それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

つり球:自分を重ねて見てしまった

2012-07-26 18:10:00 | コラム的な何か
アニメを特別見る方ではないのだけれど、今期は2、3の新作アニメをちょこちょこ見ていた。

そのなかで「つり球」はとても心に残る作品だった。

理由があって、江ノ島のおばあちゃんの家に住むことになった高校生の真田ユキ(男子)は、ひょんなことから、宇宙人と名乗るハル(男子)と一緒に生活することになる。

元々、他人とのコミュニケーションが苦手で、特に熱中できることがあるわけでもなかったユキだったが、ハルの誘いで釣りをはじめ、徐々に成長していく。



コミュニケーションが苦手な主人公が登場する物語は数多ある。

「つり球」もそのひとつに過ぎない。けれど、僕はこのアニメがとても好きだ。

舞台となる江ノ島に僕は行ったことがない。けれど、多くの人が感想として述べていたように、風景の描写はとてもリアルだった(実際の江の島にかなり忠実だという)。

海辺の町の、独特の雰囲気。僕はこのアニメのなかに潮風を感じた。



登場人物たちの置かれている環境や、行動の動機もなかなか丁寧に描けていたように思う。

それぞれが抱える問題。

それぞれが見ている景色。

登場人物たちは衝突したり、すれ違いながら、お互いの問題や景色を少しずつ少しずつ理解していく。あるいは、理解できないものとして認識する。

彼らは一生懸命考え、感じ、前に進もうとする。

どうして釣りがうまくいかなかったのか、どうして仲間と衝突してしまったのか、何に仲間や自分が苦しんでいるのか。

考えること、練習すること、そして感じることを大切にするこの物語は、王道的な青春物語であり、やっぱり僕はそこに惹かれてしまう。



何より好きなのが、主人公のユキが徐々に日に焼けて、大きな声を出せるようになり、強くたくましくなっていく様子だ。

それはイギリスで生活してきた僕自身だった。

素敵な仲間と出会って、外の世界と別のかたちでつながるようになる。

そこで色々なトラブルを経験しながら、大きな声で笑い、大きな声で語りあえるようになる。

物語終盤、仲間のひとりである夏樹が「このまま、ずっとこうしていたいなあ」と、ユキたち4人で釣りをしながら呟く。

「このまま、ずっとこうしていたい」瞬間が、僕にもあった。このイギリスの生活で。

1年目にも3年目にもあった。

そして、僕は変わった。主人公が変わったように。



栗コーダーカルテットのサウンドトラックは素晴らしかった。

物語の雰囲気にぴったりだった。

そして、主題歌だったフジファブリックの「徒然モノクローム」もとてもとても良かった。

メインボーカルを失ったこのバンドが、どのような歌を歌うのか気になっていたのだが、本当に素晴らしいものだった。



この物語は、置かれた環境のなかで葛藤しながら、一歩でも前に進もうとする人の応援歌である。

Tさんと僕

2012-07-26 09:53:53 | イギリス生活事件簿
月曜日から徐々に天気がよくなり、今では夏真っ盛りの町。

イギリスの晴天の素晴らしさ。

昨日はTさんと町でご飯。

僕の好きな通りを歩く。

小さなお店が沢山あり、ちょこちょこセンスの良い服屋や雑貨屋がある。

僕はTさんに思わず言う。「いいですね、この町。本当にいいですね。」

Tさんは笑う。

最初のの年、僕はずっと帰りたいと言っていた。

次の年も、僕は基本的に家に引きこもって研究していた。

そんな僕を見かねたTさんが、2年目に入ってからよく僕を町に連れ出してくれた。

素敵なカフェ、美味しいレストラン、品揃えの良いレコード屋、パブ、色んなお店を彼に教わった。

Tさんはイギリスのイロハを教えてくれた人。

研究の話も、生き方の話も、女性の話も、何もかも静かに淡々と議論してくれた。

だからイギリスで最後にどうしても彼に会いたかった。

でも僕らはいつもどおりだ。

いつものように歩き、いつものように話す。

彼の話のテンポが好きだ。

ゆっくりしていて、それでいて間延びしない彼のテンポ。

言葉の一つ一つが丁寧で、何より常に適切。

またすぐに会える気がしている。

もし別の街で彼に会ったら、きっとまた彼は僕を色々なところへ連れて行ってくれるだろう。

そして、またいつものあのテンポで、面白い話が出来るに違いないのだ。

さようなら、ラケル

2012-07-24 19:44:25 | イギリス生活事件簿
