◇ 新年度は はがき絵でスタート
新型コロナで3密回避の新環境の中、我が水彩画グループの新年度がスタート
しました。
総会は30分ほどで終わります。時間が中途半端なので今回は「はがき絵」を
描いてみようという講師の先生の提案で、写真を見ながら「はがき絵」を描き
ました。0.1ミリの細いペンを使いました。
2枚で1時間くらいです。1枚目は葉のギザギザの具合から見て椿でしょう。
2枚目はパンジー系のような気がしますが、葉の形が違うのではっきりしません。
普通はがき絵というと筆を立てて描いて、それはそれなりに味のある絵にな
るのですが、こちらは単純にはがきサイズの画用紙に描いた絵ということで味
のあるメッセージも入っていません。
(以上この項終わり)
◇『彼女の恐喝』
著者: 藤田 宜永 2018.7 実業之日本社 刊
アメリカにいる三女が日本語の本に飢えているので、送ってあげようと妻が
選んでアマゾンで取り寄せた本。今はなかなか物が送れない状態なので寸借し
て読んだ。
今まで読んだ藤田宜永の本とは違って軽いエンターテイメント小説である。
ミステリーっぽいが官憲は出てこない。交錯する犯罪者の心理がうまく描か
れている。
岡野圭子23歳は母子家庭に育ち、自分の力だけで大学に通う4年生。奨学金
だけでは苦しくて生活のために六本木のクラブで働いている。出版社で働くの
が夢であるが、就活ではどこの会社も落ちた。
台風の風雨が吹き荒れ停電があった夜。あるビルから出てくる一人の見知っ
た男を目にする。常連客で好感を抱いている男、国枝に違いない。
圭子は翌日そのビルで殺人事件があったことを知る。犯人は国枝ではないか。
400万円の奨学金返済のためにももっと金が欲しい圭子は国枝を脅迫しようと
策を練る。
圭子の心の裡に潜む黒い部分、偶々生まれ落ちた家がシングルマザーだった
ために、こんな苦労をしなくちゃならない。友人の弥生などは両親兄弟がそろ
って家も裕福であるため、何の心配もなく青春を楽しんでいる。不公平ではな
いか。誰しも多少ならず持っている妬み・嫉みの思いが圭子の恐喝という犯罪
行為を支えた。
脅迫はうまくいって2000万円が手に入った。国枝はその後も店に通ってくる。
ファザコンである圭子は罪悪感を持ちながらも紳士的で無理強いをしない国枝
に次第に惹かれていく。以上が第1章 恐喝者岡野圭子の事情説明である。
そして第2章が恐喝対象者国枝の事情。なんと国枝は郷里で不倫相手の夫を
死なせ、警察の手を逃れて出奔していた。その後ある男から戸籍を譲り受けた
うえで、不動産会社に婿養子として結婚、国枝姓に代わっていた。妹の文恵と
は連絡を取り合っていたが、雨の夜にマンションから駆け出たのは妹を訪ねた
折りのことだった。殺人事件は文恵の部屋の1階下で起きたのだった。
圭子はとんでもない間違いを犯したのだった。
国枝の過去の不倫殺人は時効になっていたが、殺した男の義理の息子の恐喝
と思って2,000万円払った。自分の改名や住まいは文恵しか知らないので不審さ
はぬぐえない。
一方圭子の郷里(軽井沢)で同級生だった功太郎は圭子に思いを寄せ、彼女
のスマホに遠隔操作アプリを埋め込みストーカー行為をしていた。国枝と圭子
の関係をやっかみ、家まで押しかけ国枝を刺殺したうえマンションから飛び降
り自殺してしまった。
第3部は国枝の妹文恵の話になる。実は国枝が殺したと思った不倫相手の夫
はまだ死んではいなかった。連れ子である息子が日ごろの冷たい仕打ちを恨み
止めの打撃を与えていたことが妻の告白で明らかになった。これを知った文恵
は国枝に電話したのであるが、その時には国枝は既に功太郎に刺されて亡くな
っており真相を知ることはなかった。
結局圭子は脅迫の告白もしないまま国枝を失った。優しくて大事に思ってい
た恋人のような存在だった彼にお詫びをと墓参りに行ったところ、圭子を脅迫
者と疑っている国枝の妹に遭ってしまう。しかし文恵は圭子の国枝への愛情を
