご存知なのですね」
   「そればかりか、あなたのお父様のお名前も存じているかも知れませんよ」
   「へー、親父も信州で有名なのですか?」
   「はい、多分ですが、池田の亥之吉さん、またの名を江戸の福島屋亥之吉さんではありませんか?」
   「わぁ、当たりです」
   「そうでしょう、その六尺棒が決め手です」
   「恥ずかしい、親父の棒は天秤棒なのです」
   「よく存じております、何が恥ずかしいことがあるものですか、実は私、以前に亥之吉さんに命を助けられたことがあるのです」
   「親父から、そのような話は聞いたことがありません」
   「奥床しいですね」
   「ははは、奥床しいと言うよりも、忘れっぽいのですよ」

 長閑に、そんな話をしながら上田に向かっていると、行く手から大勢の男達が走ってきた。賊は、一言も発せず辰吉たちを取り巻いた。どうやら鹿衛門の顔は知っているようで、命が狙いのようである。
   「何だ、何か用か」
 辰吉は百も承知ながら訊いた。賊は無言の儘で匕首を鹿衛門に向けた。
   「問答無用か、この方を米問屋越中屋の主人と知っての襲撃のようだな」
 言いつつ、族の人数を数えると十一人であった。これでは辰吉もおいそれと飛び込んでくるのを待ってはいられない。
   「俺は使いたくはないが、この人数では仕方がないので妖術を使う」
 辰吉は六尺棒を構えると同時に、賊の先導者とみられる男に目を付けた。その男を棒で指して叫んだ。
   「お前が先導者だな、くたばれ!」
 一瞬の間があって、男がバッタリ倒れた。残りの者は、「おぉ」と声を漏らし、たじろいだ。
   「次はお前だ」
 辰吉は、賊の中で一番の血気盛んそうな男を指した。間、髪を容れずにその男が倒れた。残りの者は、一歩後に下がり、辰吉が言った「妖術」の威力を恐れているようであった。辰吉は、一瞬の敵の隙を突いて攻撃に出た。
   「とりゃ」
 大袈裟な辰吉の掛け声と六尺棒の技で一人、また一人と男が倒れ、残り五人となったとき、最初に倒れた先導者と見られる男の気がついた。周りを見回して「キョトン」としている。

   「命は取らずにおいた、有り難く思え!」
 言うが早いか、残りの五人の内、辰吉は気の弱そうな男に向かって行った。辰吉の思惑通り、男は逃げた。辰吉がその男を執拗に追いかけると、追い掛けられ男は、とうとう悲鳴を上げて逃げ惑った。残りの者たちに恐怖心を植え付ける為だ。

 残りの四人は逃げて行き、立ち止まって振り向いている。鼬などの小動物が追い掛けられたとき、安全なところまで逃げると立ち止り、振り返って様子を伺う、あの動作だ。
ポコポコと、倒れていた男の気がつき始める。
   「今は、命までとろうとは言わない、だがまだ鹿衛門さんを襲うなら、二度と容赦はしない、帰って首謀者に伝えるがいい、鹿衛門さんは江戸の辰吉が護り通すと」
十一人もの男が、辰吉一人に追い払われて逃げていった。鹿衛門と友吉は、辰吉がとてつもなく頼もしいと思えた。

   「辰吉さん、妖術が使えるのですか」
   「嘘ですよ、相手は十一人、こちらは一人、ハッタリをかますのも戦術ですよ」
   「でも、手を使わずに敵を倒したではありませんか」
   「こちらの陽動作戦に陥りやすい人間が居るのです、俺の妖術という言葉を聞いただけで術にかかったような気になるのです」
   「へー、よくわからないが、すごいものですね」

 なんとか、誤魔化せたかなと思う辰吉であった。


  第十六回 辰吉の妖術   -続く-  (原稿用紙15枚)


   「第十七回 越中屋鹿衛門」へ

猫爺のエッセイ「イントロスコピー」

2015-05-19 | エッセイ
 あるテレビ番組で、「透視」を取り上げていた。過去、幾度と無く取り上げられたテーマである。
 テレビに登場したのは、人体の内蔵を透視する「女性透視者」で、何人かの対象人を透視させる実験をしていた。

 最初の一人は透視せずに「それよりもあの人のお腹…」と、スタッフの一人であるカメラマンを指さした。カメラマンがシャツを捲って見せると、虫垂炎の手術では無さそうな大きな手術痕があった。恐らく大腸に出来た憩室が化膿して、摘出したのではないかと思われた。この透視は大当たりと言いたいが、実験は対象者から逸れてスタッフに転じたのは、「作為あり」と取られても仕方がないのではないかと思った。

 二人目は、透視者の「探り」のような独り言?があり、ある部位にふれた時、対象者が今まで瞑っていた目を「ぱっ」と見開いた。
 問題の部位が当てられ、大当たりといいたいが、これは透視ではなく、対象者の反応を見逃さなかっただけで、この実験を見ていた誰もが言い当てたに違いない。

 三人目は、透視者の呟きが非透視対象者に聞こえないようにして実験をすると、透視者は「全く分からない」と答えた。

 四人目に、三人目と同じ条件で、妊婦が登場した。当然マタニティドレスではなかったが、ゆったりとした服を着ているので、私でさえも対象者を最初見た時に「妊婦ではないか」と思ったくらいである。
 透視者は、はじめ「わからない」といったが、思い直して「お腹が…」と、呟いた。もちろん対象者には透視者の呟きは聞こえないので反応はない。だが、透視者の周りには、番組を成功させたい一心のスタッフが何人か居るのだ。彼らが透視者の呟きで、何ら反応しなかっただろうか。または、普通の「女の勘(出産経験者の勘)」で、「妊婦」だと思いついたのではないか。透視者は「妊娠」を指摘した。

 実験に立ち会った「超常現象」の専門家? ふたりの結論は、透視をやや肯定した「曖昧結論」であった。

 これらの実験を「成功」だとするなら、単なる見世物で終わらずに、国費を投じても徹底的に研究し、透視者を育成すべきだと思う。「透視」は、八卦のように当たったり外れたりするものではない筈だ。