ラケルが今日のお昼頃、ロンドンへ行った。従妹が遊びに来ているのだという。

日曜日に帰ってくる。でも、その時僕はもうイギリスにはいない。



僕がお昼頃、例の録音を終えて(下の記事を参照)図書館に行こうとしたら、ラケルが叫んだ。

「マルコ、待って!一緒に行こう!」

彼女との別れが近づいていることをすっかり忘れていた僕は、一緒に図書館に行って勉強するのかなあ?とバカなことを考えていたのだが、駅まで行ってそこで別れの挨拶をするつもりだったのだ。

駅の改札で僕らは簡単なハグを交わし、別れた。

とてもシンプルなものだった。

次に会うのはきっとスペインだね、くらいしか言わなかった。

本当はもっと「ありがとう」とかなんとか言いたかったような気もする。

でも、分からない。

たぶん、これで良かったんだ。



ラケルとは何度もふたりでパブで飲んだ。沢山散歩にも行った。図書館で勉強もした。

ふたりで行動することが本当に多かった。

ラケルとは特別話がはずむわけではない。

お互いに共通の話題は、他の人と共有しにくい博士課程の悩みや博論の進度のこと。

そして共通の専門の話。

それからたまに、スペインの村の話。

ラケルは僕にスペインの村について何度も話してくれた。

自然のこと、村人のこと、祭りのこと、食べ物のこと。

彼女はとにかく一生懸命僕に説明する。

僕はありったけの想像力を駆使して理解しようとする(でも、実際に見なきゃ無理)。

初めて出来たスペイン人の友達。

彼女は必ずいつかスペインに来るようにと言ってくれている(友達でも彼女でも誰でも連れてきていいとも言ってくれている)。

彼女は社交辞令を言わない。本気だ。ちょっと怖いくらい。

僕はいつか彼女との約束を果たしたいと思っている。

バレンティーナみたいに、ビーチへ僕を引きずり回したりしないと言ってくれているし。



バレとアレックスが去ったあと、ラケルはバレについての不満をパーティで(全員帰った特に)ぶちまけていた。

よっぽど思うところがあったらしい。それはそうだろう。

彼女は唯一一階のリビングの隣の部屋に住んでいて、バレにかなり迷惑を被っていた。

怒っていて当然です・・・。



前にも書いたとおり、彼女の思想はとても分かりやすい。

ジェンダーフリー、環境保護派、政治的リベラル(反カソリック、思想信条の自由などなど)、人権派。

同時に彼女はカタロニア地方の村の娘。

パブロ・カザルスの「鳥の歌」をギターで以前弾いてあげたら、少し喜んでいた村の娘。

彼女の村に関するプライドは想像を絶する。

カタロニア地方についてもとてもこだわりがある。

彼女は自分が育った地域を愛している。本人にはそういう自覚はないのかもしれないのだが、とんでもなく強い愛情だ。

それが彼女の考え方にとても強く反映されている。

彼女は日本のことに理解を示してくれるのだが、基本的にそれは彼女の想像の範囲を超えている。

これはお互い様なのだが、彼女は日本がおそらくは想像の範囲内だと思っている節がある。

ここまで仲が良くても、ヨーロッパの人と分かり合うのはとてもとても大変なのだと、ラケルを通じて初めて知った。



彼女のスペイン・オムレツ(トルティーヤ)は絶品だった。

僕はいつかそれを日本のどこかで作りたいと思っている。

それが僕らの友情の証だ。

僕らの楽曲

2012-07-24 19:20:12 | イギリス生活事件簿
エースとイタリアで例の曲をちゃんと完成させようと約束した。

大した曲ではない。一曲作るだけだから、そんなに難しいわけではない。

が、お互い忙しいだけじゃなく、やる気が出たり出なかったりで、なかなか進まなかった楽曲制作。

帰国間際の今日、一応、僕のレコーディングが終わった。



昨日の晩、彼からメールが来て、「明日の朝やろう」と言ってきた。

何度も明日やろうって言いながら、エースはその約束をすっ飛ばしてきた。

そもそも、ギターのコード進行だけ聴かされて、僕に作詞、作曲、コーラスワーク全部やれっていう無茶苦茶な課題だったから、もう放っておくことにしていたのだ。

けれど、エースが以前作った楽曲を聴いたとき、少し考えが変わった。

その楽曲は確かに少し荒削りだったのだけれど、ものすごくユニークで心を惹くものがあった。

ボーカルがなくインストゥルメンタルだけだったその楽曲に(あるいは、同じような曲をもう一曲作ってもらって)、ぜひともボーカルを入れたいと願い出たほど、それは良かった。

