goo blog サービス終了のお知らせ 

読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

アメリカ人の物語Ⅰ 『青年将校ジョージ・ワシントン』

2017年04月14日 | 読書

アメリカ人の物語Ⅰ 『青年将校ジョージ・ワシントン
           (Geoge Washington:Guardian of the Frontier)
           著者: 西川 秀和  2017.1 悠書館 刊 

  

   アメリカ史の伝道師と自ら名乗る著者は、アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンに傾倒
し、歴史の面白さを伝えることを主眼にワシントンを中心にリンカーンまで、およそ200年間
のアメリカ近代史の一部を歴史読み物として編むこととした。第Ⅰ期アメリカ建国期の躍動、
第Ⅱ期大陸国家への道程、第Ⅲ期南北戦争の動乱の13巻が予定されている。その第1作が本書
である。

 本書は大まかに言って第1章と第2章ではワシントンの誕生とその家族、第3章では武人ワシ
ントンの誕生と新世界の覇権争い、第4章ではワシントンの大農園主としての顔、第5章では
独立戦争の幕開けである。

 アメリカの歴史は詳しくないし、ましてワシントンについては初代大統領であることと桜の
木を切った正直な少年のエピソードくらいしか知識はなかった。独立戦争に先立つ「フレンチ
・インディアン戦争」で頭角を現し、独立戦争で植民地軍の総司令官となったワシントンの人
となり、欠点と長所、宗教的信条と精神生活、家族と縁者、武人ワシントンのもう一つの顔と
しての辺境の土地投機者・大農園主の立場などワシントンの人間らしい実像が、読み進むに従
って明らかになってきて実に面白い。時折り著者の歴史観などが直接顔を出し(まるで司馬遼
太郎風)たりしてほほえましい。

 ワシントンには他人の判断を批判し自分の考えが常に正しいとする悪癖があった。考えが通
らないと頭越しに上に訴えることも何度かあった。また戦術選択に当たっても、上司の指示
に反して当時の戦闘ルールで退却を促す使者も立てず奇襲したり、独断専行の気味があった。

 アメリカ史を語るうえで奴隷とインディアンは欠かせない。奴隷の扱いでは南北戦争にまで
発展するが、先住民インディアンとの関係も厄介な問題でアメリカの恥部ともいえる。ワシン
トンの時代であってもヴァージニア西部への開拓ではインディアンとの軋轢はある。だが新大
陸での覇権を争うフランスと闘うときは協力し合って戦う。イギリス正規軍や植民地民兵軍の
軍事集団としての行動規範と、ゲリラ的攻撃を好み自分たちの利益になるか否か優先するイン
ディアンとはおのずから規範が異なり常に軋轢の元になる。
                               
 7年に及ぶフレンチ・インディアン戦争で勝ちを収めたイギリスは北アメリカアでの覇権を
確立し、植民地としてのアメリカに負担を強いる本国の圧政は、ついにアパラチア山系以西へ
の入植禁止、インディアンとの交易禁止令となってワシントンなど大農園主らの反発を買う。
さらに砂糖法、印紙法の制定、果ては東インド会社による紅茶売買の独占などに反発したボ
ストンへの懲罰諸法制定が続いたため、植民地諸州は一致して本国に対抗しようとフィラデ
ルフィアで第1回大陸会議が開かれる。この時点では植民地諸州代議員は本国が課税権など
公平な扱いをするよう求めるものが多数を占め、独立を求める急進派は少数であった。この
後独立戦争の嚆矢とされるレキシントン・コンコードの戦いの臨場感あふれる戦闘の再現シ
ーンが延々と綴られる。
 この時点でもまだワシントンはイギリス軍を国王軍と呼ばずに議会軍と呼んでいた。国王
の慈悲を信じ忠誠を誓っていたことをうかがわせる。

 以上アメリカ建国期のとば口であるが、立役者ワシントンの人間像と彼を取り巻く時代環
境がはっきりしてきた。40代のワシントンの人生はいよいよつぎのステップへと進む。

                              (以上この項終わり)
 


青山文平の『励み場』を読む

2017年04月11日 | 読書

◇ 『励み場』    著者:青山 文平  2016年9月 角川春樹事務所 刊

   

   著者青山文平の作品を読むのは初めて。この本は書き下ろしの作品である。
 時代設定は江戸後期である。戦がなくなって武士の居場所が中途半端になった。
 戦に勝ち残って領主になった主についた家臣と、主家が武士の道を捨て領地を
 取って百姓になったために家臣として一緒に百姓の道を選ばなければならなか
 った「名子」という立場に生まれた武士がいる。根っからの百姓と異なり、主
 家の名主にただ使われる身であって立つ瀬がない。主人公の信郎の出自ははそ
 んな名子である。

 信郎は能吏として陣屋の元締め手代にまで上った。しかし彼にとって今の地位
 は求める「励み場」ではない。つまり仮の働き場所なのである。土地の人の敬
 意を一身に受けるが、彼の望みはかつての武士の地位を取り戻すこと。
 幸い江戸の勘定方普請役の一員になれた。ここで今一段上り真の武家を目指す。

 さて、ここから出張先の上本条村名主久松加平との丁々発止の問答が始まる。
 出張の名目とは別に、この村が全国的な飢饉を無事に乗り越えられた秘密は奈
 辺にあるのかという探索を目論んでいた信郎は、加平との質疑応答、現場調査、
 村人との問答等から上本条村の秘密を明らかにしようと苦戦する。推理が当た
 っていたり、外れていたり…。この辺はなかなか読ませるところ。