 将来、医療に「超能力透視」という分野ができて、MRIを必要性とせずに、超能力透視医が直接診断出来るようになるだろう。

 街を歩いていると、超能力透視医に声をかけられた。

   「もしもし、そこのあなた、まだ小さいが胃に癌が出来ていますよ」
   「えっ、本当ですか、それはたいへん、早速…」
   「そうですね、病院へ行かれた方がよろしいかと…」
   「いえ、癌保険に入るのです」

 (なお、これは私の番組感想であり、録画して徹底分析したものではありません。猫爺^^;)

猫爺のエッセイ「冥土の旅の一里塚」

2015-05-17 | エッセイ
 一休宗純の作とされている狂歌に、

   ◇正月や 冥土の旅の 一里塚 めでたきもあり めでたくもなし

 人生を、冥土(死後行き着くところ)への旅として、一里塚は街道一里ごとに立てられた塚を正月(誕生日)に例えている。東海道であれば、江戸日本橋で生まれ、京の三条大橋を冥土に例えている。
 
   ◇門松は 冥土の旅の 一里塚 馬籠もなく とまり屋もなし

 最初の狂歌と同じような意味で、この旅は止まることが出来ないと詠んでいる。

 この二つの狂歌を合わせたような

   ◇門松は 冥土の旅の 一里塚 めでたきもあり めでたくもなし
 これがよく知られている。(私は、門松は ではなく、門松や と憶えている)

 人は四十代にもなると、人生の半分を使い果たした気持ちになり、昔は正月、今は誕生日がくると「また一つ歳をとるのか」と、お祝いどころか「糞めでたくもない」と憂鬱になる。

 だが、ものは思いようで、「よくここまで、元気で凛として生きてくることが出来たものだ」と考えれば、このうえもなく「めでたい」ではないか。

 あるブログでお偉い方が、自分は「生かされている」と記述されていた。私はその言葉に、ペットを連想して些か違和感を憶えていたのだが、じっくり考えてみると納得できた。

 この宝石のような美しい地球で、水や緑や花や建物に囲まれて、家族や周りの人々に自分は生かされているのだと考えると、貧しくとも幸福感を憶えざるを得ない。

 私ほども歳をくうと、誕生日を祝うことなど考えなくなるが、「祝う」とは、デコレーションケーキに立てきれない程の蝋燭を立てなくとも、例え独りきりであろうと、ちょっと贅沢なお茶と茶菓で、「よくここまで生きて来たな」と、自分を労うだけでもいいのではなかろうか。
 私は一休和尚と違い、人生を「冥土の旅(冥土への旅)」とは考えていない。

   ◇誕生日 脈打つ五体 慰撫しいう 「よくぞここまで 持ち堪えし」と

 かっこつけたりして。

猫爺の連続小説「江戸の辰吉旅鴉」 第十五回 ちゃっかり三太

2015-05-15 | 長編小説
 三太、辰吉、又八の三人と、守護霊新三郎は、揃って彦根一家の戸口に立った。殴り込みに備えて準備万端、三太たちを待ち構えているのか、静まり返っている。うっかり戸を開けると、一斉に飛びかかる算段であろう。又八を戸口の横へ退避させ、三太と辰吉が戸の両脇に立ち、「トントン」と叩いてみた。返答が無い。引き違い戸を二人が呼吸合わせて「セーノ」で開くと、どうしたことだろう子分たちは目を回して倒れている。その一番奥に親分が呆然と立ち、その前で若い旅人風の男が長ドスを構えて親分を護っている。
   「来るな! 親分に近づくと斬る」
 見るからにヘナチョコ若造の癖に、度胸満々で威勢を張っている。
   「どうした」
 三太が若造に尋ねた。
   「わからん、突然仲間討ちが始まって、みんな倒れた」
 若造も何が何だか分からない様子である。だが、三太と辰吉には分かったらしい。
   「三太兄ぃ、これは…」
 三太は笑って頷いた。その辰吉が言った「三太」に、若造が反応した。
   「三太さん? もしや…」
   「わいを知っているのか?」
 三太の顔を繁々と見つめていた若造が驚きの声を上げた。
   「やっぱり、三太さんだ、江戸の三太さんだ」
   「江戸の?」
   「そう、京橋銀座、福島屋へ奉公に上がった三太さんだ」
   「わいは今浪速に戻っているが、その通りだ、だがお前さんに憶えがない」
   「三太さんに無くとも、おいらははっきり憶えています、それ、七里の渡しで…」
   「ん? 十何年も以前のことか?」
   「おいらは寛吉(かんきち)と言います」
 三太と同じか一つ二つ下であろうその若造が、目を輝かせている。
   「もしや、あの時の…」
   「そうです、海に落ちて溺れているところを三太さんに助けて貰った寛吉です」
   「へー、奇遇やなぁ、それでおっ母さんは元気なのか?」
   「三太さんに助けてもらった上に小判まで貰ったと、折につけ江戸の方に向かって手を合わせていましたが、一昨年に流行病で死にました」
   「そうか、亡くなられたのか」
   「その後は、ご覧の通りのやくざ渡世の渡り者です」
   「どうして、江戸へわいを訪ねては来てくれなかった」
   「三太さんは堅気の衆、こんな渡世の男がノコノコ顔を出せるものですか」
   「そんなことがあるものか、わいは大江戸一家や、京極一家ともお付き合いさせて貰っていますのや」
   「そうでしたか」
 三太と寛吉がそんな話をしていると、目を回していた子分達がモソモソ動きだした。気が付き始めたのだ。辰吉がその男達の頭を「ポコンポコン」と棒で叩いて回っている。
   「三太さん、不思議なことがあるのです」
   「どうした?」
   「子分たちみんなで殴りあっているのに、おいらには誰もかかってこないのです」
   「憶えていたらしいですね」
   「誰が?」
   「あっ、いやええのや」
 新三郎が憶えていて護ったのだ。
   「寛吉さん、この一家の子分ですかい?」
   「いえ、たまたま世話になった旅鴉でござんす」
   「一宿一飯の恩義で、命を張りなすったのか」
   「へぃ、意地と義理との世界に生きる者として…」
   「およしなさい、こんなケチな親分の為に命を張るなんて、賢い男のすることやない」
   「ケチなのですか?」
 辰吉が、ツツっと寛吉に近付いた。
   「そうよ、将来を言い交わした男が居る又八の姉さんを、自分の女にする為に罪のない子分の又八を嵌めて殺そうとしたのですぜ」
 気がついて頭を擦っている子分どもにも聞こえるように、辰吉は親分の魂胆を全部明かしやった。
   「可愛い子分を騙し討にするなんて」
   「そうだろ、コイツ等も、いつ殺されるかも知れねぇのだ」
 子分たちがざわついている。
   「又八が二百両盗んでトンズラしたって言うのも嘘だったのだ」
 子分たちも可怪しいと思っていたのだ。母親と姉が一家の近くに住んで居るというのに、盗みを働いて逃げ出せば親娘が責められるのは又八にも分かっていた筈だ。親思い、姉思いの又八がすることとは、どうしても考えられなかったのだ。
   「やはりな」
 子分たちに、ようやく納得がいけたようだ。子分たちは、二人出ていき、また三人出ていきして、誰も居なくなった。残された仁王立ちの親分がその場に崩れた。ようやく子分が去ったことに気が付いたのか、嗄れた声で呟いた。
   「何が起きたのだ」
 子分の誰かがタレ込んだのであろう、その日、親分は代官所の役人に縛られて連れていかれた。何の罪かは三太たちに分からないが、その後、親分は二度とこの家の敷居を跨ぐことはなかった。
   「又八、これからどうする?」
 辰吉が尋ねた。
   「へい、おふくろと姉を守って、百姓をします」
 
