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映画「ブラック・パンサー」:素晴らしい映画だけど・・・・・・(ネタバレ注意)

2018-03-11 16:55:22 | テレビとラジオ
 映画「ブラック・パンサー」が話題で、私も早速観に行った。

 どういう点で話題かと言うと、とにかく良く出来ている、というのである。

 詳しい話は、すでにネット上の大量の記事で論じられている。

 簡単にまとめると、

 第一に、アフリカ系アメリカ人にとっての様々な象徴的・歴史的出来事や、アフリカをめぐる国際的な情勢などが、シナリオに見事にちりばめられている。

 第二に、そんな一見小難しいそうな諸々の事柄を「007」ばりに魅力的なアクション映画にまとめ、「ライオンキング」的なヒーロー成長物語の体をとっていて、子どもから大人まで楽しめる娯楽作品になっている。

 第三に、出てくるキャラクターが、いずれも非常にキュートでカッコいい。出てくるアイテムやマシンも魅力的。ヲタク心をくすぐりそうな完成度。



 そうなんだけど、確かに魅力的な映画なんだけど、私は悲しい気持ちになった。

 これは映画の出来・不出来とは関係ない。

 あくまで、映画の世界に悲しくなっただけ。

 批評でも分析でもない。ただの感想。



1.結局、内戦しちゃう「文明国」

 何が悲しいって、この話、要するにアフリカの小国の内戦の話なんだよね。

 あらすじは以下(ネタバレ満載)。

 アフリカのワカンダ王国(架空)が舞台となる物語。

 この王国は、ヴィブラニウムという超特殊な金属を産出し、それによって世界で最も文明の進んだ国となっていた。

 しかし、欧米諸国にヴィブラニウムを狙われることを恐れた王国の人々は、その事実を隠し続け、

 鎖国を貫き、最貧困の途上国を演じ続けていた。

 そんなワカンダで王位の継承が行われた。これは現在の王がテロで死亡したことから、王子がその座に即位することになったためである。

 そこで、ある部族の挑戦者を見事に倒し、王となった。

 王は、秘薬によって強靭な肉体を得ており、ヴィブラニウムを織り込んだ特殊なスーツを着ることで、ブラック・パンサーとなり、隠密行動を展開する。

 で、なんだかんだあって、アメリカのスラムで育った主人公のいとこ(=王位継承権者)が登場し、王国の復讐のために主人公に闘いを挑むのだった。

 その結果、主人公に付く部族と、いとこに付く部族に分裂し、内戦になるのだった。



 文明が最も進んでいて、世界を変える可能性を持つワカンダ王国!とか言いながら、

 単純な王継承権をめぐって、ありがちな内戦に陥るという悲しさ。

 どうしてそうなるかと言うと、この国は政治的な意思決定がめっちゃくちゃ単純だから。

 話し合ってダメなら、速攻、武力衝突で決める、という構造。

 科学技術は進んでいるけど、その点、どうよ・・・。

 王の正統性も、基本的に血統と武力のみに依拠。

 もはや、逆に新しい。

 で、これが世界で最も進んだ「文明国」なの?

 いや、もちろん、欧米諸国だって全く偉そうに言えたもんじゃない。

 ただ、ワカンダがどうやって世界の弱者を救うべきか、その方法をめぐって内戦って、悲しくなるよ。

 外国救う前に、まずお前のところ、安定させろよっていう。



2.キルモンガー、結局何をしたいんだ問題

 キルモンガーっていうのが、主人公のいとこで、彼が最大のライバルになる。

 スラムで育ったキルモンガーは、父親をその当時の王に殺害されていた。

 それはそれで仕方のないことだったのだが、キルモンガーはその恨みを晴らすために復讐劇を開始する。

 そのためにキルモンガーが歩んだ道がすごい。

 軍隊に入り、肉体を鍛え、戦闘力を高め、ついでに大学の奨学金を得て、MITかなんかに入学。

 知恵と武力を兼ね備えた、すごい奴になり、さらに人を殺す能力を高めていく。

 だから、普通に生身の主人公と闘うと、キルモンガーの方がちょっと強かったりする。



 それはいいんだけど、難しいのがここから。

 キルモンガーの復讐は、王国を乗っ取り、ワカンダの武器を世界の弱者に配り、革命を起こすことらしい。

 うーん、ここがよく分からない。

 具体的に誰が弱者なの?誰に受け取る資格があるの?

 たとえば、パレスチナ人?ロヒンギャ族?

 アメリカのスラム街のアフリカ系の人々は?

 アフリカ各地の巨大スラムの貧困層は?

 彼が言う「弱者」に武器を与えて、彼が言うような世界の変革になる?



 この疑問はやっぱり映画のなかでも、主人公が口にしている。

 キルモンガーの言うとおりにしたら、世界が破滅してしまう!と訴える。

 明らかに単なる世界内戦になって、弱者が沢山ひどい目にあう世界になるのは目に見えている。

 要するに、世界がシリア内戦みたいになるわけで。



 仮にワカンダが圧倒的な軍事力を持っていても、どうせ世界を統治なんて出来っこない。

 軍事力で統治できるわけじゃないから。

 アメリカがアフガンやイラクで失敗しているとおりなわけで。

 キルモンガーはMIT出身で軍隊出身なんだから、そんなことくらい分かっているわけで。



 それに対するキルモンガーの答えが、分かりやすい。

 彼はこう言う。自分から全てを奪った世界に復讐するのだ、と。

 おいおい、弱者のためじゃねーのかよ。

 世界内戦を起こしたいだけのニヒリストだったのかよ。

 ちょっと残念だよ!(復讐劇だから仕方ないと思うけど)



3.王様、アメリカをどうするつもり問題

 で、最終的に主人公が勝って、王様に戻るんだけど、

 最後の場面で、いとこが育ったアメリカのオークランドに、ワカンダのアウトリーチ施設を造るんだよね。

 そこで貧困層に援助をするつもりみたいなんだけど、

 まさかのアメリカに内政干渉を全面的に展開するつもりっていう。

 ある意味で間違ってないんだけど、アメリカはそれにどう対応するだろう?



 ちなみにですけど、たとえば、もし日本の貧困家庭を問題視した北欧の国が、

 貧困地域にアウトリーチ施設を造って、直接、貧困家庭を援助しはじめたら、

 日本政府はどうするんだろう。怒るのかな、どうなるのかな。

 要するに、途上国として扱われるってことなのよ。



 確かに、この映画的には、それでいいのだ。

 だって、この映画はアメリカの格差を明確に問題にしていて、

 「アメリカってある意味、途上国じゃん」って言っていても、全然おかしくない。

 ただ、ワカンダがこれからやりたいことって、結局何なのだろう?

 科学技術が進んだ「文明国」だからって、なんでもできるわけじゃないんだぜ。

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