それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

研究会

2012-09-29 07:50:44 | 日記
先日、博論の第ニ稿があがって、参考文献表も整理して、あれこれ違う作業を始めた。

昨日の研究会もそうした業務のひとつと言ってもいいだろう。日本の指導教官に命じられ参加した。

研究会はそもそもそれほど好きではない。刺激になる時もあるが、勉強になることはあまりない。

昨日の研究会は、イギリスから来た60代の元ケン○リッジの先生で、おそらく日本には旅行でもしにきたのだろう。なら、ちょっと発表でもしようか、ということで設定されたらしい。

英語はとても明瞭だったが、内容は面白くなかった。けれど、この人物自体にはとても興味が持てた。この人の考え方、生き方、何もかもが社会科学の分析対象そのものだった。

でも、やっぱり研究会は苦手だ。

日本では質問するとき、ある程度、空気を読まなくてはならない。自由奔放も嫌だが、柔らかい制約も好きではない。

イギリスの研究環境の良さを感じたこともショックだった。日本の優れた大学でも、僕の研究分野ではやはりイギリスの方がいいのかもしれないと思う。分からない。でも、僕はそう感じた。

日中の件:長くて短いドミノ倒し

2012-09-24 21:29:25 | 日記
日本の中国外交の弱体化は今に始まったことではない。

小泉政権から安倍政権にかけて、外務省内のチャイナスクールは権力を失っていった。

また、ちょうどこの時期までに、それまであった強力な中国人脈は自民党の政治家から失われた。


民主党政権になり、鳩山政権が倒れ、菅直人が首相の座についた。

問題は外務大臣で、民主党内では外交に通じているとされた前原がそのポストについた。

中国との領土問題で現状変更へ進みだしたのは前原で、尖閣の現状維持は彼が崩した(尖閣が固有の領土であることを明言)。

そして、中国大使は一切の外交ノウハウがなく、外交官として最悪の評判を得てしまった丹羽氏だった。


パワーの観点で言えば、中国が膨張していることは誰の目にも明らかで、特になんだかんだ継続している経済成長がパワーバランスを崩す大きな要因だった。

もちろん、近隣諸国の経済成長は自国の成長にとって不可欠であり好ましいが、外交関係が不安定ななかでのパワーバランスから考えると、必ずしも好ましくない方向に作用する場合がある。

日本は軍事力はアメリカに頼ってきたが、そのアメリカはイラク戦争、サブプライムと続いて失速した。

日本の経済力の低下も相まって、パワーバランスは明らかに日本の側に不利に変化していた。

現状を維持するだけでも、かなりのコストがかかる時期のはずだった。


しかし、力の低下は必ず大衆のナショナリズムを悪化させ、その悪化は必ず外交の強硬化、硬直化につながる。

つまり、パワーバランスの変化と逆の要求を大衆はしがちである。

ポピュリスティックな政治家はその大衆の要求を簡単に受け入れ、自分の支持率につなげようとする。

夢見がちな左派と、現実が見えていない右派しかいない可哀そうな国では、そうした政治家の行動に歯止めをかけることもできず、政策決定は非現実的な方向へ進んだ。


日本のメディアはもちろん外交などというものを今まで考えたこともなく、前原外相の時期に外国人献金という内向きの問題だけを取り上げ、世論もそれに流され(あるいは、世論が勝手に向かっていき)、領土問題も含めたアジア外交はほぼ思考停止のまま進んだのであった。