三太と辰吉は、又八の家まで送って行った。三太は又八の母親に用があるらしく、何やら話し込んでいるが、辰吉は才太郎を背負って又八に別れを告げ、三太と寛吉よりも先に家を出た。

   「わいは、お蔦さんと夫婦になると誓い合ったのや、浪速に店を構えて独り立ちしたら迎えに来ますよって、それまでしっかり護っていてくださいよ」三太は「なぁ」と、お蔦を見た。お蔦は恥ずかしそうに下を向いて頷いた。
 「旅先で持ち合わせがないのやが、これ支度金の一部や」
 三太は、裸のままの十両を母親に渡した。

 三太と寛吉も、又八と親娘に別れを告げると、辰吉の後を追った。
   「寛吉さんは、行く宛が有るのですか?」歩きながら三太が寛吉に尋ねた。
   「ありません、風の吹くまま気の向くまま、三太さんが居なくなって寂しいが、お江戸の方に向かってみようと思います」
   「ほんなら、わいの居る浪速へ来んかいな、わいが店を出したら、一番番頭にしてやります」
   「おいらが堅気のお店で番頭になるのですか?」
   「そうや、その気はありませんか?」
   「いけませんや、おいらは『いろは』のいの字を、どこから書くのかも知らない文盲です、番頭なんか勤まりませんや」
   「そんなものは習えばよろしい、何ならわいが手厳しく教えてあげます」
   「本当ですか、おいらがこの世界から脚を洗ったら、おっ母があの世で喜ぶだろうなぁ」
   「よっしゃ、それまで京極一家に預けておきましょう」
   「えっ、あの京極一家ですかい、光栄です」
   「光栄って、そのままずっと居座る積りと違うやろな」
   「居心地がよかったら、気が変わってそうなるかも知れません」
   「やっぱり、京極一家に預けるのは止めておきますわ」
   「あっ、変わりません、変わりません」

  三太は寛吉と話ながら歩いていて、「はっ」と気付いた。辰吉と才太郎が居ないのだ。
   「あれっ、どっちに行ったやろか?」
 どうやら、三太が又八の家で話し込んでいる間に、また北陸街道を北へ向かったらしい。
   「まぁいいか、新さんがしっかり護ってくれているのが分かったことだし」
 だが、肝心なことを一言も伝えていなかったことに気付いた。一つは、辰吉が役人に追われる身ではないこと、もう一つは父親の亥之吉が江戸のお店を一番番頭に譲り、辰吉の母親や兄弟ともども浪速に戻ったことだ。
   「迂闊だった、坊っちゃんは、何処を目指したのやろか」
 それさえも、聞くのを忘れていたのだ。
   「たしか、才太郎を浪速の診療所へ連れて行くとか言っていたような気がするが…」
 それならば、何の問題もない。浪速に向かう道のどこかで、待っているかも知れないと、三太は少し急ぎ足で辰吉を追い掛けようと思った。


 辰吉に出会わないまま、京極一家に着いた。京極一家の舎弟が、三太を見るなり少々腹立て気味にいった。
   「こら三太、うちは寄せ場やあらへんで」
   「どうかしましたか?」
   「どうもこうも無い、胡散臭いヤツを二人も送り込みよって」
   「あの、浪人者ですか?」
   「そうや、剣の腕はヘナチョコで度胸はないし、薪割りも飯炊きも出来ない、ただ威張るだけや」
   「えらいすんまへん、それでどうなりました」
   「どうもこうもあるかいな、賄いの金を十両盗んで、逃げてしまいよった」
   「わぁ、これはえらいことをした、親分カンカンに怒っているやろな」
   「金は三太に弁償してもらえと、親分怒っていなさるわ」
   「今、持ち合わせがないけど、必ず利子つけて返します」
   「そうか、ほんなら、親分のところへいって謝ってきなはれ」
   「先代の親分は、こころの広い優しいお方でしたね」
   「こら三太、今の親分は違うと言うのか」
   「いやいや滅相な、そうは言っていません」
   「ほんなら、それをそっくり親分に言うてみなはれ」
   「言えません」
 
