◇『海の見える理髪店』作者:荻原 浩 『オール読物』9月号掲載 文芸春秋社 発行
我が家では「オール読物」を定期購読している。アメリカに住む次女が日本の読み物に飢えていて、単
行本を買うと高くつくというので新鮮な内容でかつバラエティに富んだ小説が掲載されているこの雑誌を
定期購読し、夫婦で読み終わったらアメリカに送ってやることにしている。
定期購読の特典で22日発行の雑誌は20日に届く。早速第155回直木賞受賞対象作品『海の見える
理髪店』と『いつか来た道』、『成人式』の3編の短編小説を読んだ。
いつものことながら、まず選考委員会のメンバーの感想を読む。これがまた選考委員各氏の小説への持
論、価値観、世界観、個人的好みなどがよく表れていて面白い(選考委員は、浅田次郎、伊集院静、北方
謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、東野圭吾、宮城谷昌光、宮部みゆき)。
受賞者荻原浩氏の作品はこれまで読んだことがなかったが、「上手に泣かせる短編」(宮部)、「ベテ
ランらしいうまさや配慮に一日の長を感じる」(浅田)、「おだやかでいて鋭い。まさにプロの文体であ、
る」(伊集院)など大方の委員は高く評価していた。私個人としては『海の見える理髪店』もよかったが、
『いつか来た道』の方がよかった。作者は男性なのに、女性の心理がうまく表現されていて素直に読んで
いけた。
受賞作対象の作品は、宮城谷氏の評「つくりものの気配が濃厚に残っているため小説の世界に素直に入
っていけない」や高村氏評「熟練の手で紡がれている物語はどれもあざとく、予定調和的ではあるが…」
にあるようにうまく作りすぎた作品のように思えた。
受賞者の弁で荻原氏は「「賞をもらうために書いているわけじゃない」。日頃、負け惜しみ半分でそん
なことをほざいている人間なので、こんな時にどうリアクションすればいいのか困っています。…冒頭の
セリフをほざいた後には、いつも続きの言葉があります。「でも、貰えるなら、貰う」。というわけで、
いただきます。」には笑った。
(以上この項終わり)