読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

笹本稜平の『強襲―所轄魂―』

2016年01月31日 | 読書

◇ 『強襲―所轄魂―』 著者:笹本稜平 2015.7 徳間書店 刊

  

  久々の笹本稜平。この前はアラスカの山岳ものでこれはこれで感動したが、この作家はやはり
 警察ものが安心して読める。
  本作は「所轄魂」シリーズ第3作目。「読楽」に連載された(2013.12~2014.12)。

   主人公葛木邦彦は警視庁刑事部捜査一課殺人犯という花形部署から一転、所轄の城東署の強行
 犯捜査係長として働いてる。 
   息子の俊史がキャリアの警察官僚として警察庁(刑事局刑事企画課の課長補佐)に勤務していると
 いう好都合な設定がこのシリーズ物のみそ。

  今回は暮れも押し迫った時期に、男が元妻を人質にとってマンションの一室に立てこもり、葛木を
 交渉人として名指しし、とんでもない要求を突き付けて来たところから話が始まる。
  男はかつて刑事部のSIT(捜査一課特殊犯捜査係)要員だったという西村国夫35歳。2年前に、
 武器携行の暴力団員を誤って射殺したことで警視庁を辞めている。事件は正当防衛ということで罪
 には問われなかったものの、実は複雑な背景があったらしく、西村は警視庁幹部をターゲットに、
 記者会見を開き真相説明するよう迫っている。実情を知らない葛木は突然交渉人にされ対応に苦
 慮する。

  どういうわけか本来所轄に捜査本部が置かれるべきところ、今回の事案に限って本庁におかれ
 て、しかも警察庁警備部と公安が絡んでいるらしく、警備部所属のSAT(特殊襲撃部隊)の出動を
 図っている。
  いろいろ調べているうちに、事件は警察官僚出身の大物政治家が、邪魔者を警察の手を借りて
 抹殺した。その道具として使われたのが西村であったという構図が徐々に明らかになってくる。背
 景事件をうやむやにしようと人質事件犯人である西村を射殺しようと焦る警視庁・警察庁上層部。
 自爆用の時限爆薬まで用意し、真相暴露を求める西村の心情にシンパシィを感じながらも、何と
 か自爆によって事件がうやむやになることを避け、また人質と周辺住民の被害を食い止めようと
 駆けまわる所轄の働きで、事件の真相が徐々に明らかになり、証拠もそろった。政治家との癒着
 で犯人抹殺を急ぐ警察庁の一部幹部は、ついに警視庁捜査二課、監察の手によって芋蔓式に取
 り調べを受け、一網打尽の大団円へ。

  SITの一員であった西村は周到な準備とステップで警察庁、警視庁上層部で政治家との癒着
 にかかわった腐敗警察の指弾を狙った。その窓口として正義漢の噂が高い葛木を信頼できる公
 証人として選んだのだという。結局西村は葛木の働きで所期の目的を達し、自爆もせずに投降し、
 法の裁きを受けることになった。
  人質事件の小説はサスペンスに満ちていて面白い。
                                              (以上この項お終わり)

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