 三太は畳に手をついて親分に謝ったが、信用を無くしてしまったようだ。
   「へぇ、ところでもう一つ頼み事がおます」
   「まだかいな、ほんまにうちは寄せ場やないのやで」
   「へぇ、分かっています」
   「それで頼み事とは何や」親分はジロリと寛吉を見た。
   「わいが独り立ちするまでの間、この寛吉の面倒を見てやってほしいのです」
   「ほら、舌の根が乾かないうちに、また寄せ場送りや」
   「この寛吉さんは、義理に厚く度胸のいい男です、わいがお店を持ったら、この寛吉さんを一番番頭として引取り、立派な商人にしてみせます」
 三太は、彦根一家の出来事で、一宿一飯の恩義に報いるために、必死で親分を護っていたことを話した。
   「わかった、引き受けてやる、そやけど寛吉の気が変わって商人なんか嫌や、京極一家で立派な侠客になると言い出したら、お前には返さへんで」
   「仕方がおまへん、そうなったら諦めます」
   「ほんまやな、よし、儂が立派な渡世人に育てて、背中に刺青も入れさせてやる」
   「あかんがな、寛吉さん、彫り物なんかしたらあきまへんで」
   「へい」
   「若い時に弁天さんの刺青を入れても、寛吉さんが歳をとったら、弁天さんが砂かけ婆ぁになってしまいますのやで」
   「こら三太、儂の背中に弁天の彫り物があるのを知って言うとるのやろ」
   「知りまへん、知りまへん」
   「嘘をつけ、ほんなら今晩親分子分の杯を交わそうかな、寛吉」
   「へい、有難うござんす」寛吉、頭を下げる。
   「あかんがな」

 三太は、もとの奉公先相模屋に戻って、独り立ちの構想を練るつもりだが、どうやら相模屋長兵衛から暖簾分けをして貰い、福島屋亥之吉にも出資してもらう算段らしい。ちゃっかり三太の腕の見せどころである。


 そのころ、辰吉は中山道にゆく手をとり、信州は上田藩の使用人と下級武士専門の藩医兼町医者である緒方三太郎のもとを目指していた。背中のもと越後獅子、才太郎の面倒を見て貰う為だ。
   「わい疲れて来た、新さんまた助っ人の用達を頼むよ」
   『よしきた』

   第十五回 ちゃっかり三太  -続く-  (原稿用紙15枚)

   「第十六回 辰吉の妖術」へ

猫爺のエッセイ「的を得た話」

2015-05-12 | 日記
 言葉は時代で変化するもので、昨日までは「誤り」であったものが、今日から「正しい」となることもある。
 一つの例が「的を得る」である。すこし以前までは、「的を得る」と書けば「的を得てどうする、的は射るものだ」と、バカ扱いされたものだ。現に私が使っているワープロソフトは、さっき書いた「的を得る」という言葉の下に青い波線が入り、間違いだと指摘している。
 ところが、この言葉を誤用だと決めつけた『三省堂国語辞典』が、誤用説を撤回したことで、急遽「「的を得る」は正しいとなった。これは「的を射る」よりも更に「的を射た」ことばだそうである。

 もう一例、助詞の「は」である。これも「私わ」と書けば、それこそ「アホ」のように言われたが、最近は「わ」でも誤りではないそうである。そう言われたらそうである。言葉ではちゃんと「わ」と発しているのだから。これは、単なる取り決めであって、助詞の場合は「は」を使いなさいと教えられたから「は」を使っているのだ。これを急遽「わ」でも正しいとされると、年寄は違和感を覚えるが、若い人たちは、むしろ発音通りに「わ」と書くほうが違和感を持たないのだろう。
 メールやツイッターなどで、「私わ」「来年わ」と書かれていても、それを「間違いだ」と、指摘すれば、指摘した方が「アホ」扱いされる番だ。
 赤信号も、皆で渡れば青赤が反転して、赤が安全を示すようになるのだろう。古い例えだけれど。

猫爺の連続小説「江戸の辰吉旅鴉」 第十四回 三太辰吉殴り込み

2015-05-11 | 長編小説
 嘗てのチビ三太、天秤棒を武具とする池田の亥之吉の一番弟子、三太が又八の実家に着いた。小さな田畑に囲まれたあばら家である。牛小屋は無く、鶏や兎を飼っていたようであるが、食ってしまったのか籠や小屋はもぬけのからである。
母屋の戸はピッタリと締められ、空き家のように静まり返っている。三太は戸を叩いてみたが返事は無い。
   「もし、お蔦さんはおいでですか?」
 人の気配はない。もしや殺された、それとも夜逃げでもしたのかと、三太は心配になってきた。
   「わいは怪しい者ではおまへん、又八さんの友達です」
 又八という名に反応して、「カサッ」と音がしたように思えた。
   「わいは、江戸の福島屋という店の番頭です、又八さんに頼まれてやって来ました」
 やはり反応はない。
   「失礼して、開けさせて貰いまっせ」
 戸は支え棒が効いていて開かない。なお力を込めて開けようとしたら、「カラン」と音がして支え棒が倒れた。戸を開けて中に入ると、男が飛び出してきて、いきなり平伏した。
   「堪忍してください、どうぞ娘を連れて行かないでください」
 男は、お蔦の父親のようであった。父親に続いて、お蔦が決心したように顔を見せた。
   「お父さん、もういいのです、私は親分さんの妾になります」
   「何を言うのだ、お前には伝六という末を誓った男がいるではないか」
   「捨てられました、弟が盗人だと知らされたとたんに、冷たくされるようになったのです」
   「又八は、貧乏に負けてやくざにこそ身を窶したが、他人の物を盗むような子ではない」父親が三太に訴えた。
   「きっと何かの間違いです、信じてやってくださいと何度も頼みましたが、もう口も利いてくれないどころか、逢ってもくれなくなりました」お蔦が溜息を一つついた。
   「そうか、お前はもう諦めるのか」
   「はい、親分さんの妾になって、弟を代官所に突き出さないように頼みます」
   「そうか、お前も不憫な娘だ、不甲斐ない父を許しておくれ」
 母親の忍び泣きが、嗚咽にかわった。
   「親分のお使いの方、どうぞ娘を連れて行ってください」
   「違う、違う、お蔦さんを連れにきた使いの者やなくて、助けに来たのです」
   「本当に又八の友達ですか」
   「まだ一回しか会っていないので、友達言うのは嘘ですけど、旅先で又八さんの命を護っている辰吉という男が、わいの師匠の息子ですわ」
   「又八は、命を狙われていますのか?」
   「そうですがな、狙っているのが彦根一家の親分でっせ」
   「それは何故です?」
 三太は、親分の企みを全て話して聞かせた。
   「そやけど安心しとくなはれ、辰吉がしっかり護っています、辰吉は師匠の息子だけあって、腕も度胸も備わった強い男です、」
 男は三太の言葉を聞いて安心したようであった。三太はお蔦の顔をみて、その中々の美形に惚れたのか、雄弁になってきた。
   「お蔦さんは、わいがしっかり護ります、任せておいてください、やくざの五人や六人が束になってかかってきても、この棒一本で叩きのめしてやります」
 天秤棒を見せた。家の中でなかったら、ブンブン振り回して見せたところだろう。
   「それに、代官なんか怖くはおまへん、わいには上田藩や亀山藩や神戸藩に知り合いがいます、亀山藩は藩主と知り合いですわ」
 しっかり虎の威を借りるところなどは、師匠の亥之吉譲りというところか。

