2006年3月25日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 鈴木大介+新日本フィル=アランフェス
          
3月19日(日)、三重県文化会館(津市)大ホールで行われた、新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会で、鈴木 大介さんがアランフェスを演奏されるというので出かけて行きました。
鈴木さんのお話では、今回はオーケストラ側の要望でPAは使用しないとのこと。
大方の場合、オーケストラ側からは、PAを使用して欲しくないとの意向が聞こえてくるのですが、だとしたら、失礼ながらオケ側でどれだけの音量コントロールができるのか、とても関心があったので、そんなことに期待しながら座席に着きました。(座席は鈴木 大介さんのご好意で確保していただけましたので、1階席のとても良い位置で聴かせていただくことができました。大介さん、ありがとうございました)

会場は3階席まで備えた2000人近く入る大ホールです。見渡すと「こんな大きなところで、しかもマイク無しで、ほんとにギターコンチェルトをやるんだろうか」と、いささか心配になるほど立派なホールです。
一曲目はシャブリエのスペイン狂詩曲。威勢よく、しかも大変軽快に、オーケストラにとってみればギタリストの指慣らしみたいなものでしょうか。(そう感じさせるほど、オケは楽々と弾いているように見えました)充分雰囲気も出て、会場が一遍にスペインムードに・・・。それにしても、生意気なようですが、最近の日本のオーケストラの技術は、充分世界レベルになりましたね。個々の奏者のテクニックからいっても、弦や管の音色からいっても、聴いていて、心底「いいなあ」と感動させられます。

いつだったか、30年近く前だと思いますが、ジョン・ウィリアムスの何回目かの来日の時、ある一流と言われるオーケストラとアランフェスを共演したことがあります。その時の模様が、たしかNHK-TVで放映されたのですが、ジョンが余裕綽々なのに対し、オーケストラがまったく情けない演奏しかできなかったことがありました。練習不足なのか、それとも慣れない曲のせいなのかわかりませんが、とにかくガタガタ。高いチケット代を払って、会場まで聴きに行かれたお客さんに対し、ある意味で、「失礼なことをするなあ」と怒りを感じるほど、その演奏はまずいものでした。一楽章でチェロがソロで入る部分、そのチェロが入りそこなって、結局その部分の旋律がそっくり抜けてしまい、ジョンが苦笑いをしながら弾いていたのを思い出します。その他の部分もまったくスペイン音楽になっていなくて、ジョンがかわいそうなくらい悲惨なものでした。
当時では、日本で一流と言われるオーケストラでさえ、曲がスペインものの「アランフェス」となると、まだそんな有様だったのです。

今回のプログラムは、第2曲目がアランフェスです。鈴木 大介さんが溌剌として舞台に登場。とてもさわやかな印象で好感が持てます。ギターは、最近鈴木さんがとても気に入っているとおっしゃっている、今井さんという方の楽器と思われます。オーケストラは、ざっと30数名から40名といったところでしょうか。
第一楽章の冒頭、ギターのラスゲアードが始まった瞬間、先ほど言ったような過去のオーケストラと、今日の新日本フィルとの違いは歴然。ギターを盛り立てるべく、弦が最弱音で入り、いやが上にもスペインのムードを駆り立てます。鈴木さんのギターも、素晴しいテクニックと歌い回しで、淀みなく進行していきます。
オケもソロギターを前面に押し出し、決して出過ぎることはありません。
二楽章も予想よりゆったりとしたテンポで奏でられますが、それにしても鈴木さんのギターの音が、オーケストラをバックになんと良く響くことか。
輝くような、と言ったらいいのでしょうか、粒立ちの良い、透明感のある、なんとも素敵な音色で、甘く切ないあのメロディーが会場一杯に響き渡ります。
後半カデンツァ部、ギターのかき鳴らすラスゲアードの盛り上がりを受けて、オケが絶妙のタイミングでクライマックスに突入。
きっと指揮者のみならず、オケのメンバーにも鈴木さんの音がはっきりと聞き取れていたのではないでしょうか。それほど絶妙のタイミングです。
そしてあの有名な旋律を思う存分歌わせた後、静かに終焉を迎えます。
最後はハーモニックスの音まで、はっきりと聴き取ることができるほど、素晴しく楽器が鳴っていました。
いや、楽器が鳴っていたのではなく、鈴木さんが楽器を鳴らしていたのでした。
三楽章もこのままずっと終わらないで欲しいと思えてしまうほど、鈴木さんのギターと新日本フィルの共演は、心地よい緊張を保ちつつ、軽快に、しかも静かに盛り上っていきます。最後の3つのDの音が鳴り終わった瞬間、会場からは割れるような拍手。

会場には、今日初めて生でアランフェスを聴いたという方が、きっと大勢おられたと想像しますが、今回の鈴木 大介さんと新日本フィルハーモニーの奏でるアランフェス協奏曲は、そんな人達にも充分満足できた演奏ではなかったでしょうか。
それにしても私は、鈴木 大介さんのアランフェスを聴いて、まったく新しいアランフェスを聴いたような感動を覚えました。
何が違うんだろう?リズム?テンポ?アクセント?音色????
今ここでなんとも言うことはできないのですが、何かが違う。そう、何かが違っているのです。何か新しいものを感じたのです。しかも、その違いがとっても心地良いのです。
この次鈴木さんの演奏を聴かせてもらう時は、なんとかその謎解きをやろう!
もっと一音一音、聞き逃さないないようにしよう。

内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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