感じ取り許す気持ちになる。
考えてみれば圭子は想像上の犯人を脅迫し、その人は架空の犯人に金を払う
という、いわばすれ違いの加害者と被害者であったわけである。
圭子は真面目な努力家で普通の女性だった。雨の夜に国枝の姿を目にしなっ
たら脅迫という犯罪行為に走らなかった。その後クラブで国枝に会う度に罪悪
感に苛まれていた。文恵から事の真相を知りようやく安堵する。
2000万円の国枝の金で奨学金を返済し、念願の文芸出版社への就職も果たし
た。念願だったフランスへの観光旅行に旅立った。
ところでどうでもいいことではあるが、銀座であれ六本木であれ、クラブの
ホステスは「水割り」を「お水割り」と言うのだろうか。
(以上この項終わり)
◇ 『告解』
著者:薬丸 岳 2020.4 講談社 刊
久々の薬丸岳の作品を読む。江戸川乱歩賞受賞作品『天使のナイフ』は少年
法の持つ問題点を指摘する一面があったが、本作は犯罪加害者の良心と犯罪被
害者家族の葛藤を描く。
犯罪被害者は加害者が正しく罪に問われて処罰されていないと考えるとき私
的に懲罰を加えなければと思う人がいる。社会的には許されないが因果応報信
仰は根強い。本作品はこうした因果応報話かと思わせるが、犯罪者の心の裡に
深く入り込んだプロット構築で、天使のナイフとは一味違う穏やかなものとな
っている。
81歳の主婦が深夜交差点で渡っていた歩道で、飲酒運転で信号無視した乗用
車に轢かれ死亡した。運転していたのは20歳の青年。人を轢いたかもしれない
と思ったが狼狽・恐怖に駆られそのまま逃走した。
容疑者籬翔太は飲酒運転とスピード違反は認めたものの信号は青だったと言
い張って、証拠もないために飲酒運転と危険運転障害致死罪で懲役4年10月の
判決が下った。
刑期を終えて出所した時に弁護士から被害者宅を訪ね位牌に焼香するなどお
詫びすべきだと言われたが、気が乗らずそのままになっている。付き合ってい
たバイト仲間の綾香も去った。姉の敦子は婚約が流れ母と母の実家に移った。
父は酒におぼれ仕事もなくなってしまった。
翔太が飲酒運転を覚悟してまで急いだのは綾香から「大事な話があるから今
すぐ来て、来なければ別れる」と言われたからだが、裁判では急に運転がした
くなったからだと綾香のことは持ち出さなかった。
綾香は事件後翔太のひき逃げは自分のせいでもあると罪悪感を拭いきれない。
ひき逃げされた女性の夫法輪二三久は認知症がだいぶ進んでいるが、加害者
に対してしなければならないことがあると言い張って、出所後の翔太の住むア
パートに一室を借りて様子を探っている。
実は綾香は翔太の子を宿していてそのことを相談したかったのに事件が起き
てしまった。生まれた子拓海はすでに4歳である。何とか今後について翔太の
考えを知りたい。とりあえず友達関係でと、時折食事を作ってあげたりする。
認知症の二三久は翔太や綾香と知り合いになり、作った食事を分けて貰った
りする間柄になる。翔太は介護の資格を取り、服役の過去を明かした上で正職
員としてグループホームの仕事に就く。
しかし二三久が俊太に刃を向ける騒ぎを起こしたため辞めざるを得なくなっ
て、アパートにも戻れずネットカフェ住まいに。
嚥下障害で余命短い法輪は翔太を呼んで今際の告解をする。「わしは先の戦
争で上官の命令とはいえ何人もの民間人を殺した。今でも亡霊が現れる。それ
は後悔の証だと思う。しかし自分はその罪を告解をしていないから亡霊が出る
のだ。告解は同じように罪を犯し、後悔している人が相手でなければ真の告解
にならないと思う。君も君子の亡霊を見るだろう。それは後悔しているからだ
と思うのでここで私の罪業を告げ、私の償いをしたい。」
翔太は法輪の言葉に感動し、法廷では偽りを述べていたこと、赤信号で妻の
君子をひき逃げしたことを告白し、懺悔する。
翔太に向けた刃は錆びついた軍事用銃剣の刃だったのだ。
翔太は改めて綾香・拓海と家族になった。
作者の言いたいことは自らの良心に忠実であれということだろうか。