 彦根一家に脅されて表に出られず、ろくに食べ物を口にしていないのではないかと、途中の旅籠で作ってもらった塩結びをお蔦と両親の前に差し出すと、「その通りです」と、涙ながらに頬張った。
 又八たちが戻って来るまでに、三太は食べ物を買い込みに出て行った。いつ彦根一家の子分たちが来るか知れないので遠くまでは行けず、近所の農家を回って米と味噌を買い込んできた。

 その日の夕刻、案の定四人の子分たちがやってきた。
   「お蔦、親分がもう待てないと言っていなさる、まだ嫌だというのなら、又八を代官所に訴え出て、お縄にしてもらうそうだ」
 そうなれば、又八は二百両を盗んだ罪で捕らえられ、磔獄門(はりつけごくもん)の刑に処せられると、脅しにかかっている。
   「言うことは、それだけか?」
 裏に居た三太が表に周り、子分達の後ろから声をかけた。
   「誰でぇ、てめぇは」
   「わいか、わいはお蔦ちゃんの許嫁や」
   「嘘をつけ、お前なんか見たことねぇぞ」
   「たった今、言い交わしたのや、なぁお蔦」
 お蔦が頷いた。
   「それ見ろ、嘘なものか」
   「お蔦は、うちの親分の女だ、どこの馬の骨かわからん奴に渡せるものか」
   「そうか、それならここ二・三日中に、親分に挨拶に行くわ、帰って親分に言っとけ」
   「バカぬかせ、これが黙って引き返せるものか、生意気な口が叩けぬようにしてやろうぜ」
 四人は、手に、手に匕首を握り、切っ先を三太に向けた。
   「わいを怒らせたら、痛い目に遭うで」
   「煩せぇ、黙らせてやる」
 一人の男が三太の懐に飛び込もうとした時、三太は二歩飛び下がって男の右上腕を打ち据えた。男は「ひーっ」と悲鳴を上げて、匕首をその場に落し、ふらふらっと蹌踉めきながら五・六歩下がってしゃがみ込んだ。
   「次、誰や?」
 三太は三人の男を見回したが、匕首を突き付けているものの、飛び込んでくる様子はなかった。
   「じゃまくさいから、三人一遍にかかってきやがれ」
 三太は六尺棒を頭上高くで回転させた。
   「憶えておけ」
 三人の男は、捨て台詞を残して走り去った。上腕を打たれてしゃがみこんでいた男も、落とした匕首を拾うと、三人の男たちに続いた。


 辰吉たちは三太に遅れて、二日後の昼前に戻ってきた。才太郎も痛みに耐えて、意外と元気な
顔をしている。辰吉の励ましと手当が、功を奏しているようである。
   「遅かったやないか、何を愚図々々しておったのや」
   「ここ何日か月夜だったから、兄ぃは夜駆けしたのだろ」
   「まぁな」
   「それでお蔦さんは無事だったのか?」
   「ああ、今、畑に野菜を採りに行っている」
   「独りでか?」
   「ああ、すぐ近くやさかい、大丈夫やろ」
 三太ともあろう者が何と迂闊なと、辰吉は腹がたった。慌てて飛び出そうとした辰吉を三太が止めた。
   「坊っちゃん、この縁側に来て寝転んでみなはれ」
   「何?」
   「お蔦ちゃんが菜を摘んでいるのがよく見えていまっせ」
 別に寝転ばなくでも、まる見えである。
   「本当だ、良かった」
   「今なぁ、又八さんのおっ母さんが、昼餉の支度をしてくれている、飯食ったら昼から殴りこみや、又八さん、覚悟しときや」
   「へぇ、有難うごぜぇます」

 昨日、三太の立ち回りを見た所為か、縁側から見えるお蔦の顔に安堵の笑みさえ窺える。
   「おーい、姉さん」
 又八が縁側から叫んだ。
   「又八、無事で良かった」
 三太から聞いていたので、もう心配はしていなかったようである。

   「又八さん、行くで」
 才太郎をお蔦と両親に預け、三太の掛け声に、三太、又八、辰吉の順に並んで家をでた。

 三人が彦根一家を目指していると、家の陰、木の陰、石灯籠の陰と、三人を見張っている者が二・三人見え隠れしている。
   「彦根一家の三下やな」
 三太が気付いて呟いた。
   「見るのやないで、知らんふりして歩け」
 その三下風の男の一人が、駈け出していった。一家に知らせに行ったようだ。

   「親分、来やしたぜ」
   「そうか、何人だ」
   「へぃ、又八を入れで三人です」
   「何だ、たった三人か、準備するまでも無いな、用心棒の先生に任せておこう」
 二人の浪人が親分に呼ばれて、何やら耳打ちされていた。
   「よし、分かり申した、任せておきなさい」
   「これは酒代です、三人共殺ってくだせぇ、後始末は子分どもにさせます」
  途中まで出て、又八たちを迎え討つらしい。二人の浪人は、小走りで出て行った。

