それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

TBS「逃げるは恥だが役に立つ」:都市、エリート、結婚

2016-11-22 11:50:09 | テレビとラジオ
TBSのドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」がとにかく面白い。

あまり内容を話しすぎるのもよくないので、最初の一話だけ、ここでレビューしたい。

主人公は、(おそらく都内の有名私大の)大学院(修士)まで出た女性。ところが、就職活動を失敗し、派遣社員に。

能力は高いのに、正職員になれず、解雇され、また就活の日々。

そんなある日、父親の伝手で家事代行サービスの仕事に行くことに。

行った先は、エリート・サラリーマンの男性。

仕事がめちゃくちゃできるものの、まったく女性には縁がない、真面目一辺倒のような人間。

掃除には細かい要望があり、すでに何人もの家事代行のスタッフを替えて困っていたところだった。

主人公は、そんな細かいエリート・サラリーマンの要望を見事に満たし、そのまま家事代行を続ける。

ところが、主人公の家族が引っ越すことになり、その仕事も続けられないことに。

そこで、主人公が思いつき、口から出まかせで言った「契約婚」をエリート・サラリーマンが真に受けて、そして実行することに!



女性で能力が高く、大学院まで出てしまった人が、社会で活躍できない現状。

そんなのある?と思う人は、世間を知らない人だ。

そんなの沢山いる。私の妻もそうだ。だから、このドラマは異常なほどリアリティがある。

「大学院を出たって言ってから、空気変わったもんなあ・・・」

主人公は第一話でこのセリフを口にする。

私の妻の場合にも、やっぱりこれがあった。

仕事も家事もできてしまう人間。

なのに、奇妙にも不遇。

主人公は社会や会社の不合理さを憂う。そうなのだ、社会は衝撃的なまでに不合理なルールで回っている。



では、お相手のエリート・サラリーマンは?

仕事ができて、お給料が良くて、真面目で。でも、女性に縁遠い。

いる?沢山いるよ、私の周りに沢山いるからね!

星野源の芝居がうますぎる。

人を過剰にじいいいいっと見ちゃう感じ。

あれ、完全に発達障害的な行動ね。っていうか、私ね!

なんでも凝視しちゃって、びっくりされちゃう、あれね!

IQ高いけど、自分の行動パターンを変えたり、人に邪魔されたりすることが不安だったり、嫌だったりするアレね。

目標を設定されたら、そこに向かって合理的に邁進し、結果出しちゃう感じね。

完全に発達だね!私の日常だね!

登場人物が身の周りにいすぎて、逆に吐き気をもよおすほどの、あるあるドラマ。それが「逃げるは恥だが役に立つ」。



だが、これは日本の一部の話。

マイルド・ヤンキーである大多数の市民は、地元で教育され、地元に残り、地元のネットワークのなかで生きている。

それを世界のすべてだと思いながら。

このドラマはそうした人々とは縁遠い、都市の話。

とりわけ、東京の話。

私が知っている北海道の田舎では、いくら仕事ができても結婚していない人は「不完全で怪しい人間」として扱われるから、気を付けてね!



その都市のなかで、合理性を徹底的に追求した結果、出てきた解である「契約結婚」。

これは田舎の「結婚」とは当然意味が違う。

田舎の結婚とは労働力の再生産を中心的な意義とし、田舎のジェンダー分業のなかに夫婦をそれぞれ押し込めることを機能とする。

つまり、「子どもを沢山つくりなさい」、「奥さんは村の女連中と仲良くしなさい」というわけだ。

虫唾が走るね!!

一方、ドラマのテーマである契約結婚では、税金や労働の分担などのメリットを考慮した結果出てくる、合理的な生活形態なのだ!



では、そんな契約や合理性だけで夫婦を続けられるのか?

ドラマじゃなきゃ、不可能だろうね!

