◇ 『情事の終わり』(原題:THE END OF THE AFFAIR)
著者:グレアム・グリーン(Graham Greene)
訳者: 上岡 伸雄 2014.5 新潮社 刊(新潮文庫)
小説の舞台は第二次世界大戦の初期から後半にかけてのロンドン。
中年作家のベンドリックスは、小説の取材で出会った高級官吏のヘンリーとその妻サラと親し
くなる。
ベンドリックスはサラと情を通じ、5年に渡って秘かに情事を続ける。ある日ドイツのロケット攻
撃の最中に逢引きをしていて爆撃に遭い怪我をして死にそこなう。その後サラは会わなくなる。
1年半ほど経ったある日ロンドンの公園でヘンリーと出会う。誘われて寄ったヘンリーの家で
サラに再会し、再びサラとの情事に心が動く。
しかしサラは昔のようにはつき合おうとしない。彼女に何があったのか。
その夜、なんとヘンリーからサラは浮気をしているらしいと悩みを打ち明けられる。ベンドリックス
はヘンリーに替わって興信所を使って調べてみようと持ちかける。サラは今どんな男と愛し合って
いるのか。
しばらくサラの行動を内偵していたが証拠がつかめないまま過ぎた或る日、ヘンリーの家のパ
ーティーに紛れ込んだ調査員がサラの日記を持ち出してくる。
日記には夫ヘンリーに対する愛、ベンドリックスへの愛、神の存在に対する疑念、揺れ動く自分
の心への不信と感情の移ろいなどが赤裸々に語られていた。こんな会話の内容まで日記に書く
かというほど長々と綴られた日記を読んだベンドリックスは、・・・。
『情事の終わり』は グレアム・グリーンの1951年の作品で、日本でも1952年に田中西二郎の
翻訳で新潮社から出版された。遠藤周作がこの本を手にロンドンの街を歩き回り描写法を研究し
たというのは有名(『冬の優しさ』)。
「究極の愛と神の存在を問う永遠の名篇」というのが出版社の惹句であるが、一人称の語り手
(主人公モーリス・ベンドリックス)の回想形式で、ベンドリックスが理屈っぽい作家のせいか描写
が独特で、ストーリーの時間軸も行ったり来たりが多く、事の流れが理解しにくいところがある。
いずれにしてもこの本は単なるエンターテイメントとしての不倫の物語ではなく、個人の心の裡
に潜む神の存在に対する疑念と信仰への傾斜を述べたシーリアスな文学作品として評価したい。
作者は英国人であるが26歳のときに英国教会信者からカソリックに改宗しており、かつその後
共産党員となるなど思想的に稀有な存在である。また第一次世界大戦のときにドイツの対仏諜
報活動、第二次世界大戦時には英国MI6の一員としてスパイ活動に携わっているという異色の
作家である。
(以上この項終わり)