   「止まれ!」
 三太達の前に、二人の浪人者が立ち塞がった。
   「何や? 何者ですかいな」
   「お前らに恨みを持つものではない、金で頼まれ申した、ここで死んで貰う」
   「嫌やと言ったら?」
   「嫌も糞もない」
 浪人二人が刀を抜いて構えた。
   「何や、たいした使い手でもなさそうやなぁ」
   「何をぬかすか、この若造が」
 一人の浪人が刀を両手で持って、三太をめがけて飛び込んで来たのをヒョイと交わして天秤棒で尻を思い切りビタンと叩かれると、浪人は及び腰で前に五・六歩進み、ベタンと前に倒れた。
   「わっ、カッコ悪い倒れ方や」
 嘲笑う三太に、もう一人の浪人が斬りかかったが、後ろから辰吉の棒で尻を突かれて、これもベタンと倒れた。
   「のびた蛙みたいや」
 嘲笑われて頭にきたのか、二人は立ち上がって落とした刀を拾うと、離れて立つ三太と辰吉に、それぞれ刃を向けた。三太は自分に向かってきた浪人の刃を横に交わすと、辰吉に刃を向けている浪人の後ろから頭をポコンと叩いた。辰吉は三太に叩かれて怯んでいる浪人を交わすと、三太に向い空振りをした浪人の後ろから頭をポコン。二人の浪人は、その場に座り込み、刀を置いて頭を擦っている。

   「おっさん達、まだかかってくるか?」
   「すばしこい猿め、手古摺らしやがって」
   「かかってくるのなら早く立て、今度は手心加えへん、利き腕の骨を砕いてやる」
   「若造だと思い油断しただけだ、お前らこそ念仏でも唱えておけ」
   「やめとき、腕の骨を折られたら、もう用心棒は出来へんで」
   「喧しい」
   「そんな弱い腕で用心棒なんかしていたら、直ぐに殺されて川に捨てられるわ」
   「そうだろうか」
  何とあっさり三太に乗せられている。
   「そらそうや、腕の骨を折られてから考えても、後のまつりや」
   「わしらに、どうしろと言うのだ」
   「あのな、わい京極一家に馴染みがありますねん、あそこへ行って池田の亥之吉の一の子分、三太さんに聞いて来たと言えば、あんじょうしてくれはります」
   「子分になるのか?」
   「清水一家の大政さんも、元お侍さんです」
   「そうか、行ってみるか」
 もう一人の浪人は、「なぁ」と同意を求められて「うん、うん」と、頷いている。


   「三太兄ぃ、口達者だなぁ、丸め込んでしまった」
 浪人達と別れて、彦根一家に向かいながら、辰吉が呟いた。
   「ほんまに腕の骨を折ってやろうと思ったのやが、その後あのおっさん達はどうやって生きて行くのかと考えたら、哀れに思えて来たんや」

 またも、彦根一家の三下が、見え隠れに様子を伺っていたが、全部走り去って行った。親分にご注進というところだろう。
   「次は、どんな手を打って来るやろ」
   「大勢を集めて、一斉に襲ってくるかも知れない」
 さすがの辰吉も、少々ビビっているように見える。
   「辰吉坊ちゃん、気が付かなかったか?」
   「何を?」
   「新さん居るか?」
 辰吉が新さんに呼びかけているようだが、応答がない様子である。
   「ほれ、新さん居ないやろ」
   「うん」
   「あの三下の誰かに憑いて行ったのや」

  第十四回 三太辰吉殴り込み  -続く-  (原稿用紙15枚)

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猫爺の連続小説「江戸の辰吉旅鴉」 第十三回 天秤棒の再会

2015-05-09 | 長編小説
    「新さん、もっと若い男に憑いてくれないか」
 辰吉のその言葉に、自称占い師の男が逸早く反応した。
   「儂を年寄扱いしておるのか?」
   「いえ、他のことで独り言です」
   「気持ちの悪い男だ」
 新さんが憑いた筈なのに、この反応は可怪しいと辰吉は首を傾げる。
   「さあその子を下ろしなさい、わしが担いでやろう」
 辰吉は慌てた。こんなお爺さんに背負わせて、転びでもされたら才太郎の折れた足が曲がってしまうと恐れたのだ。
   「いえ、結構です、旅先で腰でも痛めることになれば、俺がお侍さんを背負って医者に駆け込まなければなりません」
   「それもそうだなぁ」
 また「年寄扱いをした」と、一悶着あるかと思いきや、素直に引いてくれた。
   「俺は大丈夫です、草臥れたら力の強そうな男に代わって貰います」
   「その若い男か?」
   「いえ、この男は俺の雇い主だから使えません」
   「雇い主というと、おぬし用心棒に雇われているのか?」
   「そうです」

 と、なると、新三郎はどこへ消えたのだろう。そのとき、髭面の頑強そうな浪人風の大男が辰吉に声を掛けて来た。
   「よし辰吉、代わってやろう」
   「新さんですかい」
   「そうだ」
 占い師が驚いている。
   「なんだ、こんなお人がお連れさんかい?」
   「はい、権藤新三郎と言います」辰吉、咄嗟に出た偽姓だ。
   「それなら、最初からこのお人に背負って貰えば良いものを…」
 今度は、又八と才太郎が驚いている。次から、次から別人が現れて、それが皆辰吉の知り合いだというのだから、「この辰吉という人、何者だろう」と、思ってしまうのだ。
 占い師は、一両貰ったお礼をしようと思ったが、その必要は無さそうだと、ここで辰吉たちと別れて「浪花方面に向かう」と、辰吉一行から離れていった。

