読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ローズ・ワイルダーの『わかれ道』を読んで

2017年01月09日 | 読書

◇『わかれ道』(Driving Loads)

  著者:ローズ・ワイルダー・レイン(Rose Wilder Lane)
  訳者:谷口 由美子    2008.4 悠書館 刊

  
 
  土曜日の夕方TV からおなじみのテーマソングが流れてドラマ「大草原の小さな家」が始
 まる。1974~1982まで続いたアメリカの旧き良き時代のインガルス一家の物語だ。
 その原作小説の作者はローラ・インガルス・ワイルダー。実はこの原作の小説「小さな家シ
 リーズ」はローラの娘ローズとの事実上共作だったようだ。このころローズはすでに文筆で
 は世に広く知られていた。ローズはローラの一人娘である(もう一人の子供は早世した)。

  『わかれ道』は小説(フィクション)であるが、ローズの自伝的色彩が強い。
 
 ダコタの田舎町ローズの家は貧しく、17歳で電信技術を学び、電信技手として生活の糧を得
 る決心をして家を出る。幼馴染のポールはすでにリプリーという駅で夜勤の電信技手として
 働くことになっていた。

 町での生活は辛酸を極めた。しかしそれに耐え日勤・夜勤を続けようやく商品取引所の電信
 技手として安定的な収入を得ることが出来た。友人も得て出かけたパーティーでギルバート
 ・ケネディ(バート)という魅力的な青年に会う。誠実ではあるが堅物のポールと違って快
 活で意欲的なバートの魅力の虜になる。そしてある夜どんちゃん騒ぎの流れでついにバート
 と結婚することになる。問わず語りに未来を約束していたポールに思いを残しながら。

 しかしケネディは大言壮語し金を浪費する詐欺師のような夢を追う男だった。カリフォルニ
 アの土地売買で巨万の金を手にする筈が叶わず、多額の債務を背負ったまま雲隠れ。結局ロ
 ーズはその後始末のために5年も土地セールスに駆け回る羽目になる。
 
 死に物狂いの土地セールスでそれなりの成果を上げるローズは、欧州に戦雲が迫る中で土地
 ブームの先行きに見切りをつけて文筆の才を生かし新聞や雑誌に小文を連載し始め評価を得
 はじめる。
 そんな中再び現れたバートは「これまでのことは許してくれ、俺は改心した。これから働く。
 もう酒はやらない。今度の構想は特許薬をオーストリアで大々的に展開することで巨額の収
 入が見込める。おれと一緒に来てくれ。君なしでは希望もない。」
 ヘレンは断る。「離婚しましょう、そうすれば二人とも晴れ晴れと新しい出発が出来る」。

 故郷の町で母親と暮らすポールは堅実な生活を送っていて、未だにヘレンとの幸せな家庭を
 夢見ている。しかしヘレンを食べさせていくのは自分の責任だから妻を働かせる気はない。
 ヘレンには自分のやりたいことを押し込めて、ひたすら夫の帰りを待ち、機嫌を取り結ぶよ
 うな平凡な家庭に収まった貞淑な妻の姿は似合わない。
 「それぞれにそれぞれの世界があるのよ」
 ついにヘレンは飛び込んできた特派員の話に乗って東洋へ旅立つ。 
    
 小説のタイトル『わかれ道』原題はDriving Loadsであるが、本の裏表紙にロバート・フロス
 トの詩の一節が載っている。ローズが恋人との別れに引用した詩の一節である。
 「黄色い森で道がふたつにわかれていた。わたしはあまり人が通っていないほうの道を選んだ
 それが大きなちがいをもたらした」

  何やらこの小説の暗示的な一節ではあるが、本を読み進めば主人公ヘレンの数奇な人生のど
 こをとってみても、彼女にとって間違った選択であったようには見えない。いつでも真剣に自
 分求めるものに向かって真摯に取り組んできたのだ。常に愛を感じてはいながら自分を殺して
 まで彼の庇護の下で平凡な主婦であることはできないという決意。葛藤の末に東洋の地に特派
 員としてに旅立ったヘレン、ドイツ軍がパリに侵攻したとニュースを聞いて「フランス語を習
 わなくちゃ」という思いに駆られるヘレンの向上心に拍手を送りたくなる。

                                  (以上この項終わり)
    

  

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