◇ 『火花』 著者: 又吉 2015.8 文芸春秋社 刊
27年度上半期の芥川賞受賞は又吉直樹の『火花』と羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』
に決まった。
又吉の『火花』はすでに100万部売れた、200万部だとか大ブレークのようだ。こんなに騒が
れている作品は一体どんな小説だろうかと関心は持ったが、買うほどのこともあるまい図書館
で順番待ちしようと思っていた。
先週のこと、親しい知人の退職慰労食事会をしたところそのH氏夫妻から芥川賞受賞2作の
載った文芸春秋9月号を戴いた。「単行本もいいけど受賞2作品が載ってるし」と有難いプレゼ
ントでさっそく話題の「火花」を読んだ。
恥ずかしい話だが、初め新聞で受賞の記事を読んだ時、題名は「花火」と思った。その後も車
内吊り広告を見た時も「花火」…いや「火花」かと常に混乱していた。妻に話したら「私も間違っ
て花火だと思ったわよ」というので、夫婦も50年も一緒にいるとここまで似るものかと苦笑した
が、今日舎弟のブログを読んでいたら「遠征登山を中止し時間はたっぷりある。それでは又吉
氏の『花火』でも読もうか…」という記事を発見、笑った。血を分けた弟はこんなところまで似る
ものかと妙に納得した。
ま、それは笑い話だが、実際小説を読んでみて何が「火花」のかよく分からない。むしろ冒頭
の主人公徳永が師匠として私淑する神谷と出合ったのは熱海の花火大会で、終盤の零落した
神谷と再会し旅したのも熱海の花火大会なので、題名は「花火」でよかったのではないかと思
う(花火の中のひとつの火花のような存在を訴える意味という解説もあるが…そう言われない
とね)。
それは読者の勝手な言い分だからさておき、これだけ評判な作品だから選考委員の大半が
押したものと思ったらそうでもない。私は従来から芥川賞も直木賞も、作品を読む前に選考委
員が候補作をどう読んでどう評価したか「選評」を読んでから本体に取りかかる。芥川賞は9人
の選考委員が2時間程度意見を出し合って決めているようで、「火花」の場合評価した人5人、
よく分からない人1人、あまり評価していない人3人とまあそんなものかなという結果である。
酷評はなかった。
よくいわれるが、芥川賞は純文学、直木賞は大衆文学。芥川賞は作者が書きたいことを書く、
直木賞は読者が喜ぶものを書く。そうした目では「火花」は、エンターテイメントの漫才という世
界で生きる人たちの生態、ひたむきに芸風を追及する姿や真面目に生きようとする姿勢など
を洒脱で新鮮な表現でつづっているので、それなりに面白いものの、なにぶんにもそれが一
本調子で延々と続く感じで、やや飽きる。それに関西弁が縦横無尽に飛び交うので読むのに
疲れる。
筋らしい筋はないのだが、終盤で落魄した神谷が受けを狙って豊胸手術をした姿で現れ、入
浴はどちらで・・・。などというくだりはまさに蛇足で、それまでの哲学者然とした神谷が突然普
通の人になり下がってしまい小説全体をダメにした感じを持ってしまった。
お笑い系出身の人が書いた小説ということで一躍人気をさらったが、さて次作は。
(以上この項終わり)