読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

吉川英治の『新書太閤記』(一)

2021年03月18日 | 読書

◇『新書太閤記(一)

  著者:吉川英治   1990.5 講談社 刊

   

 豊臣秀吉の生涯を描いた作品は数多あり、多くの類本(新太閤記、新史太閤記、
闇史太閤記、妖説太閤記、真書太閤記、異本太閤記,など)が世に出ているが、本
書・新書太閤記は吉川英治の歴史・時代文庫の代表的作品であり、時代小説の代
表作として措く能わざるもの。作者吉川英治は秀吉を「自らを凡俗の一人として
弁えた人間味溢れた英雄」として把握し、「日本人の長所も短所も身一つに備え
ているから後世においても多くの人々に好かれている」という、一体感が感じら
れる人物として描かれている。読んでいるうちに持ち前の愛嬌で誰とも分け隔て
なく正面から立ち向かう秀吉に限りなき愛着を抱いていることがよくわかる。

 第1巻は日吉誕生から清須城で信長の厩番までの段。日吉は苦難の放浪の旅の
揚句主君は信長を措いてないと必死の覚悟で随身を訴え拾われる。この間因縁の
蜂須賀小六とも知り合ったし、後の明智光秀との出会いもあった。草履取りの身
から台所役人に、そして厩番に昇進し、初めて屋敷持ちとなった。のちに北政所
となる寧子(ねね)との出会いもこの頃である。
                           (以上この項終わり)

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透明水彩画 果物(りんご)を描く

2021年03月15日 | 水彩画

◇ 静物画=リンゴを描く

  
    clester  F4

        今月第1回目の水彩画教室は活動計画に従って「果物パートⅠ」。幹事さんは
 リンゴを人数分用意しました。描き終わったら各自に1個ずつ持ち帰ってもらう
 ために。
  とはいうもののご覧の通り、1パートに7個。とてもセザンヌが描いたような
 リンゴの山というわけにはいきません。品種は多分サン富士とインドか王林です。
 リンゴはよく描く対象になりますが、結構むつかしく、いつも反省点が残ります。
 
  3月21日には緊急事態宣言が解除になるかならないか現時点では不明ですが、我
 が水彩画グループでは本日を最後に、4・5月いっぱい活動休止となりました。こ
 の間予定されていた野外での写生も休止です。屋外での写生なら感染リスクもあま
 り気にしないで済む気がしますが…。家で独りで描く絵はそれなりの覚悟がいるし、
 みんなで描く方が楽しいのですが、早くコロナからの解放を待ちましょう。

                           (以上この項終わり)

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キャサリン・コールター『略奪』

2021年03月09日 | 読書

略奪』(原題:THE FINAL CUT)

著者:キャサリン・コールター(Catherine Coulter & Elison)

訳者:水川 玲     2014.9 双海書房 刊
  
 
 この作品の根っこにあるのは、伝説のダイヤモンド(793カラット)にまつわ
る神話的魔力である。
 英雄神クリシュナに始まりインドのシング一族に語り伝えられたダイヤモンドの
魔力(不老不死と世界征服)を再現させるために第4代目の子孫はイギリス王家に
伝わる伝説のダイヤモンドの片割れを奪還しようと希代の盗人に依頼する。これに
立ち向かうのがロンドン警視庁の警部とアメリカFBIの捜査官。
 三つ巴の戦い、騙し合いが痛快なエンタメ小説である。訳者は本格ロマンチック
サスペンスであるという。

   アメリカNY州メトロポリタン美術館に貸し出されたイギリス王太后の王冠のダ
イヤモンド コ・イ・ヌールが盗まれた。ロンドン警視庁のエースニコラス(ニッ
ク)・ドラモンドは急遽ニューヨークへ飛ぶ。
 何しろ輸送担当員として王冠と共にNYに渡った相棒で恋人でもあるイレイン・
ヨーク警部補殺害の悲報が届いたからだ。

 多くの状況と証拠がイレインが盗難の犯人を物語っていてFBIのマイクらとニッ
クは困惑する。調べが進むと1年前にメトロポリタン美術館に採用され現在はキュ
レーター(美術館管理専門職)となっているというビクトリア・ブラウニングが
実は「フォックス」と異名をとる美術品窃盗犯であるという結論になり、後を追
うがまんまと逃げられた。

    フオックス(キツネ)は大物の美術品収集家サリーム・ライナハンに「金はい
くらかかってもかまわない」と言われ、2500万ドルで請け負った。メトロポリタ
ン美術館に職員として1年前から入り込んで、美術品の展示管理部門のキュレータ
ーの地位に就いたのである。じっくりと練ったプランで果実を得る時に至った。
 
  ニコラスとFBIのマイク捜査官はフォックス(キツネ)の巧妙な逃亡ルート
を追う。これまで盗みはすれども人殺しまではしなかったキツネが、イレイン
とその護衛役と思われるロシア人の男性をなぜ殺したのか。後ろにいる王冠の
ダイヤモンド窃盗依頼人は誰なのか。