やればできるじゃん、とその時思ったのであり、出来ないから全部丸投げしているわけではないんだな、とも思った。



僕らがレコーディングを開始したのは半年以上前。

イギリスに帰ってきて直後に録音させられて、それで不本意な結果になった。

そこで3か月くらい前(つまりイタリアに行く前)に新しい歌詞、新しいメロディで再録音していた。

考え抜いて作った新しい楽曲だったのだが、エースはそれを聴いて渋い顔をした。

「・・・Jポップだね。」

何でもいいわけじゃないんだな、と初めて気付いた。

前回のテイクはひどかったのに、誰から構わず聴かせて、やたら褒めてくれたエース。

きっと何でもいいんだろうと思ったのに、全くそうじゃなかった。

「最初のやつが良かった。あれは本当に良かったんだよ。母さんも言ってたよ。」

君のお母さんの感想は知らんけど、そうか、あれが気に入っていたんだね。

僕は最初に勢いで作ったメロディと歌詞をもう一度歌うことにした。ただ、その後、レコーディングは先延ばしされることになる。



今朝、エースはちゃんと起きてきて、そして録音機器をすべてリビングに揃えていた。

本気だった。

僕は図書館に行こうと思って下に降りたのだが、そのままレコーディングすることになってしまった。

前の晩、修正した歌詞を手に僕は歌う。

コーラスもどんどんつける。コーラスを付けるのは慣れている。学部生の時、ずっとやっていたから。

エースが席を外している20分あまりの間にすべて録音し終わった。

完璧ではないけれど、荒削りなままでもいいだろう。

エースはまさかその間に全部のコーラス(5声)を録音しているとは思わなかったようで、とても驚き喜んでいた。

「早いね!あの短時間で!?すごいね!」



さっきエースからメールが届いた。エースは「メール送ったぁ!」と、彼の部屋から叫んでくれた。

曲のミックスが出来たという。

聴いてみたら、エースがギターをいくつも足しており、僕のボーカルとコーラスも編集され、リバーブもかけられている。

僕のボーカルは相変わらずひどかったし、人に聴かせられるようなものではないのだが、でもエースのミックスはとても素晴らしかった。

帰る前にできて良かった。イタリアに一緒に行ってした約束だから。

送別会

2012-07-23 01:51:33 | 日記
まあ、自分の送別会を開くっていうのも変な話なのだけれど、でも、イギリスでは全く変じゃない。

パーティは自分で開くものだ。

今日は特別に親しい友達4人と、最近出来たブラジル人の友達を呼んだ。

1人は体調不良で来られなかった。

ラケルとエースも参加してもらって、みんなでワイワイやった。

本当は何人かとそれぞれじっくり話したかった。でも、パーティってものも悪くないのだ。別れは勢いが大事だから。



日本人の友達とは会える気がしている、いつでも。

だから、別れ際でも何となく悲しくない。

ただ、彼らのなかにも日本に帰らない人たちがいて、そういうとき、結構悲しくなる。しばらく会えないと思うから。

でも、僕は強く信じるようにしている。必ずもう一度会えるって。もし、本当に大切な友人ならば。



ヨーロッパ人はいよいよ再会は難しい。でも、今はインターネットが発達しているから、以前よりずっと楽だ。

それでも、今日、来客が全員帰ったあと、残ったラケルとエースと歓談しながら、もうこの瞬間も来ないのかと思うと、少し涙が出そうになった。

でも、それはまだ早すぎると思って冷静になった。

ラケルはエースの怠惰さをよくなじっていなたけれど、ラケル、エース、僕の組み合わせはかなり相性が良い。

もしかしたら、スペインでもう一度三人が再会することもありえるかもしれない。