読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

桐野夏生の『路上のX』

2018年09月04日 | 読書

◇『路上のX』 著者:桐野 夏生  2018.2 朝日新聞社 刊

  

      読後感は思ったほどの感銘を受けなかったこと。桐野夏生らしさが期待したほ
 どうかがえなかったから。
  何を言いたかった、何を書きたかったのか。
  現代の巷を浮遊する少女らの実相を、つぶさに観察あるいは取材し練り上げたス
 トーリーで、それはそれでほとんど知らない世界を垣間見る思いで興味はもったも
 のの、たまたま、ひどい親の元に生まれたばかりに過酷な生活を強いられている彼
 女たちが、それでも必死で彼女らを食い物にしようと狙っている男どもに反撃をし
 たり、
餌食になったり、悪いなと思ったときはそれなりに反省したりという彼女ら
 の必死に生きる姿は、アンダーカルチャーの犠牲者として、ただ同情しているだけ
 ではすまないような気持ちにさせる。

  主人公は伊藤真由16歳高2。父と母が借金逃れで夜逃げ、父の弟に預けられる。
 そこは子供が2人いて決して豊かではなく、真由は居場所もなく家出する。渋谷で
 夜の仕事師に捕まるが危うく逃げ出しうろついているところ同じような境遇のリ
 オナと知り合う。リオナも非情な母親と中2の娘を陵虐する義父の家から逃げ出す
 という真由に負けず劣らず過酷な過去を持っていた。宿のない彼女らはマンガ喫
 茶、ファーストフード店、カラオケルーム、ラブホなどを渡り歩く。

  アルバイト先の中華料理店でチーフにレイプされた真由は途方に暮れてリオナが
 寄宿する男のマンションに転がり込む。レイプを許せない真由はとうとう中華料理
 店のチーフを警察に訴える。そこに叔父も真由の弟を預かった伯母も呼び出され、
 真由を取り巻く人々のいろんな事情が明るみに出る。

  両親に捨てられた思っているものの、真由はそれでもせめて連絡が欲しいと母親
 を慕っている。しかし伯母が言うには母親は経営するレストランのシェフと恋仲に
 なり家出、逆上した父親はその間男を殺傷、刑務所に入っているという。ただ今彼
 氏の子を妊娠中という母、一緒に住もうとは言わない母の話を聞いて真由は決心す
 る。一人で生きていこうと。

 「ごめんじゃねえよ。あたしはレイプされて、もう二度と元のあたしじゃなくなっ
 たんだよ。それなのに、お母さんはカレシとうまくやってるんだよね。最低だよ、
 最低の親だよ」、「200万円振り込んで。私は一人で生きていくから」。

  複雑な家庭事情が背景にあり、否応もなくネグレクト、虐待、DV,レイプ、JKビ
 ジネス、売春といった裏社会の波に飲み込まれていく子供らを大人はどうやって救
 えばいいのか。作者はそこまで提案も示唆もしていない。
  

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