息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

菊と葵のものがたり

2011-04-25 12:24:04 | 著者名 た行
高松宮喜久子 著

震災のあと、皇族方が各地を慰問されている。
いろいろな意見はあるだろうが、訪問先でぱっと明るい表情になるお年寄りや
涙を浮かべる人は少なくない。
慰問ではないが、知人が何かのおりに美智子さまをお見上げしたとき、
なぜだか涙が出てきた、と話していた。

日本人と皇室というのがきっとそんなものなのだろう。

本書は喜久子さまがお書きになったもの、語られたことをまとめたもので、
物議をかもした「高松宮日記」出版に至るいきさつも書かれている。

この方は徳川慶喜家に生まれ育ち、母は有栖川宮家最後の人というだけあって
天性のお姫様だ。“育ちがいい人は強い、いろんな意味で”というのは
私の勝手な持論であるが、その最たる存在が喜久子さまである。

おそらく日本人の誰も経験したことも、することもないのではないかと思われる
ゴージャスなヨーロッパへの外遊は昭和5年。喜久子さま18歳、新婚のときだ。
5歳のエリザベス女王の見事なご挨拶のエピソードには感心させられる。
そして、高松宮殿下にしたがって佐世保や呉で暮らした新婚時代。
皇太子誕生の提灯行列を“皇室の出店”とばかりに迎えた、とあるが、
お子様がおできにならなかった複雑な寂しさもあったのではないだろうか。
そして、第二次大戦における複雑な思いや、戦後の苦しみ。
象徴としての皇族がどうあるべきか、手探りながらも要職を次々とつとめ、
経済界の大物までも登場させてしまうあざやかな仕事ぶり。
最愛の母を若くして亡くした悲しみは「高松宮妃癌研究基金」という形に昇華している。

スピード違反で宮内庁から厳重注意をされたり、ヘリコプターの窓を開けさせ
出迎えの人々にハンカチをふったり、お転婆なお姫様時代そのままの
おおらかさがほほえましい。

妹さんの著書に出てくる外遊時の絵葉書やお土産のお人形の話がつながり、温かい気持ちになる。

必要なものがスグに!とり出せる整理術!

2011-04-24 16:15:05 | 著者名 あ行
池田暁子 著

マンガです。
あの『貯められない女のためのこんどこそ!貯める技術』の作者ね。

これは、『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術 』の続きにあたるらしい。
今度そっちも読んでみようと思う。

いや結構わかりやすいんだよね。
自虐的なほどに現状のリアルを正直に描き、そのうえで自分にできる解決策を探る。
素直な取り組み方とか、うぎゃあとなって何か月か見て見ぬふりで放置してしまうとか、
素人が陥りがちなあれやこれやが網羅されている。

初めに編集者に提示されたテーマとヒントをもとに、自分なりに工夫したり、
失敗したりしながら、実に一年近くかけて、なんでもすぐに取り出せる快適な収納を
実現している。

表向き片付いてるようでも、もの入れの中はぐちゃぐちゃな我が家。
ちょっと反省しました。

私的に画期的だったのが、押し入れの考え方。
収納というとたくさん入れる。がテーマになりがちだが、デッドスペースを認めて
そこをかつようすることはいさぎよくあきらめ、倉庫として使う。
これはなかなかにスゴイと思う。
まずはそのあたりが課題かな?

仁淀川

2011-04-23 15:44:04 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

土佐のデンマークと呼ばれた田園地帯。
現在の様子は知らないが、この季節、盛り上がるように豊かに流れる用水や、
一面に植えられる田植えの様子などを思い浮かべる。
画像検索すると、これでもかと美しい風景が出てくるところを見ると、
著者が愛した土佐の自然は健在なのだろう。

実際に本書の舞台となったのは戦後すぐ。朱夏ののち引き揚げてからの物語だ。

幸い夫の実家は戦火の影響もなく、わずかながらも耕地があり、
姑の才覚で、親子三人どうにか暮らしのめどはたったものの、
主人公・綾子には、農家の嫁という大きな課題がのしかかってくる。