人間は誰かと共有したい大切なものが沢山ある。

それが思ったよりも沢山ある。

だから、能力の高い相手を探すことが自己目的化している人たちは、

その人間の本質的な「孤独」に気づいていないから、確実に失敗してしまう。

けれど、パートナーと何かを共有していくのは、ゆっくりしていけばいいだけだから。

人間は変われるから。

人間を手段として扱うな、目的として扱え。カントも言ってるよ。



何が言いたいかって、結婚の合理性だけを強調するのは間違い。だけど、恋愛の延長線上とだけ考えるのも間違い。

結婚っていうのは、すごく複雑。

合理的で利己的で、すごくつまらないものだけど、

その一方で、愛にあふれていて、優しくて、失いたくない相手とするものでもある。

結婚とか、幸福とか、頭で決めてかかってほしくない。

沢山の偶然に左右されながら、それをあるがままに受け止めるしかない。

結婚は奇跡の結果ではないけれど、つまらない制度的な産物だけでもない。

このドラマがどうなっていくのか分からないけど、

でも、結婚や人間の本質をきっと伝えてくれるはず。そうに違いない。

結婚式のスピーチ

2016-11-10 11:02:49 | 日記
 この間、留学時代の友人ふたりの結婚式に出て、友人代表のスピーチをやった。

 ふたりを結び付けたのが僕だということで呼ばれたのだ。

 友人の席には、僕ともうひとりだけ。

 海外生活が長いと、日本にいる友達の結婚式には出られないから、ふたりともずっと断っていたみたい。

 それで式に呼べる友人が極端に少なくなったって、新婦のお父さんが話してくれた。



 はじめて結婚式でスピーチするものだから、僕は事前に原稿を用意することにした。

 それで、ふたりと一緒にいた時間のことを色々思い出していた。

 特に新婦とは、結構一緒にいる時間が長かった。

 お互いに博士課程で、将来どうなるのか分からない状態だったから、孤独を分かり合えるすごく大切な友人だった。

 新郎とはその後に出会った。

 不器用で、すごく真っ直ぐで、シャイな人だった。

 彼に好きな人ができて、僕はその相談を受けていた。新婦じゃない別の女性。まだ彼はこの頃、後のパートナーと出会っていない。

 

 僕は彼の恋愛がうまくいかないことを知っていた。

 彼の好きだった女性が彼のことをどう考えているのか、全部聞いていたから。

 でも僕は、彼がやりたいようにするべきだと思った。

 ちゃんと燃え尽きないと、次の恋愛に行けないものだと思った。

 正直言えば、若干面倒くさかった。

 気づけ!!と思っていた。



 で、彼は失恋した。ちゃんと失恋した。

 そして、僕がイギリスを去るとき、彼に僕の大切な友人を紹介した。

 でもそれは、あくまで仕事に関係で役に立つように、と思って。

 それで、いつの間にかふたりは付き合いだして、そして結婚した。



 すごく不思議な気持ちだった。

 ホッとしたような、寂しいような、少しだけ不安なような。



 そんな様子をご親族の前ですべてスピーチするわけはなく、

 ご親族が聞きたいことをちゃんとパッケージして、それでスピーチした。

 みんな、すごく喜んでいた。僕のスピーチにすごく興奮していた。

 さすが大学の先生ねって、言っていた。

 僕は、式の後も新郎・新婦のふたりのお父さんにつかまって、ずっとお茶していた。

 彼らは話したいことが山ほどあるようだった。

 僕は娘や息子を手放す、お父さんの気持ちがどうしても知りたくて、

 それで沢山話を聞いてしまった。



 僕もずっと前に結婚式をやった。

 僕は両親だけを呼んで、妻は親戚を3人だけ呼んだ。

 僕はどうしても他人から僕の幸せを勝手に解釈してほしくなくて。それで式を最小規模にしてもらった。

 意味も分からないのに祝ってもらっても困る、と僕は思っていた。



 それは今も変わらないのだけど、

 でも、研究についてはちょっと違うなと思っている。

 本のあとがきにも書いたけど、僕の研究は本当に多くの人との出会いによってできている。

 それが僕を守ってくれている。

 結婚したふたりとの出会いもそうだ。

 僕の研究は、僕ひとりが頭の中で勝手に考えたものじゃない。

 沢山の人とのやり取りのなかで、多くの人の思いによって支えられて、できている。

 今もそれは変わらない。

 すごく大切なことを思い出したような気がしている。