 
 それから才太郎の背負役も次々と入れ替わり、幾度か旅籠に止まり、一行は越前の国から加賀の国へと入った辺りで、用心棒と思われる一人の浪人者を含む総勢六人の男に取り囲まれた。
   「又八を渡して貰おうか」
 浪人を始め、又八が知らない男ばかりであった。
   「どなたさん達です?」辰吉が尋ねた。
   「金沢一家の者だ」
 加賀国の金沢一家は、又八がこれから行こうとしているところである。
   「又八を渡せば、どうする気だ」
   「彦根一家の貸元に頼まれたのだ」
 又八の親分から、早駆け便で金沢一家に書状で依頼されたそうである。
   「彦根の貸元は何と?」
   「煩せぇ、つべこべ云わずに渡しやがれ!」
 辰吉は、ケツを捲った。
   「いい加減にしやがれ! お前らはこの又八が親分の金を盗んでトンズラしたと吹き込まれているのだろうが、又八は盗んだのでは無いぞ」
 又八は彦根の親分に言いつけられて、金沢一家と善光寺に百両ずつ届けようとしているのだと辰吉は説明した。
   「それは、言い逃れだ、この盗人野郎を渡さねぇと、お前等もここで死ぬことになるぞ」
 浪人が、黙って刀を抜いた。何がどうあれ、又八を斬る気らしい。
   「俺は又八に雇われた用心棒だ、その刀、受けてやろうじゃないか」
 辰吉は、又八と才太郎背負った男を庇ってその前に立つと、六尺棒を頭上に構えた。
   「へん、そんな棍棒を振り上げて、この先生の刀が受けられると思うのか」
 男たちの一人が、嘲笑した。
   「先生、又八の用心棒ともどもお願いしますぜ」
   「よし、わかった」
 金沢一家の用心棒が、初めて声を発した。刃は辰吉に向けられるだろうと男たちが固唾を飲んだ直後、男たちの意に反して、金沢一家の用心棒はクルリと身を反転して、男たちに刃を向けた。
   「先生、殺るのは向こうですぜ」
   「黙れ、拙者は又八とやらと、この若い用心棒の言うことが真実だと思う」
   「真実なんか、どうでも良いのです、早くコイツらを殺ってくだせぇ」
 辰吉は、にんまりとした。新三郎が浪人に取り憑き、新三郎が言っているのだと思ったのだ。だが、違っていた。
   『あっしは、ここに居ますぜ』
 才太郎を背負った男が言った。まさしく新三郎だ。

   「えっ」
 用心棒の刃は、仲間の筈の男に斬りかかった。辰吉は、無意識で後ろから用心棒の首を叩き付けていた。
   「わっ」
 浪人は刀を落し、両手で首筋を抑えてその場に崩れた。
   「何をしやがる、拙者はお前達を信じると言ったではないか」
 辰吉には、この用心棒の魂胆が総て読めていた。又八と自分を斬り、僅かな用心棒代を受け取るよりも、この場の総ての者を斬り、又八が持っていると言う二百両を奪う積りなのだ。
 その時、用心棒は落とした刀を拾い、辰吉に向かってきたその手首を、辰吉は力任せに打ち込んだ。
   「あっ、しまった」
 辰吉は小さくさけんだのは、その手応えで両手首の骨を砕いてしまったのに気付いたのだ。
   「新さん、またやってしまった」
 江戸では、ドスを突き付けられて、そのドスを奪い取り、弾みで男を刺し殺してしまったと言うのに、また夢中でこの男の手首の骨を折ってしまったのだ。
   『辰吉は若いなぁ、夢中になると手加減が出来ない』
 金沢一家の男達は、苦痛に悶える用心棒を見捨てて、血相を変えて逃げて行った。

 辰吉は歩きながら考え込んでいる。新三郎に相談しようにも、別の男に憑いて才太郎を背負っている。仕方がないので、又八に話かけた。
   「なぁ又八さん、彦根一家の親分が、こうも執拗に又八さんの命を狙うのは、お姉さんのお蔦さんが頑張ってくれているのだろうと思うのだ」
   「親分に無理難題をふっかけられて、耐えているのだと思います」
   「お蔦さんの好きな相手の男は護ってくれているのだろうか」
   「色男ですが、軟弱でして、とても護るなんて出来やしません」
   「才太郎のことも、お蔦さんのことも心配だ」
   「有難うごぜぇます」
 辰吉は提案した。
   「折角ここまで来たが、引っ返そうと思うのだが、又八さんどう思う?」
   「金沢一家の親分さんも、敵に回ったようだし、金を届けるのは、あっしを嵌めるためのものだと分かったことだから、引返したいのは山々ですが、辰吉親分なしでは見す見す殺されに帰るようなものです」
   「俺は構わない、才太郎には可哀想だが、もう少し我慢をして貰い、三太郎先生も関わりのある浪花の診療院で治療して貰おう」
 才太郎を背負った男が、「うん」と頷いた。新三郎だ。

 
 そうと決まれば、早く戻って、お蔦を助けなければならない。寄り道をせずに急ぎ脚で歩いているのだが、才太郎を背負っている男に気付いた。
   「この人は、越後の方に向かっていたのだから、俺が交代しよう」
 男は才太郎を下ろすと、五・六歩北に向かって歩くと、へなへなっと座り込んでしまった。すぐに気をとり直すと、夢でも見ていたかのように両腕を上に伸ばすと、大きく欠伸をして立ち去って行った。
   「あれっ、知り合いではなかったのですか?」又八がまたもや不思議そうにしていた。

 近江国、彦根一家を目指して暫く歩いていると、行く先で手を振っている男がいた。顔は分からないが、手に持った天秤棒が判別できる。
   「あれっ、親父か?」
 まさかとは思ったが、近付くにつれてどう見ても親父の亥之吉のようである。
   「おーい、辰吉坊ちゃん」
 亥之吉ではなかった。江戸の京橋銀座、雑貨商福島屋に居るはずの三太であった。
   「三太の兄ぃ」
 言うが早いか、辰吉は才太郎を背負っていることも忘れて、駈け出していた。

   「新さんはどうした? 居るのか」三太が尋ねた。
   「はい、ここに」
 三太は、いきなり辰吉の襟を肌蹴て手を突っ込んだ。又八は「変な兄弟」だと驚いて見ている。
   「新さんが一緒やから、直ぐにでも辰吉坊っちゃんを連れて帰ってくれるのかと待っていたのに、一向に戻る気配がないので心配したやおまへんか」
   『ちょっと辰吉に旅をさせてみようと思いやして』
   「それならそうと旅にでる前に言ってくれていたら心配せぇへんのに…」
   『すまねぇ』
   「それで、この子は?」
   『旅の越後獅子で、骨を折って捨てられていたのを辰吉が助けたのです』
   「それで、こっちの男は?」
   『急いでいるので、道々辰吉に事情を聞いてくだせぇ』
 辰吉、大きな形をして、三太に抱きついた。
   「いやらしい関係の兄弟だなぁ」又八、呟く。