(告解とはキリスト教カトリック教会の代表的赦しの秘跡の中心的行為。洗礼
ののちに犯した罪を司祭を通じて神に言い表す行為。「悔悛の秘跡」と呼ぶ
=広辞苑)
(以上この項終わり)
◇『極刑』
著者: 小倉 日向 20210.8 双葉社 刊
この作品の基本構図は罪を償うことがない犯罪者に対する被害者遺族等の
反撃である。
極刑とは加害者に対し与える最高刑、死刑を意味すると考えてよいだろう。
世の中には犯罪が行われても証拠の不足などで十分な刑罰が与えられてい
ない場合が多々ある。また罪の意識を抱かずのうのうと過ごし、被害者及び
その家族などは因果応報を求めながら叶えられず辛い日々を送っている人が
いる。こうした不条理な犯罪被害に遭った被害者遺族などは犯罪被害者の会
を作って、互いに体験談、最近の心境や精神的つらさなどを述べあったりし
て立ち直りの手立てとしている。
こうした被害者遺族等が明かした加害者情報から、許しがたい犯罪者を
探し出し被害者と同等以上の恐怖と痛みを加え復讐する一人の男。それが
本作品の主人公の半田龍樹である。
半田龍樹はかつて当時10歳だった娘の綾香をわいせつ目的で攫われ暴行
の上殺された。妻は加害者に対し温情判決が出るような証言をした龍樹を
許せず去った。彼は今飲み屋をやっている。
彼は被害者の会で入手した被害者の情報をもとに、どうしようもない社
会の屑共に対し復讐を加えている。それは見事なほど残虐である。
多くの女性を陵虐し何人かは自殺にまで追い込んだ犯人堀江幸広。彼は
椅子に拘束された状態で刺殺された。
性的欲望から10歳の女児を誘拐、陵虐し死に追いやった野島恭介。半田
は服役中の彼に毎月面会し悔悟の様子を確かめている。しかし、野島は特
別な事情もなく同年配の服役者に殺された。
同棲中の女と連れ子に暴力をふるい妻に熱湯をかけ重傷を与えて服役、
仮釈放の身で即仕返しに舞い戻った三橋昭悟。彼は待ち構えていた竜樹に
つかまり、目に熱湯をかけらるというお仕置きを受ける。
飲酒運転でかつスピード違反で小学生5人をひき逃げした金持ちのバカ息
子は、出所後またも飲酒運転したため半田につかまってダムに沈められた。
会社で自分の能力が正当に評価をされていないという鬱憤を晴らそうと、
ネットで闇サイトをつくり、匿名で個人情報を暴露し、事の真偽にはお構
いなく自分の主義主張に合わないものは排除・否定する。その結果被害者
家族の人生を狂わせる結果を招いた速水怜治。琴平直子は弟がわいせつ事
件を起こした時に、家族として個人情報を流され中傷・誹謗の的にされ職
場を追われた。
半田は彼がつくったサイトに速水の仕儀に実名と住所、メルアド、電話、
写真、勤務先まで載せ社会的に抹殺した。
人が死ぬ瞬間を見たいという願望を持つ男高塚則夫。半田は自身が殺人
被害者になるべく罠に掛けようとしたが、偶々通りかかった少女を殺傷の
被害者にしてしまった。高塚を束縛し首吊り自殺を装って殺す。
小中学生を言葉巧みに誘い込み、ロリコン趣味の大人の相手をさせ稼い
でいる倉科太一。マンションの一室に隠しカメラを設け、少女らの淫らな
写真を撮ったり、淫行させ、その画像・動画などを商品化し顧客に届けて
いる。
半田は倉科を拘束しこれら顧客データを抑えてネットに公開する。顧客
には著名な政治家、財界人、文化人などが名を連ねていた。もみ消しを命
令された刑事らは半田に拘束されていた倉科を殺し半田の仕業に偽装しよう
としたが、一部始終が録画されていてこれもネットで公開される。
半田はこうした悪人を懲らしめなければならないという使命感と、罪の
意識が良心を苛む。それでも修羅の道を歩むしかない。
ともに犯罪被害者の家族として辛い過去を背負いながら、人間の罪と罰
を語り合った半田竜樹に琴平直子は思いを寄せるが竜樹は自らの罪を思い
これに素直に応えることができない。
半田は飲み屋を琴平直子に任せて、日本海の離島で隠遁生活に入る。
(以上この項終わり)