 ついに信郎はことの深層(真相)にたどり着く。そして屈辱的な名子の身から
 武家の身に成り上がるという野望の虚しさを悟り、故郷に帰り村のために力を
 発揮することが自分の本来の「励み場」なのだということを悟る。
 なかなかうまく出来過ぎという感じもするが、結論としては爽やかな決着で後
 味は悪くなかった。

   ところで、信郎は武士と百姓のはざまで生きる方便として、言葉遣いは上司の
 武士に対しても百姓に対しても<分け隔てなく丁寧な言葉を用いた。当然のこ
 とながら百姓には尊敬されたが武士には顰蹙を買い上司からは指摘を受けた。
 ところが武士の世界に成り上がる野望を捨て、智恵とともに名子の立場で生き
 る道を選んだあと、自分が上司には正しく謙譲語や尊敬語を使っていることに
 気づき驚く。作者の巧みを感じさせる。

                          (以上この項終わり)




大津ヶ丘公園の大島桜を描く

2017年04月09日 | 水彩画

写生会で桜(大島桜)を描く

  
    clester F6

          本年第2回目の写生会は、柏市大津ヶ丘中央公園。UR(旧住都公団)の団地中央にあり、
         交通量の多い国道16号線に面している。テニスコートや野球場があるが、桜も数十本は植
   わっている。大半はソメイヨシノと見たが、中に超然とそびえる「大島桜」があった。
   桜は遠景で描くのはともかく、なかなか描くのがむつかしい。特に大島桜は花と同時に
   葉が出始めているので、その緑を描きこむのがむつかしい。「これは大島桜だぞ」という
   感じが出れば御の字とばかりに大胆に色を置いた。
    珍しく白も使った。白は不透明絵の具(グワッシュ)なので透明水彩らしさを損なうので
   なるべく避けるのだが、今回は仕方がない。
                              (以上この項終わり)


ジョン・ハートの『終わりなき道』

2017年04月01日 | 読書

◇『終わりなき道』(原題:REDEMPTION RORD)
                              著者:ジョン・ハート(John Hart)
                                訳者:東野さやか   2016.8 早川書房 刊 
                     (ハヤカワポケットミステリー)

   

 アメリカのノース・カロライナ州のさる中規模都市が舞台。
いままさに女性をかどわかそうとしている素性が定かでない「男」についての語り
で始まる。この「男」はこのスタイルでこの後幾度か登場する。

主人公はエリザベス・ブラックという女刑事。拉致・強姦された少女を救出したも
のの、犯人二人に18発もの銃弾を撃ち込み残酷な殺し方をしたということで指弾を
受け停職中の身である。

 一方ちょうどその頃、かつて市警ではエース的存在であったエイドリアン・ウォ
ールが13年の刑期を終えて出所した。彼は捜査で知り合った人妻ジュリアを殺した
罪で服役していた。エイドリアンはエリザベスが少女時代彼女を自殺から救ってく
れた恩人であり、彼を慕って警察官になってからも尊敬しかつ秘かに思いを寄せて
いる先輩である。

 そんな中、市郊外の教会で殺人事件が起こる。殺人現場はかつてエイドリアンが
犯したとされる状況と全く同じで出所したエイドリアンが疑われ逮捕される。果た
して二つ目の殺人もエイドリアンが犯人なのか。

 エリザベスの事件とエイドリアンの殺人事件は一見脈絡がないように見えるが、
これが大きな縦糸となり、その関係者である拉致・強姦事件の被害者チャニング、
エリザベスの父親やパートナーのベケット、エイドリアンが殺した人妻の夫ローラ
ンドと息子ギデオン、エイドリアンが服役していた州刑務所の所長と4人の看守等
彼らのかかわるエピソードが複雑に絡み合って終章になだれ込む。

 実はエイドリアンは収容先刑務所でイーライという受刑囚と親しくなった。イー
ライは現金輸送車を襲い17万ドルの金貨を奪った。警備員や通行人が死にイーライ
は終身刑で91歳だった。刑務所長と看守らはまだ見つかっていない金の在処を吐き
出させようとイーライを痛めつけ、イーライは死んだ。イーライと仲が良かったエ
イドリアンはきっと金の在処を聞いているはずと言語を絶する拷問を加える。頑と
して口を割らなかったエイドリアンは13年で釈放される。きっと金を捜しに行くも
のと刑務所長らはエイドリアンの行動を監視する。何しろ金貨は今では600万ドル
の価値がある。

 主人公のエリザベスも、もう一方のエイドリアンもタフではあるがさして超人的
活躍をするわけではない。いつも守勢に回ってはらはらする。終章では大立ち回り
があるが、アッと思うような働きをするのは18歳のチャニングだった。

 不倫中に妻が妊娠したと知り、殺人の罪を着せられても妻のことを慮って真実を
語らなかったエイドリアン。強姦を受けて妊娠した娘に「産め」と強いるエリザベ
スの父(牧師)、父離れしていく娘を取り戻したいと次々と娘に面差しが似た女を
殺していく父(牧師)など、いささか強引と思われる状況設定に抵抗感はあるもの
の、次々と起こる新事態のスリリングな展開で、新書版2段組み577ページも苦に
ならない圧倒的な迫力で満足した作品だった。
                           (以上この項終わり)