 抗争の舞台はジュネーブからパリへと目まぐるしく変わる。キツネを育て盗
みの師匠であったマルベイニーがラナイハンと組んでいた。父祖以来の伝説の
3個のダイヤは合体し伝説の魔力を発揮し白血病を病むラナイハンのがん細胞
が消えた。彼は不死の身体を得てこの世の神となったことを知った。
 なんとも荒唐無稽な結末で、リアルの世界とのあまりの大きな懸隔に唖然と
するばかり。

                        (以上この項終わり)
 
 

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浅井 忠の水彩画『若王子風景』を臨画

2021年03月07日 | 水彩画

◇ 泰西の名画を前にして

  
     clester F6

  先週の水彩画教室では本年度の新しい試みとして泰西の名画を臨画することにしました。
 各自数十枚の名画の中から選んで描きました。臨画というのは単なる複写とか複製画とは
 違っていったん巨匠が対象に臨んだ眼力と受けた印象などを捉えたうえで自分なりに咀嚼
 して技法などを想像しながら描きます。

   浅井忠は明治時代に西洋画を学ぶためにフランスに留学、夏目漱石や正岡子規らとも親
 交がありました。多くの優れた水彩画の作品を残しています。この作品は帰国後1907年に
 京都府左京区鹿ケ谷(若王子)の農村風景を描いたものです。人物・動物などのいない、
 自然の風物だけの静謐な風景画です。
       屋根のハイライトは原画では多分ナイフでかき落としたと思います。私は塗り残しました。
  雰囲気だけは捉え得ても、とても原画に迫ることはできませんでした。

 
   浅井忠の鹿ケ谷(若王子)風景 原画

                             (以上この項終わり)

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馳 星周『蒼き山嶺』を読む

2021年03月01日 | 読書

◇『蒼き山嶺

              著者:馳 星周   2018.1 光文社 刊

     

 馳星周が山好きだとは知らなかった。読んでみて山に相当登っていなければ山屋
の人物造形も山岳描写もここまで書けないだろうと思った。かつて笹本稜平の『
の峰の彼方
』を読んで、山岳小説の醍醐味を満喫したのであるが、本書も山岳スリ
ラーというにはやや抵抗があるものの、後立山連峰を歩く男女が背負う事情とそれ
を超えた山屋の連帯感、蒼き山嶺の描写が感動的である。しかも全編これ後立山連
峰の縦走ルート。山男と山女とが悪天候を衝いて迫ってくる悪漢と命を懸けての立
ち回りもたっぷりあり楽しめる。

 かつて長野県警山岳遭難救助隊に勤務し、現在は遭対協に所属している得丸志郎
は白馬岳に向かうコースで一人の登山者に出会う。それは大学時代に山岳部で苦楽
を共にした男のひとり池谷博史だった。
 この出会いが悲劇の物語の始まりだった。

 20年の年月の間に池谷はただの運動不足の中年男になっていた。
 池谷の挙動がおかしい。警視庁公安部所属でありながら白馬を歩いている。里場
の遭対協本部では警察が捜索で騒いでいるという。池谷は事情は知らない方がよい
と話そうとしない。
 白馬から日本海に出る栂海新道を案内しろという。2・3日かかる稜線コースであ
る。公安で相手と言えば中国か北朝鮮。国を売って北朝鮮などに逃げるのかなどと
得丸は訝る。
 そしてそこに現れたのは若林の妹ゆかり。K2で遭難した兄の遺骸捜索のために登
山用の身体と技術を身に着けた猛者になっていた。

 池谷の追手と思われる3人の男が現れた。山岳慣れはしていないが相当な手練れで
ある。2人は雪崩に遭って消えたが、膂力抜群の男は白馬山荘に3人を追い詰める。
そこで得丸は驚きの真相を聞く。3人は北朝鮮の工作員。池谷も工作員。日本人高校
生を拉致し入れ替わった男は池谷を名乗り、警察官になって諜報活動を行っていた
というのだ。

 得丸が大学山岳部時代に築いた若林、池谷との絆を振り返るの思い出が楽しい。
雪中の山稜歩きがすでに限界を超え、二人とも若林が傍らにいる幻覚を見た。

 二人は瀕死の状態ながら朝日岳、白鳥岳を超えて白鳥小屋で一泊し日本海にたど
り着いた。池谷は既に意識が混濁し、譫言で故郷の朝鮮の歌を歌っている。しかし
日本海の潮騒を聞き、潮の香りを嗅げたのは得丸だけだった。「海の向こうはお前
の故郷だ。来たぞ。やったんだ」。
 背中の池谷からは答えがなかった。

    それにしても池谷とザックを背負って雪中登行を続ける得丸の身体能力とガッツ
には驚嘆するしかない。

作中ユキザサ、ヨブスマソウという里山山菜が出てくる。この山菜は知らなかった。
                    
                         (以上この項終わり)

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