国有化は最後の引き金で、実際には長くて短いドミノ倒しの最後のコマに過ぎないのであった。


では、中国が現状維持を望んでいたかと言えば、そういうわけでもあるまい。

日中は相互に実効支配の実績をつもうとしていた。

また、中国にしても領有権の主張を明確にしている。

おそらく本当の課題は中国にいかに現状維持を飲ませるかだったのではないか。

反日デモの件

2012-09-20 12:41:03 | 日記
中国の反日デモを英米の新聞記事は当局に管理されたものとして報道している。

私服警官による参加者の先導・扇動が行われているということが根拠だった。

他方、デモの参加者が政府批判を口にした瞬間、催涙ガスが飛んできた、という報道もある。

中国政府はこれまでのところ、デモの管理にある程度成功しているように思えるし、おそらくその自信があるのだろう。

中国の在留邦人のtwitterは、それほど治安の変化は感じないというものも多く、メディアから伝わってくる非常事態の雰囲気も、どこまで本当なのかは分からない。

さて、ここから出てくる問いは、どこまで反日デモが国家主導によるものなのか、ということ、

仮にそうだとして、政権内部の権力闘争がそこにどこまで反映されているのか、ということである。



日本への圧力は、総じて3種類ある。

ひとつは、大使館や日本企業などへのデモを含めた直接の抗議行動(攻撃を含む)、

もうひとつは、海上での漁船の派遣、さらに軍艦の派遣、

3つめが、旅行のキャンセル、取引の停止などといった経済的な圧力である。

これらをすべて国家主導のものとして捉えることが可能なのだろうか。特に3つめは、私企業の活動範囲でもあり、それぞれの自発的意志に基づくものでもあるだろう。

結局、国家主導と自発性の間のどこかに意志決定の現実があると考えることが妥当だろう。



問題は中国政権内部の意志決定なのだが、それがどういうアクター間の権力闘争の結果なのか私には分からない。

現政権に対抗する勢力や、軍などの治安部門に関する勢力の存在が指摘されるが、私はこれについての信頼に値するような報道をまだ目にしていない。

だから、これについては何とも言えない。

すべて憶測の域を出ない。残念ながら、憶測はあくまで憶測にすぎず、仮にそれが当たっていても、偶然当たったということ以外何も意味しない。

(北朝鮮関連のジャーナリストはまったく憶測勝負で意見を出してきたが、今までのところ、あまり正解を出していない。)

ただ、これだけは確かなのだが、国家の意志決定が一枚岩であることはない。

それは全ての国がそうだから、疑いえない。

これまで政権を担ってきた中国の経済的な利益を優先する合理的エリートがどういった状況にあり、どういったシナリオを考えているのかが重要だと言えよう。



外交によるコミュニケーションは、国家の意志決定においては、よっぽどの軍事力や経済力がない限り、大した影響力を持たないことが多い。

なぜなら、外交とは妥協であり、損を許容することが外交なのだから、政権内部の(利益を全部を得ようとする)極端な意見に必ず敗北する運命にある。

そういうわけで、外交を担う人間はこういった明確な(しかし、あやふやな)国益をめぐる交渉においては、間違いなく国内で攻撃に合う。

だから、外交的決着とはすなわち、内部の勢力図を正確に把握し、協力可能な勢力と可能な限り連帯し、彼らが自国で殺されたりしないギリギリのところに妥協点を見いだすことである。

つまり、そのためには双方の国内勢力図を正確に把握することが不可欠になる。また、穏健な勢力との強力なパイプラインによって外交上の連帯を確かなものにする必要がある。

そして、同時に自国の政権がかなり安定したものでなければならない。そうでないと、政権が変わり、外交決定が覆される危険が出てくるため、外交上の妥協を双方が避ける可能性が高まる。



日本は、現状維持を覆して打って出たものの、政権が不安定なうえにパイプラインもない。

つまり、強力な仲介をしてくれる第三国の白馬の王子様が来るのを星にお願いするか、中国国内の勢力図がおかしなことにならないように神様にお祈りするしかない。

外交交渉に失敗して双方の軍艦が海上で対峙することになった場合、本国の(とりわけ中国の)意志決定は現場に支配される可能性が非常に高くなる。

戦争の歴史はすべてそうである。

核兵器がある現代において全体戦争の危険性は逆にないとしても、ドンパチが始まる結果生じるダメージは非常に大きい。とりわけ、双方にとって経済的損害は多大なものになるだろう。

だが、その結果、利益を得る勢力というのもいるのであって、そうした行動は必ずしも不合理ではない。

問題は、誰の合理性が権力闘争のなかで勝利するかである。

エクソダス8

2012-09-18 21:00:43 | ツクリバナシ
トレーニングが始まってから4か月が経ったころ、タカシは交換留学にするのか、それとも大学院留学にするのか決めかねていた。

交換留学の締切はもう迫っている。英語の試験、成績書類、学内選抜などなど、色々やることがある。

大学院に進むとなると、急に準備はゆっくりになる。卒業してから向こうの大学院に入るまで、通常、何か月かずれる。あっちは秋に初年度が始まるからだ。

タカシはT先輩に相談した。もちろん、これも英語で。

「交換留学か、大学院留学かで迷っています。」

「すべての決断はね、自らしなくてはいけない。まず、この点を忘れないようにね。

選ぶにあたって何が違ってくると思う?」

「必要なお金、ですかね。」

「それはとても大事な点だ。ほかには?」

「うーん。就職活動のタイミングとかですかね。」

「それ以外にはあるかな?」

T先輩はとにかくすぐに自分の考えを言わない。タカシの考えをすべて吐き出させる。しかも、その上で質問を重ね、タカシの考えをもう一歩、深くさせようとする。

「当たり前ですが、キャリアが変わってきます。院卒になりますから。」

「うん。そうだね。大学院と学部では生徒に要求するものが違う。教育がかなり違ってくるんだ。」

「はい。」

「イギリスの大学院一般で言うと、社会人経験者が非常に多い。そういう人たちは大学院で、自分たちの経験を利用しながら研究をするんだ。イギリスはその受け入れ態勢がしっかりできている。日本はあまり出来ていない。

