◇『警視の不信』(原題:AND JUSTICE THERE IN NONE)
著者:デボラ・クロンビー(DEBORAH CRONBIE)
訳者:西田 佳子 2005.9 講談社 刊 (講談社文庫)
ダンカン・キンケイド/ジェマ・ジェイムズを主人公とする『警視シリーズ』は、『警視の休暇』を皮切
りに18作品を数え、うち13作が日本語訳で出版されている。社会派ミステリーとされるが、内容的
には日本でいう警察ものである。主人公の二人とも警察官であり、刑事事件とともに二人の警察官
とその家族・友人などを巡る人間関係の変化が魅力である。日本でも警官同士の夫婦はそうはい
ないようだが、外国でも事情は同じではないだろうか。小生もこのシリーズ全部読んでいるわけで
はないが、訳者西田氏によれば二人は同じ職場の上司と部下、一緒になれば職場結婚である。
今回は舞台がロンドン。巡査部長であったジェマが警部補に昇進し、所轄のノティング・ヒル署の
殺人課係長として事件に取り組む。管内で起きた凄惨な殺人事件に本庁(スコットランド・ヤード)
の捜査一課のスタッフであるダンカン・キンケイドは上司に頼みこみこの事件捜査に割りこむ。この
二人はお互いに子持ちのバツイチ。同居はしているがまだ結婚はしていない。二人の仲は部内でも
公然の秘密で、年長のジェマの部下フランクスなどは女性の上司に我慢ならず、トップの警視に不
満を直訴したりしている。男社会である警察では、男女共同参画時代とは言ってもこのような軋轢
は世界中何処でも同じようである。
さて肝心の事件はというと、大物アンティーク・ディーラー、カールの若くて美しい妻ドーンが喉を
切られて殺された。似た手口の事件が2ヶ月前に起きている。連続殺人なのか。年の差婚の嫉妬
深い夫カールの犯行か。あるいはドーンの不倫の相手フィリップか。ジェマとキンケイドは決め手と
なる証拠もつかめないまま、警察上層部からのプレッシャーに押しつぶされるように次々と浮かぶ
容疑者を追い続ける。
そしてまたも殺人事件が発生。被害者はなんと有力な容疑者とされていたカールだった。
混迷する捜査。そして思いもしなかった人物が浮かび上がる。
読んでいて気がついたが、移民問題の難しさが、本書でもきめ細かく語られている。今のイギリス
ではロンドンの中枢部でもロシア人、西インド諸島人、ポーランド人…が入り混じって住み、互いの
疎外感を隠そうともせず、冷たいまなざしで監視し合う。子供はそんなことはお構いなく親しくなる。
EU離脱か否かを決める国民投票は今日始まった。結果は僅差で離脱が決まった。
人種のるつぼと化した欧州、英国。日本人は依然として余所ごとにしか受け取っていない。いずれ
難民の大きな流れは日本をも襲うのではないだろうか。
『警視シリーズ』最新作は『警視の因縁』(2015.6 刊 講談社文庫)
(以上この項終わり)