満州でのどん底暮らしから、働くことの尊さを痛感していた綾子は、
そのつとめを懸命に果たそうとするが、もともとの虚弱体質と満州での無理がたたり、
結核を発病する。

そしてもうひとつ綾子を苦しめたのが、戦争すら変えることができなかった
農家ならではの価値観としきたり。ものも何もない、着替えすらない時代に
入れるもののあてもない嫁入り箪笥を求められる。
この感覚は田舎育ちの私にはよくわかる。
使う人が使いやすいものがいい、という感覚が支持されるようになったのは、
東京では60年も70年も前のことであろうが、田舎ではおそらく10年ちょっとしか
たっていないのではないか。
いらなくても、捨ててしまうとしても、100万円以上の箪笥を嫁入り道具に、と
いう感覚はさほど過去のものではない。
ましてや、女手ひとつで家をきりもりし、働き者で何事も手を抜かず、地元で
しっかり足場を築いてきた著者の姑が、嫁の箪笥にこだわったのは意地悪ではない。

箪笥を工面してくれた育ての母とも、満州体験を経て和解した父とも死に別れ、
綾子が救いを求めたのが書くことであった。
そして、作家・宮尾登美子の最初の一歩が踏み出されたのだ。

本書は嫁という視点から書かれているため、どうしてもこれまでの綾子の本とは
雰囲気が異なっている。
その重苦しさをすくうのが、仁淀川の豊かな流れであり、土佐の風景のように
思える。

精神科ER 緊急救命室

2011-04-22 20:46:17 | 著者名 は行
備瀬哲弘 著

精神科にERがあるとは知らなかった。
いや、当然あるはず、というかなくてはならないのだろうが、
このような形で存在することを知らなかったのだ。

東京府中病院の精神科ERで勤務した3年間の経験を、豊富な事例
をもとに、わかりやすく解説している。
過酷な長時間勤務。食事もままならない医療現場で、身体の拘束を
しなければならないほどの急性の患者が担ぎ込まれる。
考えただけでも大変な仕事だ。
しかも、どうも医師の中でも精神科の立ち位置はあまりよくないらしい。
その苦労は察して余りある。

そんな中で根気強く患者を納得させ、家族を説得し、恐怖や驚きに共感し、
助けの手を伸ばす。
しかし、それがうまくいかず、投影性同一視という状況に陥った経験も
語っている。こころの問題だけに、自他の線引きは重要なのだ。

著者が医師になるきっかけとなった「さとうきび畑」が心に残った。
とてもかわいがってくれた隣家のおじさん・おっとー。
沖縄戦で不自由になったおっとーの足を治してあげるよ、と言った子が
本当に医師になる。その前に別れは来てしまったけれど、愛情をいっぱい
受けた子ども時代が、温かい人柄をつくったのだなあと納得した。

自分自身がなんだかつらいとき、つらそうな誰かを支えたいとき、
精神科や心理学をテーマにした本を読む。
これで解決するわけでも誰かの助けになるわけでもないけれど、
なんとなく気分が楽になる気がする。

カノン

2011-04-21 10:08:23 | 著者名 さ行
篠田節子 著

パッヘルベルのカノンが好きだ。
カノンに限らずクラシック全般がかなり好きで、ちっともわかりもせず、
演奏もできず、評価もできないのに、仕事中とかはずっとクラシック。
ニコニコ動画の【作業用BGM】には毎日お世話になってます。

そんな私が読んでもいいでしょうか、って感じで手に取ったのがコレ。

主人公のもとに突然、かつての恋人が生前演奏したカノンのテープが届く。
ちなみにこれはバッハ。
テープを再生するたびに奇怪な事件が起こり、やがて主人公の過去と未来が
交錯し始める。

幻想的で美しく、美意識の高さを感じる物語だ。
その一方で、やはり音楽に打ち込む人ってスゴイ、とちょっと引いてしまう。
ホラーを謳いながらも恐怖は全面に出ず、静かにせまる幻想に身を任せる感じ。

ある程度音楽の素養がある人ならば、さらに一歩深く楽しめそうなのだが、
自分の教養のなさが残念だ。
しかし、読み終えたとき、長い長いそしてとてつもなく美しい曲を
聞き終えたような心地よさがあった。
音楽の道、本来歩こうとしていた道へと戻った主人公。
彼女がその後、どんな曲を奏でたのか、聴いてみたい気がする。