もちろん、新卒の生徒も沢山いる。しかし、彼らも一般教養ではなく、非常に専門的な教育を受け、研究することになる。

これに対して、学部はかなり性質を異にする。言うまでもなく若い生徒がほとんどで、専門教育よりは一般教養寄りだと言っていい。」

「なるほど。」

「という難しい話もいいが、もう少し感覚的な話をしようか。」

「はい・・・?」

T先輩はいつものにやにやを浮かべながら、椅子から立ち上がり、ホワイトボードに向かった。



「イギリスの場合、学部生は動物だ。」

「え?」

「彼らはとんでもなく理性の使えない生き物だ。名の知れた大学でも間違いなくそうだ。

日本の大学も同じようなものだが、どういうわけか海外に行くと、余計にそう感じる。

彼らは寝ないで勉強したかと思えば、酒にクスリにパーティにクラブ。とんでもないお祭り騒ぎを何度も体験する。」

タカシは、酒以外、全部知らないことばかりだなと思った。

「英語が出来ないから、その分、気を使ってくれるなどという甘ったれたことは大抵許されない。

人間としてつまらなければ無視される。

僕もイギリスで沢山の学部生の子たちに出会った。それはもう刺激的な経験ばかりだった。」

タカシは急に怖くなった。

「だが、鍛えられるよ。それに後生大事にしたくなるような思い出話しが沢山できるだろう。」

「はぁ・・・。」

「大学院では、留学生は基本的に守られている。そもそもイギリスの場合、大学院生のほとんどが留学生で、仲間が沢山いる。大人が多く、コミュニケーションも比較的楽だ。皆、人間なのだ。理性が使える。」

「じゃあ、大学院の方がいいんですかねぇ。」

「いや、そうじゃない。交換留学は正規の学部生ではないから、より自由だ。単位はもちろん必要だろうが、大学院ほどタイトなスケジュールではない。要求されるレポートのレベルも異なる。だから、勉強の面ではややハードルが低い。」