 辰吉は、又八の事情を三太に一部始終話した。
   「危ないなぁ、又八さんの両親もお蔦さんも脅されているやろ」
 又八に二百両もの大金を持たせたのは、姉のお蔦さんが身を売っても手に入らない額にする為だと三太は推理した。しかも、「又八に盗まれた」と代官所に訴えられたら、又八は磔獄門の刑を受ける。これは両親とお蔦さんの強力な脅迫材料となる。二百両は子分たちに取り返させておいて、又八が逃走中に盗賊に襲われて金は奪われ、又八は殺された筋書きにすれば、代官は納得するだろう。なんと狡賢い親分だと三太は思った。
   「事情は分かった」
三太は又八の家と、彦根一家の場所を訊くと、「わいが一足先に助けに行く、坊っちゃんたちはゆっくりと戻りなはれ」と、駈け出して行った。

    第十三回 天秤棒の再会  -続く-  (原稿用紙13枚)

    「第十四回  三太辰吉殴り込み」へ

猫爺の日記から「幽霊新三、はぐれ旅」あらすじ

2015-05-04 | 日記
 猫爺の連続小説、第一シリーズは、「能見数馬」。 水戸藩士能見篤之進の次男能見数馬の短い人生の内、たった一年間の出来事を描いたものだった。この中で、一番彼の運命に関わったのは、守護霊新三郎との出会いであった。新三郎は、生前木曽の生まれで、彼が世話になった江戸の材木商木曾屋孫兵衛をやくざに襲われた窮地から救うが、木曽の鵜沼に於いて騙し討に遭い殺されたのであった。
 第二シリーズでは、「佐貫三太郎」。 数馬が死んだ日に信濃国上田藩士佐貫慶次郎の長男として生まれた佐貫三太郎がヒーローである。彼は、能見数馬の記憶を引き継いで生まれた。数馬の志を受け継いだ彼は、阿蘭陀医学者、ことに「心医」なるべく長崎へ向かう。江戸の捨て子、三太少年との関わりは…。
 第三シリーズは、「池田の亥之吉」。 突然数馬や三太郎とは関わりの無いように見える池田の亥之吉という旅鴉が登場するが、彼は浪花の雑貨商福島屋善兵衛の元に働く番頭で、その末娘お絹の許嫁という烈輝とした堅気である。道中合羽に三度笠に身を包んだ彼の目的は…。数馬や三太郎との関わりは…。
 第四シリーズは、「幽霊新三はぐれ旅」である。ここで守護霊新三郎が取り憑いたのは、捨て子の三太である。
 彼は、能見数馬が生きているものと思い込み、態と阿弥陀如来を怒らせ、新三郎の墓がある江戸の経念寺に舞い戻るが、そこで会った昔なじみの亮啓和尚から数馬が死んでいたことを知らされる…。
第一シリーズ 能見数馬・・・・・・「第一回 心医」へ
第二シリーズ 佐貫三太郎・・・・・「第一回 能見数馬の生まれ変わり?」へ
第三シリーズ 池田の亥之吉・・・・「第一回 お化けが恐い」へ
第四シリーズ 幽霊新三、はぐれ旅・「第一回 浄土を追われて」へ
   -続く-   (原稿用紙2枚)

猫爺のエッセイ「Romancer 第二弾」能見数馬

2015-05-03 | 長編小説
 猫爺の長編小説、シリーズ第一作の「能見数馬」を、Web book(Romancer)にアップしました。

 猫爺の連続小説の発端が「能見数馬」です。すべてはここから始まり、現在執筆中の「江戸の辰吉旅鴉」に続いております。

 ヒーローは、能見数馬に始まり、佐貫三太郎、捨て子の三太が佐貫三太郎を継ぎ、能見数馬を継ぎ、今は緒方三太郎という医者になっています。

 途中で、池田の亥之吉、佐貫鷹之助、チビ三太とヒーローを代えて、「江戸の辰吉…」では、池田の亥之吉の長男辰吉になっております。

 尚、捨て子の三太と、チビ三太は別人で、年齢も離れています。

 どうぞ、ブログ版ともども、宜しくお願い致します。(猫爺拝)

猫爺の「辞世の時」リンク

2015-05-02 | エッセイ
 猫爺のエッセイ「辞世の時」を整理した。辞世とは、この世を辞するとき、すなわち死ぬ時のことである。
 正岡子規や宮沢賢治のように病に苦しみ、若くして死んでいった人、苦しまずに「端然としてご臨終あそばされ」、八十に歳で亡くなった滝沢馬琴も、世を辞した後は平等である。
 大富豪の家に生まれ、不自由なく一生を終え、国葬級の葬儀で数千人の参列者に送られようとも、独り寂しく貧しい生涯を送り、ひっそりと亡くなってお骨の引き取り手さえ居ない人であっても、死んだ後は富豪のそれと何ら変わらずに「無」という平等なのである。
 どんなに楽しい思い出も、苦しく辛い思い出も、「死に土産」だと言って持って行けるものではない。この「死の平等」こそ、私は「真の平等」だと思っている。
 さて、猫爺のエッセイ「辞世の時」は、十五回で止まっている。まだまだ続けて行きたいと思っているのだが、連続小説にかまけてなかなか進まない。小説を書くのが楽しすぎるからである。
 このエッセイ十五編に「リンク」を張った。連続小説にも、「次回」にリンクを張るつもりである。
第一回 宮沢賢治
第二回 斉藤茂吉
第三回 松尾芭蕉
第四回 大津皇子
第五回 井原西鶴
第六回 親鸞上人
第七回 滝沢馬琴
第八回 楠木正行
第九回 種田山頭火
第十回 夏目漱石
第十一回 十返舎一九
第十二回 正岡子規
第十三回 浅野内匠頭
第十四回 平敦盛
第十五回 良寛禅師