読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

日本国の国防力を問う小説『存亡』

2012年07月24日 | 読書

◇ 『存亡―UNINFORMED OPERATION』 

                       著者:門田泰明 2006.6光文社刊

    

  著者が持つ日本国の脆弱・貧困な国防力と我が国政治家・国民の希薄な国防意識に対する
 やりきれない気持ちが込められた作品だろう。
  圧倒的な人口を擁する中国とは比較しても始まらないが、国民と国土を守る自衛隊の兵力は
 およそ24万人(1995)。人口が日本の1/3の韓国が62万人(日本の3倍)、人口が1/6の北
 朝鮮は112万人(日本の5倍)と比較すると泣きたくなるほどだ。(韓国と北朝鮮はこのほか予
 備役軍人がそれぞれ450万人、470万人がいる)。
  確かに日米安保がある、などと人頼みにしていていいのかと思ってしまう。

  著者は余りにも少ない兵力や貧弱な装備を嘆くだけでなく、国民の国を守る意識、とりわけ
 国家統治の根幹に携わる政治家などの能天気な国防意識、危機管理意識を本気になって
 怒っている(ように思える)。
  「・・・敗戦後の日本国民がセックスとカネと犯罪に溺れたヘラヘラ民族に陥るのを、まだか
 まだかとまちかまえ、いま4ヶ国(中・ロ・韓・北)合同の槍を繰り出してきたと考えられなくもな
 い・・・」やや激情に走っているきらいがあるが、気持ちは伝わる。
  無能力の政治家を大臣にしてしまった首相が「大臣適性判定会議」の必要性を思い浮かべ
 るくだりでは思わず苦笑。

  初冬のある日、福井県大飯原発が国籍不明のテロ集団に乗っ取られる。阪神地域は大停電。
 官邸も大雪のためと多寡をくくっている。まもなく柏崎原発も自衛隊を名乗る集団に乗っ取られ
 た。関東も大停電に陥る。その直前敦賀の海域に国籍不明の潜水艦侵入が認められ、その後
 日本海には夜陰に乗じて何艘もの艦船が出没した。原子力潜水艦まで現れ魚雷攻撃を受けた
 日本の護衛艦が沈没した。
  自衛隊には有事に備えた「中央即応集団」がある。その中に瞬時対応(初動打撃)を任務とし
 たアメリカのグリーンべレー相当の超人的戦闘能力を持つ「打撃作戦小隊」がある(33名の集
 団。本当にあるのかどうかは未確認)。右往左往する官邸の危機対応本部。初動態勢に入った
 打撃作戦小隊は大飯に向かう。
  国籍不明の数100人規模のテロ集団は大飯原発、柏崎原発に止まらず首都東京の混乱を
 招くゲリラ的攻撃を進めて来た。なんとか原発攻撃を食い止めたものの首都攻撃は兵力不足
 と指揮の混乱で被害拡大。首相官邸が狙撃され首相・閣僚が死亡、頼みの米軍は座間の司
 令官が本国に雲隠れしてしまう。

  フィクションとはいえ全くあり得ない話ではない。原発の物理的破壊だけでなく制御システム
 が乗っ取られたり破壊されたらどうなるか、思うだに慄然とする。 

  (以上この項終わり)
  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする