それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

残暑お見舞い申し上げます

2012-08-31 17:53:05 | 日記
残暑お見舞い申し上げます。マルコです。

皆さん、いかがお過ごしですか?

僕は博論を直しつつ、日本の大学で色々やっています。

昨日・今日と研究会でした。

あまり関係のない分野のプロジェクトで、僕はオブザーバーとして参加しました。

リーダーが優れているプロジェクトはどんなものでも楽しいものです。昨日もそうでした。

けれど、色々気を使ったせいか、今は少しdepressedです。

そういうとき、イギリスが懐かしくなります。

フラットメイトたちと遊んだことを思い出します。

今は彼女が遠くから訪ねてきてくれるのが救いです。

そういうわけで、僕は相変わらずです。

ピサで彼女のプレゼントを探した件

2012-08-01 22:47:10 | イタリア旅行記
つい最近、僕は日本に帰ってきた。

成田空港は驚くほど暑く、息が出来ないほどの湿気だった。

僕がイギリスに滞在した最後の週、イギリスはようやくあの美しい夏を迎えた。

その夏を過ごす前に日本に帰ってきた。

ロンドンはオリンピックだった。

開始と同時に僕はイギリスを出た。

意図してそうしたわけじゃない。でも、それで良かった。



地元の空港には彼女が迎えに来てくれていた。

前回帰ってきたとき、僕は彼女と力いっぱいハグをし、再会を喜んだ。

今回彼女は座ってオリンピックの開会式を見ていた。

僕の顔を見た彼女は「開会式を一緒に見ようじゃないか」とだけ言った。

彼女のなかでだって色々な変化がある。

僕が変化するように彼女も変わる。

彼女は前よりも少し落ち着いた様子で安心した。



イタリアの旅行に行く前に、彼女に旅行の承諾をとった。

どういう人と行動し、どこへ行くのか。

彼女はイタリア旅行には前から行きたかったのだと言った。

だから、ずるい。と言った。

罪滅ぼしというわけじゃないけれど、お土産を買ってくることを約束した。

これまで彼女には、イギリスのお土産をちょっとずつ買って渡してきた。

けれど、それは頼まれたものが基本で、イタリアではちゃんとじっくり時間をかけて選びたかった。



バレンティーナには、事前に彼女へのお土産を買う旨を伝えておいた。

バレはフィレンツェはバッグが有名だから、そこでバッグを買えば良いとアドバイスしてくれた。

フィレンツェは前に書いたとおり、イタリア人のM氏と一緒で、結構めちゃくちゃな旅程だったのだけれど、しかし、彼らはちゃんと僕がプレゼントを選ぶ時間を作ってくれて、一緒に付き合ってくれた。

フィレンツェは露店から何からバッグだらけだった。

けれど、僕はちょうど良いバッグを見つけることが出来なかった。



バッグの良し悪しはブランドで決まるわけではない。

デザインと機能性で決まる。

問題は僕の彼女の趣味と用途だ。

趣味はある程度知っているつもりだ。

用途は難しい。結婚式やパーティに持っていく小さなバッグ、普段使えるような中くらいのバッグ、色々荷物をつめる大きなバッグ。

シンプルで機能的だけど、ちゃんとかわいいデザイン。

色々見た僕の結論。良いバッグは値段が高い。

バレもMも値段交渉してくれるとは言ってくれたのだが、僕はそこまでしたくなるものが見つからなかったので、その申し出を丁重に断った。



ところで、問題だったのはバレの趣味についてである。

バレはチープでかわいいものが好きだ。

日本人から見ると、ハイティーンや20代前半くらいの趣味のものをバレは好む。

さらに、彼女はごちゃごちゃした細かにものが非常に好きだ。

昆虫柄のものも好きだ。

要するに、趣味がちょっと変だ。変なのだ。

服もバッグもインテリアもバレのキャラクターに似合ってはいるのだが、彼女以外には難しいものばかりだ。

一体、どこでそういう趣味になったのかは定かではない。

親元から離れた中国留学のなかで、そういった趣味になったのかもしれない。

本格的に自分で服を選ぶようになったのは、その辺りからだと確か本人が以前言っていた。



バレは親切心から僕に色々なものを紹介してくれる。

「このお店いいよ!」「このアクセサリーとかどう?」

僕はそのたびに、

「それは僕の彼女の趣味じゃないんだ」と言い続けざるを得なかった。

バレは趣味が違う人のプレゼントを選んだことがないのだろうか?というほど、僕の彼女の趣味を理解しようとしなかった。

しなかったというより、出来なかった。

僕がいいかもと思ったものについてバレは常に「それはちょっとお年寄り向きすぎるわ!」と言った。

君が子供過ぎるんだよ!と思ったのだけれど、言い争う意味がないので、「そうかな?ははは」と返した。

エースは、「マルコの彼女は、きっとバレの趣味をクソだと言うだろうね」と述べて、正確な理解を示した。

バレはもちろんその発言を無視した。

その代り、こう呟いた。

「アレックスは私にプレゼントを買ってくれたことはないの。だから、マルコの行動って新鮮だわ。」

意外だったような、意外でもなかったような。

アレックスはなぜバレにプレゼントしないのだろう?

でも、アレックスがバレを自分の部屋に住まわせていたことを考えれば(ロンドンにいた時も、バレはアレックスにやっかいになっていたらしい)、プレゼントくらい大したことではない。

それより、バレが彼にかけている迷惑の方がはるかに大きく、その分をちゃんと償うべきだとしか、僕には思えなかった。

きっとラケルもそう言うだろう(ただ、ラケルが男女間のプレゼントという行為をどう理解しているのかと考えると少し怖い)。



イタリアのアーケードを見るのは少し緊張する。

店員さんに話しかけられても、僕はちっともイタリア語を話せないから、悲しい空気になる。

最後の目的地のピサでは3時間ほどプレゼント選びに費やした。



その日、バレは友人のシモーナ(僕も旅行中、バレの地元で何度か話をした)の失恋話を電話で聞き続けており、エースと僕の相手をまったくしないまま、観光を開始した。

エースは完全にキレていた。遠方から来た友人を放って1時間以上電話をし続けるバレに対する当然の怒りだった。

僕はまったく気にしていなかった。

バレにはバレの事情がある(実際あった)。彼女だって電話したくてしているわけじゃないかもしれない。第一、今日は僕の彼女のプレゼント選びが目的なので、バレには少し黙っておいてもらおう、と考えた。

エースと僕はバレを放って、ひたすら色々なお店に入った。いや、エースは入ろうとしなかった。僕だけが果敢に店内に入った。

日本人の小男がいきなり店内に入ってきたのだから、おそらく店員さんは多少面食らっただろう。もちろん、観光客もよく来る場所なはずではあるのだが。

でも、僕は気にしない。

イタリア語で話せなくても気にしない。

入ったお店が下着屋さんでも気にしない。

めちゃくちゃ高いアクセサリー屋さんでも気にしない。

プレゼントを選ぶためには、そんなことを気にしている暇はないのだ。

長電話を終えたバレが僕に言う。

「マルコ、間違ったお店に入り過ぎ!下着屋さんとか、イタリアで一番高いお店とか!」と言って大いに笑った。エースも笑った。



バレは気を取り直して、僕にイタリアならではの女の子向けのショップに連れて行ってくれた。

相変わらず僕らの趣味は真っ向から対立したが、バレもその差異を遂に受け入れ、僕らはお互いに共通してかわいいと思えるものを幾つか見つけた。

話しがまとまりそうだったのがサンダルだった。

ただ、サイズが怪しかった。

それと、サンダルをどこで履くかという問題もある。それに少しキラキラしすぎの感もあった。



なかなか決められない僕にそれでもバレとエースは付き合ってくれた。

そのことが、とても嬉しかった。

僕は「これだ、間違いない」というものがピサのどこかにあると確信していたし、そうであるべきだと思っていた。

なんとなく3年間の気持ちを込めて選んでいる気がしていて、妥協して選ぶことは避けたかった。



2時間経って、遂にエースは腹が減ったとゴネだした。

それもそのはず、僕らはちゃんと朝ご飯も食べずにピサのアーケードを歩き続けていたのだ。

しかも、エースにとっては何の意味もないショッピングだった。

正当な要求だった。

一旦切り上げてランチの後に再度探すことにしたが、ランチ前、最後に僕らは小さな帽子屋さんに入った。

そこは一度僕が入って気にいったものの、目を付けた商品の値段が書いておらず、イタリア語の出来ない僕はなくなくそのお店を後にしたのだった。



お店はこじんまりとした細長い作りで、地味な内装にもかかわらず、棚にはかわいいけれど、気品のある帽子がずらっと並んでいた。

どこにでもあるようなブランドショップではなく、いかにも地元の帽子屋さんという様子だった。

切り盛りしている店員の女性は、50歳くらいだろうか。小柄の細見で、白髪の少し混じった綺麗な髪を後ろに束ね、いかにもしっかり働いていそうな表情をしていた。

バレが話しかけると、柔らかい笑顔を見せた。

イタリア語の分からない僕だったが、バレが「日本人が彼女へのプレゼントを探しているのだけど、全くミッション・インポッシブルなんですよ」と言ったのが分かった。

店員さんは色々な帽子を見繕ってくれた。

僕は気にいったものが実はすでにあったとバレに伝える。

すると店員さんはそれのバリエーションを持ってきてくれた。

大きめの、とてもかわいらしいストローハット。

白と赤がそれぞれあった。赤がいい。強すぎない赤い色。夏にぴったりだ。

いかにもヨーロッパらしいその形状は、映画のワンシーンに出てきそうで、僕はすぐに自分の彼女がそれをかぶった絵が頭に浮かんだ。

僕はそれを一目で気にいったのだれど、おそらく値段もそれ相応だと思った。

聞いてみると、ひどく高いものではなくて驚き、購入を即決した。

赤い大きめのストローハットは、僕だけじゃなく、バレにとってもかわいいと映ったようだった。



エースもバレも僕の前で文字通り胸を撫で下ろした。

このお店の雰囲気もろとも伝えたかった僕は、店員さんに無理を言って(というか、不思議がらせつつ)一緒に写真を撮ってもらうことにした。

バレとその店員さんを撮りたかったのだが、僕が入っていないのはおかしいと全員が主張するものだから、仕方なく僕も入る。

こういうとき、写真はいいなと思う。

雰囲気がどれほどこの写真で伝わるかは別にしても、このお店の記憶は写真以外ではかなり記録するのが難しい。



長いミッションを終えた僕らはようやくランチをとり、そして斜塔に向かった。



帰国後、彼女にプレゼントを渡した。

彼女はとても喜んでくれた様子だった。

僕は彼女がその帽子をかぶっているところを、どうしてもバレとエースに見せたいと思っている。

けれど、まだその写真は撮っていない。

夏が終わる前に撮れたら、と思っている。