T先輩は、ホワイトボードに向かったものの、所在なげに佇んでいる。たまに行動がおかしいのが特徴だ。

「じゃあ、どっちがいいんですかねぇ。」

「君が留学に何を求めているか、だよ。何か特別に勉強したいことはあるか、将来つきたい仕事と結びつくか、それともただ単に世界を広げたいのか。

さらに言えば、いつ就職し、結婚したいのか、とかもあるね。」

「先輩・・・」

「なんだね?」

「迷っています。」

「そうだろうねぇ。じゃあ、この話はおしまい。」

「え?まだ僕は迷っています。」

T先輩はくすくすと笑った。

「知ってる。でもね。最初に言ったでしょ。決めるのは君なんだよ。

データが無いなかでも、人間は決める時は決めなくてはいけない。

大事なことはね。君の意志の力を高めることだよ。

心を挫くようなことが、留学をする前も、している最中も沢山起こるだろう。

びっくりするほど、山ほどね。

でもね、そのことに心を支配されないようにするんだ。

支配されてしまったら、自分を見失う。留学ではそれが命取りになる。

君は自分の心をいつでも君の支配下に置くための技術と力を少しずつ磨いていく必要がある。

モノを決めることは、その力を磨くために必要なことなんだよ。」

T先輩は自分の胸のあたりに手をやりつつ、したり顔を押し殺した奇妙な表情になった。その格好はとてもダサかった。

思わずタカシは「ぷぅ」と吹いてしまった。

T先輩は少し気まずそうな顔をして、佇んでいた。

そして、いつものレッスンがまた始まるのだった。

エクソダス7

2012-09-17 21:53:57 | ツクリバナシ
タカシがT先輩とケンカになったのは、トレーニングを開始して3か月を過ぎたあたりだった。

今回の新聞記事は領土問題に関するもので、タカシはこれについて言いたいことがあった。

課題の記事は、韓国と日本、そして中国と日本の領土問題の加熱をイギリスの新聞が報じたものだった。

タカシにとっての言いたいことは、大したことではなかった。ただ、とにかく韓国も中国も許し難い、信じられないというだけの感想だった。

T先輩はタカシの話をゆっくりと聞いた。

そして、ゆっくりと反論した。

「君の気持は分かった。では聞くが、なぜ韓国は竹島、つまり独島にあれだけこだわるのかな。彼らの理由や根拠を調べたことはあるかな。

それと、中国の件だけど、もともと日中は現状維持で一致していた。その状況で利益を得ていたはずの日本が先に現状変更に進んだわけで、それはなぜだったのかな。

まず、このふたつの問いに答えなければ、君の意見は納得できるものじゃないね。」

タカシは「じゃあ、先輩はこれらの件では日本が悪いというのですか?」と言った。

「違う。そういう意味じゃない。君は大学で国際法を勉強しているんだろ?問題を分析するんだ。感情に流されるな。」

T先輩は優しいが、断固とした口調でタカシを諭した。

しかし、タカシはこれを聞かない。

「これは主権の侵害の問題です。強い姿勢に出なくてはいけません。」

「ならば聞くけど、強い姿勢って何かな?自衛隊の軍艦でも派遣するのかな?」

「そういうことも含めます。すいません、もう日本語で話してもいいですか?」

「駄目だ。英語のレッスンだぞ。それとね、そういうのは強い姿勢とは言わない。チキンレースと言うんだ。それは外交ではない。今日はもうレッスンは終わりにしよう。次回までに僕が出したふたつの問いに答えるように。もちろん、英語でね。」

結局、一時間も経たないうちにレッスンは終わってしまった。



レッスンが終わってからもタカシはイライラしていた。

どうしてT先輩は分かってくれないんだろう、と思った。

もうレッスンも行きたくなくなってしまった。

タカシは結局、次の週の課題を提出せず、次回は用事があるので休ませてくださいとメールした。

T先輩は「了解。その代り、次回はゲストがふたり来るから。」と返信してきた。

仕方なくタカシは、ずる休みを一週間だけにした。ただ、その間も英語の勉強は休まなかった。彼はこれまでの苦労を無駄にはしたくなった。それに、こんなかたちでT先輩との関係を終わりにしたくなかった。



次のレッスンに行って、タカシは驚いた。

ゲストは韓国人と中国人の留学生だったのだ。

もちろん、テーマは領土問題だった。

「では、はじめようか。課題の記事はみんな読んでいると思います。それでは、パクさんからご意見をお願いします。」

タカシはとてもナーバスになった。

いや、なんとなくゲストが留学生だというのは分かっていたのだが、まさか当事国から来るとは。

ゲストのふたりはそれぞれ博士課程の男性だった。もうすでに立派な大人で、ひどく落ち着いていた。

タカシは初めて韓国人と中国人からそれぞれの国の理解と内政の状況を聞いた。

韓国が竹島と日本の侵略を結びつけて考えていることや、中国がアヘン戦争時代まで領有権の問題を遡って議論していることなど、TVで報道されていない色々なことを聞いた。

彼らはTVで見たデモ参加者と違って、とても理知的で落ち着いて議論をしており、タカシはひどく恥かしくなってしまった。

T先輩は言う。

「日本の政治家が国有化を発表したとき、一体誰のために、誰に向けて言ったのかな。彼らは日本国内の世論のこと、支持率のこと以外のことを本当に考えていたのかな。その後のシナリオを本気で考えていたのかな。

留学はね、内向きで考えることがどれだけバカバカしいことで、しかも危険なことか教えてくれるんだよ。

留学して分かることはね、どの国の人間とも本質的に全然分かり合えないということを理解し、そのうえでどうやって関係を深く築くかが大事だということなんだよ。

おそらく、君がイギリスかアメリカに留学して最初に友達になるのは、アジア、特に東アジアの子たちだよ。それだけ文化圏が近いんだ。

日本人はすぐに欧米を自分の味方だと言うでしょ。だけど、そういうことを口にする人がどれだけ欧米人の親友を持っているのかな。僕は聞きたいね。」

T先輩はいつにもまして饒舌だった。

「それこそ、われわれの国にも言えることです。領土問題はつねに内政のためにやっていると言っても過言ではありません。」

ふたりの留学生も同意した。どこだって同じような、あるいはもっとひどい事情を抱えているのだ。

タカシは留学する決意を新たにした。最後まで頑張ろう。留学にはきっと意味がある。そう確信した。